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森林の土地の所有者届出制度とは
森林の土地の所有者届出制度は、平成23年の森林法改正によって新たに導入された制度で、森林の適切な管理体制を整えることを目的としています。背景には、日本の森林所有構造の変化や、所有者不明森林の増加、さらには相続や売買による所有者変更の把握が自治体レベルで困難になってきた現状があります。特に、林野庁が公表するデータによれば、全国の民有林のうち20%以上が所有者情報の把握が難しい状態にあり、将来的には所有者不明森林がさらに増加する可能性も指摘されています。こうした状況は、森林の適切な整備や災害防止対策の遅れにつながるため、早急な対策が求められていました。
このような課題を受け、所有者の把握と適切な森林管理を促すために設けられたのが「森林の土地の所有者届出制度」です。この制度では、森林を相続したり、売買・贈与などで取得した場合、新たな所有者が市町村へ届出を行うことが義務化されています。森林の管理は公益性が高く、治山・治水、防災、地球温暖化対策などにも密接に関わるため、自治体が正確な所有者情報を把握し、必要に応じて指導や助言を行える体制を整えることが重要視されています。
特に近年では、大雨や地震による土砂災害への危機意識が高まっており、森林管理の不備が災害リスクを増大させるケースも問題視されています。こうした背景もあり、森林の所有者情報を最新の状態に保ち、森林の現況調査や地域の管理計画へ反映させることが、国全体の安全性向上にもつながると考えられています。また、所有者不明森林の増加は、森林の適切な施業・整備の阻害要因となるだけでなく、地域の林業振興にも大きな影響を与えるため、制度の意義は年々高まっています。
届出の対象となる「森林」とは
森林の土地の所有者届出制度において届出が必要となるのは、単に「林地らしく見える土地」ではなく、地域森林計画の対象となっている森林です。地域森林計画とは、森林法に基づき都道府県が区域ごとに策定する森林整備・保全の基本計画で、この計画の対象に指定された森林は公益性が特に高いものとして位置付けられています。そのため、所有者が変わった際には、行政が適切に把握できるよう届出義務が課されています。
ここで注意したいのは、届出の要否は登記上の地目では判断されないという点です。地目が「山林」でなくても、実際に樹木が繁茂し森林としての状態が認められる場合には、地域森林計画の対象森林に該当し、届出が必要となるケースが多くあります。逆に、地目が「山林」であっても、宅地化されている、造成されているなど、森林としての機能を失っている場合には対象外となることもあります。このため、見た目や地目だけで判断せず、実際の土地状況を踏まえて確認することが重要です。
なお、地域森林計画の対象となっている森林かどうかを確認する方法は、都道府県または市町村の林務担当部局(林務課・農林課など)に問い合わせることが確実です。自治体によっては、森林計画図を公開していたり、来庁すれば担当者が該当区域を確認してくれることもあります。
届出が必要ないケース
「国土利用計画法に基づく土地取引の届出」を行った場合には、森林の土地の所有者届出を行う必要はありません。この制度は、大規模な土地取引が地域の土地利用に与える影響を把握するためのもので、契約締結後2週間以内に市町村へ届出を行う必要があります。
国土利用計画法の届出が適切に行われている場合、森林法の所有者届出と目的が重複するため、森林の土地の所有者届出制度における届出は不要とされています。つまり、一定規模以上の土地取引を行い、すでに国土利用計画法の届出を済ませている場合は、森林所有者届出を重ねて提出する必要はありません。
なお、国土利用計画法の届出対象となる土地取引は、以下の面積基準を超える場合です。これらの基準を下回る土地の取得については国土利用計画法の届出義務がないため、森林の土地の所有者届出制度の対象となります。
- 市街化区域:2,000平方メートル以上
- その他の都市計画区域:5,000平方メートル以上
- 都市計画区域外:10,000平方メートル以上
届出先と提出期限
森林の土地の所有者届出は、土地が所在する市町村の林務担当課(林務課・農林課・森林保全課など)へ提出します。提出先は市町村ごとに名称が異なりますが、森林行政を所管する部署が窓口となるのが一般的です。
提出期限については、森林法により、「所有者の変更があった日から90日以内」と明確に定められています。ここでいう「所有者の変更があった日」とは、相続であれば相続が開始した日(通常は被相続人の死亡日)、売買であれば契約の効力発生日を指します。登記の完了日ではなく、実際に所有権が移転した日を基準とする点に注意が必要です。
なお、届出をしない、または虚偽の届出をしたときには、10万円以下の過料が科される可能性があります。森林管理は公益性が高いため、自治体は所有者情報を迅速に把握する必要があり、遅延は管理計画の支障となることもあります。したがって、相続や売買などの所有者変更が生じた際には、速やかに届出の準備を進めることが重要です。
届出にかかる費用
森林の土地の所有者届出制度にかかる費用は、大きく分けて「行政書士に依頼する場合の費用」と「書類取得などに必要な実費(その他の費用)」の2つです。届出自体には手数料はかかりませんが、準備すべき資料の取得費用や、専門家へ依頼する場合の報酬が発生する点に注意が必要です。
行政書士に依頼する場合の費用
行政書士へ届出手続きを依頼する場合、費用は取得した森林の筆数、必要資料の量、相続など取得原因の複雑さによって変動しますが、一般的な目安は以下のとおりです。
- 届出書作成・提出代行:2〜5万円程度
- 図面作成や調査が必要な場合の追加費用:5千〜2万円程度
その他の費用
行政書士報酬とは別に、届出に必要な以下のような実費が発生します。
- 登記事項証明書の取得費用:600円/1通
- 戸籍謄本・除籍謄本の取得費用(相続の場合):450円/1通
森林の土地の所有者届出制度に関連する情報
森林の土地を相続・取得した際には、森林の土地の所有者届出だけでなく、関連する制度や周辺知識を理解しておくことが大切です。ここでは、特に混同されやすい不動産登記との違いや、相続した森林を手放したい場合の選択肢について、解説します。
不動産登記との違い
森林の土地の所有者届出制度は、「不動産登記とはまったく別の手続き」である点にまず注意が必要です。不動産登記は、法務局が所有権の移転や相続などの権利変動を公的に記録する制度であり、第三者に対して権利関係を明らかにする役割があります。一方、森林の土地の所有者届出制度は、市町村が森林管理のために所有者情報を把握することを目的としており、登記とは役割も提出先も異なるため、不動産登記の実施の有無に関わらず届出を行う必要があります。
特に近年は「相続登記の義務化」が始まり(令和6年4月施行)、相続による所有権移転が発生した場合には3年以内の相続登記申請が義務づけられ、正当な理由なく怠った場合には最大10万円の過料が科される可能性があります。つまり、森林を相続した場合、
- 法務局への相続登記(3年以内)
- 市町村への森林所有者届出(90日以内)
という、2つの別々の手続きが必要になります。登記を済ませても森林所有者届出の義務が免除されるわけではありませんので、それぞれの期限に注意して手続きを行うことが重要です。
相続した森林を手放したい場合はどうする?
森林を相続したものの、「維持管理に手間や費用がかかり、できれば手放したい」と考える方は少なくありません。実際、森林には固定資産税の負担があり、また長期的には間伐などの定期的な管理が必要となります。特に遠方に住んでいる場合や、森林管理の知識がない場合は、負担が大きく感じられるのが実情です。
森林を手放す方法としては、一般的に「林業者や隣地所有者などへの売却」「自治体や公益法人に寄付」のような選択肢があります。ただし、よっぽど条件が良い森林でない限り買い手が付かない場合も多く、自治体等への寄付でも受け入れ条件に合致しないケースも多くあります。
そこで、令和5年4月からスタートしたのが「相続土地国庫帰属制度」です。これは、相続した土地を国に引き渡すことができる制度で、森林も対象に含まれます。ただし、危険な崖地や管理困難な山林など、一定の条件に該当する土地は引き取り対象外となる場合があります。また、審査手数料や負担金が必要となる点にも注意が必要です。
まとめ
森林の土地の所有者届出制度は、日本の森林を適切に管理し、災害防止や環境保全に役立てるための重要な仕組みです。所有者が変わったことを届け出ることで、市町村が森林の状況を正確に把握し、必要な指導や施策につなげることができるようになります。
森林の土地は、個人の資産であると同時に、地域の環境を支える大切な資源です。適切な届出と管理を行うことで、森林の持つ機能を未来につなげ、地域全体の安全と豊かさに貢献することができます。
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特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)