事業年度終了届とは?提出の流れや注意点を徹底解説

建設業許可とは

建設業を営むためには、「建設業法」に基づいて国または都道府県から許可を取得する必要があります。

この許可制度は、建設工事の適正な施工を確保し、発注者や社会全体の利益を守るために設けられているものです。許可を取得することで、公共工事の入札への参加や一定規模以上の民間工事の受注が可能となります。

ここでは、まずは建設業許可について簡単にご説明します。

 

建設業許可の種類

建設業許可は、請け負う工事の規模や立場に応じて「一般建設業許可」と「特定建設業許可」に分類されます。

  • 一般建設業許可:主に下請業者として工事を行うことを想定している許可です。元請業者として工事を行う場合でも、下請に出す金額が一定額(1件あたり5,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円))を超えない範囲であれば、この許可で対応可能です。
  • 特定建設業許可:元請業者として1件あたり5,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円)以上の工事を下請に出す場合に必要な許可です。より高い資本要件や経営管理能力が求められます。

また、営業所の所在地に応じて「知事許可」と「大臣許可」に分かれます。1つの都道府県内にしか営業所がない場合は知事許可、複数の都道府県に営業所がある場合は国土交通大臣の許可が必要です。

 

建設業許可の「業種」とは

建設業許可は、29業種(2025年現在)に分類されており、業種ごとに許可を受ける必要があります。主な業種には以下のようなものがあります。

  • 土木一式工事
  • 建築一式工事
  • とび・土工・コンクリート工事
  • 電気工事
  • 管工事
  • 内装仕上工事

たとえば、「建築一式工事」と「電気工事」の両方を請け負いたい場合、それぞれの業種で許可を取得しなければなりません。また、各業種ごとに専任技術者を配置する必要があるため、人的体制の整備も求められます。

 

事業年度終了届(決算変更届)の概要

建設業許可を取得した後、毎年の事業年度が終了するたびに提出が義務付けられているのが「決算変更届(通称:事業年度終了届」です。

 

目的

この届出の最大の目的は、建設業者の経営状況や工事実績の変化を行政が正しく把握し、建設業の健全な運営と透明性を確保することにあります。

事業年度終了届が提出されていなければ、建設業許可の更新手続きや公共工事の入札に参加するために必要な手続きが行えなくなってしまうため、建設業者にとっては単なる「報告」ではなく、事業の維持に直結する重要な義務と言えるでしょう。

 

提出先と提出期限

事業年度終了届の提出先は、建設業許可の種別によって異なります。

  • 知事許可の場合:営業所がある都道府県の建設業担当課
  • 大臣許可の場合:各地方整備局など、国土交通省の出先機関

提出期限は、事業年度終了日から4か月以内と定められています。たとえば、3月末が決算の法人の場合は7月末、個人事業主の場合は4月末が提出期限となります。なお、期限までに提出しなかった場合のペナルティや不利益については後述します。

 

事業年度終了届に関する注意点

事業年度終了届は、建設業者にとって単なる提出義務ではなく、事業の維持に必要な手続きを行うためや、他者への情報源とするために重要な手続きです。

ここでは、事業年度終了届に関して知っておくべきポイントを解説します。

 

誰でも閲覧できる

事業年度終了届は、行政庁で誰でも閲覧できる「公開文書」に該当します。これは、建設業法に基づき、建設業者の健全性や施工実績などを、発注者や一般市民が自由に確認できるようにするための措置です。

特に、元請業者としての取引先や金融機関が、信用調査の一環として閲覧するケースが多いため、記載内容が事業イメージに直結する重要書類であることを意識して作成する必要があります。

 

事業年度終了届の閲覧方法

閲覧を希望する場合、事業者の所在地を管轄する都道府県の窓口で申請すれば、原則としてその場で閲覧が可能です。紙での閲覧の場合、各自治体によって具体的な金額は異なりますが、通常数百円程度の手数料がかかります。

加えて、電子申請システム「JCIP(https://prod-internet.jcip.mlit.go.jp/Client/)」を利用することで、オンラインでの閲覧も可能になっています。ただし、事業年度終了届の提出が紙媒体でなされた場合にはJCIP上での閲覧対象外となりますので、その場合には各自治体の窓口に出向いて紙の書類を閲覧する必要があります。なお、JCIPの手数料は無料となっているため、まずはJCIPで閲覧したい事業者を検索してみるのが良いでしょう。

ちなみに、建設業法に基づいて閲覧できる内容には制限があります。財務諸表や工事経歴書などは公開されますが、役員や専任技術者の住所が記載された書類など、個人情報に関わるものは公開対象外とされています。

 

提出が遅れるとどうなる?

事業年度終了届の提出が遅れると、建設業者にとって深刻な不利益が生じることがあります。以下では、特に重要な4つの影響について解説します。

 

建設業許可の更新ができない

建設業許可は、5年ごとの更新が必要です。更新申請を行う際には、過去5年分の事業年度終了届がすべて適正に提出されていることが前提となります。もし未提出の状態があると、更新申請自体が受理されませんので、注意が必要です。

つまり、届出を怠ることで事実上の「許可失効」につながりかねず、営業の継続ができなくなる可能性もあるのです。

 

業種の追加ができない

新たに他の工事業種の許可を取得したい場合、業種追加申請を行う必要がありますが、その際も事業年度終了届の提出状況がチェックされます。過年度分の未提出があると、追加の許可申請が受け付けられないため、業務拡大を妨げる原因となります。

 

経営事項審査を受けられない

公共工事の入札に必要となる「経営事項審査(通称:経審)」も、事業年度終了届の提出が前提条件です。決算内容が未報告である場合、審査を受けることができず、結果的に入札に参加できないという事態を招きます。

特に経審を毎年受けている建設業者にとっては、届出の遅延がスケジュール全体に影響するため、早めの準備と提出が不可欠です。

 

刑事罰

事業年度終了届の未提出は、建設業法に基づく「報告義務違反」に該当し、場合によっては6か月以下の懲役または100万円以下の罰金に処される可能性もあります。

また、重大な違反として扱われた場合には、行政指導や入札の指名停止などの不利益処分が下されることもあり、会社の信用にも大きな影響を与えます。

 

事業年度終了届の必要書類

事業年度終了届(決算変更届)を提出する際には、一定の様式に基づいた複数の書類を準備しなければなりません。

なお、それぞれの様式については各自治体のホームページでダウンロードできる他、一般財団法人建設業情報管理センターのホームページ(https://www.ciic.or.jp/analysis/soft/keishinplus/)にて、各種書類の作成ができるソフトウェアを無料で利用できます。

ここでは、一般的に提出する書類について解説します。

 

決算変更届

決算変更届には、建設業許可番号、法人番号、届出者の氏名、事業年度の期間、添付する書類などを記載します。

様式は各自治体によって異なりますので、各都道府県のホームページでダウンロードして使用するのがおすすめです。

 

工事経歴書(様式第2号)

工事経歴書は、直近の1年間に施工した工事内容を記載する書類です。建設業許可の業種ごとに別の用紙に分け、工事件名・発注者・施工場所・配置技術者・請負金額・着工・工事期間などを記載しなければなりません。

さらに、経営事項審査(経審)を受ける予定のある事業者の方は注意が必要です。請負金額の欄はすべて「税抜き」で記載しなければならないことになっており、さらに工事経歴書に記載する工事の条件や順序が細かく決められています。

具体的には、「まずは元請工事について、元請工事の合計額の7割を超えるところまで金額の大きい順に記載し、その後、下請工事について下請工事の合計額の7割を超えるところまで金額の大きい順に記載する」などの詳細なルールがあります。

なお、経営事項審査を受けない場合にはそれほど複雑ではなく、元請・下請の区別なく金額の大きい順に記載すれば完成です。また、「税込み」「税抜き」の決まりも特にありません。

 

直前3年の各事業年度における工事施工金額(様式第3号)

この書類は、直近3年の各事業年度における工事施工金額の合計を「元請」「下請」、「公共工事」「民間工事」などの区分ごとに記載するものです。

複数の業種の許可を取得している場合には、各事業年度ごとにそれぞれの業種別の合計金額を記載します。また、軽微な工事(1件500万円(建築一式工事の場合は1,500万円)未満)については「その他の建設工事の施工金額」の欄にまとめて記載することになっています。

こちらも「工事経歴書」と同様に、経営事項審査(経審)を受ける予定がある場合は請負金額を「税抜き」で記載しなければなりません。なお、経営事項審査を受けない場合でも、すべての書類を「税込み」または「税抜き」に統一しなければならない点には注意をしましょう。

 

財務諸表

事業年度終了届には、直近の事業年度の財務諸表から以下の2点(または4点)を添付する必要があります。

特に「貸借対照表」と「損益計算書」には注意が必要で、税理士等が作成した決算書をもとに、建設業特有の勘定項目に分類しなおす必要があります。この作業は建設業会計に関する知識を必要とするだけでなく、非常に煩雑なものです。

また、これらの書類は法人と個人で提出する様式が異なりますので注意しましょう。

 

貸借対照表(法人の場合は様式第15号、個人の場合は様式第18号)

貸借対照表(バランスシート)は、事業年度末時点における企業の財政状態を一覧で示すものです。具体的には「資産(何を持っているか)」「負債(どれだけ借金があるか)」「純資産(会社の自己資本)」の3つの項目で構成されます。

 

損益計算書(法人の場合は様式第16号、個人の場合は様式第19号)

損益計算書(P/L)は、1年間の経営活動における収益と費用の発生状況をまとめ、最終的な利益(または損失)を算出するための書類です。売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益・費用、特別損益などが記載され、企業の収益性や経営効率を示す基本的な資料となります。

建設業においては、完成工事高や原価の算定方法(工事進行基準・工事完成基準)によって収益認識が異なるため、建設業用の分類に沿った正確な仕訳・記載が必要です。

 

【法人のみ】株主資本等変動計算書(様式第17号)

株主資本等変動計算書は、会社の純資産の部における構成要素(資本金、資本剰余金、利益剰余金など)の変動状況を明らかにするための資料です。主に、出資、配当、利益の繰越、繰越損失の処理など、株主資本に関わる会計処理がどのように行われたかを整理します。

 

【法人のみ】注記表(様式第17号の2)

注記表は、財務諸表に記載された数値の背景や補足情報を記載するための書類で、財務の透明性を高める重要な役割を果たします。たとえば、重要な会計方針の選定理由やリース取引・税効果会計・関係会社との取引などの詳細が記載されます。

 

事業報告書(株式会社のみ)

株式会社である場合は、上記に加えて「事業報告書」の提出も必要です。こちらは特に決まった様式はなく、記載事項にも指定はありませんが、以下のような内容を記載するのが一般的です。

  • 会社名
  • 許可番号
  • 決算日と期数
  • 会社概要(役員・従業員数、株主、営業所など)
  • 概況
  • 実績・見込みを含む過去3期程度の業績

 

納税証明書

建設業許可の種類や法人・個人事業主によって、以下のような納税証明書の添付が求められます。また、それぞれの取得場所についても表にまとめました。

いずれも窓口での取得の他、郵送での取得も可能ですが、その場合は1週間程度時間がかかりますので、余裕をもって準備を進めておく必要があります。

 

建設業許可の種類 事業者の区分 納税証明書の名称 取得場所
知事 法人 法人事業税の納税証明書 各都道府県の県税事務所
個人事業 個人事業税の納税証明書 各都道府県の県税事務所
大臣 法人 法人税の納税証明書(その1) 事業所を管轄する税務署
個人事業 所得税納税証明書 事業所を管轄する税務署

 

事業年度終了届を行政書士に依頼する場合の費用

事業年度終了届を行政書士に依頼する場合、依頼費用は業務の範囲や地域、会社の規模によって異なりますが、一般的には3万円〜6万円程度が相場とされています。内訳としては、以下のような内容が含まれるのが一般的です。

  • 決算変更届や工事経歴書、財務諸表の作成または確認
  • 必要書類の収集サポート(税務署発行の納税証明書など)
  • 提出先への提出代行(電子、郵送または持参)

 

事業年度終了届の提出の流れ

ここでは、事業年度終了届(決算変更届)提出までの流れを解説します。

 

1. 決算終了後、速やかに準備を開始

建設業においては、事業年度が終了した日から4か月以内に事業年度終了届を提出する必要があります。したがって、決算が締まったタイミングで、すぐに準備を始めることが望ましいでしょう。まずは税理士や経理担当者から決算内容の資料を受け取りましょう。

 

2. 必要書類の収集・作成

提出に必要な書類は多岐にわたります。特に、工事経歴書や財務諸表(貸借対照表、損益計算書)の作成は煩雑で手間と時間がかかるため、余裕をもって作成に取り掛かりましょう。

 

3. 所管行政庁への提出

書類が揃ったら、建設業許可を受けた都道府県または国土交通大臣(一般・特定の区分による)へ提出します。窓口や郵送での提出も可能ですが、2025年6月現在、全国のほとんどの自治体で電子申請「JCIP(https://prod-internet.jcip.mlit.go.jp/Client/)」にも対応しています。

 

まとめ

事業年度終了届(決算変更届)は、建設業を営むすべての許可業者にとって、毎年必ず提出しなければならない重要な法定手続きです。この届出を怠ると、建設業許可の更新や業種追加、経営事項審査の申請ができなくなるほか、場合によっては罰則を受けることもあります。つまり、単なる年次報告書類ではなく、事業継続や信用維持に直結する重要書類だといえるでしょう。

もし事務手続きに不安がある場合は、行政書士に依頼することで、書類作成から提出代行まで一貫したサポートを受けることができます。行政書士のサポートを活用することで、手続きの確実性を高め、事業運営に専念できる環境を整えることが可能です。

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