はじめに
法務省の司法統計や家庭裁判所の公表資料を見ると、遺産分割に関する調停・審判の件数は毎年一定数存在しており、相続によって家族関係がこじれてしまうケースが少なくないことが分かります。こうした背景から、近年は「相続対策」や「終活」の一環として、遺言書の作成に関心を持つ方が増えています。
一方で、実際に遺言書を作成している人の割合は、決して高いとはいえません。民間の調査や相続関連の統計データでは、「遺言書を作成している」と回答した人は全体の一部にとどまっており、多くの方が「必要性は感じているが、何から始めればよいか分からない」「まだ早いのではないか」といった理由から、具体的な行動に踏み出せていないのが実情です。
しかし、遺言書は必ずしも多額の財産を持つ人だけのものではありません。相続人が複数いる場合や、特定の人に多く財産を残したい場合、あるいは相続人以外の人に財産を渡したい場合など、遺言書があることで相続手続きが円滑に進む場面は数多くあります。遺言書を通じて自分の意思を明確に残しておくことは、残される家族への配慮であり、将来のトラブルを未然に防ぐ有効な手段といえるでしょう。
本記事では、まず遺言書とは何かという基本的な考え方から整理し、遺言書の種類や作成方法について分かりやすく解説していきます。そのうえで、行政書士がどのように遺言書作成をサポートできるのかについても紹介します。遺言書の作成を検討し始めた方にとって、本記事がお役に立てば幸いです。
遺言書とは
遺言書とは、自分の死亡後に財産をどのように分けるか、誰に何を残すかといった意思を法的に有効な形で残すための書面です。遺言書があることで、相続人同士での話し合い(遺産分割協議)を省略できる場合があり、相続手続きを円滑に進める大きな助けとなります。ただし、民法では一定の方式を満たした遺言書のみが有効とされており、形式を誤ると遺言の内容が無効となってしまう点には注意が必要です。
遺言書の種類
遺言書にはいくつかの種類があり、それぞれ作成方法や特徴、メリット・注意点が異なります。代表的な遺言書の種類とその特徴を、以下の表で整理します。
| 遺言書の種類 | 作成方法 | 主な特徴・メリット | 注意点・デメリット |
| 自筆証書遺言 | 遺言者が全文を自筆で作成 | 費用をかけずに作成でき、思い立ったときにすぐ書ける。内容を誰にも知られずに作成できる点も特徴。 | 形式不備による無効リスクが高い。相続発生後は家庭裁判所での検認が必要。紛失・改ざんのおそれがある。 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成(証人2名以上が立会い) | 公証人が関与するため形式不備の心配が少なく、原本が公証役場に保管される。家庭裁判所での検認が不要で、相続手続きがスムーズ。証人は、相続人や受遺者など利害関係者を避け、内容を客観的に確認できる第三者(知人や専門職など)に依頼するのが一般的。 | 作成に費用がかかる。内容を第三者(公証人・証人)に知られる。 |
| 秘密証書遺言 | 遺言内容を秘密にしたまま公証人が関与 | 遺言の内容自体は公証人や証人に知られないまま封印される一方で、公証人が関与することで「遺言書が作成された事実」や作成日付が公的に証明される点が特徴。 | 実際の利用は少なく、形式不備のリスクが残る。相続発生後は家庭裁判所での検認が必要。 |
| 自筆証書遺言(法務局保管制度) | 自筆証書遺言を法務局に預ける | 法務局で保管されるため紛失・改ざんの心配がない。家庭裁判所での検認が不要。 | 内容の有効性まではチェックされないため、記載内容によっては無効となる可能性がある。 |
遺言書の作成方法
遺言書を作成するにあたっては、事前準備を丁寧に行うことが非常に重要です。そこで、まず行っておきたいのが財産の整理です。不動産、預貯金、有価証券、負債など、自分がどのような財産を保有しているのかを一覧にして把握します。この時整理した内容を「財産目録」として作成しておくと、遺言書に添付して使用できるため、便利です。なお、財産目録についてはパソコンで作成したものを印刷して遺言書に同封することが認められています。特に財産が多岐にわたる場合や、内容が変動しやすい場合には、一覧表として整理しておくことで、遺言書本文を簡潔にまとめやすくなります。
次に重要なのが、法定相続人の確認です。親族と疎遠になっている場合や、代襲相続(すでに亡くなった相続人に代わって、その子どもが相続人となること)が見込まれる場合などには、相続関係が複雑になりがちです。誰が相続人になるのかを正確に把握せずに遺言書を作成すると、想定していなかった相続人が現れ、遺言内容が十分に機能しないこともあります。
あわせて、遺留分の確認も欠かせません。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分のことです。遺言によって特定の人に財産を集中させた場合でも、遺留分を侵害していると、相続開始後に遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。遺言の内容を検討する段階で、遺留分に配慮した設計をしておくことが、紛争防止につながります。
さらに、相続人の正確な住所・氏名の確認も重要な準備事項です。住所や氏名が不正確なままだと、相続手続きの際に本人特定が難しくなり、金融機関や登記手続きで支障が生じることがあります。住民票や戸籍の記載をもとに、できる限り正確な情報を確認しておきましょう。
こうした事前準備を踏まえたうえで、遺言書の作成に進みます。遺言書を書く際には、白い便箋等の用紙を使用し、消えにくい黒または青のボールペンや万年筆などを用いるのが一般的です。鉛筆や消えるボールペンは、改ざんや消失のおそれがあるため避けるべきです。特に自筆証書遺言の場合は、遺言の本文をパソコンで作成することはできず、財産目録以外の全文を遺言者本人が手書きする必要があります。パソコンで作成・印刷した本文は、たとえ署名や押印があっても無効となるため注意が必要です。
遺言書に記載する内容
遺言書には、誰に、どの財産を、どのように引き継がせるのかを明確に記載することが求められます。具体的には、相続人や受遺者の氏名、続柄、財産の内容や所在などを特定できる形で記載し、解釈の余地が生じないようにすることが重要です。また、必要に応じて、遺言執行者の指定や、付言事項として遺言に込めた思いを記すことも考えられます。
具体的な記載方法については以下のコラムで詳しく解説していますので、ご参考にしていただければ幸いです。
【文章例付き】遺言書の正しい書き方を徹底解説!法的効力を持たせるためのポイント
行政書士による遺言書作成サポートとは
遺言書の作成は、事前の準備や法的な要件の確認、公正証書化の手続きなど、複数の工程を伴います。行政書士は、こうした一連の流れについて、遺言者の意向を確認しながら実務面を中心にサポートすることができる専門家です。
具体的には、まず遺言作成の事前準備段階として、財産内容の整理や法定相続人関係の確認、遺留分への配慮が必要かどうかといった点について助言を行います。そのうえで、遺言者の希望を踏まえた遺言書の文案作成を行い、法的に無効となるおそれがないか、表現が曖昧になっていないかといった観点から内容をチェックします。
公正証書遺言を作成する場合には、公証人との事前打ち合わせや必要書類の整理、証人の手配に関する助言なども行政書士のサポート対象となります。遺言者本人が直接公証役場に出向く前に、内容や手続きを整えておくことで、当日の手続きが円滑に進みやすくなります。
なお、これらのサポートに対する報酬の目安としては、自筆証書遺言の作成支援の場合には、財産・相続関係の整理や文案作成、文書形式の確認などを中心に、3~7万円程度が一般的です。一方、公正証書遺言の作成支援では、公証人との事前調整や必要書類の整理、証人に関する助言など業務範囲が広がるため、8~15万円程度が目安となります。また、公正証書遺言の場合には、行政書士報酬とは別に、公証役場へ支払う手数料が必要となります。公証人手数料は、遺言に記載する財産の額や相続人の数に応じて計算式が定められており、例えば、財産総額1億円の場合はおよそ6万円~が目安となります。
なお、遺言書作成に関わる専門家には、行政書士のほかにも司法書士や税理士がいますが、それぞれ役割が異なります。司法書士は、不動産の名義変更など相続発生後の登記手続きを担う専門家であり、遺言書作成そのものよりも、相続開始後の実務に強みがあります。一方、税理士は相続税の申告や節税対策を専門とする資格で、財産規模が大きく相続税が問題となる場合には頼りになる存在です。行政書士は、必要に応じてこれらの士業と連携しながら、遺言書作成の入口となる部分を担う役割を果たします。
まとめ
遺言書は、自分の意思を法的に有効な形で残し、相続を円滑に進めるための重要な手段です。相続トラブルは特別な家庭に限らず、誰にでも起こり得るものであり、遺言書を作成しておくことで、相続人同士の無用な争いを防ぐことができます。
行政書士は、遺言書作成の準備段階から文案作成、公正証書化に向けた調整までをサポートできる専門家です。自筆証書遺言・公正証書遺言のいずれにおいても、無効になるリスクを下げ、遺言者の意思を正確に反映させるための支援を行うことができます。必要に応じて司法書士や税理士と連携することで、相続発生後の手続きや税務面まで見据えた対応も可能になります。
遺言書の作成は、元気なうちに準備しておくことこそが家族への最大の配慮といえます。将来に備え、自分に合った方法で遺言書作成を検討してみてはいかがでしょうか。
関連コラムはこちら↓
【文章例付き】遺言書の正しい書き方を徹底解説!法的効力を持たせるためのポイント相続トラブルを防ぐ!行政書士による遺言執行の流れと注意点遺言書の種類を徹底解説!法的効力の違いや作成時の注意点

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)