関税割当制度とは?制度の概要から対象品目、行政書士の役割などを徹底解説!

関税割当制度(TQ)とは

関税割当制度TQ:Tariff Quota)とは、特定の輸入品目について国内全体の輸入量が一定数量に達するまでは低い関税率または無税(=一次税率)を適用し、その数量を超える分については通常より高い関税率(=二次税率)を課す仕組みです。具体例としては、令和7年度の「ナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用)」は、国内全体の合計の輸入量が49,900トンに達するまでは無税ですが、これを超えた分については29.8%の二次税率が課されることとなります。この制度は、国内の生産者を保護しつつ、安価な輸入原料を需要者に供給する目的で設けられています。

関税割当制度の大きな特徴は、「輸入そのものを禁止・制限する制度ではない」という点です。あくまで関税率に差を設けることで、輸入量を間接的に調整する仕組みであり、割当数量を超えても輸入自体は可能です。ただし、その場合は高関税が課されるため、実務上は割当枠内での輸入が強く意識されることになります。

関税割当制度は、主に農林水産物を中心に運用されており、国の食料安全保障や国内生産者の保護という政策的な背景を色濃く反映しています。そのため、割当数量や申請条件、申請時期などは毎年度ごとに細かく定められており、輸入者にとっては事前の制度理解が欠かせません。

 

輸入割当制度(IQ)との違い

関税割当制度と混同されやすい制度として、「輸入割当制度IQ:Import Quota)」があります。両者はいずれも輸入数量をコントロールする点では共通していますが、制度の性質は大きく異なります。

輸入割当制度(IQ)は、一定数量を超える輸入そのものが原則として認められない制度です。つまり、割当を受けなければ輸入自体ができず、数量管理が直接的に行われます。一方、関税割当制度は、割当を超えても輸入は可能であり、あくまで「関税率の差」によって経済的な調整を行う点が特徴です。

 

EPA(経済連携協定)における関税割当制度との違い

もう一つ重要なのが、EPA(経済連携協定)に基づく関税割当制度です。一般的な関税割当制度が国内政策として設けられているのに対し、EPA関税割当は特定の締約国との間で合意された国際的な枠組みに基づいて運用されます。品目・輸入元によっては関税割当制度(TQ)の一次税率よりもEPA税率の方が低税率であるケースもありますので、どちらを利用するかの判断が肝心です。

EPA関税割当では、対象国や原産地要件が厳密に定められており、原産地証明書の提出が必須となるケースがほとんどです。また、割当数量や申請方法も協定ごとに異なるため、単に関税割当制度を理解しているだけでは足りず、協定内容まで踏み込んだ確認が必要になります。

 

関税割当制度の対象となる品目と所管省庁

関税割当制度は、国内産業への影響が大きいと考えられる特定品目に限定して運用されています。2025年現在、日本における関税割当制度の対象は、19品目28枠で、その大半は農林水産物です。

所管省庁は農林水産省(17品目24枠)と経済産業省(2品目4枠)の2つで、以下の表に対象品目を示します。

品目 所管省庁
1 ナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用) 農林水産省
2 とうもろこし コーンスターチ用
単体飼料用(丸粒)、特定物品製造用(コーンフレーク
エチルアルコール又は蒸留酒用)
その他用(コーングリッツ、その他菓子用等)
3 麦芽
4 無糖ココア調製品(チョコレート製造用)
5 トマトピューレー・ペースト(トマトケチャップ等製造用)
6 パイナップル缶詰
7 その他の乳製品
8 脱脂粉乳 学校等給食用以外
学校等給食用
9 無糖れん乳
10 ホエイ等 無機質を濃縮したホエイ
ホエイ及び調製ホエイ(配合飼料用)
ホエイ及び調製ホエイ等(乳幼児用調製粉乳製造用)
11 バター及びバターオイル
12 豆類(小豆、えんどう、そら豆、いんげん豆等)
13 でん粉、イヌリン及びでん粉調製品
14 落花生
15 こんにゃく芋
16 調製食用脂 ニュージーランドを原産地とするもの
その他のもの
17 繭及び生糸
18 皮革 牛馬革(染着色等したもの) 経済産業省
牛馬革(その他のもの)
羊革・やぎ革(染着色等したもの)
19 革靴

※税率については品目・年度・枠ごとに細かく異なるため、ここでは割愛します。

 

関税割当申請における行政書士の役割

行政書士法では、「官公署に提出する書類の作成」は、行政書士又は行政書士法人のみが業として行うことができる独占業務に位置付けられています。関税割当申請も、この独占業務の典型例ともいえる行政手続きですが、令和8年1月1日施行の行政書士法改正を契機として、その位置づけがよりはっきりと整理されることとなりました。

まず前提として、行政書士法の一部を改正する法律が成立し、これを受けて総務省は令和7年6月13日付で「行政書士法の一部を改正する法律の公布について(通知)」を発出しています。この通達では、改正前の行政書士法第19条第1項に定められていた「業務の制限」規定について、その解釈と趣旨を条文上で具体化することが示されました。

具体的には、改正前に「行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない」とされていた規定に、改正後は「他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が追加されました。これは、行政書士や行政書士法人でない者が、手数料」 「コンサルタント料」 「サポート料といった名目のいかんを問わず対価を受け取り、官公署に提出する書類を業として作成・提出する行為は違法であるという、従来からの法解釈を条文に明示したものです。言い換えれば、これまでグレーと受け止められることもあった行為について、違法性が明確化されたといえます。

この総務省通知を受け、関税割当実務を所管する農林水産省は、令和7年10月31日付で「令和8年1月1日以降の代理人による関税割当てに係る申請及び報告について」と題する通達を発出しました。この通達においては、関税割当申請書や各種報告書といった官公署に提出する書類について、申請者本人・報告者本人からの依頼により報酬を受けて代理で作成および提出を行うことができる者は、「行政書士又は行政書士法人に限定される」ことが明示されました。

これにより、関税割当申請においても、行政書士資格を有しない者が、「コンサルタント料」「事務手数料」「代行費用」などの名目で報酬を得て関税割当申請を代理する行為は、明確に禁止されることになります。

このような法改正および所管省庁の通達を踏まえると、関税割当申請における行政書士の役割は、単なる「書類作成の代行者」にとどまりません。制度運用を支える専門職としての重要性が、これまで以上に高まっているといえるでしょう。

 

関税割当を受けるための要件

関税割当を受けるための要件は、すべての品目で一律に定められているわけではなく、対象となる品目や割当枠の性質ごとに個別に設定されています。詳細については所管省庁からの「関税割当公表を確認する必要がありますが、ここでは多くの品目に共通する要件をご紹介します。

まず、最も基本となるのが、当該輸入品を実際に使用することが確実であることです。関税割当制度は、単なる転売や在庫目的の輸入を想定したものではなく、国内での実需を前提として設計されています。

そのため、申請者には、

  • 輸入した原材料を加工し、製品とするための設備を保有していること
  • 自社工場や委託先工場において継続的な製造実績があること
  • 過去の使用実績や今後の生産計画が合理的に説明できること

などが求められるのが一般的です。品目によっては、設備の概要資料や製造工程図、過去の使用実績を示す資料の提出が求められることもあります。

また、次のような不適格要件に該当しないことも求められます。

  • 関税割当てに関する法令に違反した者
  • 所管省庁が定める関税割当の手続きに関するルールに違反した者
  • 虚偽の申告又は報告を行った者

このように、関税割当の要件は、事業の実態や過去の制度利用状況まで含めて総合的に判断される点が重要なポイントです。

ちなみに、申請した数量が必ずしもそのまま割り当てられるわけではないという点には注意が必要です。関税割当制度は、国があらかじめ定めた総枠の数量を前提として配分が行われる仕組みであるため、同一の割当枠に対して多数の申請があった場合には、申請数量の合計が枠全体を上回ることも考えられます。そのような場合には、品目や割当枠の性質に応じて、抽選や一定の基準による数量調整が行われ、希望した数量どおりの割当を受けられないことがあります。

また、多くの申請が集中することが見込まれる品目については、制度の公平性を確保する観点から、1回の申請で希望できる数量に上限が設けられているケースもあります。このため、実際の必要量が大きい事業者であっても、初回の申請では一定数量までしか申請できず、その後の申請機会を通じて段階的に割当を受ける運用がなされることもあります。

 

関税割当の申請時期と有効期限

関税割当の申請は、随時受け付けられているわけではなく、所定の提出期間内に行う必要があります。提出期間は品目によって異なりますが、年度の開始直後である4月上旬に1週間前後の短い提出期間が設定されているのが一般的です。4月1日から4月9日までといった形で設定されているケースが多いため、申請を検討している事業者の方は、期限内に提出できるように計画的に準備を進めておく必要があります。

ただし、品目によっては初回の申請後に割当枠が残った場合、その残枠について、年度の途中で追加の申請を受け付けることもあります。さらに、需要の動向や制度運用の特性を踏まえ、上期・下期に分けて割当を行う品目も存在します。この場合、上期の申請期間が4月1日から4月9日、下期の申請期間が10月1日から10月9日といったように、それぞれの期間が定められています。

一方、関税割当証明書には有効期限(通関期限)が設けられており、この期限内に輸入通関を行わなければ、割当を受けていても枠内税率を適用することができません。年度単位で割当が行われる品目では、原則として通関期限は年度末である3月31日までとされています。

上期・下期に分けて割当が行われる品目の場合には、上期分として交付された関税割当証明書の通関期限は9月30日まで、下期分については3月31日までとなるのが一般的です。このため、割当を受けた後は、いつまでに輸入・通関を完了させる必要があるのかを正確に把握しておくことが重要です。

 

関税割当申請にかかる費用

関税割当申請を検討する際に気になる点の一つが、どの程度の費用がかかるのかという点でしょう。ここでは、法定費用と行政書士報酬に分けて費用の目安をご紹介します。

 

法定費用等

関税割当申請については、申請手数料や登録免許税のような法定費用はかかりません。ただし、提出書類に「法人の登記事項証明書」が含まれる場合には、法務局での取得費用として600円/1通、「印鑑証明書」が必要な場合には450円/1通がかかります。

なお、必要書類は品目によって異なるため、詳細は農林水産省または経済産業省による「関税割当公表」を確認するようにしてください。

 

行政書士報酬

関税割当申請を行政書士に依頼する場合の報酬額は、対象品目や申請枠の数、必要書類の分量、過去実績の有無などによって大きく異なり、相場は数万円から十数万円程度と幅があります。

申請にあたって必要となる制度内容の確認や申請書の作成、提出代行までであれば比較的低価格で対応できる可能性が高いですが、添付資料の作成や割当後の使用実績報告、数量管理に関する助言などを行う場合には高額になることが予想されます。また、複数枠への申請や初めて関税割当制度を利用するケース、資料準備に相当の手間を要する場合なども高額になる可能性があります。

 

まとめ

関税割当制度は、特定の品目について、国内全体の輸入量が一定数量に達するまで低い関税率を適用することで、国内産業の保護と安価な原料の供給の両立を図るために設けられた制度です。対象品目や割当枠は限られており、申請にあたっては、制度の仕組みを正確に理解しておくことが重要です。

また、令和8年1月1日以降、関税割当申請における代理人の位置付けが整理され、申請書類の作成・提出を業として代行できるのは行政書士又は行政書士法人に限られることが明確化されました。手続きでお困りの際は、ぜひ行政書士への相談をご検討ください。

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