「解体業で独立したいけど、何から始めればいい?」そんな疑問を持つ方へ。許可や登録の違いから、初期費用の目安、開業後の仕事獲得法まで、基礎から丁寧に解説します。
解体業とは?
解体工事業は、老朽化した建物の増加や空き家問題の深刻化、さらには都市再開発の進展などにより、今後も安定した需要が見込まれている業種です。国土交通省の推計によれば、解体工事件数は2028年ごろにピークを迎えるとされており、それに伴い解体業界の役割もますます重要になっています。
さらに、矢野経済研究所などの調査では、2021年度の解体工事業の市場規模はおよそ9,915億円を超えており、将来的にも成長が期待される分野と位置づけられています。空き家の解体や再利用に対する行政の支援制度も整備されつつあり、地域社会における解体事業の需要は今後も高水準を維持する見込みです。
解体業は建設業の中でも特に重機を使った作業や産業廃棄物の取り扱いが多く、安全面や法令遵守が求められる業種でもあります。そのため、解体業を始める際には、「建設業許可(解体工事業)」または「解体工事業者の登録」が必要となりますが、この2つには明確な違いがあります。
「建設業許可の解体業」と「解体業の登録」の違いとは?
解体業を行うには、法律上、以下の2種類の手続きの両方または解体工事業者の登録のみが求められます。それぞれの許認可の申請手続きの詳細については後述します。
- 建設業許可(解体工事業):解体工事の1件あたりの請負金額が500万円(税込)以上の場合には、この建設業許可が必要です。国土交通省または都道府県知事の許可を取得するもので、一定の経営経験、技術者の配置、財産要件などが求められます。
- 解体工事業者の登録(建設リサイクル法):金額にかかわらず解体工事を行う場合に必要な登録で、解体工事の1件あたりの請負金額が500万円(税込)未満の場合にはこちらの登録のみで工事を行うことができます。こちらは比較的ハードルが低く、営業所ごとに必要書類を提出して登録することで業務を開始できます。建設リサイクル法に基づき、解体工事に伴う廃棄物の適正処理や分別解体のルールを守ることが前提となります。
「建設リサイクル法に基づく分別解体等の届出」とは?
一定規模以上の解体工事を行う際、「建設リサイクル法に基づく分別解体等の届出」が義務付けられています。
この届出は、床面積が80㎡を超える建築物の解体工事や、500万円以上の改修工事などを行う際に必要となるもので、工事を発注する者(通常は施主)が、原則として工事着手の7日前までに、工事現場の所在地を管轄する市区町村へ提出することが定められています。
届出書には、建物の構造や使用建材、解体方法、再資源化の計画などを記載し、提出後は自治体による内容確認が行われます。
なお、実務上は解体業者が施主から届け出に関する質問やアドバイスを求められるケースも多いため、法令順守と信頼性の確保のためにも、分別解体等の届出制度の内容と手続きを十分に理解しておくことが大切です。
建設業許可の解体業の申請手続き
解体業を本格的に事業として行う場合、請負金額が500万円(税込)以上となる工事を受注するには「建設業許可(解体工事業)」の取得が必要です。この許可を得ることで、より大きな現場や元請としての受注が可能となり、ビジネスの幅を広げることができます。ここでは、建設業許可(解体工事業)を取得するための要件や申請の流れについて解説していきます。
求められる要件
建設業許可を取得するためには、以下のような一定の基準を満たす必要があります。
- 経営業務の管理責任者がいること:建設業に関して5年以上の経営経験、または補助的な経験があることが必要です。
- 専任技術者が在籍していること:解体工事に関する知識・経験を持つ技術者が常勤で所属していることが必要です。
具体的には、解体工事施工技士、1級土木施工管理技士などの資格を保有していることや、所定の学科(例:建築、土木、工学系)を卒業し、卒業後3年以上の実務経験があることなどが求められます。
なお、上記のような資格がない場合でも、10年以上の実務経験(学歴により必要年数が短縮されることがあります)があれば認められます。実務経験のみで証明する場合には、過去の工事契約書や請求書、発注書などによる詳細な証拠資料の提出が求められるため、書類の整備が重要になります。 - 財産的基礎があること:500万円以上の自己資本または500万円以上の資金調達能力があること。
- 誠実性があること:法令違反や不正行為がないこと。
また、代表者や役員が以下の欠格事由に該当しないことも求められます。
- 成年被後見人または被保佐人
- 破産手続開始の決定を受けて復権していない者
- 禁固以上の刑に処され、5年を経過していない者
- 建設業法違反により許可を取り消され、5年以内である者
- 暴力団の構成員、または関与があると認められる者
必要書類の例
申請にあたっては、以下のような書類が必要になります。都道府県ごとに多少異なる場合があるため、事前に確認しておくのがおすすめです。
- 許可申請書(様式第一号)
- 経営業務管理責任者に関する証明書(履歴書・実務経験証明書など)
- 専任技術者に関する資格証明書(資格者証、実務経験証明書など)
- 納税証明書(法人税または所得税)
- 財務諸表または残高証明書
- 商業登記簿謄本(法人の場合)または住民票(個人事業主の場合)
- 宣誓書・誓約書など
手続きの流れ
- 必要書類の収集・作成
- 事前相談(任意):担当窓口などで書類内容の確認を行うと安心です。
- 申請書提出:知事許可の場合は、営業所の所在地を管轄する都道府県庁の建設業許可担当窓口に提出します。大臣許可の場合は、国土交通省を通じての手続きとなります。窓口の場所や必要書類の形式は自治体によって異なることがあるため、事前に該当する自治体の建設業担当部署や公式ホームページなどで確認しておくと安心です。
- 審査・補正対応:不備があれば修正・補完します。
- 許可通知の受領:申請から約30〜45日程度で許可が下りるのが一般的です。
- 更新手続き(5年後):許可の有効期間は5年間となっており、有効期限の30日前までに更新手続きを行う必要があります。
解体業登録の手続き
解体業を始める際には、「建設業許可」とは別に「解体工事業の登録」が必要となるケースがあります。この登録は、建設リサイクル法に基づいて義務付けられており、解体工事の金額にかかわらず、業として解体工事を行うには必ず取得しなければなりません。ここでは、解体工事業登録に関する手続きの概要や必要な条件、申請書類などについて詳しく解説します。
求められる要件
解体工事業登録の取得には、比較的緩やかな条件が設定されています。
- 事業所が日本国内にあること
- 専任の技術者がいること:建設業許可と同様に、解体工事施工技士、土木施工管理技士などの資格保有者、または一定年数(通常は3年~10年)の解体工事に関する実務経験を持つ者が該当します。
- 解体工事を適正に実施できる能力と体制が整っていること:適切な作業計画、安全管理、廃棄物処理などを遵守し、法令に基づいて工事を遂行できる体制があることが必要です。
また、代表者や役員が以下の欠格事由に該当する場合は登録を受けることができません。
- 成年被後見人や被保佐人
- 破産手続中で復権していない者
- 禁固以上の刑に処された者で、執行後から5年以内
- 解体工事業登録を取り消されてから5年以内の者
- 暴力団員、またはその関係者
必要書類の例
都道府県ごとに書式が異なる場合がありますが、一般的に以下の書類が必要です。
- 登録申請書
- 営業所の所在地を証明する書類(賃貸契約書や登記事項証明書)
- 専任技術者の資格証明書または実務経験証明書
- 登記事項証明書(法人の場合)または住民票(個人事業主の場合)
- 宣誓書・誓約書
- 登録手数料納付書類
手続きの流れ
- 必要書類の準備
- 申請書の提出:営業所の所在地を管轄する都道府県の建設リサイクル法担当窓口に提出します。
- 書類審査・補正対応:不備があれば修正を行います。
- 登録完了通知の受領:通常、登録が完了するまでには提出から2週間〜1か月程度を要する場合が多く、登録後はその証明書を事務所に掲示する必要があります。
- 更新手続き(5年後):登録の有効期間は5年間となっており、有効期限の30日前までに更新手続きを行う必要があります。
解体業を開業する際に必要なその他の手続き
解体業を始めるにあたっては、建設業許可や解体工事業登録だけでなく、その他にも必要となる行政手続きがいくつか存在します。ここでは、解体業を始める際に必要となる代表的な手続きについて解説します。
1. 法人設立や個人開業の届出
法人として解体業を始める場合は、法務局での会社設立登記が必要です。また、個人事業として開業する場合は、税務署へ開業届の提出を行います。加えて、都道府県によっては、専任技術者や役員の変更などがあった場合に届出が必要になることがあります。
2. 労働関係の届出
従業員を雇用する場合、以下の手続きが必要になります。
- 労働保険(労災保険・雇用保険)への加入
- 社会保険(健康保険・厚生年金)への加入(法人または従業員を常時5人以上雇用する個人事業主)
- 労働基準監督署への適用事業報告書の提出
- ハローワークへの雇用保険適用事業所設置届の提出
3. 建設業退職金共済制度(任意)
現場作業員の福利厚生や人材確保を考える場合、「建設業退職金共済(建退共)」への加入も検討の価値があります。元請からの加入要請がある場合も多く、公共工事を受注する際には特に重要です。
解体業の開業にかかる費用
解体業を始めるにあたっては、各種許可・登録の取得費用をはじめ、設備投資や運転資金など、さまざまな初期費用がかかります。目安としては、小規模な個人事業で100万円〜300万円、法人設立を伴う本格的な事業では500万円〜1,000万円以上かかることもあります。
ただし、解体業は比較的利益率の高い業種ともいわれており、適切な準備を行えば短期間で投資回収が見込める分野でもあります。補助金や金融公庫からの融資を活用することも選択肢の一つです。
ここでは、代表的な費用項目とその内訳についてご紹介します。
1. 各種許認可取得費用
建設業許可(解体工事業)
- 許可申請手数料:90,000円(知事許可・一般)
- 必要に応じて行政書士等の報酬:100,000〜200,000円前後
解体工事業登録
- 登録手数料:33,000円程度(都道府県によって異なる)
- 申請書類の作成支援費用(任意):50,000〜100,000円程度
産業廃棄物収集運搬業許可
- 講習受講料:15,000〜20,000円
- 申請手数料:81,000円(都道府県単位)
- 行政書士への依頼費用:100,000円前後
2. 機材・車両等の設備投資
必ずしも開業時にすべてを自社で保有する必要はなく、リースやレンタルを活用するケースも増えています。
- 解体重機(中古小型:300〜800万円程度)
- ダンプカー・トラック(100〜500万円程度)
- 工具類、保安用資材(数十万円程度)
3. 事務所や倉庫の準備費用
規模に応じて、自宅を事務所として開業することも可能ですが、法人化を視野に入れる場合は専用事務所が望ましいとされています。
- 事務所の賃貸初期費用(敷金・礼金含む):10万〜50万円程度
- 事務用品・PC・インターネット環境の整備:10万〜30万円程度
4. 保険・共済・開業後の運転資金
- 事業用損害保険、車両保険、労災上乗せ保険など:年額数万円〜
- 建設業退職金共済制度(建退共)の初期加入費用
- 着手金を受け取るまでの人件費・燃料費などの運転資金:開業直後は仕事が安定しないケースもあるため、最低でも3ヶ月〜6ヶ月分の運転資金を確保しておくのが理想です。
解体の仕事を獲得する方法
解体業で安定的な経営を実現するには、継続的に仕事を獲得し、信頼と実績を積み上げていくことが不可欠です。特に開業初期は知名度も信用も乏しいため、戦略的な営業活動が求められます。ここでは、解体工事の仕事を受注するために有効な方法をいくつかご紹介します。
1. 地元の工務店・リフォーム業者との提携
解体工事は単独で発注されるよりも、建替えやリフォームとセットで依頼されることが多くあります。そのため、地域の工務店やリフォーム業者と関係を築くことで、継続的な仕事の紹介が期待できます。まずは直接訪問して名刺交換を行い、対応の早さや丁寧な説明で信頼を得ることが大切です。
2. ハウスメーカー・不動産業者への営業
大手ハウスメーカーや不動産会社も解体業者を必要とする場面が多くあります。とくに、建物付きの土地を更地にして販売したい不動産業者とは相性が良く、スムーズな対応ができれば定期的に依頼を受けられる可能性も高まります。
営業の際は、見積書のひな型や過去の実績(写真付き)を準備しておくと効果的です。
3. 入札参加資格を取得し公共案件を狙う
公共施設の解体工事は、自治体が発注する案件のため安定性が高く、入札参加資格(建設工事入札参加資格審査)を取得すれば受注が可能になります。小規模事業者向けの案件もあるため、開業間もない業者でもチャレンジできるチャンスがあります。
事前に自治体のホームページで情報収集を行い、定期的な入札情報に目を通すようにしましょう。
4. ホームページやポータルサイトの活用
インターネットを通じて集客を行う方法も有効です。自社ホームページでは、対応エリア、施工実績、対応スピード、見積の流れなどを分かりやすく掲載しましょう。Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)への登録もおすすめです。
また、解体工事業者を探している一般ユーザー向けのポータルサイト(例:くらしのマーケット、ミツモアなど)にも登録しておくと、個人顧客との接点が生まれやすくなります。
5. 元請工事業者からの下請け受注
建設会社や設備工事業者など、元請として多くの現場を持っている企業に対して下請けとしての協力を申し出るのも一つの方法です。対応の良さや現場でのマナー、迅速な施工が評価されれば、安定的な仕事につながる可能性があります。
まとめ
解体業で独立するには、建設業許可や解体工事業登録をはじめとする各種手続きをしっかりと行い、法令を順守した事業運営体制を整えることが欠かせません。とくに「建設業許可の解体業」と「解体工事業登録」の違いを正しく理解し、自社の事業規模や受注内容に応じて適切な許認可を取得することが、スタートラインに立つうえでの大切なポイントです。
独立開業を目指す方は、制度の理解や資金面の備えを万全にし、着実にステップを踏んで準備を進めていきましょう。必要に応じて行政書士などの専門家に相談することで、よりスムーズに手続きを進めることができます。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)