サステナブル志向の高まりやリユース文化の定着により、今あらためて注目されている古本屋ビジネス。許認可の取得や資金計画など、開業に必要な情報を総まとめしました。
古本屋経営の現状
近年、古本屋の経営は新たな転換期を迎えています。一昔前までは「街の本屋さん」というイメージが強かった古本屋ですが、デジタル化やライフスタイルの多様化により、その役割や魅力が見直されつつあります。総務省の「家計調査」によると、書籍全体の消費は減少傾向にある一方で、中古本市場は安定した需要を維持しているのが特徴です。特に若い世代では「サステナブル消費」への意識が高まり、リユース市場としての古本屋に注目が集まっています。
また、オンラインマーケットプレイスの普及により、従来の店舗型古本屋だけでなく、インターネットを活用した販売が活発化。ネット販売と実店舗のハイブリッド経営を行う事業者も増えており、店舗での出会いとオンラインでの利便性を両立させた形態が増えています。特に地域密着型の小規模書店は、地元コミュニティとのつながりを重視した経営が功を奏している例も多く見られます。
さらに、近年では本を単なる「商品」としてだけでなく、「文化的なコンテンツ」として発信する動きが加速。イベントやトークショー、読書会などを開催し、来店する理由を「本を買う」以外にも広げる古本屋が増えています。こうした多角的な取り組みが、競争が激しい書店業界での差別化につながっているのです。
古本屋の業態
現代の古本屋は、単に本を販売するだけではなく、さまざまな形でお客様に価値を提供しています。以下のような多彩な業態が見られます。
- カフェ併設型の古本屋
本を楽しみながらコーヒーを味わえる空間を提供しています。リラックスしながらじっくり本を選べるので、長時間滞在するお客様にも好評です。 - 雑貨や文房具を取り扱う複合型古本屋
本と一緒に雑貨やオリジナルグッズを販売する店舗もあります。おしゃれなギフトとして選ばれる商品を取り揃えるのがポイントです。 - イベントスペースを備えた古本屋
トークイベントや読書会、ワークショップなどを開いて、地域の文化交流の場となっています。本だけでなく、人との出会いも楽しめる空間です。 - ギャラリー併設型の古本屋
アート作品や写真展を開催して、芸術と本を融合した店づくりをしています。視覚でも楽しめるのが魅力です。 - 移動販売型の古本屋
キッチンカーのように地域を巡回して、本との出会いを届けています。イベント会場などでも人気のスタイルです。
古本屋の開業準備で検討するべきこと
古本屋を開業するにあたっては、しっかりとした準備が欠かせません。ここでは、開業準備として検討しておきたいポイントをいくつかご紹介します。
コンセプトの明確化
まずは、コンセプトの明確化が重要です。どのようなジャンルの本を中心に扱うのか、ターゲットとなるお客様はどの層かを考えることから始めましょう。たとえば、ビジネス書や専門書をメインにするのか、絵本や児童書を中心にしてファミリー層を狙うのかで、店舗づくりや仕入れ戦略も変わってきます。
店舗の立地選び
次に、店舗の立地選びも慎重に行いたいところです。駅近や商店街のように人通りが多い場所はもちろん有利ですが、家賃などの固定費も高くなりがちです。一方で、住宅街の中でも地域に密着した営業スタイルでファンをつかむ店舗も増えています。オンライン販売と組み合わせることで、場所にとらわれない経営も可能になりますよ。
仕入れルートの確保
仕入れルートの確保も開業準備としては欠かせません。個人のコレクションを買い取る方法や、業者オークションへの参加、出版流通会社との連携など、さまざまな仕入れ手段を検討しておきましょう。安定した品ぞろえが、リピーター獲得のカギになります。
店内レイアウトやディスプレイの工夫
さらに、店内レイアウトやディスプレイの工夫も大切です。本のジャンルごとに分かりやすく配置したり、テーマ別の特集コーナーを作るなどして、お客様が本を手に取りやすい環境を整えましょう。カフェスペースを設ける場合は、落ち着いた雰囲気づくりにもこだわりたいですね。
古物商許可申請
古本屋を開業する際に、まず欠かせないのが「古物商許可」の取得です。古物商許可は、中古品を仕入れて販売する事業を行う場合に必要となる許認可であり、古本の売買を行う古本屋も対象になります。ここでは、古物商許可について詳細を解説します。
求められる要件
古物商許可を取得するには、いくつかの基本的な要件があります。具体的には、次のとおりです。
- 事業を行う場所が確保されていること
自宅を店舗として利用する場合は、賃貸借契約書などでその使用権限を証明する必要があります。なお、オンライン販売のみを行う場合でも「営業所」は必要とされており、自宅や事務所スペースを営業所として登録する必要があります。インターネット上での販売だからといって、所在地が不要になるわけではありませんので注意が必要です。 - 営業所ごとに管理者を設置すること
営業所ごとに古物営業法に基づく管理者を配置しなければなりません。管理者は、営業所の運営管理を担い、法令遵守の責任者となる重要な役割です。
また、以下のような欠格事由に該当しないことも求められます。法人の場合は、役員全員が欠格事由に該当していないことが必要です。
- 過去5年以内に禁錮以上の刑に処されたことがある人
- 破産手続き中で復権を得ていない人
- 暴力団員や暴力団関係者、またはこれらでなくなってから5年を経過していない人
- 過去5年以内に古物営業法や盗品等有償譲受け防止法など、一定の法律に違反して罰金以上の刑に処された人
- 営業に関して成年被後見人、被保佐人、または準禁治産者(旧法)である人
- 住居不定の人
- 営業の停止命令を受け、その期間が経過していない人
- 営業所ごとに管理者を設置していない、またはその管理者が欠格事由に該当する場合
必要書類
古物商許可を申請する際には、いくつかの書類を提出する必要があります。主なものとしては、次のような書類が挙げられます。
- 古物商許可申請書
- 住民票の写し(法人の場合は法人の登記事項証明書)
- 身分証明書(本籍地の市区町村で取得)
- 略歴書(過去5年分の職歴などを記載)
- 誓約書(欠格事由に該当しないことの確認)
- 使用権限を証明する書類(賃貸契約書や使用承諾書など)
これらの書類は、不備があると申請が受理されなかったり、手続きが長引いたりする原因になります。提出前にしっかりとチェックすることが大切です。
手続きの流れ
古物商許可の申請手続きは、基本的には次のような流れで進めます。
- 必要書類の準備
まずは、上記の必要書類を一式そろえましょう。書類によって取得場所や発行までの期間が異なるので、計画的に準備することがポイントです。 - 申請書類の提出
管轄の警察署(所在地を管轄する生活安全課)に提出します。申請時には手数料として19,000円が必要です。 - 審査と確認
提出された書類をもとに審査が行われます。通常、審査期間は約40日程度です。必要に応じて追加書類の提出や面談が求められることもあります。 - 許可証の交付
無事に審査を通過すると、古物商許可証が交付されます。これで正式に古本屋として営業を開始することができます。
その他の手続き
古本屋を開業する際には、古物商許可だけでなく、いくつかの関連手続きが必要になります。ここでは、古本屋の開業時によく行われるその他の主な手続きをご紹介します。
開業届の提出
まず、個人事業主として古本屋を開業する場合は、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出する必要があります。開業から1か月以内が提出期限です。この手続きをすることで、確定申告や青色申告特別控除などの制度を活用できるようになります。開業届を出しておくことで、事業用口座の開設や融資申請の際にもスムーズです。
青色申告承認申請書
あわせて検討したいのが、青色申告承認申請書の提出です。こちらは、節税効果が期待できる青色申告をするための手続きで、開業から2か月以内の提出が目安です。会計処理はやや複雑になりますが、最大65万円の控除が受けられるメリットは大きいですよ。
消費税関連の手続き
古本屋の売上が年間1,000万円を超える場合は、消費税課税事業者の届出も必要になります。開業当初は免税事業者としてスタートするケースが多いですが、将来的に売上が増えることを見越して、制度を理解しておくことが大切です。インボイス制度の開始に伴い、適格請求書発行事業者の登録も検討しておきましょう。
労働保険・社会保険の加入
従業員を雇う場合には、労働保険(労災保険・雇用保険)や社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が必要になります。スタッフを雇用する予定がある場合は、早めに労働基準監督署やハローワーク、年金事務所への手続きを行いましょう。雇用関係の手続きは漏れやすいため、しっかりチェックが必要です。
古物市場(オークション)への参加登録
仕入れルートを増やすために、古物市場への参加登録も検討するとよいでしょう。古本の仕入れ先として活用できる古物市場では、登録が必要な場合があります。市場ごとにルールが異なるため、事前に確認して準備を進めましょう。
各都道府県の古書組合への入会
業界内の情報収集や販路拡大を考えるなら、各都道府県の古書組合への入会もおすすめです。古書組合に加入することで、組合員限定の市場やイベントに参加できたり、仕入れや販売の機会が広がります。経営に役立つセミナーや勉強会が開催されることもあり、業界のネットワークを築く上でも大きなメリットがありますよ。
古本屋の開業にかかる費用
古本屋を開業する際の初期費用は、一般的に50万円〜150万円程度が目安になります。もちろん、店舗の規模やスタイルによって増減しますが、おおまかな金額感をつかんでおくことで、資金計画も立てやすくなります。ここからは、具体的にどのような費用がかかるのか、項目ごとにわかりやすくご紹介します。
物件取得費用
まず、大きなウエイトを占めるのが物件取得費用です。家賃の数か月分の保証金や敷金、仲介手数料などが発生します。たとえば、月額家賃が10万円の場合、初期費用として約30万円〜50万円ほどを見込んでおくと安心です。自宅の一部を使う場合は、このコストを抑えられますね。
内装・什器費用
次に必要なのが、店舗内装や什器の費用です。シンプルな内装であれば、10万円〜30万円程度で済むこともありますが、こだわりのデザインやカフェ併設型の場合はさらに増額することも。本棚やカウンター、照明など、雰囲気づくりのためにしっかり予算を確保しておきましょう。
古物商許可の取得費用
開業には欠かせない古物商許可の申請費用もあります。申請時の手数料は全国一律で19,000円です。行政書士に手続きを依頼する場合は、別途3万円〜5万円ほどの報酬がかかることが一般的です。時間と手間を考えると、専門家への依頼も検討する価値がありますよ。
仕入れ資金
古本の仕入れ資金も忘れてはいけません。開店時に最低でも数百冊〜数千冊はそろえたいところ。一般的には、仕入れに20万円〜50万円ほどかけるケースが多いです。古書市場やネットオークションを活用すれば、効率的に在庫を充実させることができます。
広告宣伝費
新規開店時には、広告宣伝費も検討しましょう。チラシの作成や配布、SNS広告、地域情報誌への掲載などに数万円〜10万円ほどかけると効果的です。最近では、InstagramやX(旧Twitter)を活用した集客も増えていますので、低コストで始められるデジタルマーケティングもおすすめです。
まとめ
古本屋の開業は、自分の好きな本に囲まれながらお客様とつながれる、やりがいのある仕事です。この記事でご紹介したように、開業にあたっては古物商許可の取得をはじめ、物件選びや仕入れルートの確保、各種手続きなど、いくつかのポイントを押さえる必要があります。手続きで困ったことがあれば、行政書士などの専門家の活用もご検討ください。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)