ECや物流の需要が高まる中、倉庫業の注目度も急上昇しています。しかし、始めるには倉庫業法に基づく登録と厳格な基準への対応が不可欠。本記事ではその実務を詳しくご紹介します。
倉庫業とは?
倉庫業とは、他人から預かった物品を、一定の施設内で保管する事業を指し、主に「営業倉庫」として運営される業態をいいます。物品を一時的に保管するという業務は、物流業界をはじめ、さまざまな産業において欠かせないインフラであり、近年はEC市場の拡大や災害備蓄ニーズの高まりにより、ますます注目されています。
倉庫業の現状
近年、特に注目されているのが「マルチテナント型倉庫」や「フルフィルメント対応倉庫」など、多様化するニーズに対応する高機能型の倉庫です。EC事業者や医薬品業界など、特殊な管理が求められる分野からの需要が増えており、倉庫業者は単なる保管業務にとどまらず、仕分け・梱包・出荷管理などの付加価値サービスも求められるようになっています。
さらに、環境規制や省エネ対応、BCP(事業継続計画)への配慮など、設備面での投資や体制整備も進んでいます。こうした背景から、倉庫業を新たに始めようとする事業者にとっては、業界トレンドや規制の動向を踏まえた計画が不可欠です。
営業倉庫と自家用倉庫とは
倉庫業法における「倉庫業」は、第三者の物品を保管する「営業倉庫」が対象です。これに対して、自社の商品や部材を保管する「自家用倉庫」は、法律上の倉庫業には該当しません。
たとえば、自社の製品を一時保管するためのスペースを持つ場合には、倉庫業の許可や登録は不要ですが、外部の荷主から料金を受け取って保管する場合には、倉庫業登録が必要となります。この違いは事業の形態によって明確に線引きされているため、開業前に確認しておくことが大切です。
営業倉庫の種類
営業倉庫には、保管する物品やその特性に応じていくつかの分類があります。主なものは以下の通りです。
- 1類倉庫:日用品や紙類、電気機械などの一般的な物品を幅広く保管できる倉庫で、2類・3類で扱わない物品はすべて1類に分類されます。設備基準が最も厳しく、防湿・耐火・防火性能が高いことが求められます。
- 2類倉庫:麦や塩などの食品類、鉄製品、セメントなどの資材を保管します。1類と比較して耐火性・防火性の基準が緩く、燃えやすい物品の保管には向いていません。
- 3類倉庫:ガラス製品や鉄材など、比較的保管条件に対する要件が緩和された物品を対象とします。耐火・防湿性能に関する基準も緩く、気温や湿度に敏感な物品の保管には不向きです。
- 冷蔵倉庫・冷凍倉庫:低温での管理が必要な食品や医薬品などの保管に対応。
- 危険品倉庫:引火性や毒性を有する危険物の保管に対応した構造と設備を持つ。
- 貯蔵タンク:液体物や気体物などを貯蔵する設備。
- 野積倉庫:屋外での保管が可能な資材や大型設備などに対応。
これらの倉庫にはそれぞれ細かな基準や設備要件が設けられており、用途に応じた許認可の取得が必要となります。どの種類の倉庫を運営するかによって、申請内容や必要な書類、設備要件が異なるため、事前の調査と準備が欠かせません。
倉庫業を営むために必要な許認可・資格
倉庫業を始めるにあたって、最初に押さえておきたいのが「倉庫業登録」です。倉庫業は、他人の物品を有償で保管する営業行為であるため、国土交通省が所管する倉庫業法に基づき、登録を受けなければ営業を行うことができません。
倉庫業の許認可
許認可を得るための要件
倉庫業として事業を行うためには、営業倉庫が倉庫業法で定める構造基準・設備基準に適合していることが前提です。さらに、以下のような要件も満たす必要があります。
- 営業倉庫が構造設備基準に適合していること
- 倉庫ごとに管理責任者を配置していること
- 保管契約の管理体制が適切であること
- 経済的信用があり、破産や重大な債務超過のないこと
必要書類の例
倉庫業登録の際に提出する主な書類は以下の通りです:
- 倉庫業登録申請書
- 倉庫平面図・立面図
- 倉庫の構造・設備に関する説明書
- 管理体制の概要書(管理者の経歴など)
- 登記事項証明書(建物および土地)
- 使用承諾書(賃借の場合)
- 登録免許税納付書(9万円)
手続きの流れ
- 要件の確認・事前相談(管轄の運輸局等に相談)
- 申請書類の準備・提出
- 現地調査(設備・構造の確認)
- 登録通知書の交付
通常、申請から登録完了までに1~2ヶ月程度を見込んでおくとよいでしょう。
営業倉庫の満たすべき要件
たとえば1類倉庫では、次のような要件が求められます。これらは、保管対象が紙製品や電子機器、雑貨など幅広く、かつ湿度や温度にある程度の配慮が必要なことが理由です。
- 壁・屋根・柱などが耐火構造または不燃材料で作られていること
- 床面が防湿仕様になっていること(コンクリートなど)
- 換気設備や温湿度の変化に対応できる環境設備を有していること
- 出入り口に防火シャッターを設置していること
その他の種類の営業倉庫についても、このような要件が細かく定められています。
許認可が必要ない倉庫とは?
倉庫業を始める際に「すべての倉庫が許認可を必要とするわけではない」という点は、意外と見落とされがちです。実際、用途や運営形態によっては、倉庫業法に基づく登録が不要となるケースも存在します。
倉庫業法は、形式だけでなく”実態”で判断されるため、用途や契約内容によってはグレーゾーンになることもあります。「これは営業倉庫に当たるのか?」「登録は必要なのか?」と判断に迷う場合は、早めに行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
ここでは、許認可が不要な倉庫の具体例や、判断のポイントについてわかりやすく解説します。
自家用倉庫は許認可不要
もっとも代表的なのが「自家用倉庫」です。これは、自社の商品・資材などを保管するために自社が所有・運営する倉庫のことを指します。第三者から物品を預かることなく、あくまで自社の業務の一環として使用している場合は、倉庫業法上の「営業倉庫」には該当せず、登録や許認可は必要ありません。
たとえば、製造業者が自社の完成品を一時的に保管するスペースや、卸売業者が仕入れた商品を管理するための倉庫は、すべて自家用倉庫として扱われます。
荷主との無償契約は要注意
第三者の物品を預かっていても、料金を受け取らない(=無償)契約であれば、原則として倉庫業法の適用対象外となります。ただし、この場合でも形式上は無償でも、実質的に報酬性があると判断されるケースでは、登録が必要になる可能性もあります。
たとえば、関連会社や取引先からの物品を”形式上”無償で預かっていても、実態として保管料相当の対価が別の形で発生していれば、倉庫業に該当することがあるため注意が必要です。
短期間の保管や一時的な利用
一時的な保管や短期間の利用に関しては、倉庫業登録の対象外となるケースが多くあります。以下は代表的な3つの例です。
- 港湾運送事業における一時保管:港での荷役作業中や通関待ちの貨物を一時的に港湾施設内で保管する場合は、港湾運送事業としての位置付けとなり、倉庫業としての登録は不要です。物流の流れの中で付随的に行われる保管であることが前提です。
- 貨物運送事業における一時保管:貨物自動車運送事業者が、配送中の荷物を次の配達に備えて短期間保管する場合(仕分け・再積込など)、その保管行為は輸送に付随する業務とされ、倉庫業法の適用対象にはなりません。
- ロッカーなどの一時預かりサービス:駅構内や商業施設などに設置されたコインロッカーや手荷物預かり所などは、主に個人利用を対象とした一時的保管であり、倉庫業法上の「物品保管契約」には該当しません。このため、登録は不要です。
これらの保管はすべて、営利目的で他人の物品を継続的・有償で保管する”営業倉庫”には該当しないため、倉庫業法の許認可を受ける必要はありません。
無許可営業の事例と罰則
倉庫業は、倉庫業法に基づく登録を受けなければ営業が認められない業種です。にもかかわらず、登録をせずに営業を行ってしまった場合には、行政処分や罰則の対象となるため、事前の理解と対策が不可欠です。この章では、実際にあった無許可営業の事例や、どのような罰則が科されるのかを解説します。
無許可営業の典型的な事例
無許可営業に該当する代表的なケースとして、次のような事例があります。
- 形式上は自家用倉庫としながら、実態としては有償で保管していた:
倉庫業の登録を行わず、第三者の物品を有償で預かっていた場合、たとえ倉庫の名目が「社内管理用」であっても、実態が営業倉庫であれば倉庫業法の対象となります。このようなケースでは「知らなかった」では済まされず、明確な法令違反とされるリスクがあります。 - 無登録の倉庫が営業用倉庫であると誤認させるような表示・広告を行った:
実際には登録を受けていないにもかかわらず、ウェブサイトやパンフレットなどに「営業倉庫」や「物流倉庫」などの用語を使用し、あたかも許可を受けているような表示をしていた場合も、行政指導や罰則の対象となります。営業実態が伴っていれば、なおさら厳しい対応が取られることになります。
無許可営業に対する罰則
倉庫業法に基づかずに営業を行っていた場合、次のような罰則が科される可能性があります。また、法人が違反した場合は、その代表者にも罰則が及ぶ可能性があるため、経営者としての法的リスクも非常に大きいです。
- 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(倉庫業法第24条)
- 是正命令や営業停止命令が下されることもある
誤解から無許可営業に陥るケースも
「一時的な保管だから大丈夫」「知人の荷物を預かっただけ」という軽い気持ちで始めた保管業務が、気づかぬうちに倉庫業としての要件を満たしてしまい、無許可営業と判断されることもあります。実態が重要であり、名目だけで判断されるものではないということを理解しておく必要があります。
倉庫業の許認可を申請する際の注意点
倉庫業を始めるにあたっては、倉庫業法に基づいた登録申請が不可欠ですが、その手続きには多くのポイントがあります。ここでは、許認可の申請時に押さえておきたい実務的な注意点を解説します。
1. 使用用途や契約形態を明確にする
倉庫の使用目的や契約形態によっては、営業倉庫ではなく自家用倉庫とみなされるケースもあります。倉庫業として登録が必要なのは、「第三者から有償で物品を預かる」場合に限られます。申請前に契約の内容や荷主との関係性を整理し、自社が本当に倉庫業に該当するかを再確認しましょう。
2. 土地・建物の権利関係の確認
申請する倉庫の土地や建物が賃貸である場合、使用権限を証明する書類(賃貸借契約書など)が求められます。また、建物が登記されていない場合や用途地域によっては、追加の確認や対応が必要になることもあります。物件選定の段階から法的なクリアランスを確認しておくとスムーズです。
3. 行政への事前相談を活用する
多くの自治体では、事前相談の場を設けています。とくに初めて倉庫業を申請する場合や、設備要件がグレーゾーンになりそうなときは、申請前に管轄の地方運輸局や自治体に相談するのが安心です。書類の不備を防ぐだけでなく、スケジュールや審査基準の目安も把握できます。
まとめ
今回は、倉庫業を始める際に必要な許認可や、その取得にあたっての注意点について詳しくご紹介しました。倉庫業は「単に物を預かる」だけのシンプルな業務と思われがちですが、実は法的なハードルや設備基準が多く設けられており、安易に始めてしまうと違法営業になってしまう可能性があります。
申請手続きについても、書類の整合性や契約関係、土地建物の使用権など、多方面にわたる確認事項があります。特に初めて申請を行う場合には、行政書士など専門家のサポートを受けることで、申請の精度が格段に高まります。

特定行政書士として、幅広い業界における法務支援やビジネスサポートに従事するとともに、業務指導者としても精力的に活動。企業法務や許認可手続きに関する専門知識を有し、ビジネスの実務面での支援を中心に展開しています。(登録番号:03312913)