農地転用とは?許可・届出の違いから手続き方法まで徹底解説

農地法上の「農地」とは

農地転用の手続きを進めるにあたって、まず重要なのが「そもそもその土地が農地に該当するかどうか」の確認です。

農地法では、耕作の目的に供されている土地を「農地」と定義しており、実際に耕作されているかどうかが判断基準になります。たとえ登記簿や課税地目が「宅地」や「雑種地」になっていても、現実には畑や田んぼとして使われていれば、それは農地とみなされる可能性があります。

このため、形式的な地目だけで判断せず、実態を重視する必要があります。

 

「農地」であるかどうかの確認方法

農地かどうかを調べる方法はいくつかありますが、以下の3つが基本です。https://map.maff.go.jp/

 

農業委員会の農地台帳

まず最も信頼できる情報源が、市町村の農業委員会が管理する「農地台帳」です。

ここには、現に農地として利用されているか否かの情報が記載されており、登記簿とは異なる最新の実態が反映されていることもあります。基本的には、この農地台帳に記載されている土地は、農地転用の手続きが必要な「農地」であると考えて問題ありません。

なお、農地台帳に記載されているかどうかの確認は、市町村の農業委員会に直接問い合わせる他、農林水産省が提供するインターネットサービス「eMAFF農地ナビ」で誰でも確認することができます。

登記簿上の地目

登記簿には「地目(ちもく)」という欄があり、そこに「田」「畑」と記載されていれば原則として農地と判断されます。ただし、登記は申請主義であることから、現況と一致しない場合もしばしばあります。

たとえば、登記簿上は「宅地」「原野」などとなっていても、実質上は農地として利用されていれば、農地台帳に記載されている可能性があります。このようなケースでは、土地の用途を変更する際に農地転用の手続きが必要になる可能性があるので、事前に農業委員会で確認を取るのが良いでしょう。

課税地目

課税地目とは、土地の固定資産税を課す際に市町村が認定する地目のことを指します。これは、毎年1月1日現在の土地の利用状況に基づき、市町村の担当課が現況や利用目的を重視して判定します。

たとえば、登記簿上は「宅地」でも、実際には農業利用が継続されていれば「田」や「畑」として課税されることがあります。課税地目が「田」「畑」となっている場合は、農地台帳にも記載されている可能性が高いため、土地の売買や建物の建築を検討している際は、事前に農業委員会で確認を行いましょう。

なお、課税地目は、固定資産税の課税明細書で確認することができます。

 

農地の区分

農地は、その立地条件や周辺環境などに応じて、主に以下の5つに区分されます。これらの区分は、転用の許可を判断するうえで重要な分類となります(※具体的な許可要件については後述します)。

なお、農地の区分は市町村の「農業振興課」などの部署に問い合わせて確認することができます。

  • 農用地区域内農地:市町村が策定する農業振興地域整備計画の中で、将来にわたって農業の振興を図るべき区域として指定された「農用地区域」にある農地です。農業の安定的な継続のため、農業利用が強く推奨されるエリアです。
  • 甲種農地:市街化調整区域内にある農地の中でも、特に高い農業生産性が認められる農地です。具体的には、10ヘクタール以上の大規模な農地の一団や、農業基盤整備などの公共投資が行われた農地などが該当します。
  • 第1種農地:甲種農地ほどではないものの、依然として良好な営農条件を備えた農地です。鉄道や主要道路などの整備計画からも距離があるなど、市街地化の兆候が少ないエリアに存在します。
  • 第2種農地:第1種農地よりもやや市街化に近く、周辺には既に住宅や商業施設があることも多い農地です。農地としての機能を保ちつつも、土地利用の多様化が見られる地域に位置します。
  • 第3種農地:既に市街地としての性格が強く、農地としての利用が現実的に行われていないエリアにある農地です。商業地や住宅地のすぐ近くにあり、農業従事者も少ない傾向にあります。

 

農地転用許可(届出)制度の概要

農地転用とは、農地を宅地や駐車場など農業以外の用途に変更することを指します。この農地転用を行うためには、原則として農地法に基づく許可または届出が必要です。

ここでは、制度の基本情報について解説します。

 

目的

農地転用許可制度の最大の目的は、国内の限られた農地資源を計画的かつ適切に保全・利用することです。特に日本では農地面積が年々減少しているため、無秩序な農地転用を防ぎ、食料自給率や農業の持続性を確保することが国の政策課題とされています。

このため、農業に適した土地がむやみに宅地開発や商業施設に転用されることを抑制し、農業とのバランスの取れた土地利用を促進することが制度の趣旨です。

 

農地転用の手続きが必要な場面

農地転用手続きが必要となるのは、次のようなケースです。

  • 農地を自宅やアパートなど住宅用地にする場合
  • 農地を駐車場や資材置場として利用する場合
  • 農地に倉庫や事務所などの建築物を建てる場合
  • 太陽光発電設備(ソーラーパネル)を設置する場合

また、所有者本人による転用に限らず、売買や賃貸借によって第三者が農地を取得し転用する場合も、農地法に基づく手続きが求められます。

 

手続きを行わなかった場合の罰則

農地転用の手続きを行わずに無断で転用を行った場合、農地法に基づく是正措置命令や罰則が科される可能性があります。たとえば、次のような処分が行われることがあります。特に近年は、太陽光発電施設の設置による農地転用が増えており、無許可転用への取り締まりも厳しくなっています。

  • 原状回復命令(農地に戻すことを命じられる)
  • 3年以下の懲役または300万円以下の罰金

 

農地転用における「許可」と「届出」の違い

農地転用の際には、「許可」と「届出」のどちらの手続きが必要かを判断することが重要です。これは、農地が位置する場所の都市計画上の区分によって異なります。

以下は、「許可」と「届出」の対応関係をまとめた表です。

都市計画上の区分 許認可の種類 申請先
市街化区域 届出 農業委員会
上記以外 許可 都道府県知事または市長

※申請窓口は農業委員会

市街化区域内では、都市計画上すでに非農業的な土地利用が予定されているため、農地転用のハードルが比較的低く設定されています。このため、行政に対する「届出」で足りるのです。なお、「届出」は単なる通知ではありますが、実際に転用を行う前に届け出を行う必要があるので、注意しましょう。

一方、市街化調整区域や都市計画区域外では、無秩序な開発を防止するために、農業委員会および都道府県知事などの厳格な審査による許可制が採用されています。

手続きを行いたい農地の場所が「市街化区域」かそれ以外かを確認するには、自治体の都市計画課などで「都市計画図」を閲覧するのが最も確実です。

近年はインターネット上で公開している自治体も多いため、自治体のホームページを確認するのも有効です。ただし、確認したい場所が市街化区域と市街化調整区域のちょうど境界に位置するような場合には、市町村役場での確認を怠らないようにしましょう。

 

農地転用許可の種類

農地転用には、農地法に基づいて複数の許可の種類が存在します。

以下の表は、農地転用に関する主要な2つの許可(第4条・第5条)について、制度の概要と具体例を整理したものです。

農地法 許可が必要な場合 許可申請者 許可権者
第4条 農地の所有者が農地を転用する場合

(例)自分の農地を駐車場や資材置場に転用したいとき

農地所有者 都道府県知事または市長

※農地の面積が4haを超える場合は農林水産大臣との協議を要する

※市街化区域内の農地については、農業委員会への届出

第5条 農地、採草放牧地を転用するため権利設定または権利移転を行う場合

(例)農地を事業者に売却または賃貸して、事業者がその土地に店舗や倉庫を建てるとき

農地所有者と譲受人

 

農地転用の許可要件

農地転用の許可を得るためには、農地法に基づいた2つの主要な基準「立地基準」と「一般基準」を満たす必要があります。

ここでは、それらの要件について解説します。

 

立地基準

まず、先述の農地の区分によって、以下の表のように農地転用の可否が判断されます。なお、対象の土地がどの区分に該当するかは、市町村の「農業振興課」などの部署へ問い合わせて確認を行いましょう。

 

区分 主な特徴 農地転用の可否 例外的に許可されるケース
農用地区域内農地 農業振興地域整備計画において農用地とされた区域内の農地 原則不許可
甲種農地 市街化調整区域内にある農地の中でも、特に高い農業生産性が認められる農地 原則不許可
  • 農業用施設、農産物加工・販売施設
  • 土地収用事業の認定を受けた施設
  • 集落接続の住宅等(500㎡以内)(甲種農地・第1種農地以外の土地に立地困難な場合に限る)
  • 地域の農業の振興に関する地方公共団体の計画に基づく施設
第1種農地 農業振興地域内の良好な農地で、公共施設からも離れている農地 原則不許可
  • 農業用施設、農産物加工・販売施設
  • 土地収用の対象となる施設
  • 集落接続の住宅等(甲種農地・第1種農地以外の土地に立地困難な場合に限る)
  • 地域の農業の振興に関する地方公共団体の計画に基づく施設
第2種農地 市街地に近く、一部に非農地が混在する農地 一定条件下で許可される可能性あり 第3種農地に立地困難な場合等
第3種農地 市街地化が著しく、周囲がすでに住宅や商業施設に囲まれている農地 原則許可

 

一般基準

一般基準は、農地の転用が社会的・環境的に妥当であるかどうかを判断するための基準です。こちらは農地の区分に関わらず、以下のような内容に該当する場合は不許可となります。

  • 転用の確実性が認められない場合(他法令の許認可の見込みがない、関係権利者の同意がない、資金力や信用に問題があるなど)
  • 周辺農地に悪影響を及ぼす恐れがある場合(農業用用排水施設に支障を生じさせる恐れ、土砂の流出・崩落などを引き起こす恐れなど)
  • 一時転用の場合に農地への原状回復が確実と認められない場合

 

農地転用の必要書類

農地転用の手続きを進めるうえで、必要な書類は「届出」と「許可申請」とで異なります。

ここでは、それぞれの手続きにおける必要書類について解説します。

 

市街化区域内の「届出」の場合

市街化区域内の農地を転用する際は、農地法に基づく『事前の届出』が必要です。

以下は、届出時に一般的に必要とされる書類の例です。

  • 農地転用届出書:市町村窓口またはホームページで入手可能
  • 農地の登記事項証明書:法務局で取得。発効から3ヶ月以内のもの
  • 公図:法務局で取得。発効から3ヶ月以内のもの
  • 位置図:住宅地図や地形図など

その他、状況により以下のような書類の提出を求められる場合もあります。

  • 一定以上の広さの土地(1000㎡以上など、条例により異なる)を開発する場合:開発行為許可証の写し
  • 登記簿上の所有者がなくなっている場合:所有者の戸籍謄本(出生から死亡まで全て)、相続人全員の戸籍謄本、相続関係説明図、遺産分割協議書など

 

市街化区域外の「許可申請」の場合

市街化区域外の農地転用許可申請は、届出に比べて提出書類が多く、より詳細な内容が求められます。

代表的な必要書類は以下のとおりです。

  • 許可申請書:市町村の農業委員会で入手可能
  • 農地の登記事項証明書:法務局で取得。発効から3ヶ月以内のもの
  • 住民票:発効から3ヶ月以内のもの
  • 公図:法務局で取得。発効から3ヶ月以内のもの
  • 位置図、案内図
  • 転用理由書、誓約書
  • 事業計画書
  • 転用後の土地利用に関する計画図
  • 周辺農地への被害防除計画図(排水、造成など)
  • 現況写真
  • 工事見積書
  • 資力を証明する資料:残高証明書、融資証明書など

これ以外にも、転用計画の内容によっては様々な資料の提出を求められる可能性があります。

 

農地転用手続きの流れ

ここでは、農地転用の「届出」と「許可申請」について、それぞれの手続きの流れをご説明します。

 

市街化区域内の「届出」の場合

  1. 事前調査
    まずは土地が市街化区域内かどうか、都市計画図で確認します。土地の場所がちょうど境界に位置するような場合には、自分で判断せず、市町村役場の都市計画課などの担当部署に確認を行いましょう。
  2. 必要書類の準備
    自治体のホームページ等で必要書類の確認や様式のダウンロードを行い、書類を揃えます。書類の準備に関して不明点がある場合には、農業委員会へ問い合わせを行うと安心です。
  3. 書類の提出
    農業委員会に書類を提出します。この届出は必ず転用工事などを始める前に行う必要があるので注意が必要です。
  4. 受理通知書の交付
    おおむね1~2週間で書類の確認が行われ、内容に問題がなければ農業委員会の窓口で受理通知書を受け取ります。これで手続き完了となり、転用作業を開始できます。

 

市街化区域外の「許可申請」の場合

  1. 事前相談
    土地の地図や登記情報を持って市町村の農業委員会に出向き、事前相談を行います。事前相談の最大の目的は、農地の区分や転用の目的に照らして転用許可の見込みがあるかを判断してもらうことです。転用許可の見込みがあれば、準備すべき書類について教えてもらいましょう。
  2. 必要書類の収集・作成
    書類の準備を行います。書類は自分で作成するものや建設会社に作成してもらうもの、法務局で取得するものなど、多岐にわたります。書類の準備が整ったら、農業委員会で不備がないかの確認をして貰いましょう。
  3. 申請書類の提出と審査
    農業委員会の窓口へ申請書類を提出します。申請日は「毎月10日」等のように決められていることが多いため、スケジュール管理を怠らないようにしましょう。
    書類の提出後、農業委員会と自治体での審査を経て、許可の可否が判断されます。
  4. 許可証の交付
    無事に許可が下りたら、許可証が交付されます。審査には1ヶ月半程度の時間を要するのが一般的です。許可証が交付されたら、転用の工事に着工できます。
  5. 工事完了の報告
    転用作業が完了したら、農業委員会へ報告を行います。事前の申請通りに工事が行われているかの確認が行われ、問題なければ農地転用の完了となります。

 

農地転用にかかる費用

農地転用を行う際には、単に許可や届出の手続きだけでなく、さまざまな費用が発生します。ここでは、行政書士に依頼する場合の費用と、それ以外にかかる一般的な費用について解説します。

 

行政書士に依頼する場合の費用

行政書士への報酬相場は以下のとおりです。

  • 農地転用届出(市街化区域内):4万円〜6万円程度
  • 農地転用許可申請(市街化区域外):10万円〜20万円程度

農地転用の申請は、土地の立地区分や転用目的によって必要書類や審査の難易度が大きく異なります。そのため、上記の金額はあくまでも目安であり、必要な資料の数や関係機関との調整の有無などによって増減することがあります。

 

その他の費用

そのほかにも、農地転用には必要に応じて以下のような費用がかかります。

  • 登記事項証明書(全部事項証明書):600円/1通
  • 公図:450円/1通
  • 位置図:地図の購入費用として、数百~数千円程度
  • 残高証明書:数百円~1,100円程度(金融機関により異なる)
  • 融資証明書:数千円~1万円程度(金融機関により異なる)
  • 測量費用:境界確定や現況測量が必要な場合、10〜30万円程度
  • 農振除外申請(必要な場合):行政書士へ依頼する場合、10〜30万円程度

 

まとめ

農地転用は、単に農地を他の用途に変えるだけの行為ではなく、法律に基づいたルールに従って進めなければならない行政手続きです。農地法では、農業生産の基盤を守るため、農地の転用には「許可」または「届出」が義務付けられており、手続きを怠ると罰則が科されることもあります。

手続きには多くの書類を準備する必要があり、申請内容によっては測量や排水計画の作成など、専門的な対応が必要になるケースも珍しくありません。そのため、特に市街化区域外の場合は、行政書士などの専門家に依頼することで、スムーズかつ正確に進めることが可能になります。

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