目次
示談書とは
「示談書」とは、当事者同士がトラブルや争いごとについて話し合い、合意した内容を文書としてまとめたものです。そもそも「示談」という言葉には、「もめごとを当事者間の話し合いによって解決する」という意味があります。裁判などの公的な手続きを経ずに、当事者同士の合意で問題を終結させるのが示談の基本的な考え方です。そして、その合意内容を後で「言った・言わない」のトラブルにしないために、書面に残したものが示談書です。
示談書の主な目的は、合意内容を明確にし、再度トラブルが発生しないようにすることです。つまり示談書は、「この問題はここで終わりにしましょう」という合意を法的に明確化するための重要な書類なのです。示談書が果たす役割は大きく、契約書と同様に法的な効力を持つ点が特徴です。当事者双方が署名・押印していれば、原則として民法上の契約として認められます。
さらに、示談書は民事上のトラブル(不貞行為など)だけでなく、刑事事件においても重要な役割を果たします。たとえば、傷害・窃盗・名誉毀損などの刑事事件で被害者と加害者の間に示談が成立した場合、検察官や裁判所の判断に大きく影響し、不起訴処分や量刑の軽減につながる可能性があります。そのため、刑事事件では、弁護士などを通じて正式な示談書を作成するケースが多いのです。
また、示談書と同じような目的で使われる書類に「合意書」や「和解書」があります。これらは名称こそ異なりますが、文書の目的や記載内容は示談書とほぼ同じであり、いずれも当事者間の合意内容を明確にし、将来の紛争を防ぐために作成されるものです。つまり、重要なのは文書の中身であって、名称(文書のタイトル)には、それほど重要な法的意味合いがあるわけではないということです。
示談書の利用場面
示談書は、日常生活からビジネス、さらには刑事事件まで、さまざまな場面で活用されます。目的は共通しており、「トラブルを円満に解決し、今後の紛争を防ぐ」ことです。ここでは、示談書が用いられる代表的なケースとその特徴を解説します。
| 利用場面 | 具体的な内容・目的 | 解説 |
| 交通事故 | 修理費、慰謝料等の支払い条件等に関する合意 | 示談書により、賠償金額・支払方法・今後の訴訟放棄などを明記することで、トラブルの再燃を防止する。保険会社が関与することが多い。 |
| 金銭トラブル | 貸した・借りたお金の返済条件や免除条件等に関する合意 | 返済期日や分割回数、遅延時の対応を記載することで、債務不履行時の証拠になる。「強制執行認諾文言付き」の公正証書とすることで、裁判を経ずに差し押さえが可能となる。 |
| 不貞行為(不倫) | 慰謝料の額・再発防止等に関する合意 | 感情的な問題になりやすく、口約束ではトラブルが再燃しやすいため、示談書で慰謝料の額や遵守事項を明文化する。接触禁止条項を盛り込むケースも多い。 |
| 離婚時の取り決め | 財産分与・慰謝料・養育費・面会交流の条件等に関する合意 | 財産分与や慰謝料、親権、養育費等に関する合意内容を文書化したもので、「離婚協議書」「離婚合意書」等と呼ばれることもある。慰謝料・養育費用等の未払いを防ぐために公正証書化されることも多い。 |
| 労働問題(解雇・残業代・退職金・パワハラ・セクハラ等) | 退職時の条件や金銭支払い等に関する合意 | 不当解雇や未払い賃金、セクハラ・パワハラ等のトラブルに関し、示談内容を記載する。示談により労働審判・訴訟への発展を防止する。 |
| 近隣トラブル | 騒音・境界・ゴミ出し等の問題の解決 | 生活上の摩擦を当事者間で話し合い、今後の対応ルールを示談書として残すことで関係の改善を図る。 |
| 物的損害の賠償 | 故意または過失による物的損害の賠償に関する合意 | 器物破損や建物の損壊、商品の破損など、財物に対する損害が発生した際に、その賠償額や支払い期限を明確にするために作成する。 |
| 契約違反・債務不履行 | 契約上の義務違反に対する損害賠償や是正措置等に関する合意 | 企業間取引・業務委託などで契約違反が起きた場合、裁判を避けて早期解決するために示談書を作成する。 |
| 刑事事件(傷害・窃盗・名誉毀損・痴漢など) | 損害賠償・慰謝料等に関する合意 | 示談成立により被害感情が和らぎ、被害届の取り下げや不起訴処分、量刑軽減につながることがある。弁護士を通じて作成することが多い。 |
| 学校・教育現場でのトラブル | いじめ・暴力・物損等の賠償に関する合意 | 当事者間(保護者含む)での再発防止・謝罪・損害賠償の合意を記録する。弁護士が関与する場合が多い。 |
| SNS・インターネット上の誹謗中傷 | 投稿削除・謝罪・損害賠償等に関する合意 | インターネット上のトラブルでは、当事者特定後に示談書を交わして解決を図ることが多い。再投稿禁止、口外禁止などの条項を設けることも。 |
| 賃貸借トラブル(原状回復・敷金) | 敷金返還・修繕費負担等に関する合意 | 退去時の費用精算トラブルでの最終確認として有効。家主・借主間の合意内容を明確にする。 |
| 遺産分割・相続争いの和解 | 相続分や遺産の分配方法等に関する合意 | 相続人間の協議結果を示談書として残すことで、将来の紛争を防止する。行政書士や弁護士が関与することも多い。 |
示談書に記載すべき内容
示談書は、当事者間の合意を漏れなく記載することが重要であるため、各事案に応じて記載する内容は変わります。ここでは、一般的に示談書に記載することが多い事項についてご紹介します。
1. 表題(文書のタイトル)・冒頭文
はじめに、この文書がどのようなものであるかを表すタイトルを付けるのが一般的です。「示談書」「和解書」「合意書」など、文書の内容を端的に表す名称を付けます。
タイトルの後には、「〇〇(以下「甲」という)と△△(以下「乙」という)は、以下の内容について合意した。」などのように簡潔に導入の文章を記載します。
2. トラブルの発生事実と背景
次に、トラブルの内容を簡潔に記載します。
例えば、他人の物を破壊してしまった事案であれば、「事案の発生日時:令和◯年◯月◯日、事案の発生場所:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番地、事案の概要:乙が工具を用いて甲の自宅玄関ドアの一部を破損した。」など、発生日時・場所・事実関係を客観的に記載します。ここでは、感情的な表現は避け、事実関係を明確にすることが重要です。
3. 合意事項
この部分が示談書の中心となる箇所です。具体的には以下のような内容を明記します。
-
- 賠償金・慰謝料等の金額・支払方法(銀行振込など)
- 支払期限・分割払いの有無等
- 支払いが遅れた場合の対応(遅延損害金・違約金など)
- 物的損害がある場合は修繕方法や支払範囲
- 謝罪や再発防止に関する約束
- 被害届の取り下げ(刑事事件の場合)
4. 清算条項
示談が成立した後、当事者の一方が再び同じ問題で請求を行うことを防ぐために、「本件に関して今後いかなる請求も行わない」旨の条項を入れます。具体的には、「甲および乙は、本件に関して本契約締結日までに発生した一切の請求権を相互に放棄する。」などのように記載します。
5. 秘密保持条項
特に不倫、企業間トラブル、SNS上の誹謗中傷などのケースでは、示談の内容を第三者に漏らさないことを定める秘密保持条項を設ける場合があります。違反した場合の違約金や損害賠償の規定を設けることも可能です。
6. 違反時の対応
相手方が示談内容に違反した場合の対応を明確にしておくことも重要です。例えば、不倫トラブルの再発防止として接触禁止を設定した場合、「接触禁止の合意に反した場合には、乙は甲に対して違約金〇〇万円を支払う。」といった条項を盛り込むと実効性が高まります。
7. 日付・署名・押印
最後に、示談成立の日付を明記し、当事者双方が自署・押印します。
署名欄は、「甲 住所:〇〇 氏名:〇〇(自署)(印)」のような形で、当事者それぞれが記載します。法人であれば、所在地・会社名・代表者名を記載します。なお、弁護士が代理人となっている場合は、弁護士名で署名を行う場合もあります。
示談書は自分で作成できる?
結論から言うと、示談書は法律上、当事者自身で作成することが可能です。特別な資格や公的な手続きを経る必要はなく、当事者の合意内容を自ら文章にまとめるだけでも有効な契約書となります。ただし、示談書は単なる「合意メモ」ではなく、金銭の支払い・損害賠償・権利放棄など法的効果を伴う重要な文書であるため、表現や構成を誤ると、後々トラブルに発展するおそれがあります。
たとえば、先述の「清算条項」に関する文言を曖昧に記載したり、記載そのものがなかった場合、後に「追加請求できるのか」「再度訴訟を起こせるのか」といった解釈の違いが生じることがあります。このような不備を防ぐには、法的効果を最大化する正確な文面が必要不可欠です。
近年では、インターネット上に示談書のテンプレートやひな形が数多く公開されており、これらを利用すれば、基本的な形式を整えることは可能です。ただし、トラブルの内容や当事者の立場によって、記載すべき項目や文言は大きく異なります。テンプレートのままでは、個別の事情に適合しない「形だけの示談書」になってしまうリスクがある点には注意が必要です。
そのため、不備によるリスクを減らしたい場合には、行政書士などの専門家に作成を依頼するのが望ましいでしょう。示談書の作成は、行政書士の業務の1つである「権利義務に関する書類の作成」に含まれており、当事者の意向をもとに、適法で明確な文章に整えることができます。
一方で、すでに紛争が生じているケース(訴訟が提起されている、刑事事件化しているなど)や、相手との交渉を行う必要があるケースでは、行政書士が関与すると弁護士法違反(非弁行為)となるおそれがあるため、そのような場合は弁護士への依頼が必要です。示談書を自作できるかどうかの判断は、トラブルの性質や法的リスクの有無によって変わるといえるでしょう。
示談書は公正証書で作成した方が良い?
示談書は私文書として作成しても法的に有効ですが、金銭の支払いなど重要な約束を含む場合には、公正証書として作成する方がより安全で確実です。ここでは、公正証書の基本知識や作成の流れ、作成にかかる費用について解説します。
公正証書とは
公正証書とは、全国に約300か所ある公証役場で、公証人という法律専門職が作成する公的な証明力を持つ文書で、私文書よりも高い証拠力を持ちます。作成した公正証書の原本は公証役場で20年間保管され、保管期間中は当事者が原本の閲覧や正本・謄本の発行を行うことができます。
示談書を公正証書で作成する最大のメリットは、「強制執行認諾文言」を付加できる点にあります。これは、慰謝料や賠償金などに関して、支払いを行う側が「支払いが滞った場合には直ちに強制執行を受けても異議ありません」という意思を示す文言を盛り込むことです。これを「強制執行認諾文言付き公正証書」と呼び、万が一未払いがあった際には、訴訟を起こすことなく相手の財産(給与・預金など)を差し押さえられるようになります。
公正証書の作成の流れ
公正証書は、一般的には以下の手順で作成します。下記の手続き以外に、近年ではメールやウェブ会議システムを利用したリモート方式での公正証書作成も導入され始めています。ただし、リモート方式での作成の可否は各公証人の判断となりますので、事前に公証役場へ電話で確認を行ってください。
- 原案の作成
まず、相手方と示談内容を整理し、文案を作成します。公証人はあくまでも公平な第三者の立場として文書の作成を行うため、どちらか一方の当事者に対して不利な内容となっていてもアドバイスを行ってはくれません。そのため、自身に不利な内容となっていないかを事前に確認したい場合は、行政書士や弁護士などの専門家に依頼して、内容のチェックを受けるのがおすすめです。 - 公証役場への予約・相談
公証役場は完全予約制となっている場合が多いため、事前に電話で予約を行います。全国の公証役場の所在地や連絡先は日本公証人連合会のホームページで確認することができます。
電話予約の際に作成したい文書の概要を説明し、必要書類や相手方と調整しておくべき事項を確認しておくと良いでしょう。場合によっては、メール等で文案の事前送付を指示されることもあります。 - 必要書類の準備
当事者の本人確認書類(運転免許証など)や印鑑証明書、印鑑などを用意します。法人が関与する場合は登記事項証明書や代表者印が必要になる場合もあります。必要書類は作成する文書の内容によっても変わりますので、電話予約の際にしっかりと確認しておきましょう。 - 公証役場での打ち合わせ
当事者が公証役場に出向き、公証人が内容を確認したうえで修正・加筆などのアドバイスを行います。文案が確定したら、その後公証人が正式な文書を作成します。 - 公証役場での署名
公証人による文書案の作成後、再度当事者が公証役場を訪れ、最終確認を行います。問題がなければ双方が署名を行い、公正証書が完成します。その後、当事者が正本・謄本を受け取り手続きが完了します。
公正証書の作成にかかる費用
公正証書の作成手数料は、「公証人手数料令」という政令に基づいて全国一律で定められています。示談書の場合、手数料の額は文書に記載する賠償金や慰謝料などの金額によって以下のように定められています(2025年時点)。手数料についての詳細は、日本公証人連合会のホームページで確認することができます。
なお、下記の手数料に加えて、正本・謄本作成費用(電子データ:2,500円/1件、書面:300円/1枚)、文書のページ数が3枚を超過した場合の追加費用(300円/1枚)などの実費がかかります。
| 文書に記載する額 (賠償金・慰謝料など) |
手数料 |
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円を超え100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円を超え500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円を超え1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円を超え3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円を超え5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円を超え1億円以下 | 49,000円 |
| 1億円を超え3億円以下 | 49,000円に超過額5,000万円までごとに15,000円を加算した額 |
| 3億円を超え10億円以下 | 109,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額 |
| 10億円を超える場合 | 291,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額 |
示談書を作成する際に知っておくべきポイント
示談書は、当事者間の合意を明確にし、将来の紛争を防ぐための重要な書面です。しかし、一度作成してしまうと、内容を変更することは容易ではありません。また、形式や内容に不備があると、法的効力が否定される可能性もあります。
ここでは、示談書を作成する際に特に注意しておきたいポイントを解説します。
一度作成した示談書は変更・撤回できる?
原則として、示談書は当事者の合意によって成立する契約書であるため、双方が署名・押印を行った時点で法的効力を持ちます。そのため、一方的に内容を変更したり撤回したりすることはできません。変更する場合は、再度、双方の合意のもとで「示談書の変更合意書」や「新たな示談書」を作成する必要があります。口頭での合意変更は証拠能力が乏しく、後の紛争を防ぐことが難しいため、必ず書面で行うことが重要です。
ただし、後述する「示談書が取り消し・無効になる場合」に該当するケースでは、民法上の無効や取消しが認められる余地があります。このような例外的ケースでは、専門家に相談のうえ、適法な手続きで示談を無効化する対応を検討することが必要です。
示談書が取り消し・無効になる場合とは
示談書は、契約としての基本的な要件を欠くと、無効または取消しの対象となることがあります。典型的な例としては以下のようなものがあります。
- 一方が強迫・詐欺により署名した場合
- 示談書の内容に錯誤(内容を誤解した状態での合意)があった場合
- 公序良俗に反する内容が含まれている場合(例:法外な金利の支払い、強制労働などの反社会的な約束)
- 未成年者や成年被後見人などの制限行為能力者が、単独で署名した場合
- 無権代理(代理権を持たない者が本人の同意なく署名を行う)があった場合
上記における「錯誤」とは、当事者が重要な事実を誤って認識したまま契約を結んだ場合を指します。示談書における錯誤の具体例としては、たとえば交通事故で「自分に全面的な過失がある」と誤信して過大な示談金の支払いを約束してしまった場合や、修理費用を誤って高く認識して支払額を合意してしまったケースなどが挙げられます。ただし、錯誤が軽微な事実関係の誤りや単なる計算ミスであれば取り消しは認められず、「真実を知っていれば示談を締結しなかった」程度の重大な誤認であることが求められます。
実際に、上記のような理由で示談書を取り消したり無効を主張したりする場合には、法的な手続きを踏む必要があります。まず、取消事由(詐欺・強迫・錯誤など)があると考える側が、相手方に対して書面で契約取消しの意思表示を行うことが第一歩です。民法では、取消しは意思表示によって行うことができると定められています。この意思表示は内容証明郵便など、証拠が残る方法で行うことが望ましいでしょう。
相手が取り消しを認めない場合や、既に金銭の授受が行われている場合には、民事訴訟(契約取消・無効確認訴訟)を提起して、裁判所に判断を仰ぐことになります。訴訟では、詐欺・強迫・錯誤などの事実を証拠によって立証する必要があります。たとえば、脅迫的な発言の録音データ、示談金支払い時の領収書、交渉経緯を示すメールなどが重要な証拠となります。
また、取消しが認められた場合には、原則として示談書は初めから無効だったものとみなされ、それに基づいて支払われた金銭などは返還請求の対象となります。もっとも、取消しの主張には時効(追認可能時から5年または行為の時から20年)があるため、早めに弁護士などの専門家に相談し、適切な手続きを取ることが重要です。
関連コラムはこちら↓
内容証明郵便とは?書き方や送付方法から知っておくべきポイントまで行政書士が徹底解説
示談書は電子データで作成しても良い?
結論から言うと、示談書は電子データで作成しても有効です。PDFやWordなどの電子ファイル形式で示談内容を取り交わしても、双方の意思が一致していれば法的効力を持ちます。もっとも、電子データで作成する際には、本人確認と改ざん防止の措置を講じることが重要です。
日本では「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)により、電子署名が施されたデータは本人による真正な意思表示と推定されます。そのため、電子契約サービス(クラウドサイン、GMOサインなど)を利用し、電子署名とタイムスタンプを付与することで、紙の示談書と同等の証拠力を持たせることができます。
一方で、署名や電子署名を行わず、単にメールで示談内容をやり取りしたり、PDFを送付しただけの状態では、当事者の意思確認や内容の改ざん防止が十分でないため、証拠力が弱いと判断されるおそれがあります。トラブルを避けるためには、電子署名の利用、または紙の書面に署名・押印を行う方法を選択するのが安全です。
また、電子データで作成した示談書を将来的な証拠として利用する場合は、データのバックアップを複数箇所に保存し、アクセス権限を限定するなどの情報管理も欠かせません。裁判などで証拠として提出する際には、署名付き電子データそのもの、もしくは電子署名の検証記録を提出する必要があります。
示談書の作成を専門家に依頼する場合の費用
示談書は、専門家に作成を依頼することで法的に適正な内容に仕上げることができます。
ここでは、行政書士・司法書士・弁護士の3つの専門家に依頼する場合の費用の目安とそれぞれの業務範囲の違いを解説します。
行政書士
行政書士は、「権利義務に関する書類の作成」が業務の一つに定められており、示談書の原案作成や文面の整備を依頼することができます。行政書士は当事者の合意内容を整理し、誤解や法的に不備のない文書に仕上げることを得意としています。
ただし、行政書士はあくまで「書類作成の専門家」であり、当事者間の交渉や、紛争が発生している事案への関与はできません。これを超えて相手方と交渉したり、トラブル解決を目的とする活動を行うと、弁護士法違反(非弁行為)に該当するおそれがあります。したがって、行政書士に依頼できるのは「合意が成立している状態で、それを文書化する作業」と理解しておくことが重要です。
費用の目安としては、示談書の内容や分量によって異なりますが、2〜5万円前後が一般的です。金銭の支払い条件や免責条項、秘密保持条項などを含む複雑な文面の場合は、5〜10万円程度になることもあります。
司法書士
司法書士も法律文書の作成を行う専門家であり、特に、登記手続きや債権関係の文書に関して高い専門性を持っています。さらに、法務大臣から認定を受けた「認定司法書士」であれば、簡易裁判所の管轄で請求額が140万円以下の民事事件において相手方との交渉や訴訟代理を行うことができます。行政書士よりも訴訟に近い業務を担える反面、書類作成のみを依頼する場合は、費用面でやや高額になる傾向があります。
費用の目安は、3〜8万円前後が一般的です。内容に債権放棄や清算条項など法的判断を要する要素が含まれる場合、追加費用が発生することがあります。
弁護士
弁護士は、法律相談・交渉・代理・訴訟対応まで含めて最も広範な対応が可能な専門家です。示談書の作成だけでなく、相手方との交渉、示談条件の調整、トラブル発生時の訴訟代理まで一貫して任せることができます。特に、交通事故、不倫問題、労働紛争、損害賠償など紛争性の高い事案では、弁護士への依頼が適しています。
費用は、事案の性質によって大きく異なります。書面作成のみを依頼する場合は5〜10万円程度が相場ですが、交渉や示談成立の代理を含む場合には10〜30万円以上となることもあります。また、着手金・成功報酬制を採用している弁護士も多く、慰謝料請求や損害賠償請求を含む場合には、回収額の10〜20%を報酬として支払うケースも一般的です。
まとめ
示談書は、トラブルを円満に解決し、後日の紛争を防ぐための重要な契約書です。示談書は当事者自身で作成することもできますが、専門家に依頼することで、法的リスクを回避し、より実務的で信頼性の高い文書を作成できます。行政書士は「合意内容の文書化」に適しており、司法書士は140万円以下の民事案件や登記・債権関係に強みを持ち、弁護士は交渉や訴訟対応まで包括的に支援可能です。事案の性質に応じて適切な専門家を選ぶことが、円滑で確実な示談解決への近道といえるでしょう。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)