目次
はじめに
日本は世界有数の長寿国であり、高齢化の進展に伴い相続手続きはますます身近なテーマとなっています。厚生労働省の人口動態統計によれば、近年の年間死亡者数は約150万~160万人台で推移しており、その都度相続が発生しています。国税庁の公表資料でも、相続税の申告件数は年間12万~15万件規模で、被相続人数全体の1割前後とされています。つまり、相続税の申告が必要なケースは一部であるものの、相続手続き自体は多くの家庭に関わる問題といえます。
また、各種調査では相続財産は平均で数千万円規模、中央値で1,000万円台とされ、不動産と現預金が主要な構成要素を占めています。中でも現金・預金が3~4割程度を占めるとのデータもあり、預金相続は実務上特に発生頻度の高い手続きです。
本記事では、預金相続の基本的な仕組みから手続きの流れ、必要書類、注意点、費用の目安までをわかりやすく解説します。
預金相続とは
預金相続とは、被相続人(亡くなった方)が残した銀行預金を相続人に引き継ぐための一連の手続きを指します。
ここでは、銀行口座が凍結される理由、家族が無断で引き出した場合のリスク、そして実際に誰が手続きを行うのかについて解説します。
銀行はなぜ口座を凍結するの?
名義人が亡くなったことが銀行に届出されると、通常はその時点で口座が凍結されます。
これは、不正な出金による相続人間のトラブルを防ぎ、正当な相続手続きを経て資産を分配するための措置です。もし凍結されずに自由に出金できる状態であれば、一部の相続人が勝手に預金を引き出すなど不公平な事態が生じかねません。したがって、口座凍結は相続人全員の権利を守るための重要な仕組みといえるでしょう。
家族の死後に預金を勝手に引き出すとどうなる?
口座凍結前に預金を引き出すケースもあります。しかし、相続人間の合意がない出金は、後に返還請求の対象となる可能性があります。また、相続人同士の不信感を招き、紛争に発展するおそれもあります。口座凍結前であっても、死亡後の無断出金は控えるべきです。
預金相続の手続きは誰がやる?
預金相続は、相続人全員が合意した方法で預金を分配する必要がありますが、実務上は代表者を一人決め、その人が銀行に申請書類を提出するケースが多いです。
相続人の一部が海外に住んでいる場合や高齢で外出が困難な場合でも、郵送や代理人を通じて手続きに参加することが可能です。代理人になれる人は各銀行の定めるルールによりますが、一般的には弁護士や司法書士、行政書士などの専門家、または相続人から信頼を得て委任を受けた親族です。
預金相続手続きの必要書類
預金相続を進めるには、公的書類や相続人全員の合意を示す書類が必要です。具体的な書式や取扱いは金融機関ごとに異なりますが、一般的には次の書類が求められます。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 預金通帳やキャッシュカード(紛失時は不要な場合あり)
状況に応じて、以下の書類の提出が必要になります。
- 法定相続情報一覧図
- 遺言書
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印が必要)
法定相続情報一覧図は、法務局で戸籍一式を基に作成・交付される公的書類で、相続人の範囲を一覧で証明できるものです。これを提出することで、戸籍一式の提出を省略できる場合があり、複数の金融機関や不動産がある場合の負担軽減につながります。
また、遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を書面化した重要書類で、全員の署名・押印がなければ払戻しに応じない金融機関が一般的です。遺言書がある場合はその内容に従い、ない場合や対象外財産がある場合には作成が必要となります。
なお、必要書類や書式は金融機関ごとに異なるため、事前に各銀行の案内を確認しておくことが重要です。
預金相続の手続きの流れ
預金相続の手続きは、次の5つのステップで進みます。あらかじめ流れを把握しておくことで、書類不備や手戻りを防ぐことができます。
- 被相続人の死亡を銀行に届け出る
死亡届を受理した役所から銀行に直接通知が行くわけではないため、相続人や遺族が自ら銀行に死亡の事実を届け出ます。最近は専用のwebフォームから届出ができる銀行もありますが、店舗への来店や電話でも対応してもらえることが多いです。この時点で口座は凍結され、以後は相続手続きが完了するまで出金ができなくなります。 - 必要書類を準備する
先ほど紹介したような書類を揃えます。被相続人の死亡を届け出た時点で、銀行から預金相続手続きに関する書類一式が送られてくる場合が多いため、それに従って準備を行いましょう。 - 銀行に相続手続きの申請を行う
相続人代表者が窓口で申請書を提出します。近年は銀行によって郵送対応や一部オンライン対応を行っている場合もあります。 - 銀行による審査と確認
提出書類をもとに銀行が相続人の範囲や分割方法を確認します。不備があると差し戻されるため、事前に十分なチェックが必要です。 - 預金の払い戻し・名義変更
相続人全員の合意に基づいて預金が分配されます。払い戻しは現金でなく振込による方法が一般的です。手続き完了までには2週間~1か月程度かかることもあります。
預金相続をする際に知っておきたい知識
預金相続の手続きの際、実際の現場では予想外の課題に直面することも少なくありません。葬儀費用の支払い、相続放棄の判断、相続税の申告の要否、さらにはネット銀行や海外口座といった特殊なケースまで幅広く対応が必要になります。
ここでは、手続きを進めるうえで特に押さえておきたいポイントを解説します。
葬儀費用や当面の生活費の確保
被相続人の口座が凍結されると、残された家族が葬儀費用や日常生活の資金に困ってしまうことがあります。このような問題が散見されたため、平成30年の民法改正により「相続預金の払い戻し制度」ができました。
この制度に基づき、相続手続きが完了する前でも一定の金額以下であれば払い戻しを受けることができます。具体的には、以下の式で算出された金額もしくは150万円のいずれか少ない額が、1つの金融機関ごとの上限となります。
(相続開始時の預金額)×1/3×(払い戻しを受ける相続人の法定相続分)
なお、払い戻し手続きの際には、被相続人の戸籍謄本(生まれてから死亡まで全て)、相続人全員の戸籍謄本、払い戻しを希望する相続人の印鑑証明などの書類が必要です。
相続放棄する場合
相続人は、家庭裁判所に申立てを行うことで、被相続人の財産や負債を引き継がない「相続放棄」を選択できます。申立ては相続開始を知った日から3か月以内に行う必要があり、期限を過ぎると単純承認とみなされる可能性があります。
被相続人に借金や連帯保証債務があり、財産より負債が多い場合などは、相続放棄を検討すべき代表的なケースです。放棄が受理されると、その相続人は預金の払戻しや分配手続きに関与できなくなります。
なお、相続人全員が放棄した場合は「相続人不存在」となり、相続財産清算人の手続を経て、最終的に国庫へ帰属することがあります。
相続放棄は家庭裁判所への申立てが受理されることで効力が生じます。必要に応じて、弁護士や司法書士に相談することも検討するとよいでしょう。
相続税の申告が必要になるケース
相続税は、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に申告が必要です。申告期限は相続開始から10か月以内で、遺産分割協議書や財産目録、預金残高証明書などをもとに税務署へ申告します。特に現預金は評価が容易であり、相続税額に直結するため正確な残高を把握することが欠かせません。
ネット銀行の預金相続
ネット銀行の預金も相続の対象であり、通常の銀行と同様に口座は死亡後に凍結されます。死亡の届出は専用のwebフォームや電話を通じて行い、必要書類のやり取りは郵送で行うケースが多いです。
ネット銀行の場合は紙の通帳がないため、口座の存在を見落とさないように注意しなければなりません。ネット銀行に口座がある場合は、生前に家族へ銀行名を伝えておいたり、エンディングノートに記録しておいたりすれば、残された家族が効率的に相続手続きを行えるでしょう。
海外口座の預金相続
海外の銀行口座に預金がある場合、日本の相続手続きとは別に、現地の法制度や金融機関のルールに従って手続きを進める必要があります。戸籍謄本の翻訳やアポスティーユ認証の提出を求められることもあり、国内案件に比べて時間と手間を要する傾向があります。
特にアメリカやイギリスなどの英米法圏では、「検認裁判(プロベート)」と呼ばれる裁判所手続きが必要となる場合があり、手続き内容や現地法によっては長期間を要するケースもあります。
また、海外口座の預金であっても、一定の要件を満たす場合には日本の相続税の課税対象となります。そのため、現地での手続きと並行して、日本での申告準備も進めることが重要です。
国際的な相続は制度や税制が複雑に絡み合うため、現地専門家と連携できる行政書士や弁護士に早めに相談することが望ましいでしょう。
預金相続にかかる費用
預金相続に関しては、必要書類の取得や金融機関への手続きの中で様々な費用が発生します。
ここでは、役所や銀行に支払う法定手数料と、行政書士に依頼する場合の費用に分けて解説します。
銀行・役所などに支払う手数料
預金相続を行う際には、金融機関や役所に支払う手数料が発生します。具体的には、以下のような費用がかかります。
- 戸籍謄本(除籍謄本):450円/1通
- 印鑑証明書:300円程度/1通(自治体により異なる)
- 残高証明書:数百~数千円(金融機関により異なる)
行政書士に依頼する場合の費用
行政書士へ依頼する場合の費用は、財産規模や相続人の人数、業務範囲によって異なります。相続人調査や戸籍収集、遺産分割協議書の作成まで含めると、5万~15万円程度が一つの目安です。預金相続のみのサポートであれば、3万円前後で対応可能な場合もありますが、口座数が多い場合や海外資産が含まれる場合は追加費用が生じることがあります。
なお、行政書士が行えるのは戸籍収集や相続人調査、遺産分割協議書の作成などの書類作成業務です。相続登記の代理申請は司法書士、相続放棄の代理申立ては弁護士の業務に該当するため、必要に応じて他の専門家と連携して進めることが重要です。
まとめ
預金相続は、相続手続きの中でも発生頻度が高く、書類不備や相続人間の認識違いによって手続きが長期化しやすい分野です。相続人の確定や戸籍収集、金融機関への対応には時間と労力がかかるため、早めの準備が重要となります。
相続人が多い場合や戸籍収集が難しい場合、海外口座が含まれる場合などは、行政書士へ早めに相談することで手続きの負担を大きく軽減できます。内容に応じて司法書士・税理士・弁護士と連携し、相続全体を総合的にサポートすることも可能です。
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特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)