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国際結婚が増える中で、文化や価値観の違いから離婚を選ぶケースも珍しくありません。本記事では、外国籍配偶者との離婚手続きや注意点、子ども・在留資格への影響までをわかりやすく解説します。
外国籍の配偶者との離婚手続きとは?
近年、日本における国際結婚は増加傾向にあり、厚生労働省の統計によると、婚姻全体の約4%が国際結婚と言われています。しかし、国際結婚の離婚率は日本人同士の離婚率よりも高い傾向にあり、国際結婚カップルの約5割が離婚に至っているとされます(日本人同士の離婚率は約3割程度)。文化や言語の違い、生活習慣のズレから生じるすれ違いは避けられない場合もあり、国際離婚は決して珍しいことではなくなっています。
その一方で、外国人配偶者との離婚は、日本国籍の夫婦間の離婚とは異なる点が多く、注意が必要です。ここでは、まず日本における離婚手続きと、日本国内で手続きができるケースについて解説していきます。
日本における離婚手続き
日本国内で離婚手続きを行う場合、日本人同士でも外国人配偶者との場合でも日本の民法に基づいて進められます。日本国内での離婚の方法は3つあり、まずはそれぞれの特徴を解説します。
協議離婚
日本でもっとも一般的なのが「協議離婚」です。夫婦双方が離婚に合意していれば、家庭裁判所を通さず離婚届を提出するだけで成立する方法で、全離婚件数のうち9割以上が協議離婚です。協議離婚は費用も時間も抑えられる方法ですが、合意内容を離婚協議書などの形で書面に残しておくことでトラブル防止につながります。
調停離婚
夫婦間で協議がまとまらない場合や、離婚の合意はあるものの条件面で折り合わない場合には、「調停離婚」が選択されます。家庭裁判所で行われる調停手続きでは、調停委員が間に入り、双方の意見を調整しながら合意形成を図ります。調停は裁判に比べると柔軟な話し合いの場として機能するため、円満な解決を目指す際に有効です。
裁判離婚
調停でも合意に至らない場合には、「裁判離婚」となります。家庭裁判所に訴えを起こし、裁判官が離婚の可否や条件を判断するかたちです。裁判では証拠書類の提出や証人尋問などが必要となり、時間も費用もかかりますが、法的に明確な結論が得られるため、解決が難しい場合の最終手段として活用されます。
日本国内で調停・裁判離婚が行えるケース
日本国内での外国人配偶者との離婚手続きでは、まず協議離婚が選択肢になります。協議離婚は原則として当事者間の合意があれば成立するため、日本で婚姻届けを提出した夫婦であれば国籍や居住地に関係なく日本の役所で手続きができます。
ただし、調停離婚・裁判離婚を行う場合には以下のような条件があるので、注意が必要です。
日本国籍×外国籍の夫婦
夫婦のどちらかが日本国籍であり、日本国内に住所がある場合は、日本で離婚手続きが可能です。たとえば、日本人の夫が日本国内に住んでいて、外国籍の妻が海外在住のような場合でも、日本の家庭裁判所で調停や裁判を行えます。ただし、夫婦ともに日本に住所がない場合は日本の裁判所で手続きすることができず、原則として相手国など他国の裁判所での手続きが必要となります。
外国籍×外国籍の夫婦
一方で、夫婦ともに外国籍であっても、日本国内に住所がある場合は日本で離婚手続きができます。たとえば、外国人同士の夫婦で日本で長く生活している場合などが該当します。しかし、夫婦ともに日本に住所がなく、かつ日本での婚姻届出もない場合は、日本の裁判所で調停や裁判を行うことは原則としてできません。この場合は、各自の本国や居住国の裁判所での手続きが必要となります。
離婚成立後の双方の母国での取り扱い
国際離婚で特に注意しなければならないのが、「離婚の効力がどこまで及ぶのか」という点です。ここでは、離婚成立後の双方の母国での取り扱いについて詳しく解説します。
日本で離婚が成立した場合の相手国での取り扱い
日本で離婚が成立した場合、相手国でその効力が認められるかどうかは、相手国の離婚手続きに関する法制度によって大きく異なります。特に注意すべきなのは、日本で成立する「協議離婚」が、相手国では正式な離婚手続きとして認められないケースがあるという点です。
日本の協議離婚は、夫婦間の合意と離婚届の提出だけで成立する非常に簡便な手続きです。しかし、多くの国では裁判所などの公的機関が関与しない離婚手続きは認められておらず、日本の協議離婚は「私人間での取り決めに過ぎない」とみなされることがあります。特に、ヨーロッパ諸国やアメリカなどでは、裁判所の判断を経た離婚でなければ効力を認めないという法制度が採用されています。
そのため、日本で協議離婚が成立しただけでは、相手国では引き続き「婚姻中」とされるリスクがあるのです。これを回避するためには、協議離婚ができる状態であってもあえて裁判をし、裁判離婚の形を取る必要があります。
一方で、相手国が協議離婚を認めている場合は、比較的簡単な手続きとなります。この場合に日本で成立した協議離婚を相手国で有効にするためには、日本での離婚成立を証明する書類(離婚届受理証明書や戸籍謄本など)を翻訳し、必要に応じてアポスティーユ認証や領事認証を取得したうえで、相手国の所定機関に提出する必要があります。協議離婚が認められる国であっても、手続きの方法や必要書類については事前に確認しておくことが重要です。
また、相手国で離婚手続きを怠ると、その国では引き続き婚姻関係が続いているものとされ、再婚や財産分与、子どもの親権に関する問題などで重大な支障が生じるおそれがあります。たとえば、相手国で「重婚罪」に問われたり、財産の処分や相続で不利益を受ける可能性もあるため、十分な注意が必要です。
つまり、日本での離婚が成立したからといって安心するのではなく、相手国の法制度に照らして必要な手続きを確実に行うことが不可欠です。相手国で協議離婚が認められるかどうかを事前に調査し、必要に応じて現地の専門家に相談することで、国際離婚に伴うリスクを最小限に抑えられるでしょう。
相手国で離婚が成立した際の日本での取り扱い
次に、相手国で離婚が成立した場合に日本でどのように扱われるのかについて説明します。結論から言えば、日本は外国で成立した離婚を一定の条件のもとで認めています。具体的には、相手国での離婚が「その国の法制度に則って有効に成立していること」が必要です。
ただし、相手国の離婚手続きが日本の公序良俗に反する場合や、法的要件を満たさない場合は、日本で認められないこともあります。たとえば、夫婦の一方が無断で離婚手続きを進めた場合や、法定の離婚理由がないまま強制的に離婚が成立してしまったケースなどが該当します。
日本では、外国で成立した離婚を戸籍に反映させるために在外日本大使館(領事館)や日本の市区町村役場などに「離婚の届出」を行います。この時、相手国での離婚証明書、その日本語訳、公的機関による認証(アポスティーユや領事認証)が必要になる場合があるので、事前に大使館や役場へ確認しておきましょう。
この手続きを怠ると、日本では戸籍上「婚姻中」とされ続けるため、日本国内での再婚ができないという大きな支障が生じます。相手国で離婚が成立した場合は、速やかに日本大使館や領事館、または本籍地の市区町村役場へ離婚の届出を行いましょう。
国際離婚をする場合、子どもの親権はどうなる?
国際離婚を考える際に、多くの方が心配されるのが「子どもの親権」です。特に国際的な夫婦の場合は、日本の法律だけでなく相手国の法律や国際ルールも絡むため、親権問題はより複雑になります。ここでは、国際離婚における子どもの親権について、基本的な考え方や注意点をわかりやすく解説します。
日本における親権の基本ルール
まず、これまでの日本の法律では、離婚時に父母のどちらか一方が親権者として定められる「単独親権」しか認められていませんでした。しかし、2024年5月に国会で民法改正が成立し、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を選択できる制度が導入されることになりました。新しい制度は2026年5月までに施行される予定で、夫婦の協議により単独親権か共同親権かを選べるようになります。
親権者を決める際には、子どもの福祉が最優先され、子どもの年齢や生活環境、経済的な状況、養育の意向などが総合的に判断されます。共同親権を選んだ場合、子どもの重要な事項は両親の合意が必要となり、日常生活に関することや緊急時の対応については、それぞれの親が単独で判断できる仕組みとなっています。
協議離婚の場合は、夫婦間で話し合って親権者を決め、その内容を離婚届に記載します。一方、調停や裁判離婚の場合は、裁判所が最終的に親権者を判断することになります。新しい制度では、ここに共同親権の選択肢が加わることになります。
親権と監護権の違い
日本では「親権」と「監護権」を分けて考えることができます。親権とは、子どもの財産管理や法律行為に関する同意権、身分上の管理権を含む広範な権利義務を指します。一方、監護権は、子どもの生活面に密接に関わる権利であり、衣食住の提供や教育、日常的な世話を行う権利義務を意味します。
たとえば、親権者が子どもの財産管理や進学などの重要な判断を行う一方で、監護権者は実際に子どもと生活を共にし、育児や教育に直接関わります。離婚時に親権者と監護権者を分けて指定することも可能で、親権は一方の親が持ちながら、監護権はもう一方の親が担うという形も選択肢として存在します。
国際離婚における親権問題
国際離婚では、日本法だけでなく相手国の法律や国際条約が関係するため、より慎重な対応が求められます。たとえば、相手国が共同親権制度を採用している場合、日本で単独親権となっていても、相手国では別の判断がなされることもあります。
さらに、ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事面に関する条約)に加盟している国同士の場合、親権争いが「子どもが常居所とする国」の裁判所で扱われるルールがあります。これは、一方の親が子どもを無断で国外に連れ出す、いわゆる「子の連れ去り」が発生した場合、元の居住国へ子どもを速やかに返還することを義務付ける国際的な取り決めです。
ハーグ条約の目的は、子どもを国際的な環境変化から守り、子どもが慣れ親しんだ生活環境の中で養育されることを確保することです。返還義務は原則として迅速に履行されるべきとされており、条約締約国である日本でも、実際に返還命令が出された事例があります。ただし、例外として、返還が子どもに重大な危険を及ぼす場合や、子どもが一定の年齢と成熟度に達しており返還を拒否している場合などは、返還義務が免除されることもあります。
ハーグ条約の加盟国間では、子どもの返還のみならず、親権や監護権の判断は「子どもの常居所国」で行うべきとされており、どちらの国の裁判所が親権を判断するのかについても明確な基準が設けられています。国際離婚において子どもを国外に連れ出す場合は、安易に判断せず、相手国の法制度や条約の内容を確認した上で慎重に行動することが重要です。
日本人と離婚した外国籍者の在留資格はどうなる?
国際結婚が終わりを迎えるとき、外国人配偶者の「在留資格」がどうなるのかはとても重要なポイントです。離婚後も日本に滞在し続けることができるのか、あるいは在留資格を失ってしまうのか――ここでは、離婚後の外国人配偶者の在留資格について、制度の概要と注意すべき点を解説します。
離婚後に影響を受ける在留資格の種類
まず確認しておきたいのが、外国人配偶者が取得している在留資格の種類です。日本人と結婚している外国人の多くは「日本人の配偶者等」という在留資格で滞在しています。この資格は、日本人との婚姻関係を前提にしているため、離婚すると在留資格の根拠が失われることになります。
ただし、離婚したからといって即座に在留資格が取り消されるわけではありません。入管法では、在留資格の活動に「変更があった場合」には、14日以内に入管へ届け出ることとされています。離婚が成立した場合もこれに該当しますので、速やかな手続きが必要です。
離婚後の在留資格
離婚後も日本での滞在を希望する場合、他の在留資格への「変更申請」を行うことができますが、本人の状況によって大きく対応が異なります。特に、これまで専業主婦(夫)だった場合や、日本での就労経験が少ない場合などは、変更申請のハードルが上がることもあります。
在留資格の変更の選択肢には、具体的に次のようなものがあります。
- 定住者ビザ:日本で生まれ育った子どもを養育する必要がある場合や、日本で長期間生活してきた実績がある場合など、定住者としての在留資格が認められることがあります。
- 就労ビザ(技術・人文知識・国際業務など):離婚後に就労先が決まり、就労資格に該当する業務に従事する場合は、就労ビザへ変更ができる可能性があります。
- 留学ビザや家族滞在ビザ:就学のための留学ビザや、日本で生活する家族に帯同する家族滞在ビザなども選択肢となります。
諸外国の離婚手続きとは
国際離婚を考えるとき、離婚の成立方法や必要な手続き、親権や財産分与の考え方などは国によってルールが大きく異なるため、相手国の離婚制度を知っておくことがとても大切です。ここでは、国際離婚で関わることの多い7つの国を取り上げ、それぞれの離婚制度の特徴をまとめました。
アメリカ
アメリカは州ごとに離婚法が異なりますが、基本的には「無過失離婚」が広く認められており、夫婦の一方が「和解しがたい不和(irreconcilable differences)」を理由に申立てをすることができます。協議離婚の制度はなく、たとえ夫婦が合意していても裁判所を通じた手続きが必須です。財産分与や親権については州のルールに基づき決定されます。
イギリス
イギリスもアメリカと同様に「無過失離婚」が導入されており、協議離婚の制度はありません。どちらか一方の責任を問わずに離婚が可能ですが、裁判所を通じた手続きが必要です。申請から手続き完了まで最低でも6カ月程度を要するのが一般的です。離婚の際は、財産分与や子どもの養育計画(Parenting Plan)などを裁判所に提出する必要があります。
フランス
フランスでは、双方にそれぞれ弁護士が付き、離婚条件を話し合う合意離婚(Divorce par consentement mutuel)が主流です。弁護士を通じて合意書を作成し、公証人のもとで手続きを進めます。裁判所を経ない方法も普及しており、比較的スムーズに手続きができる点が特徴です。
中国
中国では協議離婚と裁判離婚の2つの方法があります。協議離婚の場合は、双方が合意し、婚姻登録機関に申請すれば成立します。財産分与や親権は、原則として合意に基づき決めますが、争いがある場合は裁判で判断されます。離婚成立には証明書が発行されます。
韓国
韓国でも協議離婚が認められており、家庭裁判所で申請後、熟慮期間(一般的に3カ月)が設けられます。熟慮期間終了後に再度意思確認が行われ、離婚が成立します。争いがある場合は調停や訴訟による解決が必要です。
フィリピン
フィリピンはアジアで唯一、離婚が法律で認められていない国として知られていましたが、2023年に離婚合法化法案が下院を通過し、今後施行が期待されています。現在は、婚姻無効(Annulment)や法的別居(Legal Separation)が実質的に離婚に代わる手段として用いられています。
ブラジル
ブラジルでは協議離婚が認められており、2007年の法改正以降、行政手続きによるスピーディな離婚が可能になりました。双方合意のうえで子どもがいない、または財産分与が争点にならない場合は、公証人役場での手続きが可能です。争いがある場合は裁判所が介入します。
まとめ
国際離婚は一筋縄ではいかないことも多いですが、正確な情報と専門的なサポートがあれば、スムーズに進めることは十分可能です。行政書士や弁護士などの専門家に相談しながら、今後の人生設計を見据えて準備を進めていくことが、何よりも安心への第一歩になります。
今後、国際結婚や国際離婚に関する法制度は変化していく可能性があります。常に最新の情報を確認しながら、後悔のない判断をしていきましょう。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)