深夜営業を始めるための許可手続きとは?必要書類と注意点を詳しく解説

酒類提供飲食店の深夜営業に関する基本情報

深夜帯(深夜0時~午前6時)にお酒を提供する飲食店を経営するには、通常の飲食店営業許可だけではなく、「深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書」(深夜酒類提供営業届出)を提出する必要があります。

ここでは、必要な手続きや深夜営業の届出が不要となるケース、さらに変更届・廃止届について解説します。

 

必要な許認可手続き

深夜に酒類を提供する飲食店を営業するためには、以下のような許認可手続きが必要です。

許認可の種類 根拠法 申請(届出)先
飲食店営業許可 食品衛生法 保健所
深夜における酒類提供飲食店営業開始届 風営法 警察署
消防関連の各種届出 消防法 消防署

 

なお、各手続きの概要は以下の通りです。

  1. 飲食店営業許可
    まず、営業を開始するには保健所での「飲食店営業許可」が必要です。これは、厨房や客席の衛生管理、給排水・換気などの設備が法律で定められた基準に適合していることを確認する手続きです。
  2. 深夜酒類提供営業の届出
    深夜0時から午前6時の間に酒類を提供する場合、営業開始の10日前までに、店舗所在地を管轄する警察署へ「深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書」を提出する必要があります。
  3. 消防署への届け出
    火気を使用する厨房設備を導入したり、店舗の改装・増築を行う際には、消防署への届出や防火設備の設置義務が生じることがあります。

 

深夜営業の届け出が必要なケースと不要なケース

深夜にお酒を提供する飲食店が「深夜酒類提供飲食店営業開始届」を提出しなければならないかどうかは、店舗の営業形態によって異なります。

たとえば、居酒屋やダイニングバー、立ち飲み屋、焼き鳥店など、お酒の提供を主な目的としている業態で、深夜0時を過ぎても営業を行う場合は届出が必要です。なお、深夜0時までの営業であれば、お酒を提供する場合でも飲食店営業許可の取得のみで営業ができます。

一方、ラーメン店やそば・うどん店、定食屋、牛丼屋、弁当屋、お好み焼き屋などのように、あくまで主食を中心に提供する飲食店については、アルコールを取り扱っていたとしても、その営業目的が食事にあると判断されるため、基本的に深夜酒類提供飲食店営業開始届は不要です。

ただし、たとえば日中は定食屋として営業し、深夜帯に酒類中心の提供へシフトする場合などは届出の対象となります。このように、深夜営業届出の要否は外見や名称だけでなく、実際の営業実態に基づいて判断される点に注意が必要です。

また、多種多様な酒類を取り扱っているレストランや、刺身などのおつまみメニューを豊富に取り揃えている寿司店などは届出が必要かどうかの判断が難しい場合があります。このような場合には、管轄の警察署へ相談するのが良いでしょう。

 

深夜営業酒類提供飲食店の変更届・廃止届とは

営業開始後に、下記のような変更が生じた場合は、変更があった日から10日以内に「深夜酒類提供飲食店営業変更届出書」を提出しなければなりません。

  • 法人の代表者の変更
  • 店名・屋号・所在地の変更
  • 営業所を改装して構造や設備を変える

また、店舗を閉店する場合は「廃止届出書」を廃止後10日以内に提出します。いずれも提出先は営業開始届と同じく所轄警察署の生活安全課です。

 

風営法上の「接待飲食店」が深夜営業の届出をすることはできる?

結論からいえば、風営法上の「接待行為」を伴う飲食店(接待飲食等営業)は、深夜酒類提供飲食店としての届出を行うことはできません。

詳しくは後述しますが、深夜酒類提供飲食店は、あくまでも「接待行為を行わない」ことが前提の営業形態です。一方、キャバクラやホストクラブのように、従業員が客席に付き、談笑やお酌を行うような接待を含む営業は、風俗営業の一種(1号営業)と位置づけられており、法律で午前0時以降(地域・時期によっては午前1時以降)の営業は禁止されています。

つまり、接待行為を伴う店舗が深夜0時を過ぎても営業したい場合、深夜酒類提供飲食店の制度を利用することはできず、法的に認められた営業形態が存在しないのが実情です。

 

酒類提供飲食店を深夜に営業するための要件

深夜の時間帯に酒類を提供する飲食店を営業するためには、法令によって定められた基準を満たす必要があります。

ここでは、深夜営業にあたって必要とされる要件を「立地」「設備」「その他の遵守事項」に分けて解説します。

 

立地の要件

深夜に酒類を提供する飲食店を営業する場合、店舗の立地にも一定の制限があります。具体的には、店舗の所在地がどの「用途地域」に分類されているかが重要です。

用途地域とは、都市計画法に基づいて定められる地域区分のことで、住宅地や商業地域、工業地域などの目的に応じた建築制限が課されています。深夜営業の届出ができるのは、各自治体の条例によって異なりますが、基本的に「商業地域」「近隣商業地域」「準工業地域」など、商業活動が認められている地域に限られます。

一方、「第一種低層住居専用地域」などのように名称に「住居専用地域」「住居地域」と付いている用途地域は、一般的に深夜酒類飲食店営業が禁止となっています。ただし、例外として「準住居地域」「住居地域」では、商業地域の周囲30m以内であれば、深夜酒類飲食店営業が認められています。

なお、用途地域の確認方法は、市町村の都市計画課などの窓口に問い合わせる他、自治体によってはインターネット上で地図が公開されている場合もあります。

 

設備の要件

深夜に営業する酒類提供飲食店は、次のような設備基準を満たす必要があります。

  • 客室の床面積が9.5平方メートル以上であること(客室の数が1室のみの場合は制限なし)
  • 客室に見通しを妨げる設備(壁や高さ1m以上のパーテーションなど)がないこと
  • 善良な風俗等を害するおそれのある写真、装飾等の設備がないこと
  • 客室の出入口に施錠の設備がないこと(店外に通じる出入口は除く)
  • 営業所の照度が20ルクス以上であること
  • 騒音・振動の数値が条例で定める基準以下であること

 

その他の遵守事項

営業を開始した後も、店舗運営において遵守すべきルールがあります。その一つが、従業員名簿の備え付けです。

店舗では、従業員全員の氏名・住所・生年月日・本籍・勤務開始日・業務内容などを記載した名簿を作成し、帳簿として営業所に備え付けておく必要があります。この名簿は、警察などの立入検査があった際に提示を求められることがあり、適切に管理していないと行政指導の対象となることもあります。

 

深夜における酒類提供飲食店の禁止事項と罰則

酒類提供飲食店の深夜営業は、地域の治安や公序良俗への配慮が強く求められるため、法律によって様々な禁止事項が定められています。

ここでは、具体的に禁止されている行為と、それに違反した場合に科される罰則について詳しく解説します。

 

禁止事項

接待行為

深夜酒類提供飲食店は、あくまでも「飲食店」でなければならないため、風営法に基づく「接待」を行うことは固く禁じられています。ここでいう接待とは、単なる接客ではなく、客を楽しませ、もてなすための行為を指します。

たとえば、客の隣に座って談笑したり、飲酒をともにする行為はもちろん、カラオケのデュエットを一緒に歌う、客の歌に手拍子や拍手をする、客と一緒に踊る、ショーやパフォーマンスを見せる、さらには客の手を握るなどの身体的接触もすべて「接待」に該当し、法律で禁止されています。

このような行為を行うためには風俗営業としての許可が必要となり、深夜酒類提供飲食店の届出のみで行うと違法営業となるため、厳重な注意が必要です。

 

深夜0時以降に客に遊興をさせること

深夜0時を過ぎてから、客にダンスやカラオケ、ゲームなどを“積極的に”楽しませる行為は、風営法上は「特定遊興飲食店営業」に該当し、深夜酒類提供飲食店の届出だけでは実施できません。ここでいう「遊興させる」とは、店舗側が主体となって積極的に客を遊びに巻き込み、盛り上げる演出を行うことがポイントです。

具体的には、次のようなケースが「積極的な遊興」に当たります。

  • ライブ演奏の実施:シンガーやバンドがその場で生演奏を披露し、不特定の客に鑑賞させる
  • ダンスフロアの設置と演出:音楽や照明を用意し、客にダンスを勧めたり、スタッフが一緒に踊って盛り上げる
  • カラオケの勧奨と演出:客にマイクを渡して歌うよう促し、照明を操作したり、合いの手や掛け声で盛り上げる
  • のど自慢・ゲーム大会の開催:ダーツ大会やクイズ、ビンゴなどのゲーム・競技に客を参加させ、景品や称賛で熱気を煽る
  • スポーツ観戦の応援呼びかけ:大型モニターで流す試合映像に合わせ、客に一体感のある応援を促す

このような演出を行う場合は、通常の届出ではなく「特定遊興飲食店営業許可」を事前に取得しなければ違法営業となります。

一方で、店舗側が遊興を積極的に勧めない場合は規制の対象外です。たとえば、以下のような提供形態であれば、深夜酒類提供飲食店としての届出のみで運営が可能です。

  • 店内BGMとして録音音源を流すだけ
  • カラオケの機械を設置しているが、店員が積極的に歌唱を勧めることはなく、客が自発的に歌いたいと申し出た場合に店員が機械を操作したり、マイクを手渡す
  • テレビモニターでスポーツ中継を流し、客が勝手に盛り上がる
  • ビリヤードやダーツ等の設備を設置し、客が自由に利用する

 

その他の禁止事項

また、上記以外にも以下のような行為が禁止されています。

  • 18歳未満の者を午後10時から翌日の日出時までの間に働かせること
  • 18歳未満の者を午後10時から翌日の日出時までの間に客として立ち入らせること(保護者同伴の場合を除く)
  • 客引き行為
  • 20歳未満の者へ酒やたばこを提供すること

 

罰則

これらの禁止事項に違反した場合、風営法や関係法令に基づく行政処分や刑事罰が科される可能性があります。たとえば、「深夜酒類提供飲食店営業開始届」を提出せずに営業を行った場合、50万円以下の罰金や、悪質な場合は最長6か月の業務停止命令を受ける可能性があります。

その他にも、上記の禁止事項に違反した場合には、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

 

届け出に必要な書類

深夜における酒類提供飲食店として営業を開始するためには、各種書類を警察署に提出する必要があります。

以下は、届出に際して一般的に求められる主な書類の一覧です。

  • 深夜における酒類提供飲食店営業開始届出書:店舗の所在地や床面積・客席数、申請者の氏名や住所などを記載する届出の主書類です。
  • 営業の方法を記載した書面:営業時間や提供する酒の種類・提供方法などを詳細に記載します。
  • 営業所の平面図・配置図:店内のレイアウトや設備の配置を示す図面が必要です。客室、トイレ、出入口の位置などを明記します。
  • 用途地域を証明する資料:店舗の所在地が、深夜酒類提供飲食店営業が許可される用途地域であることを証明するために、提出を求められる場合があります。市区町村の都市計画課等で取得可能です。
  • 賃貸借契約書(店舗を賃借している場合):店舗を借りて営業する場合は、契約者名と契約内容が確認できる契約書の写しを求められる場合があります。
  • 定款の写しおよび法人登記事項証明書(法人営業の場合)
  • 住民票の写し(個人営業の場合)

必要書類は警察署によって若干の違いがあるため、事前に所轄の生活安全課に確認することが重要です。また、書類作成には一定の専門知識が求められるため、不安がある場合は行政書士に相談するのもひとつの手段です。

 

深夜酒類提供飲食店の届出にかかる費用

深夜酒類提供飲食店の営業を開始するにあたっては、警察署への届出が必要ですが、この手続きにかかる費用は「法定費用」と「行政書士へ依頼する場合の費用」の2つに分けられます。

ここでは、それぞれの費用相場について見ていきましょう。

 

法定費用

深夜酒類提供飲食店営業開始届は、許可制ではなく「届出制」であるため、保健所での飲食店営業許可とは異なり、警察署への提出時に手数料や印紙代などの費用は発生しません。つまり、警察署への届出自体は無料です。

ただし、届出書類の作成や添付書類に関して以下のような実費がかかる場合があります。

  • 用途地域証明書の取得費用:数百円〜1,000円程度
  • 住民票や登記事項証明書の取得費用:300〜600円程度(1通あたり)

 

行政書士に依頼する場合の費用

書類の作成や警察署への届出を行政書士に依頼する場合、次のような報酬が発生します。

  • 報酬相場:おおよそ50,000円〜100,000円程度

報酬額は地域や事務所の規模、サポート内容(書類作成のみか、同行・相談含むか)によって異なります。特に用途地域証明の取得代行や図面作成の有無などにより変動する点も留意しておくとよいでしょう。

 

まとめ

深夜にお酒を提供する飲食店を営業するには、単に飲食店営業許可を取得するだけでは不十分であり、深夜酒類提供飲食店営業開始届の提出が必要です。特に、居酒屋やバーなど、アルコールを主として提供し、深夜0時以降も営業する店舗は、法令上の規制や要件を正確に理解しておくことが不可欠です。

届け出の際には準備すべき書類や図面、確認すべき要件が多いため、初めての手続きに不安を感じる方は行政書士に相談するのも一つの方法です。専門家のサポートを受けることで、手続きの漏れやミスを防ぎ、スムーズな開業を実現することができます。

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