任意後見人の報酬相場とは?制度の概要から契約締結にかかる費用まで行政書士が解説

任意後見制度とは

高齢化が進む日本では、認知症などにより判断能力が低下する方の増加が社会的課題となっています。裁判所の公表資料によると、近年の成年後見関係事件(後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人選任事件)の申立件数は増加傾向で、令和6年は約40,000件となりました。そのうち、任意後見監督人の選任申立て件数は、874件となっています。

任意後見制度とは、将来、認知症や病気などによって判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ自分で後見人(任意後見人)を選び、どのような支援を受けるかを契約で決めておく制度です。法定後見制度のように、判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任するのではなく、「元気なうちに自分で決めておく」ことが最大の特徴です。

また、任意後見契約は、本人の意思で契約を結んだことを保証するために、必ず公正証書によって作成する必要があります。そして、実際に判断能力が低下した段階で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることにより、契約が効力を生じます。

つまり、任意後見制度は「契約」と「家庭裁判所の関与」という二段階構造になっており、単なる私的な委任契約とは異なります。制度としての公的な担保がある一方で、自分の希望を反映できる柔軟性も備えています。

 

任意後見契約でできること

任意後見契約では、将来、判断能力が低下した際に任意後見人にどのような権限を与えるかをあらかじめ定めます。主な内容は、財産管理と身上監護(生活・療養看護に関する事務)です。

具体的には、預貯金の管理や各種支払い、不動産の管理・処分、介護施設との契約、医療契約の締結などが含まれます。契約内容は本人の意思に基づいて比較的柔軟に設計できるため、「財産管理だけを任せたい」「施設入所契約も含めたい」など、状況に応じた設計が可能です。

ただし、身分行為(婚姻や養子縁組など)を代理することはできず、あくまで財産管理と生活支援に関する法律行為が中心となります。

 

任意後見監督人とは

任意後見監督人とは、任意後見人の事務をチェック・監督する立場の人で、家庭裁判所が選任します。任意後見契約が発効するためには、この任意後見監督人の選任が必要です。

監督人は、任意後見人が適切に財産管理や身上監護を行っているかを確認し、不適切な運用があれば是正を求めます。いわば、本人の権利保護のための「ブレーキ役」とも言える存在です。

 

法定後見制度(成年後見・保佐・補助)との違い

法定後見制度は、認知症や病気などですでに判断能力が低下した方に対して、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。法定後見制度では家族が後見人に選任される場合もありますが、実際には全体の約8割のケースで弁護士や司法書士などの第三者が選任されています。家庭裁判所は、財産の額や家族関係、紛争の有無などを総合的に判断して選任を行うため、必ずしも家族が後見人になれるとは限りません。この点が、自ら後見人を指定できる任意後見制度との大きな違いの一つです。

では、「できること」に違いはあるのでしょうか。

結論からいうと、財産管理や身上監護(生活・療養看護に関する事務)という点では、法定後見でも任意後見と基本的に同様の支援を行うことが可能です。具体的には、預貯金の管理、不動産の管理・処分、各種契約の締結、介護施設への入所契約、医療契約など、日常生活や財産に関する法律行為を代理することができます。

ただし、大きな違いは「誰が後見人になるか」「権限の範囲をどこまで事前に決められるか」という点にあります。法定後見では、家庭裁判所が本人の状況に応じて後見人を選任し、成年後見・保佐・補助といった類型ごとに法律で定められた権限が付与されるため、本人が事前に細かく内容を設計することはできません。

これに対し、任意後見では、自分の信頼できる人を後見人として指定し、どの財産管理を任せるのかといった内容を契約で柔軟に定めることができます。「支援内容は大きくは同じだが、決め方とタイミングが違う」という点が、両制度の本質的な違いといえるでしょう。

 

家族信託との違い

家族信託は、財産を信託という仕組みに乗せて管理・承継する制度であり、家庭裁判所の関与は原則としてありません。委託者(本人)が信頼できる家族などを受託者として指定し、あらかじめ定めた信託契約の内容に従って財産を管理してもらう仕組みです。

家族信託でできることとしては、たとえば次のようなものがあります。

  • 賃貸アパートやマンションなど収益物件の管理・運営(家賃の受領、修繕契約の締結など)
  • 不動産の売却や買換えなどの不動産売買契約の締結
  • 金融機関との取引や資産の組み替え
  • 二次相続以降を見据えた財産・事業承継

このように、家族信託では契約で定めた範囲内であれば、受託者が本人に代わって比較的柔軟に財産の管理・処分を行うことが可能です。ただし、家族信託には身上監護権限(介護施設への入所契約や医療契約の締結など、生活や療養に関する法律行為を包括的に代理する権限)は含まれていません。

一方、任意後見制度でも不動産の売却などの財産処分行為を後見人に委ねることは可能です。ただし、任意後見契約に、財産処分行為について任意後見監督人の同意を要する旨の記載がなされているケースでは、後見人の判断のみでこれらの行為を行えないこともあります。

つまり、家族信託は契約設計次第で機動的な財産運用が可能である一方、任意後見は家庭裁判所や監督人の関与のもとで本人保護を重視する制度といえます。

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誰が任意後見人・監督人になれる?

結論からいうと、任意後見人は本人が信頼できる人を自由に選ぶことができます。 配偶者や子ども、兄弟姉妹などの親族はもちろん、長年の友人や専門職(行政書士・司法書士・弁護士・社会福祉士など)を指定することも可能です。さらに、一定の体制を整えている社会福祉法人やNPO法人などの法人を任意後見人として指定することもできます。

ただし、次のような欠格事由に該当する人は、任意後見人になることができません。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所から後見人等を解任されたことがある者
  • 破産者で復権を得ていない者
  • 本人に対して訴訟をしている者、またはその配偶者や直系血族
  • 行方不明である者
  • 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

これらに該当する人は、本人の財産や権利を適切に守ることができないおそれがあるとして、法律上あらかじめ排除されています。また、契約は締結できても、将来、任意後見監督人の選任申立てがなされた段階で、家庭裁判所が任意後見人として適格かどうかをあらためて審査します。家庭裁判所が「任意後見人として不適任である」と判断した場合には、結果として任意後見の開始が認められないことになります。この場合、新たに適任者を任意後見人として定め直したうえで、改めて任意後見監督人選任の申立てを行う必要が生じるため、契約時点で候補者の適格性を十分に検討しておくことが重要です。

一方、任意後見監督人は家庭裁判所が選任します。原則として最終的な選任権限は家庭裁判所にありますが、申立ての際に候補者の希望を伝えることは可能です。ただし、希望した人が必ず選任されるとは限りません。

任意後見監督人について希望がある場合は、あらかじめ任意後見契約の公正証書に候補者名や希望の趣旨を記載しておくことが重要です。家庭裁判所は選任にあたり、原則として本人の意向を確認し、その意思を尊重する運用がされています。そのため、公正証書に明確に記載しておくことで、希望が考慮されやすくなります。

一般的に、家庭裁判所は監督人の選任に関して次のような観点から審査を行うため、候補者の希望を出す場合には、これらの基準を満たす方を選ぶことが大切です。

  • 候補者の職業や経歴、専門性
  • 心身の状態や財産状況
  • 本人との間に利害対立がないか
  • 本人の意向や家族関係

ただし、実際には弁護士や司法書士などの専門職が任意後見監督人として選任されるケースが多いのが実情です。したがって、監督人の候補に関する希望を出す場合は、可能であれば専門職の中から信頼できる人を探しておき、公正証書にその旨を明記しておくことで、選任の可能性が高まると考えられます。

 

任意後見人・監督人に支払う報酬の相場

任意後見は契約に基づく制度であるため、任意後見人の報酬については契約で自由に定めることができます。

報酬の目安としては、親族が任意後見人になる場合は無償の場合も多く、報酬を設定する場合でも月額3万円以下が一般的です。一方、行政書士・司法書士・弁護士などの専門職が就任する場合は月額3~6万円程度が一つの相場といえます。ただし、財産額が大きい場合や、収益不動産の管理、複数口座の運用管理など事務内容が複雑な場合には、これを超えるケースもあります。

一方で、監督人の報酬は任意後見人とは異なり、契約で自由に決めるものではなく、家庭裁判所が本人の財産状況や事務内容を踏まえて決定します。一般的な目安は月額1~3万円程度とされますが、財産額が多額であったり、事務が複雑であったりする場合には、それ以上となることもあります。

なお、これらの報酬は、原則として本人(被後見人)の財産から支払われるものであり、家族が自らの資金で負担しなければならないわけではありません。任意後見制度は長期間にわたって継続する可能性があるため、契約前に報酬の相場感を把握し、自身の財産規模や家族状況に合った無理のない内容にしておくことが、安心して制度を利用するためのポイントといえるでしょう。

 

任意後見契約締結から発効までの流れと必要書類

ここでは、任意後見契約の締結から発効(任意後見の開始)までの流れと必要書類を、各段階ごとに整理します。

 

1. 契約内容の検討

まずは、どのような支援を将来任せたいのかを整理します。財産管理の範囲(預貯金管理、不動産管理・売却、収益物件の運営など)や、身上監護に関する契約(介護施設入所契約、医療契約の締結など)について、具体的に検討します。

 

2. 公証役場での任意後見契約公正証書の作成

任意後見契約は、必ず公正証書で作成しなければなりませんが、原則として全国どこの公証役場でも作成が可能です。ただし、事前の打ち合わせや書類のやり取りの負担を考えると、自宅や勤務先からアクセスしやすい公証役場を選ぶのが一般的です。

また、公証役場での手続きは原則として事前予約制です。まず電話で問い合わせを行い、任意後見契約を締結したい旨を伝えます。その後、必要書類を事前に提出し、公証人と契約内容について打ち合わせを行います。内容が固まった段階で、正式な作成日時を予約するという流れになります。

一般的に、公正証書の作成の際に必要となる書類は次のとおりです(公証役場によって求められる書類が若干異なることがあります)。

  • 本人の印鑑登録証明と実印
  • 本人の戸籍謄本(抄本)
  • 本人の住民票
  • 任意後見人予定者の印鑑登録証明と実印
  • 任意後見人予定者の住民票

作成当日は、公証人が本人に対して契約内容を一つひとつ確認し、「自らの意思で契約すること」「内容を十分に理解していること」を直接確認します。そのうえで、内容に誤りがなければ署名・押印をして契約が成立します。この段階で任意後見契約は正式に成立しますが、あくまで将来に備えた契約であり、まだ効力は発生していません。

また、任意後見契約の公正証書を作成後、公証人が法務局に対して後見登記の嘱託を行います。これにより、「任意後見契約が存在している」という事実が登記されます。この登記は、将来第三者が任意後見契約の有無を確認できるようにするための公的な記録となります。契約締結時の登記については、原則として公証人が嘱託を行うため、当事者が別途申請する必要はありません。

なお、病気などで公証役場へ出向くことが難しい場合には、公証人に出張してもらうこと(出張公証)も可能です。病院や自宅、介護施設などへ公証人が出向き、同様の手続きを行います。ただし、その場合は通常の手数料に加えて日当や交通費が発生します。また、判断能力が著しく低下している場合には、公証人が本人の意思を確認できず、公正証書を作成できないこともあります。そのため、任意後見契約は「元気なうちに」締結しておくことが極めて重要です。

 

3. 任意後見監督人選任の申し立て

本人の判断能力が低下した場合、家庭裁判所に対して「任意後見監督人選任」の申し立てを行います。なお、申し立てを行うことができるのは、主に次のような人です。

  • 本人
  • 任意後見受任者(任意後見人となる予定の者)
  • 本人の配偶者、四親等内の親族など

また、申し立ての際に必要となる主な書類は次のとおりです。

  • 任意後見監督人選任申立書
  • 任意後見契約公正証書の写し
  • 本人の戸籍謄本
  • 本人の成年後見等に関する登記事項証明書
  • 本人の判断能力に関する診断書
  • 本人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類等)
  • 任意後見監督人候補者の住民票等(必要に応じて)
  • 手数料分の収入印紙および各家庭裁判所が指定する額の郵便切手

申し立てが受理されると、家庭裁判所において申立人および任意後見受任者(任意後見人となる予定の者)との面接が行われます。また、本人についても、その意思や心身の状況を確認するために原則として家庭裁判所での面接が実施されます。本人が高齢や病気などの理由で来庁できない場合には、家庭裁判所調査官が自宅や入所施設を訪問し、状況確認を行うこともあります。

その後、家庭裁判所は提出された書類や診断書の内容、面接結果や調査内容などを総合的に検討し、任意後見監督人を選任すべきかどうかを判断します。判断結果は「審判書」という形で関係者へ郵送されます。

審判書が送達された後、一定期間(通常は2週間)の不服申立期間が経過すると審判は確定します。申立てから審判確定までの期間は事案や裁判所の混雑状況にもよりますが、おおむね1~2か月程度が目安となります。財産内容が複雑な場合や調査に時間を要する場合には、さらに期間がかかることもあります。

また、監督人の選任後には、家庭裁判所が法務局へ嘱託し、「任意後見が開始したこと」や「任意後見監督人の氏名等」が登記されます。登記の内容は、法務局で「後見登記事項証明書」を取得することで確認でき、金融機関や不動産取引などで任意後見人の権限を証明する際にも利用されます。

 

4. 任意後見の発効(開始)

家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で、任意後見契約は効力を生じます。ここから、任意後見人は契約内容に基づき、財産管理や身上監護に関する事務を行うことになります。

任意後見人は、定期的に(年間3~4回程度)監督人へ報告を行い、監督人も毎年1回、本人の誕生月に家庭裁判所へ報告します。こうして、公的な監督のもとで制度が運用されます。

 

任意後見契約の作成・締結から発効までにかかる費用

任意後見制度は、契約の作成から発効までの間に一定の費用がかかります。ここでは、法定費用と、専門家へ依頼する場合の費用を分けて整理します。

 

法定費用など

任意後見契約の締結および発効までに、一般的に必要となる主な法定費用は次のとおりです。これらを合計すると、契約締結から発効までの法定費用は、状況にもよりますが数万円程度が一つの目安となります。

  • 公証役場へ支払う費用:13,000円(公正証書作成手数料)+2,600円(法務局に納める収入印紙代)+1,600円(登記嘱託手数料)
  • 出張公証の場合の費用(本人が公証役場へ出向けない場合):6,500円(病床執務加算)+日当20,000円(4時間以内は10,000円)+交通費(実費)
  • 任意後見監督人選任申立ての手数料(収入印紙):800円
  • 登記手数料(収入印紙):1,400円
  • 郵便切手代:数千円程度(各家庭裁判所により異なる)
  • 戸籍謄本の取得費用:450円/1通
  • 住民票の取得費用:300円程度/1通(自治体により異なる)
  • 印鑑登録証明書の取得費用:300円程度/1通(自治体により異なる)

 

専門家に依頼する場合の費用

ここでは、先に解説した任意後見人や監督人に支払う月額報酬とは別に、契約書案の作成や制度設計、公証役場との調整などを専門家に依頼する際の費用をご紹介します。

任意後見契約の設計には、財産内容の整理、将来の生活設計、他制度(家族信託・遺言・見守り契約など)との関係調整などが必要となるため、専門家のサポートを受ける方も少なくありません。

費用の目安は、依頼する資格者によって次のような傾向があります。

  • 行政書士
    契約書案の作成、公証役場との事前調整、必要書類の案内などを行うことができ、費用相場は10~20万円程度が一般的です。任意後見監督人選任申立ての代理はできませんが、契約段階のサポートは可能です。
  • 司法書士
    契約書案の作成に加え、将来任意後見人が不動産を売却する場合の所有権移転登記手続の流れや必要書類の整理などについてアドバイスを行うことができ、費用相場は15~25万円程度が目安です。また、必要に応じて家庭裁判所への監督人選任の申立書類の作成支援も行うことができます。
  • 弁護士
    契約書案の作成から将来の紛争予防まで含めた包括的な法的助言が可能で、費用相場は20~30万円程度が目安です。必要に応じて任意後見監督人選任の代理申請も行うことができます。

 

まとめ

任意後見制度は、将来の判断能力の低下に備えて、あらかじめ自分で後見人を選び、支援内容を契約で定めておくことができる制度です。法定後見制度とは異なり、「誰に任せるか」「どこまで任せるか」を元気なうちに自分で決められる点が大きな特徴といえます。

自分や家族の状況、財産内容、将来の希望を整理したうえで、必要に応じて専門家の助言を受けながら、契約内容を設計していくことが望ましいでしょう。任意後見制度を正しく理解し、自分に合った形で活用することが、将来の備えにつながります。

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