任意後見契約の種類とは?それぞれの特徴から選び方、手続きの流れ、費用まで行政書士が徹底解説

はじめに

日本では高齢化が進み、将来の財産管理や生活上の手続きを誰に任せるかを、元気なうちに考えておく必要性が高まっています。内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、日本の総人口に占める65歳以上の人の割合は29.3%です。現在では、およそ3.4人に1人が高齢者という状況になっており、高齢期の暮らしを社会全体でどのように支えていくかが大きな課題となっています。

厚生労働省の推計では、2022年時点の認知症高齢者は約443万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者は約559万人とされています。両者を合わせると、高齢者全体の約28%に当たります。さらに、2040年には、認知症の高齢者が約584万人、MCIの高齢者が約613万人に増えると見込まれています。

認知症などによって判断能力が低下すると、家族であっても本人名義の預貯金を自由に引き出したり、不動産を売却したりできるわけではありません。介護施設への入所契約や各種料金の支払いなどについても、本人に代わって正式に手続きを行う権限が必要になることがあります。

こうした将来の事態に備える方法の一つが、任意後見制度です。任意後見契約を結んでおけば、本人の判断能力が十分にあるうちに、将来支援してもらう人や、任せる事務の内容を自分の意思で決めておくことができます。

本記事では、任意後見制度の基本的な仕組みを確認したうえで、任意後見契約の種類と選び方、契約締結から利用開始までの流れ、必要となる費用などについて解説します。将来的な認知症や判断能力の低下に備えたい方や、自分に合った任意後見契約の種類を知りたい方の参考になれば幸いです。

 

任意後見制度とは

任意後見制度とは、認知症や精神障害などによって将来判断能力が不十分になった場合に備え、あらかじめ信頼できる人へ財産管理や生活上の手続きを任せておく制度です。

任意後見制度は、判断能力が不十分な人を支援するための枠組みである「成年後見制度」の一つです。成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」に分類できますが、法定後見との違いについては後述していますので、興味のある方は参考にしてください。

任意後見では、誰に支援を任せるのかだけでなく、預貯金の管理、公共料金の支払い、介護サービスや福祉施設の利用契約、不動産の管理など、将来代理してもらう事務の範囲を契約により定めます。任意後見人の報酬を支払うかどうかや、その金額についても契約で決めることができます。

任意後見制度の大きな特徴は、本人が信頼できる家族、知人、専門家や法人などから、任意後見人となる人を自分で選べることです。また、将来どのような支援を受けたいかについても、本人の希望に合わせて契約内容を設計できます。

なお、本人の生活状況や支援を始める時期に応じて、一般に将来型」「移行型」「即効型」と呼ばれる利用方法があり、それぞれ特徴が異なります。これらの種類については、次章で詳しく解説します。

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認知症に備える「任意後見制度」とは?利用の流れから注意点、費用まで行政書士が徹底解説

 

任意後見契約の種類と選び方

任意後見契約には、支援を受け始める時期や、ほかの契約との組み合わせ方によって、一般に「将来型」「移行型」「即効型」と呼ばれる3つの類型があります。

ここでは、それぞれの特徴と選び方を確認していきましょう。

 

「将来型」「移行型」「即効型」の特徴

将来型・移行型・即効型は、法律で定められた正式な契約の種類ではなく、任意後見契約の利用方法を整理した実務上の呼び方です。

いずれの類型でも、任意後見契約を公正証書によって締結し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で任意後見が始まるという基本的な仕組みは変わりません。主な違いは、次のとおりです。

比較項目 将来型 移行型 即効型
契約時の本人の状態 判断能力が十分にあり、現在は自分で財産を管理できる 判断能力は十分にあるが、現在から財産管理などの支援を受けたい 判断能力が低下し始めているが、契約内容を理解できる能力は残っている
契約・利用の形 任意後見契約を締結する 任意後見契約と財産管理等委任契約などを併せて締結し、段階的に任意後見へ移行する 任意後見契約を締結した後、早期に任意後見監督人の選任を申し立てて任意後見を開始する 
判断能力低下前の支援 原則として行われない 財産管理等委任契約などに基づいて支援を受けられる 任意後見開始前の期間は原則として支援を受けられない
支援を開始する時期 将来、本人の判断能力が不十分になったとき 財産管理等委任契約による支援から、判断能力の低下に応じて任意後見へ移行するとき 契約締結後、できるだけ早い段階
主なメリット 現在の生活を変えずに、将来の支援者や支援内容を決めておける 現在から将来まで切れ目なく支援を受けられる 判断能力が低下し始めた段階でも、本人の希望を反映した支援体制を整えられる可能性がある
主な注意点 判断能力の低下に気づかず、任意後見の開始が遅れるおそれがある 任意後見開始前の委任事務には、任意後見監督人による法定の監督がない 契約締結時に本人の判断能力を慎重に確認する必要がある
向いているケース 現在は自立しているものの、将来の認知症などに備えたい場合 判断能力に問題はないが、外出や手続きが難しく、すでに支援を受けたい場合 判断能力が低下し始めており、早期に任意後見を開始したい場合

将来型を選ぶ場合は、本人の判断能力が低下したことを任意後見受任者が適切に把握できる仕組みを整えておくことが重要です。任意後見契約を締結した後、長期間連絡を取らない状態が続くと、支援が必要になっても任意後見監督人の選任申立てが行われないおそれがあります。そのため、本人の生活状況や健康状態を定期的に確認する「見守り契約」を併せて締結することがあります。

移行型では、本人の判断能力が十分にある間は、財産管理等委任契約などに基づいて支援を受けます。たとえば、足腰が弱く銀行や役所へ行くことが難しい場合や、入院中のため預貯金の管理や料金の支払いを任せたい場合などに適しています。

ただし、財産管理等委任契約は、本人に判断能力があることを前提にした私的な契約です。本人の判断能力が低下した後は、金融機関による代理権や取引目的の確認が厳しくなり、手続きが円滑に進まないことがあります。また、受任者を法的に監督する仕組みもないため、任意後見監督人の監督を受ける任意後見へ移行し、より安定した支援体制を整えることが重要です。

即効型は、本人の判断能力が低下し始めているものの、任意後見契約の内容を理解して契約を締結できる場合に検討されます。認知症などの診断があるだけで利用できないと決まるわけではなく、本人が任意後見契約の内容や効果を理解し、自分の意思で契約できるかどうかが重要です。

一方、契約内容を理解できる判断能力がすでに失われている場合は、任意後見契約を締結できないため、法定後見制度の利用を検討することになります。また、「即効型」という名称ではありますが、契約締結と同時に支援が始まるわけではなく、任意後見監督人の選任までには家庭裁判所の手続きが必要です。

どの類型が適しているかは、本人の年齢や病名だけで決めるものではありません。現在の判断能力、財産管理の状況、すぐに支援が必要かどうか、任意後見受任者との関係などを踏まえて選ぶことが大切です。

 

任意後見契約で定める事項

任意後見契約では、将来誰に支援を任せるのか、どのような事務を代理してもらうのかを、本人と任意後見受任者との合意によって具体的に定めます。

ここでは、契約で定める事柄について具体的に解説します。

 

任意後見人と報酬

任意後見契約では、まず将来任意後見人になってもらう人を決めます。契約を締結した時点では「任意後見受任者」と呼ばれ、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、正式な任意後見人になります。

任意後見受任者には、本人が信頼できる家族や親族、知人のほか、行政書士、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家や法人を選ぶこともできます。ただし、誰でも必ず任意後見人になれるわけではありません。破産者や行方不明者、本人に対して訴訟をした人、不正な行為など任務に適さない事情がある人などは、任意後見人として不適格と判断されることがあります。

任意後見人を選ぶ際は、単に本人との関係が近いかどうかだけでなく、長期間にわたって財産管理や生活上の手続きを任せられるかを考える必要があります。本人の希望を理解していること、金銭管理を適切に行えること、介護事業者や医療機関などと連絡を取れることも重要な判断材料です。

また、本人より任意後見受任者の方が高齢である場合や、将来継続して事務を行えるか不安がある場合には、法人を任意後見受任者にしたり、複数の人に役割を分担したりすることも検討できます。複数の任意後見人を定める場合は、それぞれが単独で代理権を行使できるのか、共同して行使するのかも契約で明確にします。

任意後見人の報酬についても、契約で定めておきます。家族や親族に依頼する場合は無報酬とすることもできますが、専門家や法人に依頼する場合は、月額報酬を定めるのが一般的です。

報酬を設ける場合は、金額だけでなく、支払時期、支払方法、本人の財産から控除できるか、事務量が増えた場合に報酬を変更できるかといった点も決めておくとよいでしょう。また、交通費、郵便料、証明書の取得費用など、後見事務に必要な実費を本人の財産から支出できることも定めておきます。

 

後見事務と代理権の範囲

任意後見契約では、任意後見人に任せる事務と代理権の範囲を「代理権目録」に記載します。

任意後見人が行う後見事務は、大きく「財産管理」と「身上保護」に関する事務に分けられます。

財産管理に関する事務としては、次のようなものがあります。

  • 預貯金の管理、払戻し、振込み
  • 年金、賃料などの収入の受領
  • 税金、公共料金、医療費、施設利用料などの支払い
  • 保険契約や証券会社との取引
  • 不動産の管理、賃貸、売却
  • 遺産分割協議や相続に関する手続き
  • 通帳、印鑑、権利証などの重要書類の保管

一方、身上保護とは、任意後見人が本人の食事、入浴、着替えなどを直接介助することではなく、本人が必要な介護や福祉サービスを受けられるよう、事業者と契約を結んだり、費用を支払ったりする法律上の支援を指します。身上保護に関する事務としては、次のようなものがあります。

  • 介護サービスや福祉サービスの利用契約
  • 病院への入院契約や医療費の支払い
  • 高齢者施設への入所・退所契約
  • 要介護認定に関する申請
  • 住居の賃貸借契約や住み替えに関する手続き
  • 本人の生活状況や療養環境の確認

なお、代理権の範囲は、本人の希望に応じて限定できます。たとえば、不動産については管理だけを任せ、売却する権限は与えないことも可能です。また、預貯金の払戻しについて、対象となる口座や月ごとの上限額を指定する方法もあります。

反対に、代理権を限定しすぎると、将来必要な手続きを任意後見人が行えない可能性があります。契約締結時には、本人の預貯金、不動産、保険、年金、収入・支出などを整理し、どのような手続きが必要になるかを具体的に検討することが大切です。

ただし、契約に記載すれば、すべての行為を任意後見人に任せられるわけではありません。結婚、離婚、養子縁組、遺言の作成など、本人自身の意思に基づいて行う必要がある身分行為は代理できません。また、手術などの医療行為に対する同意についても、任意後見人に当然の権限が認められるわけではありません。

 

法定後見制度との違い

任意後見制度と法定後見制度は、いずれも成年後見制度の一部ですが、利用を始める時期や後見人の選び方、後見人に与えられる権限などが異なります。

主な違いは、次のとおりです。

比較項目 任意後見制度 法定後見制度
主に利用する場面 将来の判断能力低下にあらかじめ備える場合 本人の判断能力がすでに不十分になっている場合
手続きを始める時期 契約内容を理解できる判断能力があるうち 判断能力が低下した後
制度の仕組み 契約で支援内容を決める 判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助に分かれる
後見人等の選び方 本人が任意後見受任者を選ぶ 家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選任する
本人の希望の反映 支援する人や任せる事務を本人が決められる 本人や家族が候補者を挙げても、希望どおりに選任されるとは限らない
代理権の範囲 任意後見契約の代理権目録に記載した範囲 法律や家庭裁判所の審判によって決まる
本人が行った法律行為の取消権 任意後見人には認められない 後見・保佐・補助の類型に応じて認められる
支援が始まる時期 家庭裁判所が任意後見監督人を選任したとき 家庭裁判所による開始の審判が確定したとき
監督人 任意後見の開始に必ず必要 家庭裁判所が必要と判断した場合に選任される
報酬 任意後見人の報酬は契約で定める 成年後見人等の報酬は家庭裁判所が決定する

両制度の大きな違いは、本人が制度の内容を自分で決められる範囲です。

任意後見では、本人が契約内容を理解できるうちに、将来支援してもらう人や代理してもらう事務を決めます。これに対して法定後見では、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申立てを行い、家庭裁判所が本人の状態や財産状況などを踏まえて後見人等を選任します。法定後見では、家族を候補者として挙げても、その人が必ず成年後見人等に選ばれるわけではありません。財産管理が複雑な場合や親族間に意見の対立がある場合などには、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選任されることがあります。

また、後見人等の権限にも違いがあります。任意後見人が行使できるのは、任意後見契約の代理権目録に記載された権限だけです。契約に含まれていない手続きを、任意後見人という立場だけで代理することはできません。

これに対して法定後見では、本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」のいずれかが選ばれ、法律や家庭裁判所の審判によって権限が定められます。後見では成年後見人に原則として広い代理権が認められ、保佐や補助では本人に必要な範囲に応じて代理権や同意権が与えられます。

特に注意したいのが、取消権の有無です。任意後見人には、本人が自ら行った法律行為を取り消す権限がありません。たとえば、本人が訪問販売などで不利益な契約を結んだとしても、任意後見人が任意後見契約を根拠として取り消すことはできません。

法定後見では、類型に応じて、本人が単独で行った一定の法律行為を取り消せます。そのため、本人が不利益な契約を繰り返す可能性が高く、代理による支援だけでは財産を守ることが難しい場合には、任意後見よりも法定後見が適していることがあります。

 

家族信託契約との違い

任意後見契約と家族信託契約は、いずれも将来の財産管理に備える方法として利用されますが、法的な仕組みや対応できる範囲は大きく異なります。

家族信託は、財産を持つ人が、信頼できる家族などに財産を託し、あらかじめ定めた目的に沿って管理・運用・処分してもらう仕組みです。

任意後見契約との主な違いは、次のとおりです。

比較項目 任意後見契約 家族信託契約
基本的な仕組み 本人に代わって一定の法律行為を行う代理の仕組み 財産を受託者に託し、信託目的に従って管理してもらう仕組み
管理する人 任意後見人 受託者
管理の対象 契約で定めた財産管理や身上保護に関する事務 信託契約の対象とした金銭、不動産などの財産
財産の名義 原則として本人名義のまま 不動産などは受託者名義へ変更する
身上保護 介護・福祉サービスや施設入所などの契約を代理できる 原則として信託財産の管理が中心で、身上保護は行えない
本人の判断能力低下後 任意後見監督人の選任後に契約上の代理権を行使する 契約の定めに従い、受託者が引き続き信託財産を管理できる
財産の処分 代理権目録に定めた範囲で行う 信託契約で受託者に認められた範囲で行う
本人の死亡後 原則として契約は終了する 次の受益者や最終的な財産の帰属先を契約で定められる
監督の仕組み 任意後見監督人が必ず選任される 信託監督人などを置くことができるが、必須ではない
家庭裁判所の関与 任意後見監督人の選任や監督を通じて関与する 原則として家庭裁判所は関与しない

両者の大きな違いは、支援の対象です。

任意後見契約では、財産管理だけでなく、介護サービスの利用、施設への入所、住居の確保といった生活上の契約にも対応できます。これに対して家族信託は、信託した財産の管理・運用・処分を目的とする制度であり、受託者が本人の生活や療養に関する契約を当然に代理できるわけではありません。

たとえば、親が所有する賃貸不動産を子に信託した場合、子は受託者として建物の管理、賃貸借契約、修繕、賃料の受領などを行えます。一方、親が介護施設へ入所する際の契約や、介護サービスの利用契約については、家族信託の受託者という立場だけで代理できるとは限りません。

財産の名義にも違いがあります。任意後見契約では、預貯金や不動産は原則として本人名義のままで、任意後見人が本人の代理人として手続きを行います。

一方、家族信託では、信託した財産を受託者が自己の財産と区別して管理します。不動産を信託した場合には、所有権の登記名義が受託者へ移り、信託に関する事項も登記されます。ただし、受託者が財産を自分のために自由に使えるわけではなく、信託契約で定められた目的に従って管理しなければなりません。

家族信託は、本人の死亡後の財産承継まで設計できる点にも特徴があります。たとえば、本人の生存中は本人を受益者とし、死亡後は配偶者を次の受益者とするなど、財産から利益を受ける人を段階的に定めることができます。また、信託が終了したときに財産を取得する人も指定できます。

どちらを選ぶかは、何を支援してほしいかによって異なります。介護や施設入所を含む生活全般の契約を任せたい場合は、任意後見契約が適しています。一方、収益不動産の管理や、本人の死亡後を含む財産承継を重視する場合は、家族信託が選択肢となります。

また、どちらか一方だけを選ばなければならないわけではありません。家族信託で不動産などの財産管理を行い、任意後見契約で介護・福祉に関する手続きや信託財産以外の財産管理を補うなど、目的に応じて併用する方法もあります。

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任意後見契約の締結から利用開始までの流れ

任意後見契約は、本人と任意後見受任者が契約書に署名するだけでは成立しません。公証役場で公正証書を作成し、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てることで、任意後見人による支援が始まります。

契約の検討から利用開始までの主な流れは、次のとおりです。

 

1.任意後見受任者と契約内容を決める

はじめに、将来任意後見人になってもらう任意後見受任者を選びます。そのうえで、本人の財産や生活状況、将来希望する暮らしなどを整理し、任せる事務の内容を検討します。

また、現在から財産管理などの支援が必要な場合は財産管理等委任契約、本人の生活状況を定期的に確認してほしい場合は見守り契約、死亡後の手続きを任せたい場合は死後事務委任契約を併せて検討することがあります。

 

2.必要書類を準備する

契約内容が固まったら、公正証書の作成に必要な書類を準備します。一般的には、次のような書類が必要です。

  • 本人の戸籍謄本または戸籍抄本
  • 本人の住民票
  • 任意後見受任者の住民票
  • 印鑑登録証明書や実印などの本人確認資料

必要書類は、公証役場や本人確認の方法によって異なる場合があります。また、財産管理等委任契約などを併せて作成する場合には、財産目録、不動産の登記事項証明書、預貯金の資料などを求められることがあります。

事前に公証役場へ連絡し、契約内容の案と必要書類を確認しておくと、手続きを進めやすくなります。

 

3.公証役場で任意後見契約公正証書を作成する

任意後見契約は、法律上、公正証書によって締結しなければなりません。本人と任意後見受任者が公証役場へ出向き、公証人が本人の意思や契約内容を確認したうえで、公正証書を作成します。本人が病気や身体上の事情によって公証役場へ行くことが難しい場合は、公証人に自宅や病院、施設などへ出張してもらえることがあります。

この段階では、本人に契約内容を理解して締結するための判断能力が必要です。公証人が本人の意思や判断能力を確認できない場合は、公正証書を作成できないことがあります。公正証書が作成されると、公証人の嘱託によって法務局で登記がなされ、本人、任意後見受任者、代理権の範囲などが成年後見登記に記録されます。

ただし、公正証書の作成と登記が完了しても、この時点では任意後見契約の効力は発生していません。将来型の場合は、本人が引き続き自分で財産を管理します。移行型の場合は、任意後見とは別に締結した財産管理等委任契約などに基づいて支援を受けます。

 

4.判断能力が低下したら家庭裁判所へ申し立てる

認知症などにより本人の判断能力が不十分になったときは、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、任意後見監督人の選任を申し立てます。

申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。ただし、本人以外の人が申し立てる場合は、本人が意思を表示できない状態にある場合を除き、原則として本人の同意が必要です。

申立ての際には、一般的に次のような書類を提出します。

  • 任意後見監督人選任申立書裁判所のホームページからダウンロード可)
  • 本人の戸籍謄本
  • 任意後見契約公正証書の写し
  • 本人の成年後見等に関する登記事項証明書
  • 家庭裁判所所定の様式による医師の診断書
  • 預貯金通帳、残高証明書、有価証券の資料など、財産内容が分かる書類
  • 不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書
  • 任意後見監督人候補者がいる場合は、その人の住民票または戸籍の附票

家庭裁判所によって必要書類や書式が異なることがあるため、申し立ての前に管轄の家庭裁判所へ確認する必要があります。

 

5.家庭裁判所が任意後見監督人を選任する

申立てを受けた家庭裁判所は、本人の判断能力、生活状況、財産の内容、任意後見受任者の適格性などを確認します。審理の結果、任意後見を開始することが本人の利益に適すると認められると、家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。

なお、任意後見監督人は、本人や任意後見受任者が自由に指定できるものではなく、家庭裁判所が本人の心身や財産の状況などを踏まえて選任します。任意後見監督人には、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれることが多いです。

 

6.任意後見人による支援が始まる

家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見契約の効力が発生し、任意後見受任者は正式に任意後見人となります。

任意後見人は、契約の代理権目録に記載された範囲で事務を行い、任意後見監督人へ内容を報告します。

任意後見監督人は、任意後見人から報告を受け、本人の財産が適切に管理されているか、契約に沿った支援が行われているかを確認します。問題がある場合は任意後見人に説明や改善を求め、必要に応じて家庭裁判所へ報告します。

 

任意後見制度の利用にかかる費用

任意後見制度では、契約の締結時と利用開始時に手数料や必要書類の取得費用がかかります。利用開始後は、任意後見人や任意後見監督人への報酬が継続的に発生することもあります。

ここでは、任意後見制度を利用する際に必要となる主な費用を確認していきましょう。

 

手数料など

先ほども少し触れましたが、任意後見契約は公正証書によって締結する必要があります。公正証書の作成にかかる費用は次の通りです。

  • 任意後見契約公正証書の作成手数料:1契約につき1万3,000円
  • 法務局に納める登記手数料2,600円
  • 公証人による登記嘱託の手数料1,600円
  • 登記嘱託に必要な郵便料金:実費
  • 公正証書の正本・謄本等の交付手数料:電磁的記録は1通2,500円、書面は1枚300円

本人が病気や身体上の事情によって公証役場へ行けず、公証人に自宅、病院、施設などへ出張してもらう場合は、上記に加えて病床執務加算、日当、交通費などもかかります。

また、本人の判断能力が低下し、任意後見を開始する段階では、家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申立てを行います。その際には以下のような費用が掛かります。

  • 任意後見監督人選任の申立手数料800円
  • 申立てに伴う登記手数料1,400円
  • 家庭裁判所への連絡用郵便切手:裁判所によって異なる
  • 戸籍謄本、住民票、登記事項証明書、診断書などの取得費用:実費
  • 医師による鑑定費用:鑑定が実施される場合のみ必要

 

任意後見人・監督人に支払う報酬

任意後見人の報酬は、本人と任意後見受任者との契約によって決めます。

家族や親族に任意後見人を依頼する場合は、無報酬とすることも可能です。一方、行政書士、弁護士、司法書士などの専門家や法人に依頼する場合は、月額報酬を定めるのが一般的です。金額は、管理する財産の額、代理事務の範囲、訪問や施設対応の頻度などによって異なりますが、月額2~3万円程度を一つの目安とする例があります。

ただし、専門家ごとに料金体系は異なります。不動産の売却、遺産分割協議など、通常の後見事務とは別に特別な対応が必要になった場合は、契約内容に応じて追加報酬が発生することもあります。

また、任意後見人の報酬とは別に、任意後見監督人への報酬も必要です。

任意後見監督人の報酬は、本人と監督人が自由に決めるものではなく、監督人からの申立てを受けて家庭裁判所が決定します。報酬額は、本人の財産額、監督する事務の内容、事案の難易度などを考慮して決められ、本人の財産から支払われます。

家庭裁判所が公表している目安では、通常の監督事務の場合、管理財産額が5,000万円以下であれば月額1~2万円程度、5,000万円を超える場合は月額2~3万円程度とされる例があります。ただし、これは一律の料金ではなく、実際の報酬額は個別の審判によって決まります。

なお、移行型で任意後見開始前から財産管理等委任契約による支援を受ける場合は、その期間についても受任者への報酬が発生することがあります。また、見守り契約を締結している場合は、定期的な連絡や訪問に対する報酬を別に定めることもあります。

 

行政書士に依頼する場合の費用

行政書士には、本人の希望や財産状況の整理、任意後見契約の原案作成、公証役場との事前調整、必要書類の収集などを依頼できます。

行政書士へ任意後見契約の作成支援を依頼する場合の報酬は、数万円から十数万円程度に設定されていることが一般的です。ただし、事務所によって料金体系は異なり、契約内容の複雑さや、財産管理等委任契約、見守り契約、死後事務委任契約などを併せて作成するかどうかによっても金額は変わります。

また、行政書士を任意後見受任者として指定する場合は、契約書の作成支援に対する報酬とは別に、見守り契約や財産管理等委任契約に基づく報酬、任意後見開始後の月額報酬が発生することがあります。

なお、任意後見監督人選任の申立ては、家庭裁判所に提出する手続きです。行政書士は任意後見契約の原案作成や必要資料の整理などを支援できますが、家庭裁判所へ提出する申立書類の作成や、裁判所での代理を業務として行うことはできません。申立書類の作成を専門家へ依頼する場合は司法書士、裁判所とのやり取りや手続きの代理まで依頼したい場合は弁護士への相談を検討すると良いでしょう。

 

まとめ

任意後見契約には、将来型・移行型・即効型と呼ばれる利用方法があり、本人の判断能力や現在必要な支援に応じて選ぶことが大切です。

契約では、任意後見人となる人、報酬、後見事務や代理権の範囲などを具体的に定めます。また、任意後見契約は公正証書で作成し、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。

自分に合った契約の種類や内容に迷う場合は、行政書士などの専門家への相談も検討してみてください。

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