開発許可制度とは?基礎知識から申請手続きまで徹底解説

開発許可制度とは

土地の造成や建築物の建設を行う際には、その地域のまちづくりに大きな影響を及ぼすことになります。そこで、無秩序な開発を防ぎ、計画的な都市の形成を図るために導入されたのが「開発許可制度」です。

 

開発許可制度の概要

開発許可制度は都市計画法に基づいて運用されており、特定の区域内で一定規模以上の開発行為を行う場合には、市町村や都道府県などの行政庁から事前に「開発許可」を受けなければならない制度です。ここでいう「開発行為」について詳しくは後述しますが、主に土地の区画形質の変更、すなわち宅地造成や道路の新設などが該当します。

この制度の目的は、都市計画に沿った秩序ある土地利用を確保し、周辺環境や公共施設に悪影響を与える開発を未然に防ぐことです。開発行為が行われる場所が、都市計画区域・準都市計画区域・市街化調整区域など、どの区域に該当するかによって、許可の必要性や審査基準が異なってきます。

たとえば、市街化区域では原則として開発が認められていますが、市街化調整区域では農地や山林などの保全が優先されるため、厳しい立地基準を満たさなければ開発許可が下りないという制約があります。

 

開発許可制度が導入された背景

開発許可制度は、1968年に制定された「都市計画法」によって制度化されました。その背景には、高度経済成長期に急増した無秩序な都市開発への危機感がありました。

当時は、住宅地や工場の建設が全国で急速に進みましたが、これに対するインフラ整備や環境配慮が追いつかず、交通渋滞や騒音、景観破壊などの都市問題が各地で発生していました。これを受けて、都市の健全な発展を目指すために、一定のルールに基づいて開発を管理・誘導する必要が高まりました。

その結果として、開発行為の事前チェック体制を整える「許可制度」が導入され、地方自治体が都市計画に基づいて開発をコントロールできる仕組みが確立されたのです。

現在では、持続可能な地域づくりや防災対策、環境保全の観点からも、この制度の重要性はますます高まっており、土地利用に関するルールの根幹をなす存在となっています。

 

都市計画とは

開発許可制度を理解するうえで欠かせないのが、「都市計画」の考え方です。都市計画とは、将来的な人口増加や地域発展を見越して、適切な土地利用やインフラ整備を計画的に進めるための仕組みです。具体的には、用途地域の設定や道路、公園、下水道などの公共施設整備の方向性を示すもので、開発行為の可否や許可基準にも深く関わります。

以下の表のように、都市計画の観点から日本の国土は大きく4つに分類され、それぞれで開発行為に関するルールが異なります。

日本の国土 都市計画区域 1.線引き都市計画区域 市街化区域
市街化調整区域
2.非線引き都市計画区域
3.準都市計画区域
4.都市計画区域外

 

以下では、各区域の特徴を解説します。

 

1. 線引き都市計画区域

「線引き都市計画区域」とは、市街化を促進する区域と抑制する区域とに明確に分けたエリアです。都市の無秩序な拡大を防ぐために導入されており、多くの市町村で採用されています。線引き都市計画区域は国土全体の約13%ほどで、総人口の約80%がこの地域に暮らしています。

市街化区域

市街化区域は、すでに市街地が形成されているか、今後10年以内に優先的・計画的に市街化を進める地域です。この区域では、原則として開発行為が許可されやすく、インフラの整備も進んでいるため、住宅地・商業地の開発がしやすい特徴があります。

市街化調整区域

一方で市街化調整区域は、市街化を抑制する目的で設定された区域です。農地や山林などの自然環境の保全、都市インフラの過剰整備の防止を目的としています。

この区域では、原則として開発行為は認められず、例外的に公益性の高い施設や、一定の条件を満たす開発に限り許可されるため、立地基準に適合するかどうかが審査の重要なポイントとなります。

 

2. 非線引き都市計画区域

非線引き都市計画区域とは、線引き(市街化区域・市街化調整区域の区分)がなされていない都市計画区域のことです。市街化が著しく進んでいない地域や、将来的な方向性が未確定なエリアに多く見られます。

この区域では、開発行為の許可は必要ですが、市街化調整区域のような厳格な抑制はされておらず、行政庁が個別に開発の妥当性を判断する仕組みとなっています。

 

3. 準都市計画区域

準都市計画区域は、都市計画区域外であっても一定の開発需要が見込まれ、秩序ある土地利用を図る必要がある地域に指定される区域です。

この区域でも開発行為を行う場合には許可が必要となり、区域ごとに定められた用途制限や景観基準などに適合するかどうかが審査されます。

 

4. 都市計画区域外

都市計画区域外では、原則として都市計画法上の開発許可は不要ですが、他の法律(農地法や森林法など)の規制が及ぶ可能性があるため注意が必要です。また、自治体によっては条例や指導要綱により、一定の届出や制限が課される場合もあります。

 

開発許可制度における「開発行為」とは

開発許可制度の対象となるかどうかを確認するには、まずその行為が「開発行為」に該当するかを見極めなければなりません。ここでは、開発行為の具体例と、許可が不要なケースについて解説します。

 

開発行為の具体例

都市計画法第4条第12項によれば、「開発行為」とは、主として建築物や特定工作物の設置を目的として行う土地の区画形質の変更を指します。「建築物や特定工作物」とは、以下のようなものを指します。

  • 建築物:住宅、店舗、倉庫などの建物全般
  • 第1種特定工作物:コンクリートプラント、アスファルトプラントなどの施設
  • 第2種特定工作物:ゴルフコース、開発区域が10,000平方メートル(1ha)以上の墓園、開発区域が10,000平方メートル(1ha)以上の運動・レジャー施設(競技場、遊園地、動物園など)

なお、ここで言う「区画形質の変更」とは、以下のような行為が該当します。

  • 「区画」の変更:公共施設(道路、公園、下水道、緑地、広場、河川、水路及び消防の用に供する貯水施設)の新設または改廃を伴う土地の分割または統合をすること
  • 「形」の変更:土地の切土または盛土を行うこと
  • 「質」の変更:宅地以外の土地を宅地に変更すること

以上より、「開発行為」に当たるのは具体的には以下のような行為となります。

  • 住宅団地の分譲用地を造成する
  • 新たな道路を敷設して区画を分ける開発
  • 工場や倉庫の敷地を確保するための造成
  • 農地に住宅を建築する

このように、土地の形状や用途を変えることによって、新たに建築物を建てられる状態にする行為はすべて「開発行為」として扱われ、次に説明する例外に該当しない場合には開発許可の取得が必要です。

 

開発許可が不要な開発行為とは

先述の「開発行為」に該当しても、一定の条件下では開発許可が不要となる例外規定も存在します。

まず、都市計画法で定められる規模より小さい開発行為については、許可は不要となります。具体的には、以下の表のように各区域ごとに規模が定められています。

区分 開発許可が必要ない規模
線引き都市計画区域 市街化区域 1,000㎡未満

※条例により300㎡まで引き下げ可

市街化調整区域 原則として全ての開発行為で許可が必要
非線引き都市計画区域 3,000㎡未満

※条例により300㎡まで引き下げ可

準都市計画区域 3,000㎡未満

※条例により300㎡まで引き下げ可

都市計画区域外 10,000㎡ (1ha) 未満

 

また、以下のようなケースでも開発許可は不要です。

  • 駅舎、図書館、公民館などの公共性の高い建物の建設
  • 住宅に附属する車庫・物置等の建築
  • 市街化区域以外での農林漁業用に使用する建築物(農家住宅、農業用倉庫、畜舎、堆肥舎など)
  • 災害時の応急措置

 

開発許可を取得するために満たすべき基準

開発許可制度においては、開発行為の内容が都市計画に適合しているだけでは不十分です。実際に許可を得るためには、以下のような都市計画法で定められた「技術基準」および「立地基準」を満たす必要があります。

 

技術基準

技術基準とは、開発行為を行うにあたり、生活環境や公共の福祉を損なわないように整備すべき基本的なルールです。具体的には、以下のような項目が審査対象になります。

  • 道路の幅員や接続状況(最低幅4m以上など)
  • 上下水道、排水施設の整備
  • 公園や緑地などの公共施設の配置
  • ゴミ集積所や消防施設などの安全対策
  • 宅地造成に伴う擁壁や法面の安全性確保

また、地域によっては独自の「開発指導要綱」や「景観条例」なども設けられており、技術基準とは別に追加の条件が課されることもあります。

 

立地基準(市街化調整区域にのみ適用)

立地基準は、特に「市街化調整区域」での開発行為に対して厳格に適用されるもので、基本的には開発を抑制することを前提とした考え方です。

市街化調整区域で開発を行うには、原則として開発行為は認められず、例外的に許可されるのは以下のようなケースに限られます。

  • 公共施設や公益性のある施設(学校、病院、上下水道施設など)
  • 既存の集落に居住する者が自家用住宅を建てる場合(分家住宅等)
  • 都道府県や市町村の条例で認められた特例的な用途(農業用施設など)

 

開発許可申請の流れ

開発許可の申請には多くの書類や関係機関との調整が伴うため、流れを事前に把握しておくことが非常に重要です。ここでは、一般的な開発許可申請の流れを段階ごとに解説します。

 

1. 事前相談(ヒアリング)

開発計画を立てたら、まずは管轄の自治体(市町村や都道府県)の都市計画担当窓口に事前相談を行います。

この段階で、計画地の区域区分や用途地域、必要な基準(技術基準・立地基準)を確認し、開発許可の対象かどうかをチェックします。あわせて、必要となる手続きの詳細や提出書類の案内も受けることができます。

 

2. 関係機関との協議

事前相談の内容をもとに、必要に応じて水道局・下水道課・建築課・消防署・農業委員会などの関係機関と個別協議を行います。

これにより、インフラ整備や法令上の制限への適合性を確認しておくことが可能です。

 

3. 開発行為の計画作成

技術基準や地域の条例に適合するよう、開発計画(設計図・配置図・造成計画など)を作成します。

この段階では、測量士や設計士、建築士など専門家の協力が必要になるケースも多く見られます。

 

4. 開発許可申請書の提出

計画が固まったら、必要書類を添えて開発許可申請書を提出します。自治体によっては「開発行為等の協議申出書」などの事前協議書類が求められることもあります。書類提出時に窓口で簡易審査が行われ、不備があればその場で指摘されることもあります。

 

5. 審査・現地調査・補正対応

提出された書類をもとに、役所の担当課が技術基準や立地基準への適合性を審査します。また、現地確認や周辺住民への影響調査が行われることもあります。必要に応じて、設計の一部見直しや書類の追加提出(補正)を求められる場合があります。

 

6. 開発許可の通知・公告

すべての審査が完了し、問題がなければ正式に開発許可が下ります。許可書が交付され、同時に官報や自治体の掲示板で公告されるのが一般的です。

 

7. 工事着手

許可を得たら、工事の着手が可能となります。多くの自治体では、「工事開始届」「工事完了届」などの届出が義務付けられているため、忘れずに対応する必要があります。

 

開発許可申請の必要書類

開発許可申請の書類の作成は専門知識を要するものが多く、設計事務所や行政書士など専門家の協力を得ることが推奨されます。図面類は正確性が求められるため、測量士・建築士による作成が望ましいでしょう。

また、自治体によっては独自の提出書式や添付書類を求めている場合もあるため、申請先の自治体ホームページや担当窓口で最新情報を確認することが必須です。

ここでは、開発許可申請にあたって一般的に求められる主要書類とそのポイントを解説します。

 

主な提出書類一覧

以下は、開発許可申請時に一般的に必要とされる書類の例です。

  • 開発行為許可申請書:申請の主体や開発の目的、概要などを記載した基本書類です。
  • 位置図・周辺見取図:開発地の場所を示す地図で、住宅地図や都市計画図を利用することが多いです。
  • 土地利用計画図(配置図):建築物の配置や道路、公共施設との関係を示した図面。
  • 造成計画図・縦横断面図:切土・盛土の状況、高低差など土地の造成に関する詳細を表す図面。
  • 排水計画図:雨水や汚水の排水経路・処理方法を記した図面で、環境保全上非常に重要です。
  • 工事工程表:工事の進行スケジュールを示した表で、計画的な施工を確認するために使われます。
  • 公共施設の管理者との協議結果通知書:水道・下水道・道路などの管理者と事前協議を行った結果を記載した書面。
  • 登記事項証明書・公図・地積測量図:土地の権利関係や形状、面積を確認するための基本的資料。

 

開発行為に関連するその他の法律

開発許可制度は都市計画法に基づいて運用されていますが、実際の開発行為においては都市計画法だけでなく、他の関連法令も同時に遵守する必要があります。

ここでは、開発行為と密接に関係する代表的な法律を8つご紹介します。

 

農地法

開発地が農地の場合には、農地法に基づき「農地転用許可」または「届出」が必要です。特に市街化調整区域内の農地を宅地などに転用するには、農業委員会および都道府県知事の許可が求められます。農地転用の可否は、開発計画の根幹に関わるため、必ず早期に確認しましょう。

 

建築基準法

開発行為後に建物を建てるには、建築基準法に基づく「建築確認申請」が必要です。接道義務や用途地域、高さ制限、防火規制などが代表的な規制項目です。開発許可取得後でも、建築基準法を満たしていなければ建物が建てられないため注意が必要です。

 

宅地造成等規制法

傾斜地や高低差のある土地を宅地として造成する場合、宅地造成等規制法の許可が必要になることがあります。がけ崩れや土砂災害の危険性を防ぐため、切土・盛土の安全性や排水処理の計画などが厳しく審査されます。

 

道路法

開発区域へのアクセス道路が新設・変更される場合には、道路法に基づき「道路管理者(国・都道府県・市町村)の占用許可や協議」が必要です。道路との接続や交差点構造、歩道設置などについても行政と協議する必要があります。

 

河川法

河川に隣接する土地を開発する際には、河川法の規制に注意が必要です。たとえば河川区域や河川保全区域での工事では、河川管理者(国または都道府県)の許可が必須です。洪水対策や水流の妨害を避ける設計が求められます。

 

砂防法

土砂災害の危険性がある地域では、砂防法が適用されます。特に「土砂災害特別警戒区域」などに該当する場合、砂防設備の整備計画や、開発制限・許可の取得が求められます。都道府県の砂防課などとの事前相談が重要です。

 

首都圏近郊緑地保全法

東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県の一部地域では、首都圏近郊緑地保全法が適用されることがあります。この法律は、首都圏周辺の緑地を保全するために開発を制限するもので、保全区域内では原則として建築や造成が制限されます。

 

森林法

山林を開発する場合、森林法に基づく「林地開発許可」が必要です。特に保安林などの指定を受けている土地では、開発が原則禁止されている場合もあるため、早い段階での確認が必須です。違反すると原状回復命令や罰則の対象となります。

 

まとめ

開発許可制度は、無秩序な土地利用を防ぎ、地域全体のバランスの取れた発展を実現するために非常に重要な制度です。特に都市計画区域内では、区域区分ごとに開発行為の可否や必要な基準が異なるため、制度の基本をしっかりと理解することが求められます。

開発計画を立てる際には早めに行政との事前協議を行い、行政書士や建築士などの専門家のサポートを受けながら、確実かつ効率的に手続きを進めていきましょう。

関連コラムはこちら↓

土地に関する手続きを行政書士に依頼するメリットとサポート内容を解説農地転用とは?行政書士がサポートする手続きの流れと注意点行政書士が行う農振除外手続きとは?許可を得るための重要なポイント