公正証書遺言は撤回できる?撤回の方法、費用、注意点を行政書士が解説

はじめに

公正証書遺言を作成した後に、「内容を変えたい」「以前作成した遺言を撤回したい」と考える方は少なくありません。

遺言は、財産を誰にどのように引き継がせるのかを定める大切な文書です。しかし、作成した時点では最適だと思っていた内容でも、その後の家族関係や財産状況、生活環境の変化によって、見直しが必要になることがあります。

特に公正証書遺言は、公証役場で公証人の関与により作成するため、「一度作成したら撤回できないのではないか」と思われる方もいます。しかし、遺言は遺言者の最終意思を反映するための制度です。そのため、公正証書遺言であっても、一定の方法により後から撤回したり、新しい内容に作り直したりすることができます。

公正証書遺言の撤回や作り直しは、相続トラブルを防ぐための重要な見直し手続きです。一方で、方法を誤ると、遺言者の意思が正しく反映されなかったり、相続人間で争いが生じたりする可能性もあります。

本記事では、公正証書遺言は撤回できるのか、撤回と修正・作り直しの違い、撤回すべき場面、撤回とみなされるケース、具体的な撤回方法、費用の目安について、現役行政書士の視点から解説します。以前作成した公正証書遺言の内容を見直したい方や、撤回・変更・作り直しの方法で迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

 

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証役場で公証人の関与により作成する遺言書のことです。遺言者が、自分の財産を誰にどのように引き継がせたいのかを公証人に伝え、その内容をもとに、公証人が法律に沿った形で遺言書を作成します。

遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言などの種類があります。このうち、自筆証書遺言は、遺言者が本文を自書して作成する遺言書です。費用を抑えて作成しやすい反面、形式的な不備によって無効になるリスクや、紛失・改ざん、死後に発見されないというリスクがあります。

一方、公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため、形式的な不備によって無効になるリスクを抑えやすい点が大きな特徴です。また、公正証書遺言の原本は、公証役場で保管されます。そのため、遺言者の手元にある正本や謄本を紛失したとしても、公証役場で再度謄本の交付を受けられます。また、相続開始後に遺言書が見つからない場合でも、相続人が公証役場の遺言検索システムを利用して、公正証書遺言の有無を確認できます。

さらに、公正証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所での検認が不要です。自宅などで保管されていた自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所で検認手続きが必要になりますが、公正証書遺言は公証人が作成し、原本が公証役場に保管されているため、検認を経ずに相続手続きへ進める点もメリットです。

このように、公正証書遺言は、安全性や確実性の高い遺言方式といえます。特に、相続人間のトラブルを防ぎたい場合、財産の内容が複雑な場合、遺言内容を確実に実現したい場合には、公正証書遺言が有効です。

もっとも、公正証書遺言は「一度作成したら変更できない遺言」ではありません。遺言は、遺言者の最終意思を尊重する制度であるため、公正証書遺言であっても、後から撤回したり、新しい遺言を作成したりすることができます。なお、具体的な撤回の方法については後述しますので、ぜひ参考にしてください。

 

公正証書遺言の撤回とは

公正証書遺言の撤回とは、すでに作成した公正証書遺言の全部または一部について、将来効力を生じさせないようにすることです。

ここで注意したいのは、公正証書遺言の撤回は、単に手元にある正本や謄本を破棄するだけでは意味がないという点です。公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているため、遺言者の手元にある書類を処分しても、公証役場に保管されている原本の存在や遺言の効力がなくなるわけではありません。

なお、一度撤回した公正証書遺言は、後から「やはり元の内容に戻したい」と思っても、その撤回を撤回する(=復活させる)ことはできません。そのため、一度撤回した公正証書遺言を復活させたい場合は、改めて同じ内容の遺言書を作り直す必要があります。

 

撤回と修正・作り直しの違い

公正証書遺言においては、「撤回」「修正」「変更」「作り直し」という言葉が混同されていることがあります。

まず、「撤回」とは、以前に作成した遺言の効力をなくすことです。遺言の全部を撤回することもできますし、一部だけを撤回することもできます。たとえば、「以前作成した公正証書遺言の全部を撤回する」と新しい遺言で定めれば、前の遺言全体を撤回する趣旨になります。一方、「第〇条の不動産に関する部分だけを撤回する」と定めれば、一部撤回として整理されることがあります。

次に、「修正」や「変更」は、一般的には、以前の遺言内容の一部を変えることを意味します。ただし、公正証書遺言の場合、遺言者が手元で保管している正本・謄本などに手書きで修正を加えても、公証役場に保管されている原本の内容が変更されるわけではないため、法的な修正としての意味はありません。内容を変更したい場合は、法律上有効な遺言の方式で、新たに変更内容を定める必要があります。

また、「作り直し」は、以前の遺言を撤回したうえで、新しい内容の遺言書を作成することを指す場面が多いです。内容を大きく変更したい場合や、複数の条項を整理し直したい場合には、一部修正ではなく、新しい公正証書遺言を作り直す方が分かりやすいこともあります。

つまり、「修正」や「作り直し」といっても、法的には、前の遺言の全部または一部を撤回し、新しい遺言内容を定めるという形で処理されることが多いと理解するとよいでしょう。

 

撤回すべき場面

公正証書遺言は、作成した時点での家族関係や財産状況、遺言者の意思をもとに作成されます。しかし、その後の事情が変われば、以前の遺言内容が現在の状況に合わなくなることがあります。公正証書遺言の撤回や作り直しを検討すべき場面としては、たとえば次のようなケースが挙げられます。

  • 家族関係が変わった場合:離婚、再婚、養子縁組、子どもや孫の出生などにより、相続関係や遺言者の希望が変わった場合
  • 相続人との関係が変わった場合:以前は特定の相続人に多く財産を残したいと考えていたものの、その後の関係性や生活状況の変化により、分け方を見直したい場合
  • 財産内容が大きく変わった場合:不動産を売却した、預貯金が大きく増減した、新たに収益物件や株式を取得したなど、遺言作成時と財産状況が変わった場合
  • 遺言で財産を渡す予定だった人が亡くなった場合:相続人や受遺者など、特定の財産を相続させる予定だった人が先に亡くなった場合
  • 遺言執行者を変更したい場合:以前指定した遺言執行者が高齢になった、亡くなった、連絡が取れなくなった、依頼しにくくなったなどの場合
  • 遺留分への配慮が必要になった場合:特定の人に財産を集中させる内容になっており、相続開始後に遺留分侵害額請求などのトラブルの可能性が生じた場合
  • 遺言内容が曖昧でトラブルが予想される場合:財産の特定が不十分であったり、古い表現が使われていたりする場合

 

「撤回」とみなされるケース

公正証書遺言の撤回は、遺言者が新しい遺言書に「前の遺言を撤回する」と記載した場合だけに限られません。法律上、一定の行為があった場合には、前の遺言が撤回されたものとみなされることがあります。

代表的なのが、「後に作成した遺言と前の遺言の内容が抵触する場合」です。

たとえば、以前の公正証書遺言で「自宅不動産を長男に相続させる」と定めていたにもかかわらず、その後の遺言で「自宅不動産を長女に相続させる」と定めた場合、両方の内容を同時に実現することはできません。このような場合には、抵触する部分について、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます。

ここで重要なのは、前の遺言全体が常に無効になるわけではないという点です。後の遺言と抵触しない部分については、前の遺言が引き続き効力を持つことがあります。そのため、新しい遺言を作成する場合には、前の遺言の全部を撤回するのか、一部だけを変更するのかを明確にしておくことが重要です。

また、「遺言後に行った生前処分などが遺言内容と抵触する場合」にも、その抵触部分について撤回したものとみなされることがあります。

たとえば、遺言で「A不動産を長男に相続させる」と定めていたものの、その後、遺言者が生前にA不動産を売却した場合、その不動産は相続開始時には遺産として存在しません。この場合、A不動産に関する遺言内容は実現できないため、結果としてその部分について撤回したとみなされます。

 

公正証書遺言を撤回する方法

公正証書遺言を撤回する方法としては、大きく分けて、撤回する旨の公正証書を作成する方法と、新しい遺言書を作成して前の遺言内容と置き換える方法があります。

 

公証役場での撤回手続き

公正証書遺言を撤回する方法の一つに、公証役場で「遺言の撤回」を内容とする公正証書を作成する方法があります。

これは、新しい財産の分け方を定める公正証書遺言を作成する方法ではなく、以前作成した公正証書遺言について、「その遺言を撤回したい」「なかったことにしたい」という意思を公正証書として明確に残す手続きです。

公証役場で撤回を行う場合も、遺言の撤回は遺言の方式に従って行う必要があるため、通常の公正証書遺言を作成するときと同様に、証人2人の立会いが必要です。

具体的には、遺言者が証人2人の前で、公証人に対して、以前作成した公正証書遺言を撤回したい旨を述べます。その内容を公証人が公正証書として作成し、遺言者・証人・公証人が内容を確認したうえで、署名押印します。この手続きによって、以前の公正証書遺言について、撤回の意思が公正証書として残ることになります。

公証役場で撤回手続きを行う際には、まず撤回したい公正証書遺言を特定する必要があります。手元に正本や謄本がある場合は、作成年月日、公証役場名、公証人名、証書番号などを確認しておくと手続きがスムーズです。手元に正本や謄本がない場合は、以前作成した公証役場に相談し、必要に応じて謄本の交付請求や作成情報の確認を行いましょう。

なお、撤回だけを内容とする公正証書を作成する場合は、新たな財産承継の内容を定めるわけではないため、公証人手数料は財産額に応じて計算するのではなく、一律1万3,000円とされます。

また、遺言の撤回を行った場合、その後に新たな遺言を作成しないまま相続が開始すると、原則として遺産分割協議によって相続手続きを進めることになります。したがって、公証役場で公正証書遺言の撤回を行う場合には、「撤回後に新しい遺言を作成する必要があるか」もあわせて検討しておくことが大切です。

 

新しい遺言書の作成

公正証書遺言を撤回する際には、新しい遺言書を作成して内容を置き換える方法もよく利用されます。

たとえば、以前の公正証書遺言で「自宅を長男に相続させる」と定めていたものの、その後、「自宅を長女に相続させたい」と考えるようになった場合、新しい遺言でその内容を定めることができます。この場合、前の遺言と新しい遺言の内容が抵触する部分については、後の遺言によって前の遺言が撤回されたものと扱われます。

もっとも、前の遺言と新しい遺言の関係が曖昧だと、相続開始後に「どの部分が有効なのか」「前の遺言は全部撤回されたのか、一部だけ残るのか」といった争いが生じるおそれがあります。そのため、新しい遺言書を作成する場合には、冒頭などで「以前作成した公正証書遺言の全部を撤回する」と明記する方法が分かりやすいです。一部だけを変更したい場合でも、「以前の遺言のうち、〇〇に関する部分を撤回し、次のとおり定める」など、前の遺言との関係を明確にしておくことが大切です。

新しい遺言書は、公正証書遺言として作成することもできますし、自筆証書遺言として作成することもできます。法律上は、後に作成された自筆証書遺言によって、前の公正証書遺言を撤回することも可能です。ただし、自筆証書遺言には、形式的な不備によって無効になるリスクや、紛失・改ざん、相続開始時に発見されないなどのリスクがあります。また、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用しない場合、相続開始後に家庭裁判所での検認が必要になります。

そのため、以前の遺言が公正証書遺言である場合には、新しい遺言も公正証書遺言として作成する方が、後日の手続きや証明力の点で安心です。特に、財産の内容が複雑な場合、相続人が複数いる場合、遺留分への配慮が必要な場合、相続人間のトラブルが予想される場合には、公正証書遺言で作り直すことを検討するとよいでしょう。

なお、新しい遺言を作成した後も、前の公正証書遺言の原本自体は公証役場に保管され続けます。これは、公正証書遺言の保管制度上の扱いであり、前の遺言が撤回されていないという意味ではありません。重要なのは、後の遺言で前の遺言をどのように撤回・変更したのかが明確になっていることです。

 

公正証書遺言の撤回にかかる費用

公正証書遺言を撤回する場合の費用は、「撤回だけを行うのか」「新しい公正証書遺言を作成するのか」「新しい自筆証書遺言を作成するのか」によって異なります。

ここでは、公証役場に支払う手数料、必要書類の取得費用、行政書士に依頼する場合の費用に分けて確認していきましょう。

 

手数料など

公正証書遺言の撤回や、新たな遺言書の作成にかかる主な費用は、次のとおりです。撤回だけを行う場合は比較的費用を抑えやすいですが、その後に新しい遺言を作成しないまま相続が開始すると、他に有効な遺言がない限り、原則として遺産分割協議が必要になります。

  • 撤回のみを内容とする公正証書の作成手数料:以前作成した公正証書遺言を撤回するだけの公正証書を作成する場合、公証人手数料は一律1万3,000円
  • 新たに公正証書遺言を作成する場合の手数料:公証役場に支払う作成手数料は、公証人手数料令により定められており、遺言によって相続させる財産の価額に応じて変わります。たとえば、目的価額が500万円を超え1,000万円以下の場合は2万円、1,000万円を超え3,000万円以下の場合は2万6,000円、3,000万円を超え5,000万円以下の場合は3万3,000円、5,000万円を超え1億円以下の場合は4万9,000円となります。なお、財産を受け取る人ごとに手数料を計算し、合算する点に注意が必要です。また、1通の遺言公正証書における目的価額の合計額が1億円以下の場合には、遺言加算として1万3,000円が加算されます。
  • 正本・謄本の交付費用:撤回の公正証書や新たな公正証書遺言の正本・謄本の交付を受ける際、書面で交付する場合は書面1枚につき300円、電子データで交付する場合は1通につき2,500円必要
  • 証人を公証役場で紹介してもらう場合の費用:証人1人あたり6,000円から1万円程度(証人は2人必要なため、合計では1万2,000円から2万円程度
  • 公証人の出張費用(遺言者が高齢や病気などにより公証役場へ行けない場合):作成手数料が50%加算され、さらに出張に伴う日当(1日2万円。ただし4時間以内の場合1万円)や交通費の実費などが必要
  • 新たに自筆証書遺言を作成する場合の費用:自筆証書遺言自体は、遺言者が自分で作成できるため、作成手数料はかかりません。
  • 法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合の費用:新たに自筆証書遺言を作成し、法務局の保管制度を利用する場合は、遺言書1通につき3,900円の保管申請手数料が必要
  • 戸籍謄本などの取得費用:戸籍謄本は1通450円、除籍謄本や改製原戸籍謄本は1通750円
  • 不動産の登記事項証明書の取得費用1通600円
  • 預貯金・有価証券などの資料取得費用:預貯金、株式、投資信託、生命保険などを遺言に記載する場合、残高証明書や取引残高報告書などを準備することがあります。金融機関によっては、証明書の発行に数百円から数千円程度の手数料がかかることがあります。

 

行政書士に依頼する場合の費用

公正証書遺言の撤回や、新たな遺言書の作成を検討する際には、行政書士に相談することもできます。

行政書士は、遺言内容の整理、公証人に伝えるための文案作成、必要書類の収集、相続人や財産関係の整理などをサポートできます。また、事務所によっては、公正証書遺言作成時の証人を引き受けたり、公証役場との事前調整をサポートしたりする場合もあります。

ただし、行政書士が対応できるのは、主に書類作成や事実関係の整理、手続き準備のサポートです。すでに相続人間で争いがある場合、遺言の有効・無効について法的判断が必要な場合には、弁護士への相談が必要になります。また、不動産の相続登記は司法書士の業務となるため、行政書士が登記申請を代理することはできません。

行政書士に依頼する場合の費用は、依頼する業務範囲によって変わります。

  • 撤回内容の整理・相談のみ:以前の公正証書遺言を撤回すべきか、撤回だけでよいのか、新しい遺言を作成すべきかといった相談は、1時間あたり5,000円から1万円程度、または初回相談無料としている事務所もあります。
  • 新たな公正証書遺言の作成サポート:新しい遺言内容の整理、文案作成、戸籍・財産資料の収集、公証役場との調整などをまとめて依頼する場合、シンプルな内容で5~10万円程度、財産の種類が多い場合や相続関係が複雑な場合は10~20万円程度、またはそれ以上になることもあります。
  • 自筆証書遺言の作成サポート:自筆証書遺言の文案作成や内容確認を依頼する場合、3~10万円程度が目安です。
  • 戸籍・財産資料の収集サポート:推定相続人の確認や財産内容の整理のために、戸籍謄本、不動産関係書類、金融資産資料などの収集を依頼する場合、3~8万円程度が目安です。取得する書類の数や請求する自治体の数が多い場合は、追加費用が発生することがあります。

 

まとめ

公正証書遺言は、公証人の関与により作成される安全性の高い遺言方式ですが、一度作成した後でも、遺言者の意思により撤回することができます。

ただし、公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているため、手元にある正本や謄本を破棄したり、手書きで修正を加えたりしても、遺言を撤回・変更したことにはなりません。撤回する場合は、撤回のみを内容とする公正証書を作成する、または新しい遺言書を作成するなど、法律上有効な方法で行う必要があります。

公正証書遺言の撤回や作り直しは、遺言者の最終意思を正しく反映するための重要な手続きです。家族関係や財産状況に変化があった場合、以前の遺言内容に不安がある場合は、早めに見直しを検討しましょう。遺言内容の整理や必要書類の準備でお困りの際は、行政書士への相談もご検討ください。

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