美容院を開業するには?必要な資格・許認可と準備すべきポイントを徹底解説

メンズ美容や訪問美容など、多様なニーズに応える美容院経営。今の時代に合ったサロンを始めるために、開業時に必要な資格・届出・準備事項を総合的にまとめました。

 

美容院経営の現状

2025年現在、美容院は全国で約25万軒以上あるとされ、コンビニエンスストアの約4倍もの数を誇ります。毎年多くの新規出店がある一方で、経営が厳しい現実も存在し、開業から5年以内に約40%が廃業しているとも言われています。しかし、これは逆に考えれば「計画的に準備し、差別化と努力を重ねれば長く続けられるビジネスモデル」であることを意味しています。実際、リピーターをしっかりと確保し、地域密着型で信頼を築いている美容院は、安定した経営を実現しています。

また、近年では少子高齢化が進む中で「訪問美容」など新しいサービス形態が拡大しており、従来の店舗型営業だけにとらわれない柔軟な経営が可能になっています。加えて、メンズ美容のニーズも高まり、幅広い客層をターゲットにした経営戦略が求められています。

美容院は地域に根ざしたビジネスとして、安定した経営を目指せる業種です。これから開業を目指す方は、現状の市場をしっかりと把握し、自身の強みを生かしたサロンづくりに取り組むことで、長く愛される店舗経営が期待できるでしょう。

 

美容院で提供されるサービス

美容院で提供されるサービスは非常に多岐にわたりますが、代表的なメニューには以下のようなものがあります。

  • カット、カラー、パーマなどの基本メニュー
  • ヘッドスパ、トリートメントなどのケアメニュー
    頭皮の健康や髪質改善を目的としたメニューで、単価アップやリピート率向上につながります。
  • 縮毛矯正やデジタルパーマなどの高度な技術メニュー
    高度な技術を要するメニューは、技術力の高さをアピールするポイントになります。
  • イベント向けサービス(ヘアセット、メイクアップ、着付け)
    成人式、卒業式、結婚式などの特別な日に向けた施術で、幅広いニーズに応えられます。
  • まつ毛パーマやアイブロウスタイリングなどの顔周りのトータルビューティーサービス
    一人のお客様から複数の施術を受注できる機会が増え、売上アップが期待できます。
  • 訪問美容サービス
    高齢者施設や自宅を訪問して施術を行うサービスで、地域密着型のサロンにとって大きな強みとなります。

 

美容院の開業に必要な資格・許認可

美容院を開業するためには、美容師としての技術や経営ノウハウはもちろん、法的に必要な資格と許認可を取得しておくことが欠かせません。ここでは、美容師免許(国家資格)と美容所開設届について、それぞれのポイントを詳しく解説していきます。

 

美容師免許(国家資格)

まず、美容院で施術を行うためには「美容師免許」の取得が必須です。美容師免許は厚生労働大臣が認定する国家資格であり、美容学校などの養成施設で必要な課程を修了し、国家試験に合格することで取得できます。試験は学科と実技に分かれており、しっかりとした準備が必要です。

美容師免許は「個人」に与えられる資格であり、法人や店舗に対してではない点に注意しましょう。経営者自身が施術をしない場合でも、店内で施術を担当するスタッフが必ずこの免許を持っている必要があります。

 

美容所開設届

美容院を営業するには、開業する地域を管轄する保健所に「美容所開設届」を提出し、検査を受けたうえで営業許可を取得しなければなりません。これは美容師法に基づく義務であり、無届で営業することは法律違反となります。

 

求められる要件

美容所として認められるためには、以下のような施設基準を満たす必要があります。

  • 作業スペースの確保
    カットやカラーなどの施術を行うスペースは、一定の面積が必要です。一般的には顧客1人あたり2平方メートル以上が目安とされ、器具の配置や動線にも配慮し、作業効率と安全性を確保することが求められます。
  • 衛生設備の整備
    流水設備(シャンプー台や手洗い場など)を備え、施術に使用した器具や手指を衛生的に洗浄できる環境が必要です。また、紫外線消毒器や消毒液など、器具類を消毒する設備の設置も必須となります。
  • 換気設備の設置
    薬剤の使用やドライヤーなどによる室温上昇を考慮し、換気扇や窓の設置により空気の入れ替えが適切に行える構造であることが必要です。これにより、快適な施術環境と衛生管理を維持します。
  • 待合スペースの分離
    衛生面や動線の観点から、施術スペースと待合スペースが明確に分けられていることが必要です。顧客の安全性と快適性を考慮し、混雑や接触を避ける設計が求められます。

 

必要書類の例

美容所開設届の提出に際しては、主に以下の書類が必要です。提出書類は自治体によって若干異なる場合があるため、事前に管轄の保健所に確認しておきましょう。

  • 美容所開設届出書
  • 構造設備の概要を示す書類(平面図など)
  • 施設の賃貸契約書や使用許可書(賃貸の場合)
  • 管理美容師の資格証明書(一定規模以上の店舗の場合)

 

手続きの流れ

全体の流れとしては、事前準備も含めて約1〜2か月程度が目安です。余裕を持ってスケジュールを立てることで、スムーズに開業日を迎えられるでしょう。

  1. 事前相談:開設予定地を管轄する保健所に相談し、必要な設備や書類について確認します。
  2. 書類準備と提出:必要書類を整え、美容所開設届を提出します。提出時には、手数料が必要となるケースもあります。
  3. 保健所による施設検査:書類審査の後、実際に保健所の職員が店舗を訪問し、基準に適合しているか確認します。
  4. 営業開始の許可:基準に適合していれば、営業許可が下りて晴れて美容院を開業できます。

 

その他の手続き

美容院を開業する際には、美容師免許や美容所開設届だけでなく、関連するさまざまな行政手続きや準備が必要です。ここでは、美容院の開業時に必要となるその他の代表的な手続きをご紹介します。

 

開業届と税務関連手続き

まず、美容院を開業する際には税務署への「開業届」の提出が必要です。個人事業主として開業する場合は「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出し、法人として運営する場合は法人設立の登記を行ったうえで「法人設立届出書」を提出します。また、消費税の課税事業者になる場合や、青色申告を希望する場合にはそれぞれの届出も必要となります。

 

社会保険・労働保険の加入手続き

スタッフを雇用する場合は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)と労働保険(労災保険・雇用保険)への加入が義務付けられています。これらは従業員の福利厚生を守るだけでなく、経営者としての責任を果たすうえでも非常に重要です。労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所など各窓口での手続きを漏れなく行いましょう。

 

防火管理者の選任と消防署への届出

店舗の規模や構造によっては、防火管理者の選任と消防計画の作成・届出が必要になります。特に美容院では、ドライヤーやパーマ液など火気や薬品を扱うため、火災予防の観点から消防署への届出は欠かせません。店舗の設計段階から防火対策を意識しておきましょう。

 

音楽利用の手続き

店内で音楽を流す場合は、JASRACなど著作権管理団体への手続きも必要です。BGMはサロンの雰囲気づくりに欠かせない要素ですが、無許可で使用していればトラブルになりかねません。最近では、店舗向けの定額音楽配信サービスなどもあり、便利に活用することが可能です。

 

看板設置や屋外広告物の申請

店舗の外観に看板や広告物を設置する際には、各自治体の屋外広告物条例に基づく申請や許可が必要なケースがあります。地域によって規制内容が異なるため、事前に確認し、必要に応じて手続きを行いましょう。

 

美容院の開業準備で検討すべきこと

美容院を開業する際には、必要な資格や許認可を取得するだけでなく、事業として成功させるための事前準備が非常に重要です。ここでは、開業前に検討すべきポイントご紹介します。

 

コンセプトとターゲット層の明確化

まずは「どのような美容院にしたいのか」を明確にすることが第一歩です。例えば、トレンド重視の若者向けサロンなのか、落ち着いた雰囲気で高級感を演出する大人向けサロンなのか、あるいはメンズ専門や訪問美容に特化したサロンなど、ターゲット層を絞ることでブランディングがしやすくなります。明確なコンセプトは内装やサービス内容、価格帯の設定にも直結し、他店との差別化にもつながります。

 

立地選びと店舗設計

美容院の立地は集客に大きく影響します。駅近や商業施設内、人通りの多いエリアなどは安定した集客が見込めますが、その分賃料も高くなる傾向があります。一方、住宅地であれば地域密着型としてリピーターを獲得しやすいメリットがあります。ターゲット層に合わせて最適な立地を選びましょう。また、店舗設計では施術スペースと待合スペースのバランスや動線を考慮し、快適な空間づくりを意識することが大切です。

 

サービスメニューと価格設定

提供するサービスメニューの内容と価格帯を事前にしっかりと検討しておくことも重要です。カットやカラー、パーマといった基本メニューに加え、トリートメントやヘッドスパなどの付加価値メニューを設けることで客単価アップが期待できます。また、地域の相場を調査し、価格設定を適切に行うことで競争力のあるサロンづくりができます。

 

集客戦略と広告宣伝

開業後の集客をスムーズに進めるためには、事前の広告宣伝計画が欠かせません。SNSの活用はもちろん、ポスティングや地域情報誌への掲載、オープン記念キャンペーンの実施など、複数の集客施策を組み合わせることで認知度を高めましょう。特にインスタグラムやTikTokなど、ビジュアルで訴求できるメディアは美容院と相性が良く、効果的な集客が期待できます。

 

資金計画と融資の検討

開業に必要な資金を正確に把握し、計画的に資金調達を行うことも忘れてはいけません。自己資金だけで賄えない場合は、日本政策金融公庫や地方自治体の創業融資制度なども検討しましょう。事業計画書を作成しておくと、融資の審査だけでなく、開業後の経営方針を明確にする際にも役立ちます。

 

美容院の開業にかかる費用

美容院を開業するにあたっては、さまざまな初期費用が発生します。合計金額は規模やコンセプトによって幅がありますが、一般的には500万円〜1,500万円程度が相場とされています。もちろん、小規模でスタートする場合は500万円以内で収まることもありますし、こだわりの内装や設備を導入すれば2,000万円を超えることもあります。

ここでは、美容院の開業に必要となる主な費用項目とその目安をご紹介します。

 

物件取得費用

まず必要になるのが店舗の物件取得費用です。物件の敷金・礼金、仲介手数料、保証金などがかかり、立地や広さによって大きく異なります。たとえば都心部の駅近物件であれば100万円〜300万円程度、郊外の住宅街であれば50万円〜150万円程度が相場です。契約内容によっては退去時の原状回復費用も発生するため、事前に確認しておきましょう。

 

内装・設備費用

美容院の雰囲気を左右する内装や設備にもまとまった費用がかかります。シャンプー台やセット面、椅子、照明、給排水工事などが必要で、一般的には300万円〜800万円程度が目安です。高級感を演出したい場合は、さらに費用がかかることもありますが、店舗コンセプトに合わせてバランス良く投資することが大切です。

 

美容機器・備品購入費用

施術に必要なドライヤー、ヘアアイロン、タオル、カラー剤、シザーなどの備品や消耗品の購入費も忘れてはいけません。規模にもよりますが、50万円〜100万円程度は見込んでおくと安心です。消耗品は開業後も定期的に仕入れる必要があるため、信頼できる仕入先を確保しておくことがポイントです。

 

広告宣伝費用

開業当初は認知度を高めるための広告宣伝が重要です。チラシの作成・配布、SNS広告、地域情報誌への掲載など、さまざまな方法があります。初期費用としては10万円〜50万円程度を想定しておきましょう。オープンキャンペーンを実施する場合は、その費用も加味しておく必要があります。

 

運転資金(当面の生活費・経費)

開業後すぐに安定した売上が見込めるとは限らないため、少なくとも3〜6ヶ月分の運転資金を準備しておくのが理想的です。家賃や光熱費、人件費、仕入れ費用などに充てることができるよう、100万円〜300万円程度を目安に見積もっておくと安心です。

 

まとめ

美容院の開業は、美容師としてのスキルだけでなく、しっかりとした準備と計画が重要です。この記事でご紹介してきたとおり、美容師免許の取得や美容所開設届の提出といった法的な手続きはもちろんのこと、その他の手続きは多岐にわたります。

必要に応じて行政書士などの専門家の力も借りながら、お客様に愛される美容院を目指して一歩一歩着実に準備を進めていきましょう。

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