法定後見の種類とは?制度の概要から後見・保佐・補助の違いまで行政書士が徹底解説

成年後見制度の概要

高齢化が進む中で、認知症や病気、障害などによって判断能力が十分でなくなった場合に、財産管理や生活上の手続きをどのように支えるかは、多くの方にとって身近な課題になっています。内閣府の令和7年版高齢社会白書によると、日本の総人口に占める65歳以上人口の割合は29.3%となっており、75歳以上人口は65〜74歳人口を上回っています。

判断能力が低下すると、預貯金の管理、不動産の処分、介護サービスや施設入所の契約、入院に関する手続きなどを本人だけで行うことが難しくなる場合があります。家族が近くにいる場合でも、本人名義の財産を当然に管理できるわけではありません。そのような場面で、本人の権利や財産を守りながら、必要な手続きを支える仕組みが成年後見制度です。

成年後見制度は、大きく分けると法定後見任意後見の2つに分類できます。任意後見は、本人が元気なうちに、将来支援してくれる人を自分で選び、あらかじめ契約を結んでおく制度です。これに対して法定後見は、すでに本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所が本人を支援する人を選任する制度です。

最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」によれば、令和7年の成年後見関係事件の申立件数は4万3,159件で、前年より増加しています。 このようなデータからも、成年後見制度は一部の人だけが利用する特別な制度ではなく、将来の財産管理や生活支援を考えるうえで、ますます重要な制度になっているといえるでしょう。

この記事では、法定後見制度の概要や後見・保佐・補助の違い、法定後見と任意後見の違い、監督人の役割、利用にかかる費用まで、現役行政書士の視点からわかりやすく解説します。これから法定後見制度の利用を検討している方や、ご家族の判断能力の低下に備えて制度を知っておきたい方の参考になれば幸いです。

 

法定後見制度の概要

法定後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所が本人を支援する人を選任する制度です。

法定後見制度を利用すると、家庭裁判所によって選ばれた後見人・保佐人・補助人が、本人の財産管理や契約手続きなどを支援します。たとえば、預貯金の管理、不動産に関する手続き、介護サービスや施設入所に関する契約、各種支払い、遺産分割協議など、本人だけで進めることが難しい法律行為を支える役割を担います。

もっとも、法定後見制度は、本人の代わりに何でも自由に決められる制度ではありません。本人の意思をできる限り尊重しながら、本人の権利や財産を守るために利用される制度です。そのため、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」という3つの種類に分かれています。

 

法定後見の「種類」とは

法定後見制度には、本人の判断能力の程度に応じて、後見保佐補助の3種類があり、それぞれの違いを簡単に整理すると、次のとおりです。

種類 対象となる本人の状態 支援する人 主な特徴
後見 判断能力がほとんどない状態 成年後見人 本人を最も手厚く保護する類型。成年後見人が広い範囲で財産管理や法律行為を支援する
保佐 判断能力が著しく不十分な状態 保佐人 本人が重要な法律行為をする際に、保佐人の同意が必要になる場面がある
補助 判断能力が不十分な状態 補助人 本人の判断能力が比較的残っている場合に、必要な範囲に限って支援を受ける類型

後見は、本人の判断能力がほとんどない状態を想定した制度です。本人が自分で契約内容を理解し、財産管理や重要な手続きを行うことが難しい場合に利用されます。成年後見人は、本人の財産を管理したり、本人に代わって契約を行ったりするなど、比較的広い権限を持ちます。

保佐は、判断能力が著しく不十分な状態の方を支援する制度です。本人がまったく判断できないわけではないものの、不動産の売買、借入れ、保証、相続に関する手続きなど、重要な法律行為を一人で行うには不安がある場合に利用されます。保佐人には、一定の重要な行為について同意権や取消権が認められます。また、必要に応じて、家庭裁判所の審判により代理権を付けることもできます。

補助は、3つの中では本人の判断能力が比較的残っている場合に利用される制度です。日常生活はある程度自分でできるものの、特定の契約や財産管理について支援が必要な場合に利用されます。補助は、本人の自己決定を尊重しながら、必要な部分だけを支える制度といえます。

このように、法定後見の種類は、本人や家族が自由に選ぶというよりも、本人の判断能力の状態に応じて決まります。申立ての際には、診断書などをもとに本人の状態を確認し、家庭裁判所がどの類型が適切かを判断します。

なお、後見・保佐・補助のいずれであっても、本人の日常生活をすべて制限するものではありません。たとえば、日用品の購入など日常生活に関する行為は、基本的に本人の意思が尊重されます。法定後見制度は、本人の自由を奪うための制度ではなく、本人が不利益を受けないように支えるための制度です。

 

法定後見と任意後見の違い

成年後見制度には、法定後見のほかに任意後見があります。どちらも判断能力が不十分になった方を支援する制度ですが、利用するタイミングや支援する人の決まり方に大きな違いがあります。

これらの制度を比較すると、次の表のようになります。

項目 法定後見 任意後見
利用するタイミング 本人の判断能力が不十分になった後 本人の判断能力が十分にあるうちに契約しておく
支援する人の決まり方 家庭裁判所が後見人・保佐人・補助人を選任する 本人が任意後見人になる人を選んで契約する
支援内容 後見・保佐・補助の3類型に応じて決まる 契約内容によって支援内容を定める
支援する人の権限 法律や家庭裁判所の審判により決まる 任意後見契約で定める
監督の仕組み 必要に応じて監督人が選任されることがある 任意後見監督人が選任されてから契約が発効する
向いているケース すでに判断能力が低下しており、早急に支援が必要な場合 将来に備えて、元気なうちに支援者や内容を決めておきたい場合

法定後見は、すでに本人の判断能力が不十分になっている場合に利用されます。そのため、本人が誰に支援してもらうかを自由に決めることが難しいことも多く、家庭裁判所が本人の状況や財産内容、親族関係などを踏まえて、適切な後見人等を選任します。

一方、任意後見は、本人が判断能力のあるうちに将来に備える制度です。本人が「この人に支援してほしい」と考える相手を選び、どのような事務を任せるかを契約で定めておきます。自分の希望を反映しやすい点が特徴ですが、本人の判断能力がすでに低下している場合には、新たに任意後見契約を結ぶことが難しくなります。

そのため、すでに判断能力が低下している場合は法定後見、将来に備えて元気なうちに準備する場合は任意後見、という整理が基本になります。

 

法定後見の開始後に「種類」を変更することはできる?

法定後見制度を利用している途中で、本人の判断能力の状態が変わることがあります。たとえば、補助として開始したものの、その後認知症が進行して保佐や後見に近い支援が必要になる場合があります。反対に、病状や生活状況が安定し、以前よりも本人が自分で判断できる範囲が広がることもあります。

このような場合、後見・保佐・補助という「種類」を見直すことは可能です。ただし、単に家庭裁判所へ「種類を変更してください」と申し出れば自動的に切り替わる、というものではありません。実務上は、本人の現在の判断能力に合った類型について、改めて申立てや審判の取消しなどを検討することになります。

たとえば、補助から保佐へ、保佐から後見へと、より手厚い支援が必要になる場合には、本人の判断能力の状態を踏まえて、新たに保佐開始や後見開始の申立てを行うことが考えられます。申立ての類型は、医師の診断書に記載される判断能力についての意見をもとに選択することとなります。

一方で、後見から保佐・補助へ、または保佐から補助へと、より軽い支援に見直したい場合には、現在の後見開始や保佐開始の審判を取り消す必要が出てきます。そのうえで、なお支援が必要であれば、本人の状態に合った別の類型について申立てを検討することになります。

このとき大切なのは、法定後見の種類は、本人や家族の希望だけで決まるものではないという点です。家庭裁判所は、診断書、本人の生活状況、財産管理の必要性、親族関係などを踏まえて、本人にとってどの程度の支援が必要かを判断します。本人の判断能力に比べて重すぎる類型を選ぶと、本人の自己決定を必要以上に制限してしまうおそれがあります。反対に、支援が軽すぎる類型では、本人の財産や生活を十分に守れないこともあります。

なお、「種類の変更」と「後見人等の変更」は別の問題です。たとえば、後見から保佐に見直したいという場合は制度の類型に関する問題ですが、現在の成年後見人を別の人に交代してほしいという場合は、後見人等の辞任・解任・選任に関する問題になります。

 

法定後見制度における「監督人」とは

法定後見制度では、本人を支援する人として、成年後見人・保佐人・補助人が選任されます。これらの人は、本人の財産管理や契約手続きなどに関わる重要な立場です。そのため、家庭裁判所は、必要があると認めるときに、成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人を選任することがあります。

監督人とは、簡単にいうと、後見人・保佐人・補助人が本人のために適切に職務を行っているかを確認する立場です。たとえば、本人の財産が適切に管理されているか、本人に不利益な支出がされていないか、必要な報告が行われているかなどを確認します。

法定後見制度では、後見人等に大きな権限が与えられることがあります。特に成年後見人は、本人の財産管理について広い権限を持つため、本人の利益を守るためには、適切なチェック体制が重要です。監督人は、そのような場面で、家庭裁判所と連携しながら後見人等の職務を見守る役割を担います。

もっとも、監督人はすべてのケースで必ず選任されるわけではありません。法定後見制度では、家庭裁判所が必要性を判断し、必要があると認めた場合に監督人が選任されます。たとえば、本人の財産が多い場合、不動産の売却や遺産分割など重要な手続きが予定されている場合、親族間に対立がある場合、後見人等の事務をより慎重に確認する必要がある場合などには、監督人が選任されることがあります。監督人が選任されると、後見人・保佐人・補助人は、家庭裁判所だけでなく監督人に対しても必要な報告を行うことになります。

また、監督人が選任された場合には、監督人への報酬が発生します。報酬の有無や金額は、家庭裁判所が本人の財産状況や監督事務の内容などを踏まえて判断します。そのため、法定後見制度を利用する際には、後見人等への報酬だけでなく、監督人が選任された場合の費用も想定しておくと安心です。

 

法定後見制度の利用にかかる費用

法定後見制度を利用する場合には、大きく分けて、家庭裁判所への申立てにかかる費用、後見人・保佐人・補助人や監督人に支払う報酬、そして専門家に手続きを依頼する場合の費用が発生します。

申立て時に必要な実費は比較的少額で済むこともありますが、後見人等への報酬は制度の利用が続く限り発生する可能性があります。そのため、法定後見制度を検討する際は、継続的にかかる費用も含めて確認しておくことが大切です。

 

手数料など

法定後見制度を利用するには、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、後見開始・保佐開始・補助開始の申立てを行います。申立ての際には、収入印紙、郵便切手、登記手数料、診断書や戸籍などの取得費用が必要になります。

主な費用は、次のとおりです。

  • 申立手数料:収入印紙800円
  • 登記手数料:収入印紙2,600円
  • 連絡用の郵便切手:家庭裁判所ごとに異なる
  • 診断書の作成費用:医療機関によって異なる
  • 戸籍謄本、住民票、登記事項証明書などの取得費用:実費

保佐補助の場合には、代理権の付与や同意権の付与・追加に関する申立てをあわせて行うことがあります。その場合、申立てごとに別途収入印紙800円が必要になることがあります。

申立てに必要な書類としては、戸籍謄本、住民票、診断書、登記されていないことの証明書、本人の財産や収支に関する資料などが挙げられます。必要書類は家庭裁判所や事案によって異なるため、実際に申立てを行う際は、申立先の家庭裁判所の案内を確認しておきましょう。

 

補助人・保佐人・後見人や監督人に支払う報酬

法定後見制度では、成年後見人・保佐人・補助人が選任された場合、その職務内容に応じて報酬が発生することがあります。報酬は、本人と後見人等が自由に決めるものではなく、後見人等からの報酬付与の申立てを受けて、家庭裁判所が本人の財産状況や後見事務の内容などを踏まえて決定します。

親族が後見人等になる場合でも、家庭裁判所に報酬付与の申立てをすれば、報酬が認められることがあります。一方で、親族後見人が報酬を求めないケースもあります。専門職が後見人等に選任された場合には、通常、報酬付与の申立てが行われ、本人の財産から報酬が支払われることが一般的です。

東京家庭裁判所が公表している報酬額の目安では、通常の後見事務を行った場合の基本報酬について、管理財産額が1,000万円以下の場合は月額2万円、1,000万円を超え5,000万円以下の場合は月額3~4万円、5,000万円を超える場合は月額5~6万円が目安とされています。

また、不動産の売却、遺産分割、保険金の請求、訴訟対応など、通常の事務を超える特別な対応を行った場合には、基本報酬とは別に付加報酬が認められることがあります。反対に、財産額が少ない場合や事務内容が比較的簡単な場合には、報酬額が抑えられることもあります。

なお、監督人が選任されている場合には、成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人への報酬も発生することがあります。監督人への報酬も家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われます。報酬額の目安としては、管理財産額や監督事務の内容にもよりますが、一般的には月額1~3万円程度とされることが多く、財産額が多い場合や監督事務が複雑な場合には、それ以上となることもあります。そのため、法定後見制度を利用する際には、後見人等への報酬だけでなく、監督人が選任された場合の費用も見込んでおくと安心です。

 

専門家に依頼する場合の費用

法定後見制度の申立てでは、申立書、申立事情説明書、財産目録、収支予定表など、多くの書類を家庭裁判所へ提出します。本人や親族が自分で準備することもできますが、書類の作成や手続きに不安がある場合には、司法書士や弁護士への依頼を検討することになります。

ここで注意したいのが、行政書士の業務範囲です。行政書士は、官公署に提出する書類や権利義務・事実証明に関する書類を作成できますが、他の法律によって業務が制限されている書類は作成できません。法定後見の開始申立てに使用する書類は家庭裁判所へ提出する書類であるため、行政書士が報酬を得て作成したり、申立手続きを代理したりすることはできません。したがって、行政書士は、基本的に法定後見の申立手続そのものを請け負うことはできないと考える必要があります。

これは、申立書だけでなく、家庭裁判所へ一体として提出する申立事情説明書、財産目録、収支予定表などについても同様です。行政書士に「申立ての一部だけを作ってもらう」という形であっても、実質的に裁判所提出書類の作成に当たる場合には、行政書士の業務範囲を超える可能性があります。

一方、司法書士は、裁判所提出書類の作成を業務として行うことができます。そのため、申立人本人が手続きを進めながら、申立書類の作成を司法書士に依頼する方法が考えられます。ただし、司法書士は法定後見の家庭裁判所手続において、申立人の代理人として出席・対応することはできません。

弁護士は、申立書類の作成だけでなく、申立人の代理人として家庭裁判所とのやり取りに対応できます。親族間で後見人候補者について意見が対立している場合、本人の財産関係が複雑な場合、法的な問題を含む場合などは、弁護士への依頼が適していることがあります。

なお、専門家へ支払う報酬は、事務所や案件の難易度、収集する書類の量などによって異なります。一般的な目安として、司法書士に申立書類の作成を依頼する場合は10万円前後、弁護士に申立代理を依頼する場合は20万円前後と紹介されることがありますが、複雑な事情があるケースではさらに高くなることもあります。これとは別に、収入印紙、郵便切手、診断書、戸籍謄本などの実費が必要になるのが一般的です。

 

まとめ

法定後見制度は、本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所の審判によって支援者を選任する制度です。本人の状態に応じて、後見・保佐・補助の3つの種類があり、それぞれ支援の範囲や本人に残される権限が異なります。

なお、法定後見の申立てに関する家庭裁判所提出書類の作成や申立代理は、行政書士が請け負える業務ではありません。申立書類の作成を依頼したい場合は司法書士、家庭裁判所での手続き対応や紛争性のある事案まで含めて依頼したい場合は弁護士への相談を検討することになります。

一方で、将来の判断能力低下に備えてあらかじめ支援者を決めておきたい場合には、任意後見制度の利用も選択肢になります。任意後見契約や見守り契約、財産管理委任契約などを組み合わせることで、本人の希望に沿った備えをしやすくなる場合があります。

法定後見制度は、本人の権利や生活を守るための大切な制度です。ただし、一度開始すると長期にわたって続くことが多いため、制度の種類や費用、専門家の業務範囲を理解したうえで、本人にとって本当に必要な支援を慎重に検討しましょう。

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