薬局・ドラッグストアを開業するには?許認可やその他の手続きを詳しく解説

「薬局を始めたいけど、何から手をつけたらいい?」そんな疑問に応えるべく、必要な許認可や申請書類、保健所とのやりとりまで、開業の流れを実務ベースで解説します。

 

薬局・ドラッグストア経営の現状

薬局やドラッグストアをはじめとする医薬品販売業は、地域の医療体制を支える重要な役割を担っています。少子高齢化が進むなかで、在宅医療やセルフメディケーションのニーズが高まり、薬局・ドラッグストアの存在価値はますます大きくなっています。また、コロナ禍を経て感染症対策やオンライン服薬指導など新たな取り組みも進み、医薬品販売業界全体が大きく変化しているのが現状です。

では、実際に医薬品を販売する事業形態にはどのような種類があり、それぞれにどんな特徴があるのでしょうか。ここでは3つの主要な営業形態について分かりやすくご説明します。

 

医薬品販売業の種類

薬局

薬局は医師の処方せんに基づき調剤を行う場所です。調剤だけでなく、OTC医薬品(一般用医薬品)の販売も行えます。薬剤師が常駐し、患者さん一人ひとりの体調や服薬状況を確認しながら、安全な薬の提供を行います。

薬局で扱う医薬品は非常に幅広く、処方せん医薬品はもちろんのこと、要指導医薬品や第1類〜第3類医薬品まで取り扱いが可能です。特に要指導医薬品や第1類医薬品の販売においては、薬剤師による対面での指導や情報提供が必須となります。患者さんの状態や既往歴、副作用リスクなどを考慮したうえで適切なアドバイスを行うことで、安全かつ効果的な薬物療法をサポートしています。

また、近年は「かかりつけ薬剤師」や「地域連携薬局」といった制度も導入され、地域医療のハブとしての役割が強まっています。服薬指導や医薬品の管理だけでなく、健康相談や在宅医療のサポートなど、多様なサービスを提供することで地域住民の健康を総合的に支える存在となっています。

 

店舗販売業(ドラッグストア等)

ドラッグストアなどが該当する「店舗販売業」は、調剤を行わず、一般用医薬品(OTC医薬品)を販売する業態です。登録販売者(もしくは薬剤師)の配置が必要であり、薬局とは異なり処方せんによる調剤業務は行いません。日用品や化粧品などと併せて販売することで、幅広い消費者ニーズに応えています。

一般用医薬品にはリスクに応じた分類があり、そのなかでも「第1類医薬品」は特に注意が必要です。第1類医薬品は、副作用のリスクが比較的高く、使用にあたって薬剤師による対面での情報提供と適切な指導が義務付けられています。そのため、第1類医薬品を扱うには、薬剤師の常駐が必須となります。登録販売者では販売できない点に注意が必要です。

さらに、最近では「特定販売」としてインターネットや郵便による医薬品販売も広がっています。これには別途届け出が必要ですが、店舗販売業の許可を持ったうえでオンライン販売を行うことができ、消費者にとってより便利な購入手段を提供できます。特定販売では、適切な情報提供と相談対応が求められ、安全性を確保しながらサービスを拡充することが大切です。

 

配置販売業(置き薬)

配置販売業とは、あらかじめ家庭や事業所に医薬品を配置し、使用された分だけ代金を受け取る販売方法です。いわゆる「置き薬」として知られ、特に急な体調不良時に役立つ販売形態です。販売員が定期的に訪問して医薬品の補充や代金回収を行います。

配置販売業で取り扱えるのは、一般用医薬品のうち第2類医薬品と第3類医薬品です。副作用リスクが比較的低い医薬品が対象であり、第1類医薬品や要指導医薬品、処方せん医薬品は販売できません。販売員は、取り扱う医薬品の特性を理解したうえで、利用者への適切な情報提供と説明を行うことが求められています。

 

各営業形態ごとに必要な許認可

それぞれの営業形態に応じて、以下のような許認可が必要です。

営業形態 必要な許認可
調剤薬局 薬局開設許可、保険薬局指定申請(保険調剤を行う場合)
ドラッグストア(調剤を行わない薬局) 店舗販売業許可
置き薬 配置販売業許可

それぞれの許認可は、要件や必要書類等も異なります。この記事では、各許認可について具体的な要件や手続きの流れについても詳しく解説していきますので、ぜひ最後までご覧くださいね。

 

調剤薬局を開業するための許認可

調剤薬局を開業するには、「薬局開設許可」と「保険薬局の指定申請」の2つの手続きが必要です。ここでは、それぞれに求められる要件や手続きの流れを解説していきます。

 

薬局開設許可

求められる要件

薬局を開設するためには、次のような施設や人員に関する要件を満たす必要があります。

  • 調剤室の設置:調剤専用のスペースが必要です。作業スペースが確保され、衛生的な環境が整っていることが求められます。
  • 医薬品の保管設備:温度や湿度管理が適切にできる保管庫を設けること。特に冷所保存が必要な医薬品については専用の設備が必要です。
  • 待合スペースの確保:患者さんが快適に待機できるスペースを設置します。混雑緩和やプライバシー保護も配慮すべきポイントです。
  • 薬剤師の常駐:開局時間中は常に薬剤師が勤務している体制を整える必要があります。
  • 衛生管理体制:感染症対策を含めた衛生管理が徹底されていることが重要です。
  • 災害時の対応:停電時や災害発生時でも医薬品の保管や業務継続が可能な体制を構築します。
  • 適切な標識の設置:外部から薬局であることがわかるように、必要な標識や案内を掲示します。

 

欠格事由

薬局開設許可には欠格事由が定められており、これらに該当する場合は許可を受けることができません。以下のようなものが代表的な例です。

  • 過去に医薬品医療機器等法違反などで処分を受けた者
  • 破産手続き中で復権を得ていない者
  • 禁錮以上の刑に処せられた者(一定期間)
  • 暴力団員など反社会的勢力に関係する者

 

必要書類の例

薬局開設許可の申請時には、以下のような書類が必要になります。このほか、自治体によっては追加書類が求められることがありますので、事前に管轄の保健所に確認しておくと安心です。

  • 薬局開設許可申請書
  • 施設の平面図および付近の見取り図
  • 薬剤師免許証の写し
  • 使用許可書(賃貸の場合)
  • 管理薬剤師の業務体制を示す書類

 

申請の流れ

薬局開設の許可を得るための手続きの流れは以下のようなものが代表的です。許可が下りるまでの期間は1〜2ヶ月が目安です。

  1. 保健所への事前相談:まずは管轄の保健所に事前相談を行い、施設の基準や必要書類について確認します。
  2. 申請書類の準備・提出:指示された書類を揃えたうえで、薬局開設許可申請書を提出します。必要に応じて追加資料も用意します。
  3. 保健所による立ち入り検査:申請後、保健所の担当者が現地確認を行い、施設や設備が基準を満たしているかチェックされます。
  4. 許可証の交付:検査に合格すれば、薬局開設許可証が交付されます。

 

保険薬局の指定申請

保険薬局の指定申請は、調剤薬局として健康保険や後期高齢者医療制度などの公的医療保険を使って調剤報酬を受け取るために必要な手続きです。

 

必要書類の例

調剤薬局として保険診療を行う場合は、保険薬局の指定申請が必要です。こちらでは、以下の書類が一般的に求められます。

    • 保険薬局指定申請書
    • 薬局開設許可証の写し
    • 管理薬剤師の薬剤師免許証の写しおよび履歴書
    • 薬剤師名簿(勤務薬剤師が複数いる場合)
    • 賃貸借契約書(薬局が賃貸物件の場合)
    • 薬局の平面図および設備の配置図
    • 調剤録などの帳簿書類の見本
    • 地方厚生局が指定するその他の必要書類

 

申請の流れ

申請手続きは以下のような流れで行い、手続きにかかる期間は1~2ヶ月が目安です。

  1. 地方厚生局への事前相談:まずは地方厚生局に事前相談を行い、必要な要件や提出書類について確認します。
  2. 申請書類の準備・提出:必要書類を準備し、保険薬局の指定申請を行います。漏れがないように慎重に確認しましょう。
  3. 審査および現地調査:書類審査の後、現地調査が行われます。運営体制や施設の状況などがチェックされます。
  4. 指定通知書の交付:問題がなければ、指定通知書が交付されます。
  5. 保険薬局として業務開始:指定通知書が交付され次第、保険薬局として業務をスタートできます。

 

ドラッグストア(調剤を行わない薬局)を開業するための許認可

店舗販売業許可

求められる要件

店舗販売業許可を取得するためには、施設や人員、管理体制など、以下のような複数の要件を満たす必要があります。

  • 販売店舗の構造設備:医薬品専用の陳列棚を設け、湿度や温度管理が適切に行える環境を整える必要があります。一般用医薬品が適切に保管・陳列されていることが求められます。
  • 店舗管理者の配置:登録販売者または薬剤師を管理者として配置する必要があります。なお、第1類医薬品を扱う場合は薬剤師の常駐が必要です。
  • 衛生管理体制:清掃や換気が行き届き、衛生的な環境を維持できる体制を整える必要があります。
  • 情報提供体制:医薬品の販売に際し、購入者への適切な情報提供や相談対応ができる環境が求められます。

 

必要書類の例

店舗販売業許可の申請には、以下のような書類が必要です。自治体によって追加の書類が求められる場合があるため、事前確認が大切です。

  • 店舗販売業許可申請書
  • 販売店舗の平面図および付近の見取り図
  • 管理者となる登録販売者または薬剤師の資格証明書の写し
  • 賃貸物件の場合は使用許可書または賃貸借契約書
  • 営業管理体制を示す書類

 

申請の流れ

申請にかかる期間は全体で約1〜2か月程度が目安ですが、自治体や準備状況により前後しますので、余裕をもって進めましょう。

  1. 保健所への事前相談:まずは管轄の保健所に事前相談を行い、必要書類や設備要件について確認します。
  2. 申請書類の準備・提出:必要な書類を揃えて申請を行います。提出後、不備がないかのチェックが入ります。
  3. 保健所による立ち入り検査:施設の構造や管理体制が基準を満たしているか、保健所の担当者が現地で確認します。
  4. 許可証の交付:検査に問題がなければ、許可証が交付されます。
  5. 営業開始 :許可証が交付され次第、店舗での医薬品販売をスタートできます。

 

配置販売業(置き薬)を開業するための許認可

配置販売業許可

求められる要件

配置販売業許可を取得するためには、次のような要件が求められます。

  • 販売員の配置:販売を担当する配置販売員は、配置販売業に関する講習を受講し、修了している必要があります。
  • 販売する医薬品の適合:取り扱いができるのは第2類医薬品と第3類医薬品のみで、第1類医薬品や要指導医薬品、処方せん医薬品は取り扱えません。
  • 販売管理者の設置:営業所ごとに販売管理者を配置し、業務全体を管理する体制が必要です。
  • 保管場所の確保:配置販売用の医薬品を適切に保管できる倉庫や保管場所が必要です。温度や湿度管理が適切であることが求められます。
  • 苦情処理体制の整備:顧客からの問い合わせや苦情に対応できる窓口の設置が必要です。

 

必要書類の例

配置販売業許可の申請時には、次のような書類が求められます。自治体ごとに追加書類が必要になる場合もあるため、事前確認をおすすめします。

  • 配置販売業許可申請書
  • 事業所の平面図と周辺地図
  • 配置販売員の講習修了証の写し
  • 販売管理者の資格証明書の写し
  • 使用許可書(賃貸物件の場合)
  • 医薬品の保管場所の写真または図面

 

申請の流れ

手続き全体にかかる期間の目安は1〜2か月が目安ですが、地域や書類の準備状況により変動することがありますので、余裕をもって準備を行いましょう。

  1. 保健所への事前相談(約1〜2週間) まずは管轄の保健所に相談し、必要書類や設備の要件について確認します。
  2. 申請書類の準備・提出(約2〜3週間) 必要書類を揃えて申請を行います。提出後、書類の不備がないか確認されます。
  3. 保健所による立ち入り検査(申請から約2〜3週間後) 保管場所の衛生状態や管理体制が基準を満たしているか現地で検査されます。
  4. 許可証の交付(検査合格から約1〜2週間) 問題がなければ、配置販売業の許可証が交付されます。
  5. 営業開始 許可証が交付されたら、正式に営業を開始できます。

 

その他必要な手続き

薬局やドラッグストアを開業するにあたっては、これまでご説明した各種許認可に加えて、関連するさまざまな手続きも忘れずに進める必要があります。ここでは、代表的な手続きを3つご紹介します。

 

法人設立・開業届の提出

まず必須となるのが「法人設立」や「開業届の提出」です。法人として薬局やドラッグストアを運営する場合は、法務局で会社設立登記を行い、その後税務署や都道府県税事務所、市区町村役場へ必要な届出を提出します。個人事業として開業する場合も、税務署への「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出が必要です。

 

労務関連の手続き

スタッフを雇用する場合は、労働基準監督署への労働保険の成立手続き、ハローワークへの雇用保険適用事業所設置届、年金事務所への健康保険・厚生年金保険新規適用届などが必要です。雇用関係の手続きを適切に行うことで、従業員の安心にもつながりますし、事業者としての責任を果たすことになります。

 

消防署への届出

店舗の規模や取り扱う商品によっては、防火管理者の選任や消防計画の作成・届出が求められる場合があります。特に、ドラッグストアで多くの可燃性商品を扱う場合には注意が必要です。

 

まとめ

薬局やドラッグストアを開業するには、薬機法(医薬品医療機器等法)に基づくさまざまな許認可を取得しなければなりません。また、開業に際しては許認可だけでなく、法人設立や開業届の提出、雇用関連の手続き、消防署への届出など、付随する行政手続きも欠かせません。スムーズに開業を進めるために、行政書士などの専門家へ依頼するのもおすすめです。

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