浮気調査や素行調査など、社会的ニーズの高い探偵業。しかし開業には法律上の届出や設備準備など、多くの要件があります。この記事では探偵業の開業に必要な知識を網羅的に解説します。
探偵業とは?
探偵業とは、依頼者からの依頼に基づき、人の行動調査や所在確認、浮気・不倫調査、企業調査などを行う業務を指します。映画やドラマのようなクールで格好良いイメージを持たれがちですが、実際の探偵業務は法律を順守しつつ、緻密で地道な調査を積み重ねることが求められる職業です。
また、探偵業は「探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)」によってしっかりと規制されています。この法律は、調査対象者の権利利益を守ることを目的としており、開業するためには公安委員会への届出が義務付けられています。
探偵の業務内容
探偵業務には多岐にわたる分野がありますが、主に次のような内容が中心です。
浮気・不倫調査
配偶者やパートナーが浮気をしている疑いがある場合、その実態を明らかにするための調査です。対象者の行動を尾行し、写真や動画といった証拠を収集します。裁判資料としても利用できるよう、日時や場所、相手の身元情報などを正確に記録することが求められます。離婚や慰謝料請求に向けた準備として依頼されるケースが多いです。
素行調査
調査対象者の日常生活や交友関係、勤務状況などをチェックする調査です。例えば、子どもの交友関係が心配な親御さんや、企業が採用内定者や社員のトラブルリスクを事前に把握したい場合などに活用されます。不審な行動や交際関係を明らかにし、依頼者が適切な判断をするための情報を提供します。
所在調査
長年連絡を取っていない親族、債務者、失踪した家族や友人などの居場所を突き止める調査です。対象者の過去の足取りや周辺関係者への聞き込み、SNSなどのオンライン情報収集も駆使して行われます。事件性のある失踪の場合は警察が対応しますが、それ以外の民事的な所在確認は探偵業の分野となります。
企業調査
企業同士の取引を開始する際の信用調査や、反社会的勢力との関係がないかを確認する調査です。新規取引先の資本金、役員情報、風評、倒産歴などの情報を収集し、取引リスクを事前に排除します。また、社内の不正行為や内部情報漏えいの疑いがある場合の内部調査としても活用されます。
ストーカー・嫌がらせ対策
ストーカーや嫌がらせ行為に悩まされている依頼者のために、被害状況を把握し証拠を収集する調査です。加害者の特定や行動パターンの把握、場合によっては警察への相談サポートまで幅広く対応します。
盗聴器・盗撮器発見
自宅やオフィスなどに不正に設置された盗聴器や盗撮カメラを発見・除去する調査です。機器検出のための専用機材を使用し、配線や壁内部まで細かくチェックします。ストーカー被害や情報漏洩のリスクを防ぐためにも需要が高まっている業務です。
探偵業でやってはいけないこと
探偵業を営むうえで絶対に避けなければならないのが「違法行為」です。以下のような行為は、営業停止や罰金刑だけでなく、依頼者や対象者とのトラブルにも発展しかねませんので注意が必要です。
- 秘密の漏洩:調査過程で知り得た情報を第三者に漏らすことは厳禁です。探偵業務で得た情報は依頼者の権利利益を保護する目的に限り使用し、慎重に管理する必要があります。
- 暴力的な手段による調査:暴力的な手段や威圧的な方法を使って情報を取得することは禁止されています。
- 違法な尾行や張り込み:公共の秩序を乱すような執拗な尾行や張り込みも法律で禁止されています。
- 差別的取り扱いにつながる調査:人種、信条、性別、社会的地位などに基づき、差別的な取り扱いや偏見につながる調査依頼は受けてはいけません。
探偵業を開業するために必要な許認可
探偵業を開業する際には、「探偵業の業務の適正化に関する法律(探偵業法)」に基づき、営業所ごとに所轄の公安委員会へ届出を行う必要があります。この届出を行わずに営業を開始すると無届け営業となり、罰則の対象となるため注意が必要です。
ここでは、探偵業開業のために必要な許認可について詳しく解説します。
満たすべき要件
探偵業の届出を行うには、まず以下の要件を満たす必要があります。
- 営業所の設置:事業を行う拠点として、固定の営業所が必要です。バーチャルオフィスなどは認められないケースが多いため、実態のある事務所を構える必要があります。
- 適切な管理体制:個人情報や調査結果などの機密性の高い情報を取り扱うため、従業員教育の実施や管理者の配置など、適切な管理体制を整えることが求められます。
- 標識の掲示:営業所の見やすい場所に標識を掲示する必要があります。標識には、届出番号や公安委員会名などを記載します。
欠格事由
以下に該当する場合は、探偵業の届出ができません。これらは「欠格事由」として法律で定められています。
- 成年被後見人または被保佐人
- 禁錮以上の刑に処されてから5年を経過していない方
- 過去に探偵業法違反などで営業停止処分を受けた者で、停止期間が満了してから5年を経過していない方
- 暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過していない方
必要書類
届出に際しては、以下の書類を準備する必要があります。各自治体によって若干異なる場合があるため、事前に所轄の公安委員会へ確認しておくと安心です。
- 探偵業届出書
- 履歴書(法人の場合は代表者のもの)
- 住民票の写し(法人の場合は代表者のもの)
- 法人登記事項証明書(法人の場合)
- 定款の写し(法人の場合)
- 誓約書(欠格事由に該当しないことの確認)
- 使用する事務所の賃貸契約書など所在地が確認できる書類
手続きの流れ
- 所轄の警察署で事前相談:届出先の公安委員会の窓口で事前に相談し、必要書類や要件の確認などを行うのがおすすめです。
- 必要書類の準備
- 書類提出:必要書類を所轄警察署の窓口に提出します。
- 受理・標識の交付:書類が受理されると、公安委員会から届出証明書が交付されます。営業所に標識として掲示しましょう。
届出の注意点
- 営業所ごとの届出が必要:複数の営業所を設置する場合は、それぞれで届出が必要です。
- 届出の有効期間はなし:更新の必要はありませんが、変更や廃業の際には必ず届出が必要です。
- 名義貸し禁止:許認可を受けた事務所の名義を第三者に貸す行為は禁止されています。
開業に必要なその他の手続き
探偵業の開業にあたっては、探偵業法に基づく届出だけでなく、いくつかの関連手続きも忘れずに行う必要があります。これらの手続きを怠ると、行政指導や罰則の対象となる恐れがあるため、開業準備と並行して確実に進めましょう。
会社設立の手続き(法人として事業を行う場合)
法人として探偵業を営む場合は、まず会社設立の手続きが必要です。会社の形態としては株式会社や合同会社が一般的です。設立には以下のような流れがあります。
- 定款の作成と公証人役場での認証
- 出資金の払込
- 法務局への登記申請
会社設立が完了すると、「法人登記事項証明書」や「印鑑証明書」などが取得でき、探偵業の届出に必要な書類が揃います。
税務関係の届出
事業開始後は、税務署へ開業届(個人事業主の場合は「個人事業の開業・廃業等届出書」、法人の場合は「法人設立届出書」)を提出します。併せて、青色申告を希望する場合は「青色申告承認申請書」も提出しておきましょう。節税効果を得られるため、事業規模にかかわらずおすすめです。
また、従業員を雇う場合には「給与支払事務所等の開設届出書」も必要です。
社会保険・労働保険の手続き
法人であれば、役員のみの場合でも社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられています。さらに、従業員を雇用する場合は、労働保険(労災保険・雇用保険)の適用手続きも必要です。以下に、届出先と各種手続きの内容を示します。
- 年金事務所:健康保険・厚生年金保険の加入
- 労働基準監督署:労災保険の成立届出
- ハローワーク:雇用保険の適用事業所設置届
開業にかかる費用
探偵業を始める際には、事業規模や地域によって費用に幅はありますが、おおむね初期費用として100万円〜300万円程度は見込んでおく必要があります。ここでは、具体的にどのような費用が発生するのかを詳しく解説します。
1. 事務所の開設費用
探偵業は営業所の設置が法律で義務付けられています。レンタルオフィスやバーチャルオフィスでは認められないケースが多いため、実際に使用する事務所の賃貸契約が必要です。初期費用として敷金・礼金・仲介手数料を含め、地域によりますが20万円〜100万円ほどが相場です。
2. 設備・機材費
調査活動には専用の機材が必要です。たとえば、高性能カメラやビデオカメラ、GPS発信機、ボイスレコーダーなどが挙げられます。また、夜間の撮影に対応した赤外線カメラなども揃えておくと安心です。これらを一式揃えると、20万円〜50万円程度の費用がかかります。
3. 車両購入・レンタル費用
張り込みや尾行調査では車両が必要となる場面が多いため、開業時に自動車の購入またはリースを検討しましょう。中古車であれば数十万円から購入可能ですが、新車やリースの場合は月額数万円〜が必要です。
4. 法定手続き・届出関連費用
探偵業開業の際には、公安委員会への届出が必要です。行政書士などの専門家に依頼する場合、手数料として5万円〜10万円ほどを見込んでおきましょう。自分で手続きする場合でも印紙代や必要書類の取得費用として数千円程度はかかります。
5. ホームページ・広告宣伝費
集客のためにはホームページ制作や広告宣伝も重要です。シンプルなホームページであれば10万円程度から作成可能で、広告費を加えると初期費用で10万円〜30万円程度が目安となります。特に開業直後は認知度を上げる必要があるため、広告費用はしっかりと確保しておきましょう。
探偵業の案件を獲得する方法
探偵業を開業した後、安定的に案件を獲得することは事業の成否を分ける大きなポイントになります。競合が多い中で依頼を得るには、効果的な集客と信頼構築が欠かせません。ここでは、探偵業で仕事を獲得するための具体的な方法をわかりやすく解説します。
ホームページやSNSを活用した集客
まず基本となるのが、インターネットを活用した情報発信です。特に、ホームページは事務所の信頼性を高める大切なツールです。業務内容、料金体系、過去の事例(可能な範囲で)を掲載し、問い合わせフォームを整えておくことで、依頼者からのアクセスを増やすことができます。
また、SNS(X、Instagram、Facebookなど)を使った情報発信も有効です。日常の業務の一部や、防犯に役立つ豆知識を発信することで、「信頼できる探偵事務所」としての認知を広げることができます。
ポータルサイトやマッチングサービスへの登録
探偵業界にも案件紹介型のポータルサイトやマッチングサービスが存在します。たとえば「探偵.COM」や「探偵マッチングナビ」などに登録することで、依頼者と出会える機会が広がります。特に開業初期には、自社の集客力が弱いケースが多いため、こうしたプラットフォームを活用するのは効果的です。
弁護士や行政書士との連携
浮気調査や所在調査などの結果が法的手続きに発展することは少なくありません。そのため、弁護士や行政書士と連携を図ることで、業務の紹介を受けるチャンスが生まれます。地元の士業ネットワークに積極的に参加し、信頼関係を築いておくと良いでしょう。
地域密着型の営業活動
地域住民からの信頼を得ることも、仕事獲得の大切なポイントです。地元のフリーペーパーやタウン誌に広告を出す、商工会議所に加入する、防犯セミナーを開催するなど、地域に根差した活動を行うことで、「困ったときに相談できる存在」として認知されることにつながります。
クチコミと紹介を促す仕組み作り
依頼者の満足度を高めることは、クチコミや紹介につながります。調査後のフォローや丁寧な報告書の作成、プライバシーの徹底管理など、依頼者に寄り添ったサービス提供を心掛けましょう。また、Googleビジネスプロフィールでのレビュー促進なども、信頼性向上に有効です。
まとめ
探偵業は法律に基づく厳格なルールのもとで運営される一方で、社会的なニーズが根強く、やりがいのある事業です。必要な手続きを確実に行い、誠実なサービスを提供し続けることで、長く安定した経営が目指せるでしょう。この記事が、これから探偵業の開業を目指す方々の一助となれば幸いです。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)