目次
はじめに
日本では高齢化の進展とともに、相続をめぐるトラブルが年々身近な問題となっています。法務省の統計によれば、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の件数は毎年一定の水準で推移しており、必ずしも「資産家」だけの問題ではないことが分かります。むしろ、相続財産の大半が自宅不動産や預貯金といった比較的身近な資産であるケースほど、話し合いがこじれやすい傾向があります。
こうした相続トラブルを未然に防ぐ有効な手段の一つが「遺言書」です。民法では、被相続人の最終意思を尊重する制度として遺言が位置づけられており、一定の基準を満たした遺言書があれば、原則としてその内容に沿って相続手続きが進められます。
一方で、決まった形式を満たさない遺言書は無効となるおそれがあり、「せっかく書いたのに使えなかった」という事態も決して珍しくありません。また、遺留分への配慮や、相続人関係の整理が不十分なまま遺言を作成すると、かえって紛争の火種になってしまうケースもあります。そのため、遺言書は単に書けばよいものではなく、制度の正しい理解が欠かせません。
この記事では、遺言書の作成を検討している方に向けて、まず遺言書を作成するメリットを整理したうえで、遺言書の種類ごとの特徴や作成方法、さらに作成にかかる費用について、行政書士の実務経験を踏まえながら解説していきます。これから遺言書を作ろうと考えている方が、自分に合った方法を選ぶための判断材料として、ぜひ参考にしていただければと思います。
遺言書を作成するメリット
遺言書を作成する最大のメリットは、相続に関する自分の意思を、法的に有効な形で明確に残せる点にあります。相続は、誰にとっても一生に何度も経験するものではなく、いざ発生すると感情的な対立が生じやすい分野です。
遺言書があれば、原則としてその内容に沿って相続手続きが進められるため、遺産分割協議を省略できるという大きな利点があります。相続人全員が集まって協議を行う必要がなくなることで、時間的・心理的な負担を軽減できるだけでなく、相続人同士の争いを防ぐこともできます。特に、相続人が多い場合や、疎遠な親族が含まれている場合には、このメリットは非常に大きいといえるでしょう。
一方で、遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、話し合いによって財産の分け方を決める必要がありますが、万が一話し合いがまとまらなければ、その負担は一層大きくなります。遺産の分割方法に関して相続人全員の合意が得られない場合、家庭裁判所での調停や審判といった法的手続きに進むことになり、解決までに長い時間と労力を要することも少なくありません。調停や審判では、財産の評価や過去の経緯を巡って主張が対立し、相続人同士の関係が深刻に悪化してしまうケースも見受けられます。
さらに見落とされがちなのが、相続税の申告期限との関係です。相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内と定められています。そして申告の際には、遺言書がない場合、通常は遺産分割協議の結果を書面にした「遺産分割協議書」の写しの提出が求められます。ところが、遺産分割協議がまとまらず調停や審判に進んだ場合、分割方法が確定せず、遺産分割協議書が完成しないまま申告期限を迎えてしまうケースも少なくありません。しかし、その場合でも申告自体は期限内に行う必要があり、法定相続分での仮計算や、後日の修正申告・更正の請求が必要になるなど、手続きの非常に負担が大きくなります。
これに対し、遺言書が存在する場合には、原則として遺言書の写しをそのまま相続税申告の際の添付書類として使用することが可能です。申告期限内に手続きを進めやすく、後日の修正申告などの負担を回避しやすい点も、遺言書を作成する大きなメリットといえるでしょう。
また、遺言書を作成することで、法定相続分とは異なる分け方を指定できる点も重要です。例えば、配偶者により多くの財産を残したい場合や、特定の子に事業用資産を集中させたい場合、あるいは相続人以外の人や団体へ財産を遺贈したい場合でも、遺言書があればその意思を反映させることが可能です。これは、法律で定められた相続ルールだけでは実現できない、遺言ならではのメリットといえます。
さらに、遺言書は残された家族への配慮という側面も持っています。財産の分け方や理由をあらかじめ示しておくことで、相続人が判断に迷う場面を減らし、「なぜこの分け方なのか」を巡る不信感や対立を和らげる効果が期待できます。結果として、相続手続き全体が円滑に進みやすくなり、精神的な負担の軽減にもつながります。
遺言書の種類
遺言書には、民法で定められた方式として「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれの効力自体は同じですが、作成の手間や安全性、費用などに大きな違いがあるため、特徴を理解したうえで選択することが重要です。
以下の表は、各遺言書についてメリット・デメリットの観点から整理したものです。
| 種類 | 概要 | メリット | デメリット |
| 自筆証書遺言 | 遺言者本人が全文を手書きで作成する遺言書。財産目録についてはパソコンでの作成が認められている。法務局で遺言書を保管できる「自筆証書遺言保管制度」も利用可能。 | 費用をほとんどかけずに作成できる。内容を他人に知られずに作成できる。法務局保管制度を利用すれば、紛失・改ざんの防止や家庭裁判所での検認手続が不要になるといったメリットがある。 | 決まった形式を満たさないと無効となるリスクがある。法務局保管制度を利用しない場合、紛失や隠匿、改ざんのおそれがある上、家庭裁判所での検認手続きが必要。内容の不備により相続トラブルにつながる可能性がある。 |
| 公正証書遺言 | 公証役場で公証人が作成する遺言書。遺言者の意思を公証人が聴き取り、証人2名の立会いのもとで作成される。 | 形式不備による無効のリスクが極めて低い。原本が公証役場で保管され、紛失・改ざんのおそれがない。家庭裁判所での検認が不要。相続手続きがスムーズに進みやすい。 | 作成に費用がかかる。証人2名の手配が必要。内容を公証人や証人に知られる。 |
| 秘密証書遺言 | 遺言の内容を秘密にしたまま、公証人が遺言書の存在を証明する方式の遺言書。遺言書は本人が作成し、封印したうえで公証役場に提出する。 | 内容を秘密にしつつ、遺言書が作成された事実を公的に証明できる。本人の手書きでなくても良い。 | 公証人による内容のチェックを経ないため、形式不備で無効となるリスクがある。家庭裁判所での検認が必要。公証役場で保管されないため、紛失や改ざんのリスクは残る。上記の理由から、実際に利用される場面は少ない。 |
表の解説に登場する「家庭裁判所での検認」とは、相続が発生した後に、遺言書の存在や内容を確認し、状態を明らかにするための手続きをいいます。検認は、遺言書の有効・無効を判断するものではなく、あくまで遺言書の形状や内容を確認し、後日の偽造・変造を防止することを目的とした制度です。
検認手続きでは、家庭裁判所に遺言書を提出し、相続人に対して検認期日が通知されます。当日は、裁判官が遺言書を開封し、その内容を確認したうえで調書を作成します。相続人全員が立ち会う必要はありませんが、裁判所から指定された日時に家庭裁判所へ足を運ぶよう求められることもあり、一定の時間と手間がかかります。
なお、家庭裁判所での検認を受ける前に、相続人が勝手に遺言書を開封してはいけません。民法では、検認前に遺言書を開封した者に対して過料が科される可能性があると定められており、注意が必要です。自宅などで遺言書を発見した場合には、内容を確認したい気持ちがあっても、そのままの状態で家庭裁判所へ提出し、適切な手続きを踏むことが重要です。
なお、公正証書遺言については、原本が公証役場で保管されているため、後日の偽造・変造は不可能であることから、家庭裁判所での検認は不要です。また、自筆証書遺言であっても、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用している場合には、検認手続きは不要とされています。
それぞれの遺言書の作成方法
ここでは、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の作成方法について解説していきます。
自筆証書遺言
自筆証書遺言の作成にあたっては、遺言の全文・日付・氏名を遺言者本人が自書し、押印することが求められます。筆記用具については、鉛筆や消せるボールペンは避け、消えにくい黒色のボールペンや万年筆を使用するのが望ましいでしょう。用紙については特に指定はありませんが、白無地の紙を使用するのが一般的です。
なお、財産目録については例外的にパソコンで作成することが認められており、その場合でも各ページに遺言者の署名・押印が必要となります。これらの要件を一つでも欠くと無効となるおそれがあるため、形式面には特に注意が必要です。
自筆証書遺言については、法務局による自筆証書遺言保管制度を利用することもできます。この制度を利用する場合、遺言書を作成したうえで、遺言者本人が住所地・本籍地・所有不動産所在地のいずれかを管轄する法務局に申請します。
申請は原則として事前予約制となっており、法務局のホームページや電話で予約を行います。当日は、作成済みの遺言書原本のほか、本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)、本籍の記載のある住民票の写し、所定の申請書、手数料(1通につき3,900円)などを持参します。法務局では、遺言書が法律上の要件を満たしているかどうかについて形式的な確認が行われ、問題がなければ保管されます。
また、相続発生後は、相続人等が法務局に対して「遺言書情報証明書」の交付請求を行うことで、遺言書の内容を確認できます。さらに、法務局が市区町村から遺言者の死亡に関する情報を受け取ると、あらかじめ指定しておいた通知対象者に対し、法務局から遺言書が保管されている旨の通知が行われる仕組みもあります。
一方で、法務局の保管制度を利用しない場合には、遺言書の保管方法に十分な配慮が必要です。一般的には、遺言書を封筒に入れて封をし、表面に「遺言書在中」などと記載したうえで、金庫などの耐火性のある場所で保管します。ただし、誰にも存在を知らせないまま保管すると、相続発生後に発見されないおそれもあります。そのため、信頼できる家族に遺言書を作成した事実と保管場所を伝えておくことが重要です。自筆証書遺言で法務局保管制度を利用しない場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要となるため、相続人が速やかに発見できるように準備しておきましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場において公証人が作成する遺言書です。全国どこの公証役場でも利用可能で、必ずしも住所地を管轄する公証役場である必要はありません。ほぼすべての公証役場が事前予約制を取っており、事前に電話かメールで遺言内容や必要書類の確認と訪問日の予約を行うのが一般的です。
まず、初回の訪問時は公証人と遺言内容の事前打ち合わせ(事前協議)を行います。この段階では、厳密な文章でなくても構いませんが、少なくとも「誰に・何を・どの割合で相続させたいのか」が分かるメモや一覧表を準備しておくとスムーズです。不動産がある場合は登記事項証明書、預貯金であれば金融機関名や支店名などの情報を整理しておきます。公証人は、打ち合わせの後、それらの資料をもとに遺言案を作成します。
作成当日は、遺言者本人と証人2名が公証役場に出向くのが原則です(病院や自宅に出張してもらうことも可能です)。公証人は遺言者の本人確認を行い、遺言内容を読み上げ、遺言者の意思に相違がないかを確認します。そのうえで、遺言者および証人が署名・押印を行い、公証人がこれを公正証書として完成させます。完成した公正証書遺言は、原本が公証役場に厳重に保管され、遺言者には正本・謄本が交付されます。
なお、証人については、推定相続人およびその配偶者・直系血族などの利害関係者以外の成人の方に依頼する必要があります。頼める人がいない場合は、公証役場で紹介してもらうことも可能ですが、日当相当の費用(1人あたり1万円前後が目安)が別途必要となります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言の作成方法は、「書面の作成」と「公証役場での手続き」の二段階に分かれます。
まず書面の作成ですが、自筆証書遺言とは異なり、本人が全文を自書する必要はなく、パソコンで作成し印刷したものや、他人が代筆したものでも有効です。ただし、遺言者の署名は必ず自筆で行う必要があります。筆記用具や用紙については、自筆証書遺言と同様に、消えにくい黒色のボールペンと白無地の用紙を用いるのが一般的です。作成した遺言書は封筒に入れ、遺言書に押印した印鑑と同じ印鑑で封印します。
次に、公証役場での手続きです。公証役場は公正証書遺言と同様、全国どこの公証役場でも利用可能で、原則として事前予約制となっています。電話などで予約を取り、遺言者本人が証人2名とともに出向きます。
当日は、公証人の面前で「これは自分の遺言書である」旨を申述し、公証人がその事実と日付を証書として作成します。ここで公証人が確認するのはあくまで封書の存在と提出の事実であり、遺言書の内容そのものは確認されません。この点が、公証人が内容まで作成・確認する公正証書遺言との大きな違いです。
なお、秘密証書遺言は公証役場で原本を保管してもらう制度ではありません。手続き終了後は、遺言者自身で保管することになります。保管方法については、自筆証書遺言と同様に、封筒のまま金庫等で保管し、信頼できる家族に存在を知らせておくなどの配慮が重要です。また、相続開始後には家庭裁判所での検認手続きが必要となる点も、自筆証書遺言と共通しています。
遺言書を作成する際に知っておきたい基礎知識
遺言書は、基本的に「自分の財産を誰にどのように承継させるか」を自由に決められる制度です。しかし、その自由は無制限ではなく、民法で定められた一定のルールの枠内で効力を持ちます。
ここでは、遺言書作成前に必ず押さえておきたい基礎知識を整理します。
法定相続人の範囲と法定相続分とは
「法定相続人」とは、民法であらかじめ定められている相続人のことをいいます。常に相続人となるのは配偶者であり、これに加えて、血族相続人が順位に従って相続人となります。第一順位は子(子が亡くなっている場合は孫などの代襲相続人)、第二順位は直系尊属(父母など)、第三順位は兄弟姉妹です。上位の順位の相続人がいる場合、下位の順位の者は相続人にはなりません。さらに、「法定相続分」とは、遺言がない場合に法律上定められた取得割合をいいます。
以下の表に、相続人の組み合わせごとの法定相続割合を整理しました。遺言書ではこれと異なる割合を指定することも可能ですが、その場合には次に解説する「遺留分」に配慮する必要があります。
| 相続人となる人 | 解説 | 法定相続割合 |
| 配偶者+子ども(直系卑属) | 亡くなった方の父母・兄弟姉妹が存命の場合でも、配偶者と子のみが相続人となる。すでに死亡した子に子(亡くなった方の孫)がいる場合は、孫が子に代わって相続人となる(代襲相続)。 | 配偶者:1/2 子ども:1/2を全員で均等に分割 |
| 配偶者+父母(直系尊属) | 亡くなった方に子や孫(直系卑属)がいない場合、配偶者と父母が相続人となる。父母が死亡していて祖父母が存命の場合、祖父母が父母に代わって相続人となる。 | 配偶者:2/3 父母:1/3(父:1/6、母:1/6) |
| 配偶者+兄弟姉妹(傍系親族) | 亡くなった方に子や孫(直系卑属)がおらず、父母や祖父母(直系尊属)もいない場合、兄弟姉妹が相続人となる。すでに死亡した兄弟姉妹に子(亡くなった方の甥姪)がいる場合は、甥姪が兄弟姉妹に代わって相続人となる(代襲相続)。 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4を全員で均等に分割 |
| 配偶者のみ | 亡くなった方に子や孫(直系卑属)がおらず、父母や祖父母(直系尊属)、兄弟姉妹や甥姪もいない場合、配偶者のみが相続人となる。 | 配偶者が全て相続する |
| 子ども(直系卑属)のみ | 亡くなった方の配偶者が離婚や死別でいない場合、父母や兄弟姉妹が存命であっても、子どものみが相続人となる。すでに死亡した子に子(亡くなった方の孫)がいる場合は、孫が子に代わって相続人となる(代襲相続)。 | 子ども全員で均等に分割 |
| 父母(直系尊属)のみ | 亡くなった方が未婚もしくは死別や離婚などで配偶者がおらず、子や孫(直系卑属)もいない場合、父母のみが相続人となる。父母が死亡していて祖父母が存命の場合、祖父母が父母に代わって相続人となる。 | 父母が全て相続する(父:1/2、母:1/2) |
| 兄弟姉妹(傍系親族)のみ | 亡くなった方が未婚もしくは死別や離婚などで配偶者がおらず、子や孫(直系卑属)・父母や祖父母(直系尊属)もいない場合、兄弟姉妹のみが相続人となる。すでに死亡した兄弟姉妹に子(亡くなった方の甥姪)がいる場合は、甥姪が兄弟姉妹に代わって相続人となる(代襲相続)。 | 兄弟姉妹で均等に分割 |
遺留分とは
遺留分とは、一定の法定相続人に保障された最低限の取り分のことをいいます。兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、直系尊属)には、遺言によっても完全には奪うことができない割合が認められています。
以下の表は、相続人の組み合わせごとの遺留分の有無と割合を整理したものです。
| 相続人の組み合わせ | 遺留分を有する相続人 | 遺留分の割合 |
| 配偶者+子ども(直系卑属) | 配偶者、子ども | 配偶者:1/4 子ども:1/4を全員で均等に分割 |
| 配偶者+父母(直系尊属) | 配偶者、父母 | 配偶者:1/3 父母:1/6(父:1/12、母:1/12) |
| 配偶者+兄弟姉妹(傍系親族) | 配偶者 | 配偶者:1/2 ※兄弟姉妹に遺留分は認められない |
| 配偶者のみ | 配偶者 | 配偶者:1/2 |
| 子どものみ | 子ども | 子ども:1/2を全員で均等に分割 |
| 父母のみ | 父母 | 父母:1/3(父:1/6、母:1/6) |
| 兄弟姉妹のみ | なし | 遺留分は認められない |
例えば、配偶者と子がいるケースで、全財産を配偶者に相続させるという遺言を書いた場合、他の相続人(子ども)は「遺留分侵害額請求」によって金銭での精算を求めることができます。そのため、特定の相続人に多くの財産を承継させたい場合でも、遺留分を踏まえて割合を決定することが重要になります。
遺贈とは
遺贈とは、遺言によって財産を無償で与えることをいいます。相続人に対して財産を取得させる場合は「相続させる」と表現されるのが一般的ですが、相続人以外の第三者(例えば内縁の配偶者、長年世話になった人、法人や団体など)に財産を与える場合は「遺贈」となります。
遺贈には、特定の財産を与える「特定遺贈」と、財産の全部または一定割合を与える「包括遺贈」があります。包括遺贈を受けた者は、相続人と同様に一定の権利義務を承継するため、債務の負担が生じる場合もあります。
遺言書の作成にかかる費用
遺言書を作成するにあたっては、遺言の方式によって必要となる費用が異なります。自筆証書遺言であれば比較的費用を抑えることができますが、公正証書遺言を選択する場合には公証人手数料が発生します。また、どの方式であっても、戸籍や不動産資料の収集など一定の実費が必要になるのが通常です。
ここでは、まず法定費用などの実費を整理し、そのうえで専門家に依頼した場合の費用の目安について解説します。
法定費用など
遺言書作成に関連して発生する主な実費は、以下のとおりです。
- 戸籍謄本:450円/1通
- 住民票:300円程度/1通(自治体により異なる)
- 不動産の登記簿謄本:1通600円/1通
- 公正証書の作成手数料(公正証書遺言の場合):公証人手数料令に基づき、財産の価額や相続人の数に応じて算定される。例えば、総額1億円の財産を妻に6,000万円分、子に4,000万円分相続させる場合は、95,000円が手数料となる。詳細は、日本公証人連合会のホームページで確認が可能。
- 法務局の自筆証書遺言保管制度の利用料:3,900円/1通
専門家に依頼する場合の費用
遺言書の作成を行政書士に依頼する場合、依頼内容の範囲によって費用は異なります。
まず、遺言の書き方についてアドバイスを行う場合の費用は、5〜10万円程度が一つの目安です。これは、財産内容や相続関係の整理、遺言内容の構成提案、文案作成のサポートなどを含むケースが一般的です。
次に、公正証書遺言の作成について、公証役場との事前協議や必要書類の収集、公証人との調整まで一括してサポートする場合には、10〜20万円程度が目安となることが多いです。財産の種類や相続人の数が多い場合、事業承継など高度な知識が必要な場合には、それ以上となるケースもあります。
なお、相続税対策を中心とした高度な税務知識が必要な場合は税理士、不動産の名義変更(相続登記)まで一貫して依頼したい場合は司法書士と連携が可能な行政書士を選択すると良いでしょう。
まとめ
遺言書は、自分の財産を誰にどのように承継させるのかを明確にし、将来の相続トラブルを防ぐための重要な法的手段です。遺言がない場合には法定相続分に従って遺産分割協議を行う必要がありますが、話し合いがまとまらなければ調停や審判に進むこともあり、相続人にとって大きな負担となります。その点、適切に作成された遺言書があれば、遺産分割協議を省略できる場合が多く、相続手続きや相続税申告も円滑に進めることができます。
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」という3つの方式があり、それぞれ作成方法や費用、手続きの流れ、保管方法、検認の要否などに違いがあります。費用を抑えたい場合には自筆証書遺言、確実性と安全性を重視する場合には公正証書遺言が選ばれる傾向にあります。
さらに、行政書士などの専門家に依頼することで、内容設計から公証役場との調整まで一貫したサポートを受けることが可能です。専門家の関与により、形式不備や記載漏れのリスクを防ぎ、将来の紛争を未然に防ぐ効果も期待できます。
遺言書は「まだ早い」と思われがちですが、判断能力が十分にあるうちにこそ作成しておくことが大切です。大切な家族のために、そして自分の意思を確実に実現するために、早めの準備を検討してみてはいかがでしょうか。
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特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)