「クリーニング店開業に資格は必要?どんな届出がある?」そんな疑問に答える、クリーニング店を開業するための準備やコツもあわせてご紹介します。
クリーニング店の現状
近年、クリーニング業界はさまざまな社会的・経済的変化の影響を受け、従来とは異なる姿に変わりつつあります。たとえば、少子高齢化による衣類需要の変化や、家庭用洗濯機の性能向上、そしてテレワークやカジュアル化の進行によるスーツ着用機会の減少などがその一因です。これらの影響により、かつて主流だった「毎週クリーニングに出す」習慣が薄れつつあり、店舗数自体も減少傾向にあります。
ただし、これは必ずしも業界の衰退を意味するものではありません。現在では、ユーザーの多様なニーズに応える形で、サービス内容や提供スタイルを柔軟に変化させる店舗が増えてきています。たとえば、IT技術を活用した無人店舗や宅配型サービス、環境負荷を抑えたエコ志向の洗浄方法など、さまざまなアプローチが登場しています。
こうした新しい形態のクリーニングビジネスは、共働き家庭や単身者、環境意識の高い層など、従来のターゲット層とは異なる客層から支持を得ており、地域性や時代背景に応じた運営が鍵となっています。
また、クリーニング店には、大きく分けて「フランチャイズ型」と「個人経営型」の2種類があります。フランチャイズでは、大手チェーンのブランド力やノウハウを活用できる反面、ロイヤリティや経営の自由度に制限があることが特徴です。一方で個人経営は、自由な運営ができるメリットがある一方で、開業準備や集客、設備導入などをすべて自力で行う必要があります。どちらを選ぶかは、経営者のスタイルや資金計画によって異なるため、事前の検討が欠かせません。
クリーニング店のサービス内容
現在のクリーニング店は、単に衣類を洗って返すだけの場ではありません。店舗ごとに提供するサービスはさまざまに広がりを見せており、それぞれのターゲット層や地域性に応じた工夫が求められています。主なサービス内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 一般衣類のドライクリーニング・水洗い(ワイシャツ・スーツ・コートなど)
- 高級ブランド衣類やデリケート素材のクリーニング
- 特殊品の対応(着物・革製品・布団・カーペットなど)
- シミ抜きや復元加工、抗菌・消臭・防虫加工などの付加サービス
- 24時間受け渡し可能なロッカー設置型無人対応サービス
- 宅配・集配サービス(スマホ予約やLINE対応などITとの連携)
- エコクリーニング(環境負荷を抑えた洗剤・設備の使用)
このように、クリーニング業は単なる「洗濯」業から、快適で便利な生活を支えるサービス業へと大きく進化している分野です。開業時にはどのサービスを柱に据えるかを明確にし、自店舗の強みとして打ち出すことが重要です。
クリーニング店の営業形態と必要な許認可
クリーニング業を始めるにあたっては、営業形態に応じて必要な届出や許認可が異なります。事前にどの形態で開業するかを決めておかないと、手続きがスムーズに進まないだけでなく、法令違反となってしまう可能性もあるため注意が必要です。ここでは代表的な3つの営業形態について、必要な手続きと併せて解説します。
一般クリーニング店
「一般クリーニング店」は、店内に洗濯機や乾燥機、仕上げ機などの設備を備え、自店舗で洗濯加工を行う業態です。洗濯から仕上げまでを一貫して行うため、最も本格的な営業形態といえます。
この形態で開業する場合には、営業所所在地の保健所に対して「クリーニング所(一般)開設届」を提出する必要があります。また、施設や設備がクリーニング業法の基準に適合していることが求められます。また、施設や設備がクリーニング業法の基準に適合していることが求められます。たとえば、作業室の広さは3.3平方メートル以上、洗濯機や乾燥機の設置、手洗い設備、換気設備の整備などが条件となります。
なお、以下のような書類の提出が求められます。
- クリーニング所開設届出書
- 施設の平面図および設備配置図
- 使用機器の一覧表
- 管理者の資格証明書(クリーニング師など)
- 法人登記簿謄本または住民票の写し(個人事業主)
取次店
「取次店」は、自らは洗濯行為を行わず、お客様から衣類を預かり、契約している一般クリーニング店に引き渡して洗濯を委託するスタイルです。いわば中継所のような位置づけで、立地や接客対応が重要なポイントとなります。
開設にあたっては、「クリーニング所(取次店)開設届」を保健所に提出します。洗濯作業を行わないため、一般店に比べると設備基準は緩やかですが、受付カウンターや一時保管場所などの最低限の施設要件はクリアする必要があります。
なお、以下のような書類の提出が求められます。
- 取次店開設届出書
- 店舗の見取り図・間取り図
- 衛生管理計画書(衣類の保管や搬送に関するもの)
- 申請者の身分証明書または登記簿謄本
無店舗取次店
「無店舗取次店」は、店舗を持たずに、顧客の自宅などで衣類を受け取り、洗濯後に再び届ける形で営業する業態です。個人事業主や副業として取り組む方も多く、近年ではITを活用したアプリ連携型の宅配クリーニング事業者も増えています。
この場合も、管轄の保健所に「無店舗取次店開設届」を提出する必要があります。営業場所が店舗でない場合でも、衣類の保管場所や衛生管理体制が審査対象になるため、運営方法をしっかり設計することが求められます。
なお、以下のような書類の提出が求められます。
- 無店舗取次店開設届出書
- 衣類の保管場所の概要説明書
- 衛生管理に関する誓約書
- 洗濯委託先(一般店)の契約書の写し
- 申請者の住民票または法人登記簿謄本
クリーニング店の営業に必要な資格
クリーニング店を開業するにあたり、営業形態によっては「資格」が必要となる場合があります。その代表的なものが「クリーニング師」という国家資格です。店舗の種類や運営方法によって必要性が異なりますので、ここでしっかり確認しておきましょう。
クリーニング師とは?
クリーニング師とは、クリーニング業法に基づいて定められた国家資格で、主に洗濯加工業務を安全かつ衛生的に行うために必要な専門知識と技能を有することを証明するものです。自社で洗濯や仕上げ作業を行う「一般クリーニング店」の場合は、必ず1名以上のクリーニング師を配置する必要があります。
一方、「取次店」や「無店舗取次店」のように、実際の洗濯作業を行わない営業形態では、クリーニング師の配置義務はありません。ただし、衛生管理に関する基本的な知識や、洗濯物の適切な取り扱いが求められるため、業界経験や研修を受けておくことが望ましいでしょう。
クリーニング師資格の取得方法
クリーニング師になるには、以下のステップを踏む必要があります。
- 都道府県が実施する「クリーニング師試験」に合格する
- 試験合格後、保健所を通じて資格登録申請を行う
- 登録が完了すると、正式に「クリーニング師」として認められます
試験は年1回程度、各都道府県で実施されており、筆記試験(衛生法規、公衆衛生、繊維・洗濯・染み抜きなど)と実技試験(しみ抜き、アイロン作業など)で構成されます。
受験資格としては、実務経験や養成講習の修了が必要です。たとえば、高等学校のクリーニング科を修了していない方は、通常1年以上の実務経験または都道府県が認める講習を受講することで受験資格を得られます。
クリーニング師資格の登録について
試験に合格しただけではクリーニング師を名乗ることはできません。必ず保健所で登録手続きを行い、「クリーニング師登録証」を取得する必要があります。登録後は特に更新制ではありませんが、変更事項がある場合や紛失した際は速やかに届け出を行う必要があります。
クリーニング店の開業準備で検討すべきこと
クリーニング店の開業には、資格や許認可の取得以外にも、事前に検討・準備しておくべきポイントがいくつかあります。特に競争が激しいエリアでは、開業前の計画が成功を大きく左右します。ここでは、開業に向けて考えておきたい主要な検討事項をまとめました。
1. 営業形態の選定と開業スタイルの検討
まずは、どの営業形態でスタートするかを明確にしましょう。自社で洗濯設備を構える「一般クリーニング店」か、外注対応の「取次店」か、あるいは「無店舗取次店」か、それぞれに必要な設備や届出内容が異なります。また、個人経営かフランチャイズ加盟かも重要な判断材料です。フランチャイズに加入すればノウハウやブランド力を活かせますが、開業費用や経営の自由度に制約があることも考慮しましょう。
2. 出店場所の選定とマーケティング
立地はクリーニング店経営において非常に重要です。住宅街・駅近・商業施設内など、ターゲットとなる顧客層の動線を意識して出店場所を選ぶことが大切です。また、競合店の数や客単価、地域の洗濯ニーズの傾向も調査しておくとよいでしょう。開業後の集客方法として、チラシやポスティングだけでなく、GoogleマップやLINE公式アカウントなどのWeb集客も効果的です。
3. 設備投資と店舗レイアウト
洗濯機や乾燥機、仕上げ用アイロンなどの設備は、品質や効率を左右する重要な要素です。中古設備を活用すればコストを抑えられますが、メンテナンスや耐用年数も考慮しましょう。また、店舗の導線や受付スペースの設計は、スタッフの動きやお客様の利便性にも関わります。
4. 開業資金と資金計画
クリーニング店の開業には、物件取得費や設備費、人件費、広告費など多くの費用がかかります。開業費用の目安を把握し、自己資金だけで足りない場合は、日本政策金融公庫などの創業融資制度を利用する選択肢も検討しましょう。事業計画書や収支シミュレーションの作成も、融資審査では大きなポイントになります。
クリーニング店の開業にかかる費用
クリーニング店開業の初期費用は、個人経営の小規模な取次店であれば300万〜500万円程度、一般店やフランチャイズ型では700万〜1,000万円超となる場合もあります。営業形態やフランチャイズ加盟の有無によっても大きく異なりますが、ここでは一般的な費用項目と相場についてご紹介します。
1. 物件取得費(家賃・敷金・礼金)
店舗を構える場合、家賃のほかに敷金・礼金・保証料などがかかります。立地や広さにもよりますが、初期費用として50万〜150万円程度を見込んでおくと安心です。
2. 内装・設備工事費
洗濯機・乾燥機・アイロン・作業台など、業務用機器の導入に加え、店舗内のレイアウトや配管・電気設備の整備も必要です。一般的な店舗で300万〜700万円程度、中古設備を活用すればコストを抑えることも可能です。
3. 洗濯設備・備品の購入費
業務用洗濯機・乾燥機だけでなく、ハンガー・カバー・受付機器・PC・POSレジなどの備品類も必要です。100万〜300万円程度が目安となります。
4. 人件費(開業時の人材確保)
スタッフを雇用する場合は、求人費用・採用手数料・給与の先行支払いも必要になります。少人数で始める場合でも数十万円〜100万円前後の準備が必要です。
5. 広告宣伝費・販促費
開業時には、認知度を高めるための広告やキャンペーンが欠かせません。チラシやポスティング、SNS広告、Webサイト制作などに30万〜50万円前後を見込んでおくとよいでしょう。
6. 許認可申請費・その他諸費用
保健所への開設届出やクリーニング師登録、法人設立費用など、各種手続きにも費用がかかります。全体で10万〜30万円程度が一般的です。
7. フランチャイズ加盟時の追加費用
フランチャイズで開業する場合は、加盟金(50万〜150万円)、保証金、ロイヤリティなどが別途発生します。また、指定設備の導入や研修参加などの初期投資も必要です。
まとめ
クリーニング店の開業には、単に「お店を持つ」だけでなく、多角的な準備と戦略が求められます。まずは、自分がどの営業形態でスタートするか(一般店・取次店・無店舗取次店)、そしてフランチャイズに加盟するかどうかを決めることが第一歩です。これにより、必要な資格や設備、許認可の種類が大きく変わってくるため、事業モデルの明確化が成功へのカギとなります。許認可の手続きに困った際には、行政書士などの専門家への相談も検討しましょう。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)