目次
遺贈とは
遺贈とは、被相続人が遺言によって、自らの財産の全部または一部を他人に無償で与える行為をいいます。遺贈は民法の遺言に関する規定に基づく制度であり、遺言という方式に従って行われる点に本質的な特徴があります。
日本では少子高齢化の進展に伴い、単身世帯、いわゆる“おひとりさま”の増加が続いています。配偶者や子がいない、あるいは相続人が限定されるケースでは、財産の承継先を自らの意思で定めておく必要性が高まります。このような背景のもと、遺言によって承継先を指定できる遺贈の重要性は、今後ますます高まると考えられます。
遺言制度は、被相続人の最終的な意思を尊重し、財産の承継を円滑に行うことを目的として設けられており、その中で遺贈は重要な役割を担っています。近年は、法務局における自筆証書遺言保管制度の利用件数が増加するなど、遺言そのものへの関心が高まっており、それに伴って遺贈という制度の活用も進んでいくことでしょう。
相続・贈与との違い
遺贈を理解するうえでは、「相続」や「贈与」との違いを整理しておくことが重要です。
相続とは、法律で定められた相続人が、被相続人の死亡によって当然に財産を承継する仕組みです。これに対して遺贈は、遺言によって特定の人に財産を与えるものであり、法定相続人以外にも財産を承継させることができます。一方、贈与は当事者間の契約によって財産を移転する制度であり、被相続人の生前に効力が生じます。
つまり、遺贈は「遺言による死後の財産移転」、相続は「法律による当然の承継」、贈与は「契約による生前の財産移転」という違いがあります。
遺贈の種類
遺贈には大きく分けて「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があり、法的な性質や受遺者の権利・負担、実務上の手続に違いがあります。まず、それぞれの基本を整理したうえで、相違点を比較します。
包括遺贈とは、「財産の全部」や「○分の1」など、割合や包括的な範囲で財産を与える遺贈をいいます。受遺者は相続人に準ずる地位で包括的に権利義務を承継するため、被相続人の債務(借入金など)についてもその範囲で負担を引き継ぐことになります。また、包括受遺者は相続人に類似した立場となるため、他に相続人がいる場合には、遺産分割協議への参加が必要となります。
これに対して特定遺贈とは、「自宅不動産」「預金○○万円」など、個別具体的な財産を指定して与える遺贈です。受遺者は指定された財産のみを取得し、被相続人の債務を引き継がない点が大きな特徴です。どの財産を誰に承継させるかを明確にしたい場合に適しており、トラブルを回避しやすい形式といえます。
両者の違いを整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 包括遺贈 | 特定遺贈 |
| 概要 | 財産の全部または一定割合を指定して与える | 個別の財産を特定して与える |
| 取得範囲 | 権利義務を一体で承継 | 指定された財産に限定 |
| 債務の負担 | あり(割合に応じて承継) | なし |
| メリット | 割合で指定できるため、財産の増減があってもバランスよく配分できる | 内容が明確でトラブルになりにくい |
| デメリット |
|
財産の価値変動の影響を受けやすい |
遺贈の利用シーン
遺贈は、法定相続だけでは実現できない意思を反映させたい場合に有効な手段です。例えば、内縁の配偶者や長年世話になった知人に財産を残したい場合に加え、療養中にお世話になった担当医師や看護師、介護士、日常的に支援を受けていたヘルパー、自治体(特定の事業への寄附指定を含む)、自身が入居していた介護施設や利用していた医療機関などを遺贈先とすることも考えられます。
また、近年では、社会貢献の一環として公益法人やNPO法人などに財産を寄付する「遺贈寄付」も注目されています。これは、自身の死後に社会的な活動へ財産を役立てたいというニーズに応える手段として利用されています。
ただし、個人や法人への遺贈は受遺者の受け取り意思や受領体制の有無にも左右されるため、事前の確認や遺言執行者の指定を含めた事前の検討が重要です。
遺贈の対象となる財産は、現金や預貯金に限られません。不動産(自宅・土地・収益物件)、有価証券(株式・投資信託)、動産(自動車・貴金属・美術品)、知的財産権、さらにはデジタル資産(暗号資産等)など、法律上承継可能な財産であれば幅広く指定することができます。
一方で、遺言による指定がなく、法定相続人も存在しない場合には、相続財産は最終的に国庫に帰属します(民法の規定による)。特に、配偶者や子・兄弟姉妹などの法定相続人に相当する親族がいない、いわゆる「おひとりさま」の場合には、この帰結となる可能性が高いため、自身の意思に沿った承継先を確保する手段として遺贈を活用する意義は大きいといえます。
遺贈を行う方法
遺贈は必ず遺言によって行う必要があり、口頭やメモなどでは法的な効力は認められません。遺言の方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、それぞれ特徴が異なります。
以下の表に、それぞれの遺言の特徴などをまとめました。
| 種類 | 概要 | メリット | デメリット |
| 自筆証書遺言 | 遺言者が全文を自筆で作成する遺言 | 費用がかからず手軽に作成できる |
|
| 公正証書遺言 | 公証役場で、公証人の関与により作成する遺言 |
|
作成に費用と手間がかかる |
| 秘密証書遺言 | 内容を秘密にしたまま公証人に存在を証明してもらう遺言 | 内容を秘密にできる |
|
このように、それぞれにメリット・デメリットがあるものの、実際に遺贈を行う場合は、確実性や証拠力の観点から「公正証書遺言」を利用するケースが多く見られます。
公正証書遺言の作成
公正証書遺言とは、公証人が関与して作成する遺言であり、法律上最も確実性の高い方式とされています。作成にあたっては、遺言者が公証役場に出向き(高齢や入院等の場合は出張作成も可能)、公証人に対して遺言内容を伝え、それを基に公証人が遺言書を作成します。作成時には証人2名の立会いが必要となります。
手続きを行う公証役場は、住所地に関わらず自由に選択できますが、事前の打合せや書類のやり取りを考えると、自宅や勤務先からアクセスしやすいところを選ぶのが一般的です。日本公証人連合会のウェブサイトなどで最寄りの公証役場を検索できます。
また、公証役場は多くの場合「完全予約制」となっており、いきなり来所して作成することはできません。通常は、電話やメールで予約を行い、事前相談の日程を決めます。事前相談では、遺言の内容(遺贈の対象者・財産の内容・分け方など)を伝え、その後、公証人が案文(原案)を作成します。
原案が完成したら、証人2名と共に公証役場を訪れ、正式な書面を完成させます。当日の流れとしては、内容の最終確認を行ったうえで、公証人が遺言書を読み上げ、遺言者と証人が署名押印を行います。その後、原本は公証役場で保管され、遺言者には正本・謄本が交付されます。これにより、紛失や改ざんのリスクを大幅に低減することができます。
一般的には、事前相談の段階で、遺言者の本人確認資料(運転免許証等)、印鑑証明書、相続人や受遺者の情報(氏名・住所・生年月日)、不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書、預貯金の通帳や残高が分かる資料などを準備しておくことが求められます。また、遺言の内容を確実に実現するためには、遺言執行者をあらかじめ指定しておくことが推奨されます。遺言執行者を指名する場合は、その方の情報(氏名・住所・生年月日)も準備しておきましょう。これらの情報を基に、公証人が正確な遺言書の文案を作成します。
費用面では、公証人手数料(遺言の目的財産の価額に応じて決定)や証人への謝礼が必要となりますが、後日の紛争防止や手続の円滑化を考えると、十分に検討に値する方法といえるでしょう。
受遺者が行う手続き
遺贈により財産を受け取る立場にある受遺者は、遺言の内容に基づいて一定の手続きを行う必要があります。
まず前提として、遺贈は相続とは異なり、受遺者の意思によって受け取るかどうかを選択できる点が重要です。包括遺贈の場合は、財産だけでなく借金などの債務も同時に承継するため、相続人と同様に承認・放棄の判断が必要になります。財産より負債の方が多いような場合は、遺贈を受け取らないことも可能ですが、自己のために遺贈があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ放棄のための申述を行う必要があります。特定遺贈の場合は、相続開始後であれば期限の制限なく、また家庭裁判所の手続きもなく意思表示により放棄が可能とされていますが、実際には速やかに他の相続人などに対して意思表示を行うことが望ましいといえます。
次に、遺贈を受け取ることを決めた場合には、遺言の内容を実現するための具体的な受領手続きがあります。遺言執行者が指定されている場合には、原則として遺言執行者が中心となって財産の引渡しや名義変更手続を進めるため、受遺者は必要書類の提出や受領の意思表示を行うことになります。遺言執行者がいない場合には、相続人との協議や協力を得ながら手続きを進める必要があり、場合によっては家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることも検討されます。
なお、財産の種類ごとに必要となる手続も異なります。不動産の遺贈では、登記手続(所有権移転登記)が必要となり、遺言書や被相続人の戸籍関係書類、固定資産評価証明書などを用意したうえで、司法書士に依頼して手続きを進めるのが一般的です。預貯金については、金融機関所定の手続きに従い、遺言書や本人確認書類等を提出して解約・払戻しを受けます。有価証券の場合も、証券会社ごとに所定の手続きが定められており、名義変更や口座振替の手続きが必要となります。
また、遺贈により取得した財産については、相続税の申告・納付が必要となる場合があります。申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内とされているため、手続の遅れがないよう早めに準備を進めることが重要です。
このように、受遺者が行う手続きは多岐にわたり、遺言の内容や財産の種類、関係者の状況によっても対応が異なります。円滑に手続きを進めるためには、遺言執行者の有無を確認したうえで、必要に応じて司法書士や税理士、弁護士などの専門家と連携するのが良いでしょう。
遺贈の注意点
遺贈は有効に活用すれば、相続人以外の方へ財産を承継させることができる有用な制度ですが、内容の設計や手続の進め方を誤ると、思わぬトラブルや税負担の増加につながるおそれがあります。
ここでは、実務上特に重要となる「遺留分」と「税制」の観点から、押さえておきたいポイントを解説します。
遺留分に注意
遺贈を行う際に最も注意すべき点の一つが、遺留分との関係です。遺留分とは、一定の相続人に対して法律上保障された最低限の取り分のことであり、遺言によっても完全に排除することはできません。
たとえば、遺言で特定の第三者に全財産を遺贈した場合でも、配偶者や子などの遺留分権利者は、自己の遺留分を侵害されたとして「遺留分侵害額請求」を行うことができます。この請求が認められると、受遺者は金銭での支払い(いわゆる金銭請求)に応じる必要が生じます。
そのため、遺贈を設計する際には、
- 遺留分権利者の有無
- 遺留分の割合
- 遺贈する財産の価額
といった点をあらかじめ整理し、遺留分を大きく侵害しない内容とする、あるいは遺留分侵害が想定される場合には資金手当てを考慮しておくことが重要です。
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遺贈に関連する税制
遺贈により財産を取得した場合、原則として相続税の課税対象となります。課税関係は「相続」による取得と基本的に同様ですが、受遺者の属性によって税負担が変わる点に注意が必要です。
まず、受遺者が相続人である場合には、通常の相続と同様に相続税が課されます。一方で、受遺者が相続人以外の者(孫、知人など)である場合には、相続税額が2割加算される制度が適用されます。この点は、遺贈を活用する際の重要な判断要素となります。
また、相続税には基礎控除が設けられており、
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
を超える場合に課税対象となります。遺贈により財産を取得した場合でも、この基礎控除の範囲内であれば相続税は発生しません。
さらに、不動産の遺贈を受けた場合には、相続税とは別に登録免許税や不動産取得税が問題となる場合があります。特に、相続人以外の者が不動産を取得する場合には、不動産取得税が課される点にも注意が必要です。
なお、遺贈と比較される制度として「生前贈与」がありますが、税制上の取扱いには大きな違いがあります。一般的に、生前贈与には贈与税が課され、相続税よりも税率が高く設定されているため、単純に税負担だけで比較すると、遺贈(相続)による承継の方が有利になるケースが多いといえます。
もっとも、生前贈与には年間110万円の基礎控除を活用した節税(暦年贈与)や、早期に財産を移転できるといったメリットもあります。一方で、相続開始前一定期間内の贈与については相続財産に持ち戻される(加算される)制度もあるため、単純な有利・不利だけで判断するのではなく、財産の内容や家族構成、承継の目的に応じて総合的に検討することが重要です。
遺贈に関して行政書士に依頼できる業務と費用の目安
遺贈に関する手続きでは、遺言書の作成段階から相続開始後の書類整備まで、行政書士が関与できる場面は多岐にわたります。
まず、遺贈を確実に実現するための前提として、遺言書(とくに公正証書遺言)の原案作成や条項設計のサポートが挙げられます。受遺者の特定方法、財産の表示、条件付遺贈や負担付遺贈の設計、遺言執行者の指定など、紛争予防の観点から表現を整えることが重要であり、これらは行政書士の主要業務に含まれます。費用の目安は、内容の難易度や財産の数にもよりますが、おおむね5〜15万円程度が一つの目安となります(公証人手数料や証人費用は別途)。
また、相続開始後においては、受遺者が手続きを進めるために必要となる各種書類の収集・作成も対応可能です。具体的には、被相続人の戸籍一式の収集、受遺者や相続人の関係資料の整理、金融機関提出用の書類作成、遺言書の内容に基づく合意書や引渡確認書の作成などが含まれます。これらの書類作成は手間がかかるため、専門家に一括して依頼するメリットが大きいと言えるでしょう。費用は、収集する戸籍の範囲や件数、書類の種類によって異なりますが、3〜10万円程度が一般的です(実費は別途)。
さらに、遺贈に関連して内容証明郵便の作成(遺産分割協議開催の通知や遺贈の放棄に関する意思表示など)や、関係者間で取り交わす合意書・確認書(遺産分割協議書や引渡確認書など)の作成についても、行政書士が対応可能です。これらは紛争を未然に防ぐために重要な役割を果たし、文案の精度がそのままリスク低減につながります。費用の目安は、内容証明の作成で2〜5万円程度、各種合意書の作成で3〜8万円程度が一つの基準です。
また、自動車の遺贈に伴う名義変更(運輸支局での登録手続)については、行政書士が代理可能であり、費用の目安は1〜3万円程度が一般的です(車庫証明が必要な場合は別途)。
一方で、行政書士の業務範囲には限界がある点にも注意が必要です。不動産の名義変更(所有権移転登記)は司法書士の業務であり、相続放棄の申述や遺言執行者の選任申立てなど家庭裁判所への手続は原則として本人または弁護士が対応しなければなりません。また、相続税の申告は税理士の独占業務であり、遺留分侵害額請求の交渉代理や訴訟対応は弁護士の業務に該当します。
このように、遺贈に関する実務では複数の専門家が関与する場面が多く、それぞれの役割を踏まえたうえで適切に依頼先を選択することが重要です。行政書士は、書類作成と手続の全体設計を担う「入口」として関与することで、遺贈を円滑に実現するための基盤を整える役割を果たします。
まとめ
遺贈は、遺言によって特定の人に財産を承継させることができる制度であり、相続人以外の第三者に財産を渡したい場合や、財産の承継先を明確にしたい場合に有効な手段です。特に近年は、おひとりさまの増加や家族形態の多様化に伴い、遺贈の活用場面は広がりつつあります。
行政書士は、遺言書の原案作成や書類整備を通じて、遺贈を円滑に進めるための基盤づくりをサポートすることができます。他方で、不動産の名義変更や相続税申告などについては、司法書士や税理士といった専門家との連携が不可欠です。
遺贈は、適切に活用すればご自身の意思を確実に反映できる有効な制度です。将来のトラブルを防ぎ、円滑な財産承継を実現するためにも、早い段階から専門家への相談を検討しながら、計画的に準備を進めていくことが大切といえるでしょう。
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特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)