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建築士事務所の登録とは
現在、日本国内には11万を超える建築士事務所が登録されており、実にコンビニの店舗数の倍近い規模で存在しています。一方、建築士の資格を持つ人材は2022年時点で約117万人に上り、なんと日本人の100人に1人が建築士の資格を有しているのです。
ただし、建築士として業務を行う場合、建築士個人が資格を持っているだけでは十分ではありません。建築士法に基づき、事務所単位での「建築士事務所登録」が必要になります。この制度は、建築物の設計や工事監理といった高度な専門性と公共性を持つ業務において、適切な運営体制と法令遵守体制を確保することを目的としています。
なお、建築士事務所の登録は、個人事業で一人だけで事務所を運営する場合であっても例外なく必要です。たとえ一級建築士の資格を持ち、ホームオフィスで設計業務を行おうとしていても、建築士事務所として登録しなければなりません。
建築士事務所としての登録が必要な業務
以下の6つの業務を他者から報酬を得て行う場合には、建築士事務所の登録が義務付けられています。
- 建築物の設計:住宅やビル、工場などの新築・増改築における基本設計・実施設計・意匠設計など。
- 建築物の工事監理:設計図通りに建築工事が行われているかを現場で確認・指導する業務。
- 建築工事契約に関する事務:建築主と施工者との間の契約条件の整備や、契約書の作成支援など。
- 建築工事の指導監督:施工者側の立場ではなく、建築主からの依頼に基づいて第三者的な立場から指導監督する業務。
- 建築物に関する調査または鑑定:建築物の耐震診断や老朽化調査、不具合箇所の原因究明など。
- 建築に関する法令または条例に基づく手続きの代理の業務:建築確認申請など、行政庁への各種手続きを建築主に代わって行う業務。
建築士事務所登録の概要
ここでは、建築士事務所登録に関して知っておきたい基礎知識をご説明します。
登録の種類
建築士事務所の登録には、以下の3種類があります。いずれの事務所も、開設者の資格に応じた登録が必要となり、それぞれの業務範囲にも制限があります。
- 一級建築士事務所:一級建築士が開設し、主に大規模建築物の設計・監理などを行う事務所。
- 二級建築士事務所:二級建築士が開設する事務所で、比較的小規模な建築物の業務が中心となります。
- 木造建築士事務所:木造建築士が開設する事務所で、木造住宅などに特化した設計業務を担います。
申請先
登録申請の提出先は、建築士事務所を開設する所在地の建築士事務所協会です。各都道府県の建築士事務所協会の所在地やWEBサイトは、一般社団法人日本建築士事務所協会連合会のHP(https://www.njr.or.jp/society/)で確認することができます。
近年では、窓口での申請の他、インターネットを利用した電子申請や郵送での申請にも対応しています。
有効期限
建築士事務所登録の有効期間は、5年間と定められています。登録日から5年が経過する前に更新の申請を行わなければ、登録が失効してしまいますので注意が必要です。
更新の申請期限は、管轄の建築士事務所協会によって若干異なりますが、有効期限が切れる2か月前~30日前までに行うこととされているのが一般的です。
注意点
建築士事務所登録において注意すべき点として、以下のようなポイントがあります。
- 建設業許可がある場合でも、設計業務を元請として引き受ける際は建築士事務所登録が必要です。 設計業務を下請けに出す場合でも、設計契約を建築主と締結する元請けの立場である以上、建築士事務所としての登録が求められます。
- 建築士事務所登録をしていても、建設業許可がなければ請け負える工事の金額には制限があります。 設計と施工を一体的に請け負う場合、500万円(税込)以上の工事(建築一式工事の場合は1,500万円(税込)以上、または延べ面積150㎡以上の木造住宅工事)については建設業許可が必要となります。
- 法人の場合、定款の業務目的に「建築物の設計」や「工事監理」といった記載がなければ登録申請が認められません。 登録前に必ず内容を確認し、必要であれば定款の変更手続きを行いましょう。
- 登録後に事務所名称や所在地、管理建築士などの変更があった場合は「変更届」、事務所を閉鎖する場合には「廃止届」の提出が義務づけられています。 提出期限も定められているため、変更や廃業の際には速やかな手続きが必要です。
建築士事務所登録の要件
建築士事務所としての登録を行うためには、以下のような要件を満たす必要があります。ここでは、満たすべき2つの要件について解説します。
事務所ごとに専任の管理建築士を置くこと
建築士事務所を開設する際には、各営業所ごとに1名以上の「専任の管理建築士」を設置する必要があります。管理建築士とは、建築士事務所に所属する建築士のうち、業務の全体を管理する責任を持つ者のことです。この要件は、一級、二級、木造いずれの建築士事務所にも共通して課されているものです。
専任の管理建築士となるには、登録を受けようとする建築士事務所に常勤している建築士でなければなりません。たとえば、他の会社にフルタイムで勤務している建築士が副業的に管理建築士を務めることは認められません。また、複数の営業所を持つ法人の場合、すべての営業所に個別の管理建築士を配置しなければいけません。
ただし、令和3年の国土交通省の通知により、テレワークによる勤務も要件を満たすと認められるようになりました。具体的には、テレビ会議などのIT手段を活用し、適切に業務管理ができる体制が整っていれば、管理建築士が常駐していなくても差し支えないとされています。これは近年の働き方の多様化やITの進展に対応した柔軟な運用といえます。
さらに、平成27年の建築士法改正以降、管理建築士になるためには一定の実務経験と国土交通大臣指定の講習受講が義務付けられています。具体的には、原則として3年以上の設計・監理などの実務経験が必要とされ、その上で「管理建築士講習」の修了証明書を提出しなければ登録は認められません。
この「管理建築士講習」は、国土交通大臣の登録を受けた講習機関が実施しており、1日(6~7時間程度)の集合型講習です。受講費用は主催団体によって多少の差があり、12,000~18,000円程度となっています。
欠格要件に該当しないこと
もうひとつの大きな要件として、建築士事務所の開設者(法人であれば役員)が欠格要件に該当していないことが求められます。欠格要件は、以下のように定められています。
- 破産して破産して、まだ復権を得ていない者
- 拘禁刑(禁錮刑)以上の刑に処され、執行が終わってから5年を経過していない者
- 建築士法その他の法令に違反して罰金刑を受け、5年を経過していない者
- 建築士の免許取消処分を受け、5年を経過していない者
- 建築士事務所の登録を取り消され、5年を経過していない者
- 建築士事務所の閉鎖を命令され、命じられた閉鎖期間を経過していない者
- 成年被後見人または被保佐人
- 暴力団員でなくなった日から5年を経過していない者
これらに該当する場合、建築士事務所の登録を行うことはできません。また、登録後に欠格要件に該当した場合は、速やかにその旨を届け出て、登録が取り消されることになります。
建築士事務所登録の必要書類
建築士事務所の登録申請を行う際には、いくつかの必要書類を整えて、各都道府県建築士事務所協会に提出する必要があります。ここでは、申請時に求められる主な書類とその内容について解説します。
必要書類 | 概要 | |
1 | 登録申請書 | 建築士事務所登録のための基本的な書類で、申請者の情報、事務所の所在地、管理建築士の氏名や登録番号、使用する建築士の情報などを記載します。各都道府県の建築士事務所協会のホームページで所定の様式をダウンロードできるので、印刷して使用するのが良いでしょう。 |
2 | 管理建築士の建築士免許証の写し | 営業所ごとに専任で配置される管理建築士の免許証(または建築士登録証明書)のコピーを提出します。 |
3 | 管理建築士講習修了証の写し | 平成27年の建築士法改正以降、管理建築士は「管理建築士講習」の受講が義務づけられています。そのため、講習を修了していることを示す証明書の写しを添付する必要があります。 |
4 | 管理建築士の常勤を証明する書類 | 法人の場合は管理建築士の在職証明書に加え、健康保険証(事業所名の記載のあるもの)のコピーなどが求められます。個人事業の場合は、他社で重複して勤務していないことを示すために、退職証明書や離職票、前年の所得税の確定申告書などのコピーの提出が必要です。 |
5 | 所属建築士名簿 | 建築士事務所で業務に従事する建築士の氏名、資格種別、登録番号などを記載した一覧表です。様式は提出先により異なりますが、すべての従事建築士について正確な情報を記載する必要があります。 |
6 | 定款の写し(法人の場合) | 法人として登録申請を行う場合には、業務目的として「建築物の設計」や「工事監理」等が明記された定款の写しが必要です。目的の記載が不十分な場合は、事前に定款変更を行う必要があります。 |
7 | 履歴事項全部証明書(法人の場合) | 法人が申請する場合には、法人の商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を提出します。申請日前6か月以内に取得した最新のものを用意しましょう。 |
8 | 役員名簿(法人の場合) | 履歴事項全部証明書に記載のあるすべての役員について、役職や生年月日等を記載します。こちらについても様式が指定されていることが多いため、事前に建築士事務所協会のホームページを確認して準備しておきましょう。 |
9 | 欠格事由に該当しない旨の誓約書 | 申請者および役員が建築士法上の欠格事由に該当しないことを確認するための誓約書を提出します。虚偽が判明した場合は、登録が取り消されることになります。 |
10 | 登録手数料の支払いが確認できる資料 | 建築士事務所の登録申請には法定費用がかかります。申請時に、金融機関等で納付した際の利用明細票、利用控えなどを添付する必要があります。 |
建築士事務所登録にかかる費用
ここでは、建築士事務所の登録にかかる費用について、「法定費用(登録手数料)」と「行政書士など専門家に依頼する場合の報酬」の2つに分けて解説していきます。
法定費用
建築士事務所登録に際しては、建築士法に基づく法定の登録手数料が必要です。金額は都道府県ごとに条例等で定められていますが、多くの自治体では新規登録時におおよそ20,000円~28,000円程度の費用が必要になります。
また、登録の有効期限は5年であるため、更新の際にも同様の金額の手数料がかかります。登録の種類(一級、二級、木造)によっては若干の差が出ることもあるため、具体的な金額については申請先の都道府県の建築士事務所協会のウェブサイトや担当窓口で確認するのが確実です。
なお、登録手数料は前納制となっており、申請書と一緒に振込控えなどを提出する必要があります。
また、その他の費用として、法人の場合は履歴事項全部証明書が求められますが、その手数料として600円程度必要となります。
行政書士に依頼する場合の費用
建築士事務所登録の申請手続きは、添付資料が多く一般の方にとっては煩雑な面もあります。そのため、手続きをスムーズに進めたい場合や、時間が取れない場合には、行政書士などの専門家に依頼するのが有効です。
行政書士に依頼する場合の報酬は事務所や地域によって異なりますが、新規登録申請の場合で3万円~6万円程度が一般的な相場です。
また、法人登記簿謄本の取得や定款確認など法人特有の業務がある場合には、追加費用が発生することもあります。加えて、更新申請や変更届出の手続きを依頼する場合にも、1万5,000円~3万円程度の費用が目安とされています。
まとめ
建築士事務所登録は、建築設計や工事監理などの業務を行うために欠かせない法的手続きです。特に、建設業許可があるからといって登録が不要になるわけではなく、設計や監理業務を請け負う場合には必ず建築士事務所としての登録が必要になるため、注意が必要です。
登録申請時には多くの添付書類が求められるため、専門知識がないと手続きに時間がかかることも少なくありません。そのため、必要に応じて行政書士などの専門家に相談することも検討するとよいでしょう。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)