預金相続手続きの注意点とは?必要書類や手続きのポイントを徹底解説

はじめに

日本は世界有数の長寿国であり、高齢化の進展に伴って相続に関する手続きはますます重要なテーマとなっています。実際、厚生労働省の統計によると年間で約160万人が亡くなっており、そのたびに相続が発生します。国税庁のデータによれば、直近の相続税申告の対象件数は年間およそ12万件に達しており、これは全相続件数の約9%にあたります。つまり、大半の家庭では相続税が発生しないものの、相続そのものの手続きはほぼすべての家庭に関わる重要なものといえます。

また、相続に関する実態調査では、相続財産の平均額は約3,000万円前後、中央値では1,600万円程度とされています。そして、その内訳を見ると不動産と現預金が占める割合が非常に高く、全体の30~40%以上を現金・預金が占めるというデータもあります。そのため、預金相続の手続きは実務の中でも特に身近で重要な位置づけを持っているのです。

本記事では、預金相続の基本的な仕組みや手続きの流れ、必要書類、注意点、さらに費用面についても詳しく解説していきます。

 

預金相続とは

預金相続とは、被相続人(亡くなった方)が残した銀行預金を相続人に引き継ぐための一連の手続きを指します。

ここでは、銀行口座が凍結される理由、家族が無断で引き出した場合のリスク、そして実際に誰が手続きを行うのかについて解説します。

 

銀行はなぜ口座を凍結するの?

名義人が亡くなったことが銀行に届出されると、その口座は直ちに凍結されます。

これは、不正な出金による相続人間のトラブルを防ぎ、正当な相続手続きを経て資産を分配するための措置です。もし凍結されずに自由に出金できる状態であれば、一部の相続人が勝手に預金を引き出すなど不公平な事態が生じかねません。したがって、口座凍結は相続人全員の権利を守るための重要な仕組みといえるでしょう。

 

家族の死後に預金を勝手に引き出すとどうなる?

親族が被相続人のキャッシュカードを利用して、口座凍結前に預金を引き出すケースも見られます。

しかし、こうした行為は「不正出金」と見なされる可能性が高く、後に返還を求められたり、場合によっては法的責任を問われるリスクがあります。さらに、相続人同士の関係に不信感を生む要因となり、トラブルの火種になることも少なくありません。したがって、口座凍結前であっても本人の死亡後に勝手に預金を引き出すことは避けましょう。

 

預金相続の手続きは誰がやる?

預金相続は、相続人全員が合意した方法で預金を分配する必要がありますが、実務上は代表者を一人決め、その人が銀行に申請書類を提出するケースが多いです。

相続人の一部が海外に住んでいる場合や高齢で外出が困難な場合でも、郵送や代理人を通じて手続きに参加することが可能です。代理人になれる人は各銀行の定めるルールによりますが、一般的には弁護士や司法書士、行政書士などの専門家、または相続人から信頼を得て委任を受けた親族です。

 

預金相続手続きの必要書類

銀行預金の相続手続きを進めるためには、多くの公的書類や相続人全員の合意を示す書類が必要となります。金融機関ごとに求められるものは若干異なりますが、共通して求められる代表的な書類を整理すると以下のようになります。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 預金通帳やキャッシュカード(紛失している場合は不要)

また、下記の書類がある場合には提出が求められます。「法定相続情報一覧図」の提出は必須ではありませんが、これを提出することで戸籍謄本一式の提出を省略できる場合があります。

  • 法定相続情報一覧図
  • 遺言書
  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印が必要)

なお、「法定相続情報一覧図」とは、法務局で被相続人の戸籍一式を提出し、登記官の確認を受けたうえで交付される公的な書類です。これには相続人の範囲や続柄が一覧化されており、銀行や証券会社、不動産登記など幅広い相続手続きで正式な証明として利用できます。従来は金融機関ごとに戸籍一式を揃えて提出する必要がありましたが、一覧図があれば戸籍一式の提出を省略できる場合があり、負担を大幅に軽減できます。特に、遺産に複数の銀行口座や不動産が含まれる場合には、一覧図を作成しておくことで手続きを効率化できます。

また、遺言書や遺産分割協議書は、相続人全員の合意や被相続人の意思を裏付ける重要な書類です。特に「遺産分割協議書」とは、相続人全員が話し合いによって遺産の分割方法を決定し、その合意内容を文書化したものです。協議書には相続人全員の署名と押印が必要で、これがなければ金融機関が預金の払戻しや名義変更に応じないケースがほとんどです。被相続人が遺言書を残している場合はそれに従いますが、遺言書がない場合や遺言に記載のない財産がある場合には遺産分割協議書の作成が不可欠です。

 

預金相続の手続きの流れ

銀行預金の相続手続きは、順序を踏んで進めることが重要です。全体の流れを理解しておくと、必要書類の準備や金融機関とのやり取りがスムーズになります。一般的な流れは以下のとおりです。

  1. 被相続人の死亡を銀行に届け出る
    死亡届を受理した役所から銀行に直接通知が行くわけではないため、相続人や遺族が自ら銀行に死亡の事実を届け出ます。最近は専用のwebフォームから届出ができる銀行もありますが、店舗への来店や電話でも対応してもらえることが多いです。この時点で口座は凍結され、以後は相続手続きが完了するまで出金ができなくなります。
  2. 必要書類を準備する
    先ほど紹介したような書類を揃えます。被相続人の死亡を届け出た時点で、銀行から預金相続手続きに関する書類一式が送られてくる場合が多いため、それに従って準備を行いましょう。
  3. 銀行に相続手続きの申請を行う
    相続人代表者が窓口で申請書を提出します。近年は銀行によって郵送対応や一部オンライン対応を行っている場合もあります。
  4. 銀行による審査と確認
    提出書類をもとに銀行が相続人の範囲や分割方法を確認します。不備があると差し戻されるため、事前に十分なチェックが必要です。
  5. 預金の払い戻し・名義変更
    相続人全員の合意に基づいて預金が分配されます。払い戻しは現金でなく振込による方法が一般的です。手続き完了までには2週間~1か月程度かかることもあります。

 

預金相続をする際に知っておきたい知識

預金相続の手続きの際、実際の現場では予想外の課題に直面することも少なくありません。葬儀費用の支払い、相続放棄の判断、相続税の申告の要否、さらにはネット銀行や海外口座といった特殊なケースまで幅広く対応が必要になります。

ここでは、手続きを進めるうえで特に押さえておきたいポイントを解説します。

 

葬儀費用や当面の生活費の確保

被相続人の口座が凍結されると、残された家族が葬儀費用や日常生活の資金に困ってしまうことがあります。このような問題が散見されたため、平成30年の民法改正により「相続預金の払い戻し制度」ができました。

この制度に基づき、相続手続きが完了する前でも一定の金額以下であれば払い戻しを受けることができます。具体的には、以下の式で算出された金額もしくは150万円の少ない方が払い戻しを受けられる上限額となります。

(相続開始時の預金額)×1/3×(払い戻しを受ける相続人の法定相続分)

なお、払い戻し手続きの際には、被相続人の戸籍謄本(生まれてから死亡まで全て)、相続人全員の戸籍謄本、払い戻しを希望する相続人の印鑑証明などの書類が必要です。

 

相続放棄する場合

相続人は、家庭裁判所に相続放棄を申し立てることで、被相続人の財産や負債を一切引き継がない選択が可能です。申立ては相続開始を知った日から3か月以内に行わなければならず、この期間を過ぎると単純承認(すべて相続する)とみなされる可能性があります。

相続放棄を検討すべきケースとしては、被相続人に借金や連帯保証債務があり、財産よりも負債の方が大きい場合などが代表的です。相続放棄を行った場合、その相続人は預金の引き出しや分配手続きに一切関与できなくなります。なお、相続人全員が相続放棄をした場合、口座に残っている預金やその他の財産は「相続人不存在」となり、最終的には国庫に帰属することになります。

相続放棄の手続きは、家庭裁判所に所定の申立書を提出し、必要な戸籍謄本や相続放棄申述書を添付して行います。申立てが受理されれば、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が交付され、正式に相続放棄が認められる仕組みです。弁護士や司法書士に依頼して手続きを代行してもらうことも可能です。

 

相続税の申告が必要になるケース

相続税は、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に申告が必要です。申告期限は相続開始から10か月以内で、遺産分割協議書や財産目録、預金残高証明書などをもとに税務署へ申告します。特に現預金は評価が容易であり、相続税額に直結するため正確な残高を把握することが欠かせません。

 

ネット銀行の預金相続

ネット銀行の預金も相続の対象であり、通常の銀行と同様に口座は死亡後に凍結されます。死亡の届出は専用のwebフォームや電話を通じて行い、必要書類のやり取りは郵送で行うケースが多いです。

ネット銀行の場合は紙の通帳がないため、口座の存在を見落とさないように注意しなければなりません。ネット銀行に口座がある場合は、生前に家族へ銀行名を伝えておいたり、エンディングノートに記録しておいたりすれば、残された家族が効率的に相続手続きを行えるでしょう。

 

海外口座の預金相続

海外の銀行口座に預金がある場合は、日本の相続手続きとは別に、現地の法律や金融機関のルールに従って相続手続きを進める必要があります。必要書類には戸籍謄本の英訳やアポスティーユ認証が求められることもあり、手続きが長期化するケースも少なくありません。

特にアメリカやイギリスなどの英米法圏では「検認裁判(プロベート)」と呼ばれる裁判所での手続きが必要となり、数年もの期間を要したり、現地の弁護士報酬として数百万円規模の費用がかかる場合もあります。

また、海外口座にある預金についても、日本国内に住所を有する相続人には日本の相続税が課税されます。そのため、海外での手続きと同時に、日本の税務署への申告準備も進める必要があります。

国際的な相続案件は複雑化しやすいため、現地の法律や税制に精通した専門家、または国際相続に対応できる日本の行政書士や弁護士に相談することをおすすめします。

 

預金相続にかかる費用

預金相続に関しては、必要書類の取得や金融機関への手続きの中で様々な費用が発生します。

ここでは、役所や銀行に支払う法定手数料と、行政書士に依頼する場合の費用に分けて解説します。

 

銀行・役所などに支払う手数料

預金相続を行う際には、金融機関や役所に支払う手数料が発生します。具体的には、以下のような費用がかかります。

  • 戸籍謄本(除籍謄本):450円/1通
  • 印鑑証明書:300円程度/1通(自治体により異なる)
  • 残高証明書:数百~数千円(金融機関により異なる)

 

行政書士に依頼する場合の費用

行政書士に依頼した場合の費用は、依頼内容や財産規模、相続人の数によって変動しますが、相続人調査や戸籍収集、遺産分割協議書の作成まで含めると、5万円から15万円程度が目安とされています。預金相続のみのサポートであれば比較的低額(3万円程度)で済むこともありますが、複数の銀行口座がある場合や海外口座が含まれる場合には追加費用が発生する可能性があります。

 

まとめ

預金相続は、残された家族が資産を受け継ぐために必要不可欠な手続きです。相続人の確定や必要書類の収集、金融機関への手続きは複雑で時間がかかることも多いため、早めの準備と正しい知識が重要となります。

手続きに不安のある方は、行政書士をはじめとする専門家への相談もご検討ください。行政書士は戸籍収集や遺産分割協議書の作成など相続に関わる多くの手続きをサポートできますし、必要に応じて司法書士や税理士、弁護士と連携することで相続を包括的にサポートすることも可能です。

関連コラムはこちら↓

遺産分割協議書とは?行政書士がサポートする作成手順と注意点相続人調査は行政書士におまかせ!相続トラブルを防ぐポイントや必要書類を詳しく解説相続手続きで困ったら行政書士に相談!手続きの流れとサポート内容を詳しく紹介

無料にてご相談承ります。まずは気軽にお問い合わせください。
インターネットで今すぐカンタンお見積り