目次
建設業許可とは
経営事項審査について理解するためには、まずは前提となる「建設業許可」について理解しておく必要があります。
ここでは、建設業許可の基本的な内容について簡単にご説明します。
建設業許可の種類
建設業許可は、いくつかの観点で分類されます。大きく分けると、次の2つの観点から分類されるのが一般的です。
一般建設業と特定建設業
- 一般建設業:下請けに出す工事が1件あたり5,000万円(建築一式工事は8,000万円)未満の工事を請け負うことができます。金額の条件はあくまでも「下請けに出す金額」のため、自社で工事を行う場合は、高額な工事であってもこちらの許可で対応が可能です。
- 特定建設業:上記金額を超える工事を下請けに出す場合に必要で、一般建設業に比べて許可の要件が厳格です。
大臣許可と知事許可
- 国土交通大臣許可:複数の都道府県に営業所を設ける場合には、こちらの許可が必要です。
- 都道府県知事許可:1つの都道府県内にのみ営業所を設ける場合にはこちらの許可で営業ができます。
建設業許可における「業種」とは
建設業許可は一括りではなく、実際に行う工事の内容に応じて「業種」に分かれています。国土交通省が定める29業種(2025年6月現在)があり、たとえば以下のような分類があります。それぞれの業種ごとに許可が必要となり、1つの事業者が複数業種の許可を取得することも可能です。
- 土木一式工事
- 建築一式工事
- 大工工事
- 電気工事
- 管工事
- 塗装工事
- 解体工事
経営事項審査の概要
公共工事の入札に参加したい建設業者にとって、「経営事項審査(経審)」は避けて通れない重要な手続きです。
ここでは、経審の基本的な情報について解説します。
経営事項審査を受ける目的
経営事項審査(経審)は、公共工事の入札に参加するために必要な審査制度です。国や地方自治体などが発注する建設工事の契約において、建設業者の経営状況や技術力を客観的に評価し、信頼性や安定性を見極めるために導入されています。審査の結果は「総合評定値(P点)」として数値化され、発注者が施工業者を選定する際の基準のひとつになります。
申請先と申請手数料
経営事項審査の申請先は、建設業許可の種類に応じて異なります。
- 大臣許可を受けている場合:国土交通省地方整備局等が申請窓口となります。具体的には、各地方整備局の建政部(建設産業課など)で受け付けています。
- 知事許可を受けている場合:都道府県庁の建設業担当課が申請先となります。事業者の主たる営業所がある都道府県の担当部署に提出します。
また、申請には一定の手数料がかかります。経審は建設業許可の業種ごとに受ける必要があり、手数料は1業種目が11,000円、以降1業種追加ごとに2,500円を追加することとなっています。
有効期限
経審の結果は審査基準日から1年7か月間有効です。ここで注意すべき点は、「有効期限は審査基準日から起算する」ということです。審査基準日とは各事業者の決算日となるため、経審の結果が届いてから1年7か月有効であると勘違いをしないように気をつけましょう。
審査にかかる期間
審査にかかる期間は自治体によって異なり、申請から結果の通知までは2週間~2か月以上と幅が大きくなっています。ただし、申請の時期(繁忙期・閑散期)や不備の有無によっては、さらに時間を要する場合もあります。有効期限切れが心配な場合は、管轄の都道府県等に標準処理期間を問い合わせてみるのも良いでしょう。
結果の公表
経営事項審査の結果は、一般財団建設業情報管理センター(CIIC)のホームページにて一般に公開されます。これにより、発注者だけでなく、取引先や金融機関、競合他社も経審の結果を確認することが可能です。
この公開制度により、企業の透明性が高まるとともに、建設業界全体の健全な競争促進にも寄与しています。公開された情報は、営業戦略や信頼性の裏付けとしても活用されるため、誤りのない申請内容と高評価の取得が重要になります。
経営事項審査を受けるための前提条件
経営事項審査(経審)を受けるためには、事前に満たすべきいくつかの要件があり、これらをクリアしていないと、審査を受けることができません。
ここでは、経審申請前に必要な3つの主な前提条件について詳しく解説します。
建設業許可の取得
まず第一に、経営事項審査を受けるには「建設業許可」を取得していることが必須です。なお、経審は「建設業許可を受けている業種」を対象として行われるため、未許可の業種については審査の対象外となります。
事業年度終了届(決算変更届)の提出
次に、建設業許可業者は、毎年1回、事業年度終了後4か月以内に「決算変更届(いわゆる事業年度終了届)」を提出しなければなりません。この届出では、工事経歴書や財務諸表などを通じて、経営実態を報告する必要があります。
この事業年度終了届が提出されていないと、経審の受付ができないため注意が必要です。特に提出期限を過ぎた場合、行政指導の対象となるだけでなく、経審スケジュール全体に大きな影響を及ぼします。
また、経審を受ける場合は、財務諸表や工事経歴書を経審のルールに沿った方法で作成しておくことも重要です。具体的には、財務諸表や工事経歴書に記載する金額は全て税抜きであることと、工事経歴書に記載する工事を経審のルールに則った順番で記載する必要があります。
これらの書類が経審のルールに沿っていない場合、事業年度終了届は問題なく受付されたとしても、その後の経審の際に修正する手間が発生してしまいます。事業年度終了届の書類を作成する際は、この点にも十分注意しましょう。
経営状況分析(Y点)の申請
経営事項審査に先立ち、経営状況分析結果(Y点)の取得が必須となります。詳しくは後述しますが、これは経審における「総合評定値(P点)」の構成要素のひとつとなっているため、申請後に発行される「経営状況分析結果通知書」を、経審申請時に必ず添付しなければなりません。
経営状況分析は、国土交通大臣登録の「登録経営状況分析機関」へ申請し、財務諸表などをもとにY点を算出してもらいます。なお、登録分析機関の一覧は、国土交通省のホームページにて確認することができます。
また、経営状況分析にかかる費用は分析を行う機関によって異なりますが、約9,000~14,000円程度(2025年6月時点)となっています。
経営事項審査の総合評定値(P点)とは
経営事項審査(経審)においては、事業者の経営能力や技術力などを総合的に数値化し、その結果をもとに入札参加資格の判断材料とします。この数値化された指標が「総合評定値(P点)」です。
ここでは、P点の算出方法と点数の目安について解説します。
総合評価点(P点)の算出方法
P点は、X1点、X2点、Y点、Z点、W点の5つの要素から、以下の式で算出されます。なお、P点の理論上の最高得点は2,159点、最低得点は6点となります。
P = 0.25X1 + 0.15X2 + 0.2Y + 0.25Z + 0.15W
ここで、各要素は下記のような評価項目から算出されます。
- X1点(完成工事高):過去の業種別の完成工事高を評価されます。過去2年平均か3年平均を選択することが可能です。
- X2点(自己資本額、平均利益額):会社の自己資本の額と営業利益から経営規模を評価されます。自己資本額は、基準決算か2期平均を選択することができます。
- Y点(経営状況):財務諸表に基づいて計算され、収益性・流動性・安定性などの健全性を示します。これは事前に専門機関にて経営状況分析申請を行い、そこで得られた結果をそのまま使用します。
- Z点(技術力):業種別の技術者の数や保有資格、元請として行った工事実績などをもとに評価されます。
- W点(社会性等その他の審査項目):労働環境、法令順守、ISO取得状況、社会貢献などを多角的に評価されます。
点数の目安
公共工事の入札では、自治体や国の発注機関が等級(A~D等級など)を設定し、参加資格を振り分けています。たとえば、総合評定値(P点)が高い事業者は「A等級」として大型工事に参加できる一方、一定のP点に満たない事業者は「C等級」「D等級」として中小規模工事に限定されることがあります。
とはいえ、経審の結果を見ても、その点数が高いのか低いのか判断に迷うことが多いのも事実です。以下に、P点のスコアレンジごとの一般的な評価目安を示します。
- 1,100点以上:非常に優秀。A等級上位での大型公共工事の入札も可能なレベル。
- 800〜1,099点:優秀。A等級またはB等級で安定した入札参加が見込めます。
- 700〜799点:平均的。C~B等級の小~中規模工事の入札に参加できる可能性があります。
- 600〜699点:低め。D~C等級となることが多く、小規模工事が中心となる可能性があります。
- 600点未満:非常に厳しい。公共工事の入札に参加できる機会がほとんどなく、経営改善が必要です。
上記はあくまでもP点のみを評価した場合ですが、実際の入札ではP点がそれほど高くない事業者であっても、参加する機会が完全に閉ざされているわけではありません。近年は中小事業者への配慮としてP点(=客観評価)に加えて「主観評価」が導入されており、地域貢献や工事成績などを総合的に評価するケースも見られます。
これらの主観評価の導入状況や具体的な評価項目は、公共工事の発注元である自治体や機関等によって異なりますので、入札への参加を視野に入れている場合は事前に確認しておくと良いでしょう。
経営事項審査の総合評定値(P点)を上げるためのポイント
P点を上げるためには、「完成工事高を増やす」「技術者の数を増やす」「技術者の資格をより上位のものにする」といった本質的かつ効果的な方法がありますが、これらは中長期的な取り組みが必要であり、すぐに成果が現れるものではありません。
そこでここでは、比較的短期間で取り組むことができ、かつ点数の向上に寄与しやすい対策に絞って紹介していきます。
完成工事高の振り替えを行う
複数の業種で建設業許可を取得している場合、それぞれの業種で経営事項審査を受けることができますが、完成工事高が分散されてしまうと、すべての業種で中途半端な評価点(P点)となりやすく、入札で不利になることがあります。
そこで戦略的に、ある特定の業種に完成工事高を集約するよう「振り替え」を行うことで、その業種でのP点を高得点にし、入札での競争力を高めることが可能です。
たとえば、東京都の経営事項審査の手引きによると、次のような業種の間で矢印の方向に振り替えが可能です。
振替元 | 振替先 | |
とび・土工・コンクリート工事、石工事、タイル・れんが・ブロック工事、鋼構造物工事、鉄筋工事、舗装工事、しゅんせつ工事、水道施設工事 | ⇒ | 土木一式工事 |
大工工事、左官工事、とび・土工・コンクリート工事、屋根工事、タイル・れんが・ブロック工事、鋼構造物工事、鉄筋工事、板金工事、ガラス工事、塗装工事、防水工事、内装仕上工事、建具工事、解体工事 | ⇒ | 建築一式工事 |
ただし、振り替えを行った場合、振り替え元の業種では経営事項審査を受けることができなくなります。そのため、どの業種で経審を受け、どの業種を外すのかという戦略的な判断が必要です。
なお、どの業種間で振り替えが行えるのかについては、各自治体の「経営事項審査の手引き」などで常に最新の情報を確認するようにしてください。
「年間平均完成工事高」「自己資本額」の激変緩和措置を活用する
建設業においては、市況の変化や材料価格の高騰などにより年度によって経営状況が大きく変化することも珍しくありません。そのため、経営事項審査においては下記のような激変緩和措置が設けられており、これらを有効に活用することで、総合評定値(P点)を上げられる場合があります。
- 年間平均完成工事高:直近2年平均または3年平均を選択することができます。景気変動により一時的に工事量が落ち込むようなことがあっても、2年または3年平均の有利な方を選択することで、点数の安定化が図れます。
- 自己資本額:自己資本額については、直近の基準決算期の値か、直近2期分の平均値のいずれかを選択可能です。自己資本額は、貸借対照表上の「純資産の部の合計額」で確認することができますので、少しでも有利な方を選択することを忘れないようにしましょう。
「建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況」の改善
この項目では、建設業の担い手となる人材の確保や処遇改善などに取り組んでいるかどうかが評価されます。この中で比較的取り組みがしやすく、かつ総合評定値(P点)に与える影響が大きいのは以下の3つです。
- 建設業退職金共済制度への加入:通称「建退共」と呼ばれ、建設業の現場労働者が退職時に退職金を受け取れる制度です。加入事業者は、労働者1人あたり日額320円(2025年6月時点)を掛金として負担します。加入証明を提出することで加点対象になります。
- 退職一時金制度の導入:会社独自に設定する退職金制度も対象となります。こちらは、制度内容を明示した就業規則を整備することが必要です。
- 法定外労働災害補償制度への加入:労災保険の上乗せ補償を提供する保険制度に加入していることが加点対象となります。具体的には、全国建設業労災互助会や建設業福祉共済団などが該当し、これらの加入証明書を提出する必要があります。掛金は、補償額や事業者の完成工事高などによって異なりますが、年間完成工事高が1億円の事業者で年間数万円程度の掛金となっています。
2025年6月現在、この3つのうちどれか1つでも導入すれば、導入していない場合と比較してP点が約19.7点アップします。3つすべて導入した場合には約59点の加点となりますので、P点への寄与はかなり大きいと言ってよいでしょう。
これらの3つは費用対効果が非常に高い対策ですので、P点を少しでも上げたい事業者の方にはぜひ取り組んでいただきたい内容です。
「防災活動への貢献の状況」の改善
この項目の加点の条件は、「国、特殊法人等又は地方公共団体との間で災害時の防災活動等について定めた防災協定を締結していること」となっています。
しかしながら、実際には各建設業者が国や自治体と防災協定を直接取り交わすのは困難なため、「自治体と防災協定を締結している地元の建設業団体などに加入して、間接的に協定に参加する」という方法も認められており、加点を得ている会社の多くはこの方法を取っています。
なお、防災協定の締結がある場合、P点に換算して26点もの加点となります。業界団体への加入は、会費の支払いや団体の役職の負担などもありますが、経審の加点だけでなく、横のつながりが増えるなどのメリットもありますので、検討してみると良いでしょう。
経営事項審査を受ける際の必要書類
経営事項審査(経審)を受ける際には、申請書類の正確性や整合性が非常に重要です。ここでは、経審の申請時に必要となる主な書類を「基本書類」と「確認資料」に分けて解説します。
基本書類
基本書類は、経営事項審査申請にあたって提出が必須となる書類群で、各自治体や国土交通省の窓口に直接提出します。以下が代表的なものです。
- 経営規模等評価申請書:建設業許可番号や商号、営業所の所在地などの基本情報を記載
- 工事種類別完成工事高:事業年度内に行った工事の金額を、業種別に記載
- 技術職員名簿:技術職員の氏名、生年月日、資格などの情報を記載
- その他の審査項目(社会性等):W点の評価項目が列挙されており、各項目への該否等を記載
- 経営状況分析結果通知書:事前に分析機関へ依頼した結果(Y点)の原本を添付
- 委任状:行政書士や代理人に手続きを委任する場合に必要
確認資料の例
確認資料とは、基本書類に記載された内容の裏付けとして必要な書類です。各加点項目の裏付け資料は自治体の「経営事項審査の手引き」等で確認するようにしましょう。
ここでは、代表的な確認資料をいくつかご紹介します。
- 建設業許可通知書の写し
- 工事請負契約書等の写し:工事経歴書に記載の請負金額順上位3件について、工事請負契約書・注文書等の写し
- 技術職員の常勤確認資料:社会保険の標準報酬決定通知書の写し、健康保険被保険者証の写しなど
- 技術職員の確認資料:資格の合格証明書の写し・免許証の写しなど
- 社会保険の加入を確認する資料:保険料の納入の領収書など
経営事項審査の申請を行政書士に依頼する際の費用
経営事項審査(経審)は、専門的な知識や書類作成スキルが求められる手続きであるため、多くの事業者が行政書士に依頼しています。ここでは、経審を行政書士に依頼した場合の費用の目安や費用の内訳について詳しく解説していきます。
行政書士報酬の費用相場
行政書士に経営事項審査の申請を依頼する場合、費用の目安は以下のようになります。
実際の報酬額は、会社の規模や申請内容の複雑さ(業種数、技術者数、加点項目の多寡など)によって変動することがあります。
- 経営事項審査申請代行:5万円~20万円程度(会社規模による)
- 経営状況分析(Y点)申請代行:2万円~5万円程度
- その他の加点資料の確認や作成支援:1万円~3万円程度(必要に応じて加算)
まとめ
この記事では、経審の概要から、必要な前提条件、点数の構成要素であるP点の仕組み、そして点数を引き上げるための現実的な改善ポイントまでを詳しく解説しました。
経審の申請には多くの書類が必要となり、記載内容にも一定の法的知識や行政手続きへの理解が求められます。行政書士に依頼することで、書類の正確性や審査通過の確実性が高まり、担当者の負担軽減にもつながるため、外部専門家の活用も有効な選択肢といえるでしょう。
経営事項審査を適切に受け、高得点を維持することは、公共工事に参加する上での信頼性の証明となります。戦略的な経審の活用を通じて、自社の評価を高め、ビジネスチャンスを着実に広げていきましょう。
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特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)