行政書士と司法書士の違いとは?業務範囲・報酬・資格取得方法などを徹底比較

本記事では、行政書士と司法書士の違いを、それぞれの役割や業務範囲、料金、資格取得方法等の点から解説します。一般の方々や企業がそれぞれの専門家に依頼する際や資格取得を目指す方々の参考となるよう、両者の特徴を徹底的に比較していきます。

行政書士・司法書士とは

行政書士

行政書士は、行政書士法(昭和26年法律第4号)に基づき設置された国家資格者で、2024年時点で全国に約52,000人が登録されています。

行政手続きの円滑化を担う専門家として、官公署に提出する書類の作成や提出代理、その他法律に基づく行政事務に関わる業務を行い、市民生活や事業活動において多岐にわたるサポートを提供しています。

行政書士は、市民や企業の身近なパートナーとして、行政との橋渡し役を果たす重要な存在です。

 

司法書士

司法書士は、司法書士法(昭和25年法律第197号)に基づく国家資格者で、2024年時点で全国に約23,000人が登録されています。

登記や供託業務を専門とし、不動産取引に伴う不動産登記や商業・法人登記を代理するほか、認定司法書士であれば簡易裁判所での訴訟代理権も有します。

司法書士は、不動産や法人の法的権利関係を明確にし、取引の安全性を確保する役割を果たすと同時に、法律上の課題解決をサポートする重要な存在です。

 

業務範囲の違い

行政書士と司法書士の業務範囲は、法律上明確に区別されています。ここでは、それぞれの業務の概要を解説します。

 

行政書士

行政書士は、官公署への提出書類作成や申請手続きの代理業務を行います。これらの書類作成や申請手続きの代理は行政書士の独占業務であり、弁護士以外の他の士業は行うことができません。行政書士が取り扱う書類の数は数千から1万種類にも及ぶと言われ、非常に幅広い分野で業務を展開している点が特徴です。

たとえば、建設業許可申請や飲食店営業許可申請などの許認可申請の他、内容証明郵便の作成、各種契約書の作成・チェックなどが主な業務です。さらに、外国人の在留資格申請書類の作成など、国際業務にも対応できるのが特徴です。複雑な行政手続きを代理することで企業や一般の方々の負担を軽減し、安心・安全な手続きをサポートしています。

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司法書士

司法書士は、主に登記や供託(お金や物品を法務局などに預けること)に関わる手続きを専門とします。不動産登記や商業・法人登記の代理申請は司法書士の独占業務であり、弁護士以外の他士業はこれを取り扱うことができません。

具体的には、土地や建物を売買、相続、贈与する際の不動産登記や会社を設立する際の商業・法人登記を代理します。また、認定司法書士であれば簡易裁判所での代理権も有し、民事訴訟の一部に対応可能です。さらに、成年後見制度や相続登記の手続きも司法書士の業務であり、権利関係の明確化や法的な争いをサポートするのが特徴です。

行政書士が行政分野での手続きを担うのに対し、司法書士は法務分野での登記や訴訟代理など、法律面の支援に特化しています。

 

行政書士と司法書士ができる業務の比較

行政書士と司法書士はそれぞれに法律に基づいて行える業務が定められています。ここではニーズの高い3つの分野について、行政書士と司法書士が行える業務を比較します。

 

官公署へ提出する書類の作成・提出の代理

官公署関連の手続きについて、行政書士と司法書士が扱える業務を比較すると以下のようになります。

業務内容 行政書士 司法書士
許認可申請書類の作成・提出の代理

(建設業許可、飲食店営業許可、古物商許可等)

×
自動車の手続き(登録、名義変更、車庫証明等) ×
国際業務(外国人のビザ申請等)の書類の作成・提出の代理 ×
行政不服申し立て

※特定行政書士のみ

×

 

 

相続関連

次に、相続に関する業務について、行政書士と司法書士が対応できる内容を比較すると以下のようになります。

業務内容 行政書士 司法書士
遺産分割協議書の作成
遺言書の作成支援
相続人・相続財産の調査
相続関係説明図の作成
不動産の相続登記 ×
自動車の相続(名義変更) ×
預金・株式の相続
相続放棄の手続き ×
相続税の申告 ×
※税理士の業務のため

 

会社の設立

また、会社設立における業務では以下のようになります。

業務内容 行政書士 司法書士
会社設立時の定款の作成・公証役場での認証
会社設立登記の申請代理 ×
会社設立時の補助金・助成金の代理申請
※厚生労働省が提供している助成金の申請代行は社会保険労務士の独占業務のため除く

※相談やサポート業務のみ可

 

料金の違い

行政書士と司法書士は、業務内容や手続きの複雑さによって報酬が変わる仕組みになっています。それぞれの料金の特徴を踏まえ、代表的な業務の目安をご紹介します。

 

行政書士

行政書士は業務の幅広さが特徴であり、それに伴って料金にも幅があります。主要な手続きについては、以下のような料金が一般的ですが、手続きの複雑さなどによっては追加料金が必要になる場合もあります。

  • 許認可申請:5万円〜20万円程度(業務の種類や規模による)
  • 内容証明郵便の作成:1万円〜3万円程度
  • 遺産分割協議書の作成:5万円〜10万円程度
  • 在留資格申請:10万円〜20万円程度
  • 会社設立の際の定款の作成:5万円から10万円程度

 

司法書士

司法書士の料金についても手続きの複雑さで料金が異なり、さらに登記の際には登録免許税など実費が必要になる点も注意が必要です。

  • 不動産登記の申請代理:3万円〜15万円程度(別途登録免許税が必要)
  • 会社設立登記の申請代理:5万円〜15万円程度(別途登録免許税が必要)
  • 成年後見制度の利用サポート:5万円〜20万円程度
  • 相続登記の申請代理:3万円〜15万円程度(別途登録免許税が必要)

 

資格取得方法の違い

行政書士と司法書士は、どちらも国家資格であり、専門的な知識や技能を身につけるために資格試験に合格する必要があります。ただし、試験の内容や難易度、必要な実務経験の有無などに大きな違いがあります。

ここでは、それぞれの資格取得方法について解説します。

 

行政書士

行政書士試験は、年1回(例年11月ごろ)実施される国家試験で、受験資格に制限はなく誰でもチャレンジできます。

試験科目は行政法、民法、憲法、基礎法学、一般知識(政治・経済・情報通信など)など幅広い分野から出題され、合格率は例年10%前後、合格に必要な勉強時間の目安はおおよそ500〜800時間程度とされています。合格後は、各都道府県の行政書士会に登録し、業務を開始することが可能です。

一方で、一定の公務員経験を有する場合や、弁護士・弁理士・公認会計士・税理士の資格を持つ場合は、試験を受けずに行政書士登録が可能です。

 

司法書士

一方、司法書士試験も年1回(例年7月ごろ)実施される国家試験で、こちらも受験資格に制限はありませんが、難関資格として知られています。

試験科目は憲法、民法、商法、不動産登記法、商業登記法、供託法、司法書士法など、専門性が高い法律知識を問われる内容です。合格率は3〜4%程度と非常に低く、合格に必要な勉強時間の目安は約3,000時間とも言われています。

さらに、合格後には法務局での4~6週間程度の事務指定研修を修了しなければ司法書士として業務を開始できません。実務研修を経て、初めて司法書士登録が可能になります。

 

年収の違い

行政書士と司法書士は、どちらも独立して事務所を構えたり、企業内での法務業務を担うなど幅広い活躍の場があります。

ここでは、一般的な年収の目安や傾向をそれぞれ解説していきます。

 

行政書士

行政書士の年収は、開業年数や得意分野、地域差によって幅広く分布しています。独立開業している場合、年収はおおよそ300万円〜700万円が多いですが、専門分野での活躍により、1,000万円以上を稼ぐ行政書士も珍しくありません。

行政書士業務の特徴として、許認可申請や相続関連業務、在留資格関連手続きなど多様なニーズがあり、それに応じて収益の柱を複数持てる点があります。また、行政書士は比較的開業しやすく、初期投資を抑えられることから、軌道に乗るまでの期間は比較的短いと言われています。

 

司法書士

司法書士の年収は、特に登記業務の需要が高い都市部と地方で差が出やすい傾向にあります。全国的な平均年収はおおよそ500万円〜800万円程度ですが、不動産登記や会社設立登記、相続登記などの業務で安定的な依頼を得る司法書士は、1,000万円を超えることもあります。

さらに、認定司法書士の資格を持つことで、簡易裁判所での代理業務を請け負うことができ、これによって追加の収入源を確保することも可能です。司法書士は高い専門性が求められる分、顧客の信頼を得ることでリピーターや紹介による案件が増え、年収アップにつながることが多いと言えます。

 

弁護士と行政書士・司法書士の違い

弁護士、行政書士、司法書士は、いずれも法律に関わる国家資格者ですが、資格取得の方法、業務範囲、そして利用料金の面でそれぞれ大きな違いがあります。

ここでは、依頼先選びに役立つよう、各ポイントを詳しく解説します。

 

資格取得までの道のり

弁護士になるには、法科大学院を修了後、司法試験に合格し1年間の司法修習を経る必要があります。司法試験の合格率は約30〜40%と一見すると高く見えますが、修習まで含めると長期の準備が必要です。

一方、行政書士や司法書士は、試験合格後に比較的短期間で業務を開始できます。行政書士試験は合格率10%前後、司法書士試験は3〜4%と難関ですが、弁護士に比べて受験資格の制限が少なく、早期に独立しやすいのが特徴です。

 

業務範囲

弁護士は、全ての法律相談や民事・刑事訴訟代理、調停・和解などを担える唯一の職種です。

行政書士は、官公署に提出する書類作成や申請代理に特化し、法的紛争そのものには直接関わりません。司法書士は、登記や供託の代理業務をはじめ、認定司法書士であれば簡易裁判所に限り訴訟代理が可能です。

つまり、弁護士は紛争解決を含めた幅広いサポートができるのに対し、行政書士や司法書士は書類作成・手続きの専門家としての立場が際立ちます。

 

利用料金

利用料金も大きな違いがあります。弁護士の場合、相談料は30分5,000円〜1万円が相場で、訴訟代理などの業務は着手金・報酬金制が一般的です。行政書士や司法書士は、業務単位で報酬を設定するケースが多く、許認可申請や登記など、業務ごとに金額が明確に示されていることが多いです。

一般的には、弁護士に依頼する方が費用が高くなる傾向がありますが、解決が必要なトラブルの性質によって、どの士業が最適かを見極めることが重要です。

 

行政書士と司法書士の免許を両方取得するメリット

行政書士と司法書士の両資格の取得には当然ながら相当な努力が必要ですが、その分だけ対応できる業務の幅が広がる点は大きな魅力です。士業としてのキャリアをより豊かに、そして顧客にとっても頼れるパートナーとなるために、ダブルライセンスは非常に有効な選択肢と言えます。ここでは、ダブルライセンスのメリットについて解説します。

まず、両資格を持つことで、例えば相続の場面では、不動産登記業務から自動車の名義変更等の行政手続きまでを一貫してサポートできます。お客様にとって、一人の担当者がすべての手続きを行ってくれるのは非常に安心でき、大きなメリットの一つと言えるでしょう。

さらに、両資格を活かすことで顧客層を拡大できるのも大きなメリットです。行政書士だけでは対応できない登記業務を司法書士資格でカバーし、逆に司法書士資格だけでは難しい許認可申請などを行政書士資格で対応するなど、幅広いニーズに柔軟に応えられます。こうした対応力の高さは競争が激しい士業業界において大きな強みとなり、結果として年収アップや業務の安定化につながりやすくなります。

 

まとめ

行政書士と司法書士はそれぞれの役割を持ち、市民や企業の多様なニーズに応える存在です。実際の手続きを依頼する際には、どの専門家がどの業務に強いのかをしっかりと見極めることが大切です。

この記事を通じて、行政書士と司法書士の違いや強みを理解し、依頼内容に合った最適な専門家を選ぶ参考にしていただければ幸いです。法律や行政手続きに関する悩みや疑問は、専門家の力を借りることでスムーズに解決できます。ぜひ、専門家選びに役立ててくださいね。