目次
解体業とは
近年、国内では老朽化した建物の建て替え需要や、空き家の増加に伴う解体工事のニーズが高まっています。国土交通省の「建設工事受注動態統計調査」や総務省の「住宅・土地統計調査」などでも、全国で年間数十万件規模の解体工事が行われている実態が示されており、特に都市部では再開発や建て替えに伴う解体案件が増加傾向にあります。
こうした背景を受けて、解体工事を専門に行う「解体業者」の役割がますます重要となっており、それと同時に工事の適正な施工や廃棄物処理の法令遵守が強く求められています。
解体工事業登録の概要
解体業においてまず理解しておくべき法律が「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」、通称「建設リサイクル法」です。この法律の目的は、建設廃材のリサイクルを推進し、資源の有効活用と廃棄物の削減を図ることにあります。
そのため、解体工事は事前に都道府県等に「解体工事業者登録」を行う必要があります。登録を受けずに工事を受注・実施することは違法行為となります。
建設リサイクル法における「解体工事」とは
「解体工事」とは、建築物を全部または一部除去する工事を指します。たとえば、築年数の経過した一戸建て住宅をすべて取り壊す工事や、老朽化した集合住宅の一部を解体してリノベーションする工事などが該当します。また、ビルのワンフロアのみを取り壊す工事でも、解体工事業登録が必要となります。
この登録制度は、適正な分別解体や廃棄物の処理を確保し、無許可業者による不適切な解体工事を防止することを目的としています。したがって、解体工事の規模や金額の多寡にかかわらず、都道府県に登録がなされていることが必要です。
申請先
解体工事業の登録申請先は、営業所所在地を管轄する都道府県知事となっています。申請窓口としては、各都道府県の「建築指導課」や「建設業課」などの所管部署が対応しており、多くの自治体では窓口での提出だけでなく、郵送にも対応しています。
自治体ごとに手続き方法が異なることもあるため、事前に自治体の公式サイトなどで確認しておくのがおすすめです。
登録の有効期間
解体工事業登録は、一度登録を行えば永久に有効というわけではありません。登録には有効期間があり、原則として5年ごとに更新手続きが必要です。
更新の際には、初回登録時と同様に必要書類を整えたうえで、所轄の都道府県知事に申請を行います。また、更新手続きを行う期間は自治体によって若干違うこともありますが、有効期間満了日の2か月前から30日前までに行うこととされているのが一般的です。
なお、登録内容に変更があった場合(代表者の変更、技術管理者の交代、営業所の移転など)にも、所定の手続きが求められるため、登録後の事業運営においても定期的な見直しが必要です。
無登録営業の罰則
建設業許可を持たない事業者が解体工事業者として登録せずに解体工事を行った場合には、建設リサイクル法に基づく罰則が科されることがあります。具体的には、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金に加え、行政指導や業務停止命令が下される可能性もあります。
また、登録なしで工事を請け負った事実が公表されると、社会的信頼の失墜や将来的な入札資格の制限など、経営上のリスクも大きくなります。必ず事前に登録を済ませ、適正な運営を心がけることが重要です。
注意点
解体工事業登録は、元請業者だけでなく下請業者であっても必要です。つまり、解体工事に携わるすべての事業者が対象となるため、請負の形態に関係なく、登録が義務付けられている点に注意が必要です。
また、複数の都道府県にまたがって解体工事を行う場合には、たとえ営業所を設けていない地域であっても、その工事区域を管轄する都道府県ごとに登録を行わなければなりません。営業範囲を広げる場合には、各都道府県における自社の登録状況を確認しておくことが大切です。
「解体工事業登録」と「建設業許可」の違い
「解体工事業登録」と「建設業許可(解体工事業)」は、いずれも解体工事を行う際に必要となる行政手続きですが、対象となる工事の規模や趣旨が異なります。
- 解体工事業登録:建設リサイクル法に基づく制度で、請負金額500万円未満の小規模な解体工事でも登録が必要です。
- 建設業許可:建設業法に基づく制度で、解体工事の請負金額が500万円以上の場合に必要です。建設業許可で解体工事を行う場合は、「解体工事業」の業種だけでなく、「土木工事業」や「建築工事業」の許可でも対応が可能です。
つまり、請負金額が500万円以上の工事を行う場合は、建設業許可の「解体工事業」「土木工事業」「建築工事業」のいずれかの業種の許可を有している必要があります。一方、500万円未満の工事のみを行う場合でも「解体工事業登録」が求められます。
建設業許可には会社の財務基盤や経営業務管理責任者に関する厳格な要件がありますが、解体工事業登録は比較的取得しやすく、これから解体業を始める中小事業者や個人事業主が第一歩として取得する制度としても利用されています。
関連コラムはこちら↓
解体業で独立するには?許可・登録の違いから初期費用まで徹底解説
解体工事業登録の要件
解体工事業登録を行うためには、法律により定められたいくつかの要件を満たす必要があります。ここでは、登録に必要な要件について解説します。
技術管理者の配置
解体工事業登録をするためには、工事の管理を行う能力を持った「技術管理者」を配置することが必要です。
技術管理者になるためには、以下の資格や条件を満たす必要があります。
区分 | 資格名 |
建設業法による技術検定 | 1級建設機械施工管理技士
2級建設機械施工管理技士(第1種・第2種) |
1級土木施工管理技士
2級土木施工管理技士(土木) |
|
1級建築施工管理技士
2級建築施工管理技士(建築・躯体) |
|
技術士法よる第2次試験 | 技術士(建設部門) |
建築士法 | 1級建築士
2級建築士 |
職業能力開発促進法による技能検定 | 1級とび・とび工
2級とび・とび工(かつ解体実務経験1年以上) |
国土交通大臣の登録を受けた試験 | 解体工事施工技士 |
また、これらの資格がない場合でも、以下の実務経験があれば技術管理者となることが可能です。ただし、ここで言う実務経験とは、解体工事現場における単なる雑務や事務仕事の経験は含まれません。解体工事の施工そのものに携わったか、現場を指揮・監督した経験が求められますので、注意が必要です。
区分 | 実務経験 | 登録講習(※2)を受講した場合の実務経験 |
大学または高専の指定学科(※1)を修了した者 | 2年以上 | 1年以上 |
高校の指定学科(※1)を卒業した者 | 4年以上 | 3年以上 |
上記以外の者 | 8年以上 | 7年以上 |
※1:指定学科とは、土木工学(農業土木、鉱山土木、森林土木、砂防、治山、緑地又は造園に関する学科を含む。)、建築学、都市工学、衛生工学、交通工学に関する学科が該当します。
※2:登録講習とは、技術管理者としての資格要件を満たしていない方が、必要な知識と技能を補完するために受講する法定講習のことです。正式には「登録解体工事講習」と呼ばれ、全国解体工事業団体連合会が開催しています。講習は全国各地の主要都市で定期的に開催されており、所要時間は6~7時間程度、受講料は税込9,900円です。
欠格事由に該当しないこと
解体工事業者として登録する法人やその役員(個人事業主の場合は個人)が下記のような「欠格事由」に該当している場合は登録が許可されません。
- 解体工事業者の登録を取り消され、2年を経過していない者
- 解体工事業の業務停止命令を受け、その期間を経過していない者
- 過去に建設リサイクル法に違反して罰金以上の刑を受け、2年を経過していない者
- 暴力団員でなくなった日から5年を経過していない者
- 申請書や添付書類に虚偽の記載をしたり、重要な事実の記載がなかった場合
解体工事業登録の必要書類
解体工事業の登録を行う際には、定められた必要書類を提出することが求められます。これらの書類は、登録申請者の適格性や体制の整備状況を審査するために用いられ、都道府県によって若干の差異がある場合もありますが、基本的には以下の書類が共通して求められます。
主な必要書類
- 解体工事業登録申請書:登録を希望する事業者が提出する主たる書類で、申請者の情報、営業所の所在地などの基本情報を記載します。
- 技術管理者が基準を満たしていることを証明する書類:技術管理者として配置される者が適格であることを証明するために、資格証や卒業証書の写し、登録講習の終了証の写し、実務経験の証明書などを提出します。
- 技術管理者の住民票
- 登記簿謄本と役員全員の住民票の抄本(法人の場合)
- 役員の一覧(法人の場合)
- 住民票の抄本(個人事業の場合)
- 誓約書:欠格要件に該当していないことを誓約するための書類です。
- 手数料納付書:登録手数料の納付を証明する書類で、都道府県の定める方法で収入証紙を貼付する等の手続きが必要です。
解体工事業登録にかかる費用
ここでは、解体工事業登録を行う際の費用について、法定費用と行政書士に依頼する場合の費用に分けて解説します。
法定費用
解体工事業登録にかかる手数料は、多くの自治体で新規登録が33,000円、更新が26,000円となっています。ただしこの手数料は都道府県ごとに若干の差があり、たとえば東京都では新規登録の手数料は45,000円です。正確な金額は営業所がある都道府県のホームページなどで確認すると良いでしょう。
また、申請にあたっては登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や住民票などの添付書類の取得費用も別途発生します。これらは法務局や市区町村役場で取得する必要があり、登記簿謄本は1通600円程度、住民票は1通300円程度です。
行政書士へ依頼する際の費用
登録手続きは自分で行うこともできますが、書類作成や添付資料の収集、各種条件の確認作業などが煩雑であるため、行政書士に依頼するケースも多く見られます。
行政書士に依頼する場合の費用相場は、
- 新規登録:5万円〜8万円前後
- 更新登録:3万円〜6万円前後
- 変更登録:1万円〜3万円前後
とされています。申請にあたっては、要件の確認や正確な書類作成が求められるため、特に初めて解体工事業登録を行う方にとっては、専門家のサポートを受けることで安心して手続きを進められるでしょう。
解体工事業登録の流れ
ここでは、解体工事業登録が完了するまでの主な流れをご紹介します。
1. 登録要件の確認
まず最初に、自社が解体工事業登録の要件を満たしているかを確認しましょう。特に重要なのが、技術管理者の資格や実務経験、欠格要件に該当していないかどうかです。実務経験を満たしていない場合でも、登録講習を受講すれば実務経験が短縮されるので、そちらも検討してみましょう。
2. 必要書類の収集
要件を満たしていることを確認したら、必要書類を揃えていきます。登記簿謄本や住民票などは提出日から3か月以内のものが求められるので、有効期限に注意しましょう。
3. 登録申請書の作成
次に、登録申請書を作成します。様式は都道府県ごとに若干異なる場合がありますが、通常は都道府県のホームページでダウンロードできる所定の申請書様式に必要事項を記入します。添付書類とともに、提出前には記載漏れや不備がないかを入念にチェックしましょう。
4. 申請の提出
すべての書類が揃ったら、事業所の所在地を管轄する都道府県の窓口に申請書類一式を提出します。郵送での受付が可能な自治体もありますので、平日に時間を取ることが難しい方は郵送での申請も検討すると良いでしょう。
5. 審査と登録通知の受領
提出後、都道府県による書類審査が行われます。内容に不備がなければ、通常は2〜4週間程度で登録が完了し、「解体工事業者登録通知書」が交付されます。この通知書が届いた時点で、正式に解体工事業者として業務を行うことが可能になります。
6. 登録情報の公表と営業活動
登録が完了すると、都道府県のホームページなどで事業者名が公表されることがあります。これにより、元請企業などに対して信頼性をアピールすることもできます。登録完了後は、解体工事に関する契約書への登録番号の記載が必要となるため、通知書は大切に保管しておきましょう。
まとめ
解体工事業を営むうえで「解体工事業登録」は非常に重要な手続きです。登録の要件には、技術管理者の配置や欠格要件の確認、必要な書類の提出などがあり、事前の準備が求められます。
これから解体工事業に新規参入する事業者にとっては、登録の手続きそのものが業界への第一歩とも言えます。法令に則った登録を行い、健全で信頼される事業運営を行っていきましょう。
関連コラムはこちら↓
解体業で独立するには?許可・登録の違いから初期費用まで徹底解説

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)