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行政書士とは
行政書士とは、行政書士法に基づく国家資格者です。行政書士法第1条に、「行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、国民の利便に資すること」と明記されている通り、主に官公署へ提出する書類の作成や提出の代行などを行います。
2025年現在、行政書士は全国で約53,000名が登録しており、男女比はおおよそ8:2とされています。また、行政書士になるための国家試験は年1回実施されており、合格率は約10%前後となっています。
ここでは、まずは行政書士の業務の概要を理解していただくために大きく3つに分類して簡単にご紹介します。
行政書士の3つの業務分野
官公署に提出する書類の作成
建設業の許可申請、農地転用の申請、風俗営業許可など、行政機関に提出するさまざまな書類を正確に作成し、提出の代理まで行うことができます。これらの書類は1万種類を超えると言われるほど多岐にわたり、さらに添付書類の準備なども煩雑なため、行政書士が専門知識を活かして手続きを代行することで、市民の方々の利便性が高まります。
権利義務に関する書類の作成
契約書や遺言書、内容証明郵便など、権利や義務が発生する書類を作成することもできます。これらの書類は、権利や義務に関する意思表示を明確にし、万一のトラブルや誤解を防止する重要な役割を果たします。なお、遺産分割協議書や離婚協議書など、人生の節目に必要な書類の作成もこれに含まれます。
事実証明に関する書類の作成
事実を証明するための書類の作成も行政書士の業務の1つです。例えば、土地や建物の現況を示す図面や、会議の内容を記録する議事録など、客観的な事実を明確にする書類の作成がこれに含まれます。
行政書士の基本業務
行政書士の業務は、依頼者の円滑な手続きを実現するために幅広く展開されています。「相談」「書類の作成」「書類の提出代行」という三つの基本業務を軸に、専門知識を活かしたサポートを行うことが行政書士の特徴です。
ここでは、それぞれの基本業務について解説します。
相談
行政書士の基本業務のひとつは「相談」です。依頼者の課題や悩みを詳しくヒアリングし、どのような行政手続きが必要かを整理します。行政手続きには専門用語や複雑な仕組みが多いため、一般の方々にも分かりやすい言葉で説明することが求められます。
書類の作成
相談の内容をもとに、行政書士は官公署に提出する許認可申請書、契約書、遺言書など幅広い分野の書類を正確に作成します。これらの書類は、法律に基づき内容が適切でなければなりません。行政書士は専門知識を活かし、依頼者の意向を正しく反映しながら、書類に不備がないよう細心の注意を払って作成します。適切な書類を作成することで、将来的なトラブルや手続き上の不利益を未然に防ぐことができます。
書類の提出代行
作成した書類を行政機関に提出する業務も行政書士の大切な役割です。役所への提出の際は提出先ごとに異なるルールや必要書類が存在しますが、行政書士はそれらのルールを熟知しています。そのため、依頼者は書類作成から提出まで安心して任せることができ、時間や労力を大幅に節約できます。
行政書士が個人向けに行う業務の具体例
先述の通り、行政書士は多岐にわたる手続きの支援を行っています。
ここでは、行政書士が個人向けに行う業務の具体例や、それぞれの手続きがどのような場面で役立つのかを解説します。
相続関連の手続き
行政書士は、遺産分割協議書や遺言書の作成、相続人の調査、相続関係説明図の作成など、相続に関わるさまざまな書類作成を支援します。これらの書類の作成にあたって、相続関連の手続きに不可欠な戸籍謄本などの添付書類を依頼者に代わって収集することができるため、依頼者の負担を大幅に軽減できます。
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国際関連の手続き
行政書士は、外国人の在留資格(ビザ)申請や帰化申請、国際結婚関連の書類作成など、国際関連の幅広い手続きを代行することができます。これらの手続きに必要な添付書類には、住民票、戸籍謄本、納税証明書などが含まれることが多いですが、行政書士はこれらの書類を依頼者に代わって収集することも可能です。
自動車に関する手続き
自動車の名義変更、車庫証明、住所変更など、自動車に関連するさまざまな手続きを代行することも可能です。これらの手続きは、車を買い換えたときや引っ越しをした際に必要になります。特に、平日に陸運支局や警察署に行く時間が取れない方々に、行政書士による代行が重宝されています。
農地・土地に関する手続き
行政書士は、農地や土地の利用に関する行政手続きの支援も行います。たとえば、市街化調整区域に住宅を建築するケースでは、農地転用や開発許可申請など複数の手続きが必要になることがあります。行政書士は、こうした複雑な手続きの流れを分かりやすく案内し、必要書類の収集から正確な書類作成・提出までを全体的にサポートします。
内容証明の作成
内容証明郵便の作成を通じて、トラブルの予防や依頼者の権利保護を行うこともあります。内容証明郵便は、借金の返済を求める通知や契約解除の意思表示など、確実に証拠を残す必要がある場面で利用されます。将来的に訴訟に進んだ際に依頼者が不利にならないよう、法的に有効な形で内容証明の文面を作成することが可能です。
行政書士が法人向けに行う業務の具体例
次に、行政書士が法人向けに行うことができる業務についてご紹介します。
許認可申請
許認可申請は、行政書士の代表的な業務の1つです。例えば、飲食業の営業許可申請、運送業の登録、産業廃棄物処理業の許可申請など、事業を始めるために必要な手続きのお手伝いをします。もちろん、更新申請や変更届など、許認可の維持管理に必要な書類作成・提出も行います。
さらに、許認可の要件や添付書類が複雑な案件については、それらをわかりやすく整理して説明することも大切な役割です。
建設業の各種手続き
建設業を営む法人に向けて、建設業許可更新申請や経営事項審査、入札参加資格審査の書類作成・提出など、建設業特有のさまざまな手続きを代行します。これらの手続きには数多くの添付書類の準備が必要になることも珍しくありませんが、行政書士は書類の収集に関するアドバイスや支援を行うこともあります。
こうした手続きは複雑で手間がかかるため、行政書士が代行することで経営者の負担を軽減し、スムーズな事業運営を支えます。
会社設立支援
新規法人の設立時には、会社の定款作成や定款の公証役場での認証手続きを行政書士に任せることができます。会社の目的や事業内容をヒアリングしながら、依頼者に最適な形で会社設立を進められるように案内します。法人設立後には、補助金の申請や必要な許認可の取得手続きなど、経営基盤の構築までサポートします。
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契約書、議事録等の作成
法人の運営において欠かせない契約書や議事録などを、法的に正確で適切な内容に仕上げます。たとえば、取引先との契約書や、法律で保管が義務付けられている株主総会・取締役会の議事録など、法人の活動に不可欠な書類を作成します。
行政書士が関わることでリスク管理を徹底し、将来的なトラブルを予防につながるでしょう。
行政書士が行えない業務
ここまでご説明してきたように行政書士は多種多様な業務を行っていますが、実は法律で制限されている分野も存在します。ここでは、行政書士が行うことのできない代表的な業務内容を解説します。
登記
行政書士は、会社設立時の登記や不動産登記、相続登記などの登記業務を扱うことはできません。これらの業務は司法書士の専門業務であり、法律で明確に規定されています。会社を設立する際や不動産の名義変更などが必要な場合は、登記の専門家である司法書士に依頼することが大切です。
つまり、行政書士は会社設立の際の定款の作成や遺産分割協議書の作成は行えますが、会社設立の登記や相続登記に関する手続きは扱えません。このような登記を含む業務を行政書士に相談する際には、司法書士と連携が取れるかどうかを確認しておくと良いでしょう。
交渉・調停・訴訟の代理
行政書士は、法的トラブルにおいて交渉や調停、訴訟の代理人として行動することはできません。これらは弁護士の独占業務であり、行政書士が代理人として交渉を進めることや調停に参加することは「非弁行為」として法律で禁じられています。
たとえば、債務整理の交渉や慰謝料請求の訴訟などが必要な場合には、弁護士に相談することが不可欠です。行政書士は、契約書の作成や内容証明郵便による意思表示などを通じて法的なトラブルの予防を支援することはできますが、争いの解決自体は弁護士の領域となります。
税の申告
税務申告や税金に関わる業務は税理士が専門的に扱う分野となるため、行政書士は、確定申告や法人税の申告、税務相談などの業務を代行することはできません。また、源泉徴収簿の作成や給与台帳の整備など、税務申告に必要な附帯的な書類作成も税理士業務の一環であるため、行政書士は行うことができません。
なお、行政書士は遺産分割協議書の作成や相続財産の調査などの相続関連の書類作成等を行うことがありますが、相続税の申告は行えませんので注意が必要です。
まとめ
行政書士は、官公署への提出書類や契約書・証明書類の作成など、法人・個人問わず幅広い行政手続きのサポートを担う「身近な法律家」です。一方で、登記業務や訴訟代理、税務申告業務など、他の士業の独占業務となっている分野は扱えません。これらは、司法書士・弁護士・税理士など専門分野の士業と協力することで、依頼者にとって最善の解決策を提供することができるでしょう。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)