目次
はじめに
総務省や国税庁の統計によると、日本国内にはおおむね350~400万社程度の会社が存在しているとされています。これを日本の人口と単純に比較すると、おおよそ30~35人に1人が会社を所有している計算になり、会社設立が決して特別な人だけのものではないと言えるでしょう。
中小企業庁が公表する中小企業白書等によれば、日本の会社全体の99%以上が中小企業とされており、そのうち多くを小規模事業者が占めています。業種別に見ると、卸売業・小売業、建設業、製造業、サービス業といった分野に会社が多く分布しており、近年ではIT関連、コンサルティング業など、比較的少ない初期投資で始められる業種の割合が高まる傾向にあります。これは、ビジネス環境の変化により、個人が専門性や経験を活かして法人化しやすくなっていることの表れともいえるでしょう。
東京商工リサーチが公表した調査によれば、2023年には全国で15万3,405社の法人が新たに設立され、過去最多を更新しています。このように、近年においても会社設立は活発に行われていることが分かります。
本記事では、会社設立に関する手続きを全体像から整理し、設立前後の流れや費用について順を追って解説していきます。会社設立を検討している方の参考になれば幸いです。
「会社」に関する基本情報
「会社」と「法人」の違い
「会社」と「法人」は日常的に同じ意味で使われることもありますが、法律上は異なる概念です。法人とは、個人とは別に、法律によって権利能力が認められた組織の総称を指します。一方で、会社は法人の一類型にすぎず、すべての法人が会社に該当するわけではありません。
法人は、その設立目的や性質に応じて、一般に次の3つに分類されます。
| 区分 | 目的・特徴 | |
| 私法人 | 営利法人 | 営利を目的として継続的に事業活動を行い、商品・サービスの提供等によって得た利益を、配当や分配といった形で出資者や構成員に還元することを前提とする法人。会社法に基づいて設立され、企業活動の主体として経済活動を担う。株式会社、合同会社、合資会社、合名会社などが該当する。 |
| 非営利法人 | 公益性または共益性の実現を主たる目的として活動し、事業によって収益が生じた場合でも、構成員への利益分配は行わず、活動目的の達成のために再投資される法人。NPO法人(特定非営利活動法人)、一般社団法人、一般財団法人などが該当する。 | |
| 公法人 | 国や地方公共団体、またはそれに準ずる公的主体として、法律や条例に基づき設立される法人。営利を目的とせず、行政事務や公共サービスの提供といった公的目的を担う。地方公共団体、独立行政法人などが該当する。 | |
このように整理すると、会社は「営利法人」に分類される法人であり、事業活動によって利益を上げ、その利益を出資者に還元することを前提とした組織であることが分かります。つまり、これから会社設立を考える場合は、「法人を設立する」という広い概念の中から、「営利法人としての会社」を選択することになります。
「会社」の種類
日本の会社法では、会社の形態として次の4種類が定められています。それぞれに特徴があり、事業規模や経営スタイルに応じて選択されます。
| 区分 | 出資者の責任 | 主な特徴 |
| 株式会社 | 有限責任 | 国内の会社のうち最も広く選ばれている形態で、営利追求および資金調達力の強さが特徴。株式を発行して資金を集めることができ、事業拡大(例えば外部投資や将来的な上場)を見据える経営に向いている。責任は出資額を限度とする有限責任で、1名以上の株主・代表取締役で設立可能。資本金は1円から設立可能だが、定款認証や登記免許税等などの初期費用が必要。 |
| 合同会社 | 有限責任 | 出資者(社員)がそのまま経営を担う、自由度が高い形態。出資者全員が有限責任を負い、意思決定や利益配分のルールを比較的柔軟に定款で定められる。設立費用や事務負担が小さいため、スタートアップや小規模事業に人気がある。合同会社は2006年にできた新しい制度であり、株式会社に次いで選ばれるケースが多い。 |
| 合資会社 | 無限責任+有限責任 | 無限責任社員1名以上と有限責任社員1名以上の最低2名以上で設立できる形態。無限責任社員は会社債務について個人資産まで責任を負うが、有限責任社員は出資額を限度に責任を負う。設立費用は合同会社と同程度で、定款認証が不要。現在は新規設立が非常に少なくなっているのが実情。 |
| 合名会社 | 無限責任 | 全ての社員が無限責任を負い、出資者と経営者が一致する形態。資本金規制がなく1名でも設立可能だが、新規設立例は非常にまれ。 |
このうち、現在新たに設立されるケースが多いのは、株式会社と合同会社です。特に合同会社は、設立コストの低さや経営の自由度の高さから、スタートアップや小規模事業で選ばれることが増えています。
なお、かつて存在していた有限会社は、2006年の会社法施行により新たな設立ができなくなりました。現在も存続している有限会社は、会社法上は「特例有限会社」として株式会社に近い扱いを受けていますが、これから会社を設立する場合は、上記4種類の中から選択することになります。
会社を設立するための手続き
会社設立の手続きは、いくつかの段階に分かれており、順序立てて進めることが重要です。ここでは、会社設立で必要となる基本的な手続きについて、実際の流れに沿って解説します。
実印の作成
会社を設立するにあたり、まず準備しておきたいのが会社の実印(代表者印)です。会社の実印は、法人設立登記の申請書類や、設立後の重要な契約書、金融機関での手続きなどに使用される、法人を代表する印鑑です。
実印の作成自体は法令で厳密な規格が定められているわけではありませんが、一般的には「代表取締役印」などと呼ばれる丸印を用い、設立登記と同時に法務局へ印鑑届出を行います。なお、会社形態にかかわらず、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社のいずれでも実印の届出は必要となります。
定款の作成・認証
次に行うのが、定款の作成です。定款とは、会社の目的、商号、本店所在地、出資に関する事項など、会社運営の基本ルールを定めた書類で、「会社の憲法」ともいわれます。
定款の作成はすべての会社形態で必要ですが、公証人による定款認証が必要なのは株式会社のみという点が重要なポイントです。株式会社の場合、作成した定款を公証役場で認証してもらう際に、認証手数料等の法定費用が発生します。一方、合同会社・合資会社・合名会社では、定款認証は不要とされており、作成した定款をそのまま登記申請に使用します。
株式会社設立時の定款認証は、一般的に次のような流れで進みます。まず、発起人が作成した定款案をもとに、本店所在地を管轄する公証役場に事前相談または予約を行います。現在では、定款案を電子データで事前提出し、公証人が内容を確認する流れが一般的です。その後、公証人が会社法の規定に照らして定款内容を審査し、問題がなければ認証日を決定します。認証当日は、発起人本人または代理人が公証役場に出向き、定款の内容確認と署名・押印を行ったうえで、公証人が定款に認証を付します。近年は電子定款による認証も広く利用されており、この場合は印紙税が不要となるため、設立費用を抑えられる点も特徴です。
出資金の払い込み
定款の作成が完了したら、次は出資金(資本金)の払い込みを行います。現行の会社法では、最低資本金の規制はなく、1円以上で設立が可能です。
設立前の段階では法人名義の口座を開設できないため、発起人(出資者)個人の銀行口座に資本金を払い込み、その通帳の写し等をもって払い込みが行われたことを証明します。この手続きも、会社形態を問わず共通して必要となります。
法人設立登記
最後に行うのが、法人設立登記です。設立登記は、会社の本店所在地を管轄する法務局に対して申請し、登記申請が受理された日が、会社の設立日となります。
法人設立登記では、定款、出資金の払込証明書、役員の就任承諾書など、複数の書類を提出する必要があります。また、登録免許税という法定費用がかかりますが、金額は会社の形態によって異なります。株式会社の場合は最低15万円、合同会社などの場合は最低6万円となり、株式会社の方が設立時の法定費用が高くなる点も押さえておきたいポイントです。
会社設立後に行う手続き
会社は設立登記が完了した時点で法律上は成立しますが、実際に事業を開始・継続していくためには、設立後にもいくつかの手続きを行う必要があります。ここでは、特に重要となる代表的な手続きについて解説します。
法人口座の開設
会社設立後、まず行うことが多いのが法人口座の開設です。売上や経費の管理、税金や社会保険料の支払いなどを行うため、法人名義の銀行口座は事業運営に欠かせません。
法人口座の開設にあたっては、金融機関ごとに審査が行われ、登記事項証明書、定款、代表者の本人確認書類、事業内容が分かる資料などの提出を求められるのが一般的です。近年は、マネーロンダリング防止の観点から審査が厳格化しており、設立直後で実績がない場合には、開設までに時間を要するケースもある点には注意が必要です。
各種許認可の申請
会社を設立しただけでは、すぐにすべての事業を行えるとは限りません。業種によっては、営業を開始する前に行政機関から許認可を取得する必要があります。
例えば、飲食業であれば飲食店営業許可、建設業であれば建設業許可、リサイクルショップであれば古物商許可などが代表例です。これらの許認可は、会社設立後でなければ申請できないものが多く、設立と同時に準備を進めておかないと、事業開始が遅れる原因にもなります。
また、許認可の審査においては、定款に記載された「目的(事業内容)」と、実際に申請する事業内容との整合性が確認される場合が多い点にも注意が必要です。定款の目的に当該事業が適切に記載されていない場合、「定款目的外」と判断され、許認可申請が受理されない、あるいは補正を求められるケースもあります。
そのため、会社設立時の定款作成段階から、将来的に必要となる許認可申請を見据えて、事業内容を過不足なく記載しておくことが重要です。仮に整合性が取れていない場合には、定款変更(目的変更)を行ったうえで、改めて許認可申請を行う必要が生じることもあります。
助成金・補助金の申請
会社設立後の資金計画を考えるうえで、助成金や補助金の活用も重要なポイントです。助成金・補助金には、創業期の事業者を対象としたものや、設備投資、人材育成、IT導入などを支援する制度が数多く用意されています。
代表的な制度としては、まず「小規模事業者持続化補助金」が挙げられます。これは、販路開拓や業務効率化の取り組みに対して補助が行われる制度で、創業間もない小規模事業者でも活用しやすい点が特徴です。ホームページ制作や広告宣伝費、設備導入費などが補助対象となるケースも多く、設立直後の事業基盤づくりに役立ちます。
また、「IT導入補助金」は、会計ソフトや受発注システム、予約管理システムなど、ITツールの導入を支援する制度です。業務の効率化や生産性向上を目的としており、デジタル化を進めたい事業者にとって有効な選択肢となります。
人材の採用や雇用環境の整備を行う場合には、「キャリアアップ助成金」や「人材開発支援助成金」などの雇用関係助成金も検討対象となります。これらは、一定の要件を満たす雇用形態の転換や、従業員の教育訓練を実施した場合に支給されるもので、創業期の人材確保を後押しする制度です。
このほかにも、地域や業種ごとに、都道府県・市区町村が独自に実施している創業支援補助金や設備投資補助金が存在します。これらは公募期間や要件が限定されていることが多いため、会社設立後は早い段階で最新情報を確認し、利用できる制度を見極めることが重要です。
助成金・補助金は原則として返済不要である一方、申請書類の作成や事業計画の整理が求められ、申請のタイミングを逃すと利用できなくなる場合も少なくありません。多くの制度では、事業着手前や設備導入前の申請が必要となるため、計画段階から制度の活用を意識しておくことが、資金面でのリスク軽減につながります。
会社設立における行政書士の役割
会社設立は、法人設立登記を行えば完了するという単純なものではなく、設立前の事業内容の整理や会社形態の選択、定款の設計、設立後の許認可や各種届出、契約書の整備、補助金申請まで、一連の手続きが相互に関連しながら進んでいくのが実務の実態です。行政書士は、その中でも特に官公署に提出する書類の作成を中核とする専門家として、会社設立の各段階を横断的に支援します。
具体的には、設立前の段階では、事業内容や将来の展開を丁寧にヒアリングし、会社形態や出資・意思決定の枠組みを整理したうえで、許認可申請を見据えた定款の作成支援を行います。定款作成においては、株式会社・合同会社といった形態ごとの違いを踏まえ、機関設計や利益配分、株式の譲渡制限などを実態に即して反映させることが重要であり、行政書士はその実務的な落とし込みを担うことができます。株式会社の場合には、公証役場での定款認証が必要となるため、公証役場との事前調整や電子定款の準備など、認証までの実務フローを整える役割も果たします。さらに、設立に伴って必要となる発起人決定書、就任承諾書、各種議事録、委任状などの書類作成を行い、設立手続きが滞りなく進むよう支援することもできます。
設立後についても、業種ごとに必要となる許可・認可・登録・届出の要否を整理し、申請書類の作成や提出、変更届や更新手続きといった継続的な官公署手続きを担うほか、取引基本契約書や業務委託契約書、秘密保持契約書など、事業開始に不可欠な契約書類や社内文書の整備についても支援が可能です。また、創業期に活用される補助金・助成金についても、制度要件を踏まえて必要事項を整理し、申請書類作成のサポートを行います。
一方で、会社設立に関連するすべての業務を行政書士が行えるわけではありません。法人設立登記の代理は司法書士の独占業務であり、その他にも、法人税や消費税の申告・税務代理は税理士、社会保険・労働保険の手続き代理は社会保険労務士の独占業務に該当します。また、補助金に関する高度な経営診断や事業計画策定については、中小企業診断士が中心となるケースもあります。このように、会社設立は複数の専門領域が関わる分野であるため、行政書士は官公署手続きと書類作成のハブとして、必要に応じて他士業と連携しながら、設立から事業開始までを切れ目なく支援する役割を担っています。
会社設立にかかる費用
会社設立にあたっては、必ず発生する法定費用に加え、専門家へ依頼する場合には別途報酬が必要となります。ここでは、設立時にどのような費用が発生するのかを解説します。
法定費用など
法定費用とは、法律や制度上、会社設立に際して必ず支払う必要がある費用を指します。主な内訳は次のとおりです。
- 定款認証手数料(株式会社のみ): 公証役場で定款の認証を受ける際に必要となる費用で、資本金の額に応じて決まりますが、一般的には3~5万円程度が目安です。
- 収入印紙代(紙定款の場合・株式会社のみ): 紙の定款を作成する場合には、4万円分の収入印紙が必要となります。電子定款を利用した場合には、この印紙税は不要となります。
- 登録免許税(法人設立登記時): 法務局へ設立登記を申請する際に納付する税金で、株式会社の場合は最低15万円、合同会社・合資会社・合名会社の場合は最低6万円と定められています。
- 印鑑登録証明書の取得費用: 発起人や役員の印鑑登録証明書が必要となり、地域により異なりますが1通あたり300円前後が一般的です。
- 住民票の写しの取得費用: 発起人や役員の本人確認資料として求められることがあり、地域により異なりますが1通あたり300円前後が目安です。
- 登記事項証明書(設立後)の取得費用: 設立後、口座開設や各種手続きで必要となる書類で、1通あたり600円がかかります。
このほか、郵送費やコピー代などの実費が発生する場合もあります。
専門家に依頼する場合の費用
ここでは、会社設立に関する手続きを専門家に依頼する場合の報酬について、代表的な手続きを例に解説します。
行政書士に依頼する場合は、定款の作成支援、株式会社の定款認証手続きの段取り、設立に付随する各種書類の作成、許認可申請などが主な業務内容となります。これらをまとめて依頼した場合の報酬は、内容の複雑さにもよりますが、5~15万円程度が一つの目安となります。
司法書士に依頼する場合は、法人設立登記の申請代理が中心となります。設立登記一式を依頼した場合の報酬は、一般的に5~10万円程度が多く、会社形態や役員構成の複雑さによって前後します。
税理士に依頼する場合は、設立時点での関与というよりも、設立後の税務届出、顧問契約、決算・申告業務が主な対象となります。設立時に税務関係の届出作成を依頼する場合の費用は数万円程度、顧問契約を結ぶ場合には月額顧問料が発生するのが一般的です。
まとめ
会社設立は、事前の準備から設立後の対応まで、複数の段階を踏んで進めていく必要があります。会社形態の選択や定款の作成、出資金の払い込み、設立登記といった基本的な流れに加え、設立後には法人口座の開設、業種ごとの許認可申請、助成金・補助金の検討など、実務上欠かせない手続きが続きます。
行政書士は、官公署に提出する書類の作成を中心に、定款作成や許認可申請、設立後の各種手続きまでを一貫して支援できる専門家です。司法書士や税理士、社会保険労務士など他士業と連携しながら、会社設立から事業開始までをスムーズにつなぐ役割を担います。初めて会社を設立する場合や、手続きに不安がある場合には、早い段階で専門家に相談することが、結果として時間とコストの節約につながるでしょう。
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特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)